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『第四十九章 先行調査』

ヴェンからの護衛依頼を請け負ったタクマ達は状況把握がてら先行して湖の中心に位置する休火山島を目指して飛行していた。

バハムートにはタクマ、ウィンロスには女性陣が背に乗っていた。

「・・・何でほとんどオレなん?旦那の方が背中の面積があんのに・・・。」

「アンタがモフモフしてるから悪いんでしょ!」

三人の女子はウィンロスにしがみ付きながら羽毛を堪能していた。

「気を緩めて落ちるんじゃないぞ?」

「まったく・・・女の考える事はイマイチ分らぬな。」

バハムートが呆れ気味でため息をつく。

「・・・なぁリーシャ。ラルの調子はどうだ?」

ラルはリーシャの膝の上でお腹を押さえてぐったりしていた。


 数時間前、ヴェンの工房にて、

「ほれ、これが休火山島の見取り図だ。」

ガンジから島の地図を渡された。

「採掘団体との合流地点は大体この辺りだ。領主様が事前に伝書鳩で伝えているからお前さんのドラゴンを連れてっても大丈夫だぞ。」

そこまで気配りをしてくれた領主。

会ったこともないが感謝しておこう。

「休とはいえ火山はちょっと怖いですね。」

「その点は心配いらん。休火山となって二百年も経ってるからな。・・・ところで嬢ちゃん、お前さんのチビ助はどこ行った?」

「え?」

辺りを見回すと端に置いてある木箱に入って柔黒曜石をバリボリ食べてるラルがいた。

「何やっとるかーーー⁉」

「ラルーーーー⁉」

大慌てでラルを引っぺがした。

「すみませんすみません‼貴重な鉱石を‼」

もの凄い速度で頭を下げて謝るリーシャ。

「ま、まぁ・・・余った分だったから別に問題ねぇが・・・腹壊すなよ?」


 そして案の定、ラルはお腹を壊して体調不良になっていたのだった。

「クゥ~・・・。」

「ホンマに何しとんねん、このチビ。」

するとメルティナがリーシャの袖を引いた。

「ちょっと貸して・・・。」

ラルをメルティナに預けるとラルの表情が少し和らいだ。

「へぇ~、器用なことするじゃない。微量の魔力で薄い膜を作るなんて。」

メルティナの異質な魔力を薄いベールにしてラルを包んだのだ。

「これで少しは気が楽になると思う。」

「ありがとうメルティナさん。」

「―っと、見えてきたで。」

前方に直径数十キロくらいの火山島が見えてきた。

地図に指定された場所に向かうと小さな集落が見える。

おそらくあそこが採掘団体の拠点なのだろう。

拠点から少し離れた位置に降り、後は徒歩で向かった。

拠点に着くなり、突然現れたドラゴンに驚く採掘員だったが領主の手紙である程度事情を知ってたのか冷静にこちらに対応、案内してくれた者も多かった。

中々逞しい人達のようだ。

ヴェン達が新作の魔導列車で迎えに来てくれることを説明し、タクマ達は念のため島を調査兼見学をすることにした。

「お、何やこれ?」

ウィンロスが見つけたのは赤色に透き通った果実だった。

「うわぁ、宝石みたいですね。」

タクマは採掘団体に貰ったこの島の資料を開いた。

「オールドベーツって言う果実みたいだ。主に火山島に実らしく、人や魔獣にとっても大変美味いんだとか・・・だって。」

「ほう、魔獣にも・・・、どれ。」

バハムートが果実を七つもぎ取る。

そして皆で味見をしてみると、

「酸っぱい⁉」

リーシャとメルティナが顔を引きつらせた。

「酸味が強いわね。お子ちゃまにはちょっと刺激が強いかも。」

後の四人とラルは平気そうに実を食べる。

「人間の大人と魔獣には美味い果実みたいだな。」

それから足を進めると見慣れた木の実や見たことのない植物など、様々な物が見て取れた。

火山島という特殊な地域でしか見れない物ばかりだった。

「面白いな、この島。見てて飽きないぜ。」

「なぁ、そろそろ火口を見に行かへん?休火山やし大丈夫やろ。」

高い所が好きなウィンロスが提案してきた。

ふもとの森はほとんど見て回ったし、火口に行くことにした。

火山を登り始めて数分後、

「くっさ~!何よこの臭い・・・!」

辺りに硫黄の匂いが漂っていた。

嗅覚の強いリヴは鼻をつまんで涙目になっている。

「火山には硫黄ガスが蔓延してるんですよ。でもそのガスがあるという事は・・・。」

リーシャは辺りを探して回るとそれは見つかった。

「あった!温泉です!」

滑らかな斜面に大きな湯溜まりを見つけた。

「タクマさんタクマさん!折角ですし入ってもいいですか⁉」

興奮気味で言ってくるリーシャ。

ヴェン達の迎えまでまだかなり時間がある。

多少息抜きしても問題ないだろう。

「・・・んじゃ入るか!」

「わーい!」

リーシャにタオルを一枚出してもらい先に湯に浸かるタクマとバハムート。

ウィンロスとラルは羽毛が濡れるのを嫌がり側で座っていた。

「考えてみれば旅に出てからこうして風呂に浸かるのは初めてだな。いつも濡れタオルで身体を拭いてただけだったし。・・・ん?それじゃリーシャはどうやって清潔を保ってたんだ?」

「あぁ、それなら毎晩寝る前にオレんとこ来て清潔魔法をかけてあげてたで?」

「いつの間に・・・。」

一方、岩陰で服を脱ぐ女子三人組。

そこでリーシャはとんでもないことに気が付いた。

(ヤバいどうしよう!温泉を見つけて興奮してたせいか、タクマさん達と一緒にお風呂に入ることになってしまうなんて!よく考えたらおかしいよね⁉仕切りもないしこれじゃ混浴だよ~!)

「ねぇまだ?」

真っ裸でリーシャを待っているリヴとメルティナ。

「いやいやいや、何でそう堂々としてるんですか!男性の方と一緒に入るんですよ⁉」

「何も問題ないわよ。本来ドラゴンは服なんて着ないんだから。」

「せめてタオルを巻いてください!」

そんな女子の会話はタクマ達の耳にまで届いていた。

「確かによく考えたら男女で入浴はおかしいわな。」

「人間は面倒な生き物だな。」

「俺も腰にタオル巻いとこ。」

数分後、ようやっと女子たちが出てきた。

三人ともちゃんとタオルを巻いていた。

「お待たせ~主様!リーシャの説得に時間がかかっちゃって・・・。」

それもそうだ。

布一枚で互いに同じ湯船に入るのだから。

メルティナは平然としているがリーシャは顔を赤くしながら俯いていた。

「俺が居たら落ち着かないだろ?交代で上がるから後はお前らでゆっくりしてな。」

気を使って上がろうとするタクマをリヴが引き留める。

「やだやだ!主様と一緒に入りたいーー‼」

「やめろ!腰巻を引っ張るな!」

このまま引っ張られてたらアレが出てしまいそうなのでタクマは観念して湯に戻った。

「ぶふっ、情けな。(笑)」

「うるせっ!」

ムカつく顔で笑うウィンロスだった。

するとリヴがタクマの隣に寄ってきた。

「何だよリヴ?」

「エヘヘ、いつもよりも主様と近くにいるような感じがして。」

「しょっちゅう近くに居るではないか。」

「それ以上よ!」

そんな彼らを傍から見ていたリーシャは口元まで湯に浸かる。

(リヴさんも女性なのにどうしてそんな平然としていられるんですか!メルティナさんも!これじゃ私だけ変に意識してるみたいじゃないですか!)

そんな事を内心愚痴っていると急にラルが温泉の側に寄ってきた。

「ん?どうしたんだラル?」

「クゥ・・・。」

温泉をじっと見つめる。

すると今度は温泉をガブガブ飲み始めた。

「―って、おい⁉何してんだ⁉」

「ラルーーー⁉」

またもやリーシャが駆けつけラルを引っぺがした。

「ゲップ・・・。」

「ゲップじゃないですよ!ついさっきそれでお腹壊したところでしょ⁉」

「えっと・・・リーシャさん?」

メルティナに呼ばれ、ハッと我に返る。

思わず立ってしまいタオルが開けたリーシャのすぐ隣にタクマがいたのだ。

「あーっと・・・見なかったことにするな?」

ふいっと目を逸らすタクマと顔を真っ赤にし涙目になるリーシャ。

「も、もぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

いろんな感情が入り混じったリーシャの叫び声が辺りに響き渡ったのだった。


 それからというもの、リヴの鼻が限界を迎える前に火山の頂上にたどり着いたタクマ達。

火口は固まった溶岩で完全に蓋がされており、降りても平気な環境だった。

「ありゃ?あちこちに温泉が湧いてるで。」

「温泉街でも作れそうな場所だな・・・。」

一先ず火口に降りてみる。

「うっ!硫黄の臭いが更にきつく・・・もう無理!」

我慢の限界になったリヴはタクマの背中に顔を埋めるように抱き着いた。

「・・・ス~ッ、ちょっと楽になったわ。」

「ナチュラルにタクマの匂いを嗅いどるな。」

とりあえずリヴにはリーシャに貰ったマスクをして凌いでもらう事にした。

しばらく歩いて進むと少し大きな茶色い野鳥が何羽も集まり、留まっているのを見つけた。

近づいても逃げ出したりせずじっと座っている。

「警戒心のない鳥だな。珍しい。」

よく見ると皆巣のようなくぼみに座っており、足元には卵が数個あった。

「なるほど。子育ての最中なんですね。」

この鳥は人懐っこいらしく、頭を撫でても嬉しそうに喉を鳴らしていた。

「可愛い~♪」

女子三人はすっかり和んでいた。

「よし、とりあえずこの島は全て回っただろう。少し休憩したら集落に戻るぞ!」

「はーい!」

するとメルティナがタクマの元にやってきた。

「ん、何か用か?メルティナ。」

「あの・・・えっと、ずっと言おうと思ってたことがあって・・・。」

もじもじと言葉を詰まらすが思い切って言った。

「あ、あの時!助けてくれて、ありがとうございましゅ⁉」

緊張のあまり、最後の最後で噛んでしまって顔を赤くするメルティナ。

だが彼女が言いたいことはしっかりと伝わった。

「お前を助けられて良かったよ。記憶が戻るまでだけど・・・これからもよろしくな。」

優しい笑顔でメルティナの頭を撫でる。

するとメルティナの脳内で一人の女性が映り、頭を撫でられる。

その時の感情を思い出したのかボロボロと涙を流し、タクマに抱き着いて静かに泣いた。

「お、おい?どうしたんだ?」

「分からない・・・分からないけど、何だか涙が・・・うわぁぁぁぁん‼」

突然泣き出してしまったメルティナを焦りながらもなだめようとした。

その間、リーシャとリヴにもの凄い疑いの目を向けられ続けたのは言うまでもなかった。


 数十分後、火口の隅でバハムートと共に腰を降ろしてメルティナを慰めた。

メルティナは泣き疲れてタクマの膝の上で眠っている。

他の連中は火口付近を飛び回ったり野鳥の観察をしたりと各々に過ごしていた。

「集落に戻ろうって言ったのにすっかり長居しちまったな。」

「良いではないか。たまにはこのようなのんびりした日常も。」

「・・・そうだな。」

そんなことを話しているとメルティナが目を覚ました。

「起きたか?」

「え、あ⁉ごめんなさい!迷惑かけちゃった⁉」

「全然。可愛い寝顔だったぞ。」

メルティナはポッと赤くなる。

「それは口説いておるのか?」

「ちげーよ。」

さて、メルティナも起きたことだし、時間的にそろそろ集落に戻らなくては。

「おーい!そろそろもど・・・、」

その時だった。

火口の上空から突然眩い光が発せられた。

「うわっ⁉何だ⁉」

何とか目を凝らして見ると光の中から二人の人影が現れた。

「アルル、ここなら好きなだけ実験が出来るね。」

「ネーネ、成功したら創造神様に報告報告。」

現れたのは子供のような双子の少年だった。

だが二人の背中には白い翼が生えており、頭に光の輪が浮いていた。

タクマ達はその双子が何者なのか既に感付いていた。

(この気配!天使、いや・・・あの女神と同格の存在か‼)

タクマ達は一斉に警戒態勢に入る。

「あれあれ?アルル、何か人間がいるよ?」

「ホントだネーネ、どうするどうする?」

双子は顔を合わせて不吉な笑顔を晒した。

「「実験動物にしちゃおうか♪」」


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