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『第五十二章 内に宿す光』

黒い炎に囚われ暴走をするタクマは、パートナーであるバハムートにまで牙を向いていた。

「目を覚ませタクマ‼あの双子神はもうこの場にはいない‼我が分からぬのか‼」

バハムートがどんなに呼び掛けても沈着に剣を向けてくるタクマ。

「居合・黒炎斬‼」

黒炎の太刀が繰り出されるもバハムートはかわしていく。

(この黒い炎もそうだ!何故こんなものがタクマにある⁉此奴は魔力を一切持たないハズだ!)

そう考えていたバハムートはハッと重大なことに気づき、あることを思い出した。

(ん、待てよ・・・?魔力がないに等しいタクマは・・・何故あの時、我を召喚できた⁉)

そう、それはタクマとバハムートが出会った学園の卒業試験の時の事だった。

あの時、バハムートは()()()()()()()()タクマの召喚に応じたのだ。

だが当の本人には魔力がないに等しい量だった。

そんな彼が何故バハムートを呼べるほどの魔力を出せたのか、その疑問が今になって溢れ出す。

(『鑑定』スキルで此奴を見た時、剣術の才と純粋に我を求める心に魅かれ此奴を主として認めたが、確かに項目には魔力が皆無に等しいと記されていた。冷静に思い返せばおかしな点だ。タクマ・・・お前は一体何者なんだ⁉)

無尽蔵に切りかかるタクマにバハムートは気が気でなかった。

するとそこに、

「タクマさーーーーん‼」

リーシャとリヴが戻ってきたのだ。

「お主等、何故戻ってきた⁉」

「この子が戻るって聞かなくてね!それに私も主様を助けたいのよ‼」

タクマを正気に戻すべく迫る二人に暴走しているタクマは二人に気づいた。

「居合・黒牙鳥‼」

黒炎の鳥と化し、リーシャとリヴに切りかかった。

「タクマさん‼私です‼もう敵はいないんですよ‼だからもう戦うのはやめてください‼」

「主様―――‼」

二人の決死の叫びも届かず、剣筋が完全にリーシャを捕らえてしまった。

「いかん‼やめろタクマーーー‼」

「タクマさーーーーーん‼」


 ・・・暗い虚無の空間。

その中に漂うタクマ。

(・・・遠くからリーシャ達の声が聞こえる。でも、身体が動かない・・・。早く、ここから出なくちゃいけないのに、皆は・・・?リーシャは・・・?)

手を伸ばすも先にはただ虚無に広がる暗い空間だけだった。

するとその先から光が差し込んできた。

(な、んだ・・・?)

そして誰かに手を掴まれ引っ張り上げられる。

引き上げられると最初の赤黒い妙な空間に戻ってきた。

そしてタクマの目の前には薄っすらと輝く長い黒髪の女性が立っていた。

「・・・アンタは?」

女性は何も言わずにタクマに手を掲げる。

するとタクマは光に包まれフワッと上へと飛ばされた。

「ま、待ってくれ!アンタは一体・・・⁉」

下から見送る女性が口元を動かしタクマにこう伝えた。

『かつての友をよろしく』と・・・。


 黒い炎の剣筋がリーシャに触れそうになった瞬間、突然黒い竜化が解け、タクマがそのままリーシャの元に飛び込んだ。

「うわっ⁉」

突然落ちてきたタクマを小さな身体で受け止めたリーシャは尻もちをつく。

「タクマ‼」

「主様‼」

バハムートとリヴもタクマを心配する。

「あいたた、タクマさん・・・?」

タクマはリーシャの胸の中で気を失っていた。

「おじ様、主様は大丈夫なの⁉」

頭の上に乗っているタクマの状況が分からないリヴにバハムートが言う。

「・・・大丈夫だ。『鑑定』した結果、先ほどまでの邪気は完全に消え失せている。もう心配はいらなそうだ。」

フゥッと大きいため息をついて一安心した二頭。

「タクマさん、良かった・・・良かった!」

リーシャは思わずタクマを抱きしめ大粒の涙を流したのだった。

だがその安心もすぐに上乗りされてしまう。

上空から強い熱を感じたのだ。

まだ最大の難関、双子神が残した『メテオ』が残っていた。

「うわぁ⁉もうあんな近くに⁉」

「くっ、ここまで来てしまったらもうどうすることも出来ん!」

するとそこに採掘団体の集落に向かっていたウィンロスから念話が届いた。

「旦那!こっちは団体全員おっさん達の汽車に乗り込めたで!島にもう人間はおらへん!急いでずらかるで‼」

もはや逃げの一択しかない。

バハムート達は急いで島から離れる。

その様子はウィンロス達にも見えていた。

「よっしゃ!旦那達は離脱したで!おっさん、頼むわ!」

「任せろ!ガンジ!」

「あいよ‼」

ヴェンとガンジが手際よく汽車を操作し、汽笛を鳴らして走り出す。

ウィンロスも飛翔して後を追う。

湖に敷かれた一本橋の上を汽車は力強く走り島から離れる。

そして巨大な『メテオ』はとうとう島に到達し大きな轟音と共にその形を崩し始めた。

とてつもない爆風と煙が周囲に遅い掛かり湖が津波に見舞われる。

ヴェン達の魔導列車も全速力で走り続け、間一髪被害は免れた。

そして島があった場所には何一つ残らないただの水面だけが残ったのだった。


 この事件は瞬く間にトレンストの領主の耳に届いた。

神の襲来、休火山島の消滅などなど。

採掘現場でもあった休火山島が無くなってしまった現状、トレンストの交易は瞬く間に減ってしまうだろう。

だが誰一人死者を出さなかったことがせめてもの救いだった。

その中心点であるタクマ達にもお礼としての招待をしようとしたが全て断られた。

あの事件から数日、タクマが一向に目を覚まさなかったからだ。

ヴェン達の工房にある箱庭に急ごしらえの小屋を建ててもらいそこにタクマを寝かせている。

「・・・タクマさん・・・。」

「主様・・・。」

リーシャとリヴも心配そうに眠っているタクマに付き添っていた。

「・・・ほい、仕舞いや。」

「わぁ!身体の痛みが消えた!ありがとうお兄さん!」

「お兄さんか・・・何とも寛大な響きやで♪しっかし旦那も気ぃ付けときや?背中にメルティナの嬢ちゃん乗せたまま激しい戦闘しちゃぁそら怪我するで?」

「すまぬ・・・失念していた・・・。」

防壁を張ったままメルティナを背に乗せていたことをすっかり忘れてタクマと激しい戦闘を行ったため、メルティナが少し怪我をしてしまったのだ。

バハムートは深く反省している。

「おーい!邪魔するぞ?」

ガンジが大きな箱を持ってやってきた。

「タクマの様子はどうだ?」

「まだ眠っているがそれ以外に異常はない。心配はいらん。」

「そうか。ならよかったぜ!」

ガンジは大きい箱をドスンと置いていき作業場に戻って行った。

箱の中には大量の食材と酒が入っていた。

「お、酒や。一本貰うで。」

ウィンロスは酒ビンを一本取りだす。

(・・・タクマ・・・。)

バハムートもタクマの事を心配していた。


―――――――――


 夢を見ていた。

酷く懐かしい夢だ。

「ほーら、またこんなところで寝ていて!」

「・・・セナ、何か用?」

「もう、お母さんでしょ?血は繋がってないとはいえ私は君の母親なんだから!」

「いや、戸籍上義理の親子とはいえアンタまだ十五でしょ⁉」

その女性は身長が平均より低く大体百四十六センチ程度しかなかった。

「君だって六歳のくせに!まぁ親子関係とはいえ年もちょっと近いし、私もチビだし・・・。」

最後の言葉だけムスッとした声で言った。

「とにかく!私と貴方の関係は親子!いい?」

「分かったよ・・・。」

俺はぼりぼりと頭をかいた。

「・・・ほんとに六歳だよね?」

銀髪の少女の名はセナ。

両親を早くに無くして十五歳で既に職に就いている。

路地裏で野垂れ死にそうになっていた俺に手を差し伸べてくれて戸籍上俺は彼女の養子という関係になっている。

各言う俺も両親を早くに無くしているから似た者同士だ。

けど歳と身長が近いせいか最初の頃は街の人に姉弟と間違われた事が多々あった。

今もそう見られているけど・・・。

「ねぇタクマ?今日は何が食べたい?」

「別に、セナの作る料理はどれも美味いよ・・・。」

「お世辞はいいから。ほら、言ってみなさい?」

「・・・シチュー。」

「ふふふっ、ホントシチュー大好きだねタクマは!」

「べ、別にいいだろ!」

ホント、出会った頃からこの母親には敵わない・・・。

「それじゃ、早速食材を買いにレッツゴー!」

腕を引っ張られ買い物に付き合わされた。

その夜。

自宅で彼女の作ったシチューを一緒に食べる。

そして本当にこれが美味しい。

セナの作ってくれたシチューだけは俺にとって特別な味がしたんだ。

「ずっと一緒に居ようね♪タクマ!」

「・・・うん。」

でも、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。

突然街が火の海と化したんだ。

街の人達は魔獣が原因だと騒いでいたが・・・俺だけが本当の元凶を知っていた。

知ってしまったんだ。

俺とセナの家があったところには背中に六枚の翼が生えた一人の男が立っていた。

そして男の足元には、無残に虐待された少女、セナが横たわっている。

「おや?君は彼女の弟かな?にしては髪の色も顔も似てないが?」

眼鏡をかけていた男は俺の方を見る。

「セナに・・・何してやがる・・・!」

「セナ?あぁ、彼女は今そう名乗っていたのか。どおりで見つけるのに手こずった訳だ。」

訳の分からない事を言う男に怒りが込み上がる。

でも、身体は怯えてこれ以上一歩も歩けなかった。

「身体は正直みたいだね。まぁ私も今気分がいいし、特別に教えてあげるよ。この女はね、私達と同じ神だったんだよ。」

何を言い出すんだこの男は、セナが、神⁉

「驚くのも無理はないね。といっても『元』神だけどね。彼女、セレンティアナは我々神の住まう天界ではそれは高位の女神だったんだ。創造神様からも気に入られていてね。でもある日彼女は下界へ逃亡したんだ。ある日突然だよ?しかも大切な天界具を持ち出してまで。当然仲間の神達は驚いたさ。でも創造神様は彼女の事をお咎めなしと言った。理由を聞いたら創造神様、なんて言ったと思う?」

長々と話を聞きながらもに俺はセナを助け出すチャンスを伺っていた。

「私を創造神の座に就かせないためと来た。そう!彼女、セレンティアナは私の野望を知っていたのだ!しかもあろうことに創造神様にまでチクった!私は許せなかったよ。私はただ自分の理想の世界に作り変えたかっただけなのに!今この世界は非常に平和すぎる。もっと刺激があってもいいじゃないか!私は決めたよ。刺激を増やすためこの世界を暴力の世界に作り変えることを!」

大半は難しくて分からなかったが一つ理解したことがある。

こいつは神でもなんでもない、ただのクズだと!

そんな自分勝手な私情でこの街を、セナを傷つけたこの男を、俺は許さない!

「―っと、君みたいなお子様に熱く語ってもしょうがなかったね。さて、私の目的は果たした。後は()()()()()()()()()()()!フフフ、フハハハハハ‼」

高笑いしながらその男は火事で煙が絶ち込める空へと消えていった。

「セナ‼」

俺は燃える我が家に倒れるセナに駆け寄る。

「セナ!しっかりしろ!」

「・・・タクマ?」

まだ息がある!急いで医者の所に・・・!

「ごめんね、タクマ・・・。」

セナがボロボロになった手で俺の頭を撫でる。

「私が元神様だってこと・・・隠してて。君に本当の事伝えたら・・・君が私を見る目が変わっちゃうかと思って、怖かったの・・・。」

何言ってるんだよ!元がどんなだろうと、アンタは俺の・・・!

「ごめんね・・・最期のまで、君と居られなくて・・・ごめんね。」

やめろ!もう謝らないでくれ!

「・・・家の地下に、私が持ち出した天界具がある・・・。アレを持って、遠くへ逃げて・・・。」

そんな物どうだっていい!俺はアンタさえ居てくれれば!

「本当に・・・ごめん、なさ・・・い・・・。」

彼女の優しい手が、パタリと力尽きる。

「・・・神だろうが、知ったこっちゃねぇよ・・・!ずっと一緒にいるって言ったじゃんかよ・・・!」

冷たくなった彼女を抱きしめ、六歳とは思えない程、静かに涙を流して泣いた。

「嫌だよセナ・・・セナ、・・・()()()・・・!」


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