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『第五章 けじめ そして世界へ』

タクマの技『居合・竜炎斬』が決まり見事オルトを打ち負かした。

「この勝負、オルビス学園三年タクマの勝利‼」

審判の判決に会場が歓声であふれた。

「すげぇ!タクマが勝った‼」

「あの子いつもあたしの店の果物買ってくれる子だよ。」

「ドラゴンの戦いも見物でしたね。」

観客席にいるエリック先生も拍手をしている。

隣でルナが飛び跳ねているのは言うまでもない。

「見事な一閃であったぞ。タクマよ。」

「サンキュー、バハムート。そういやケルベロスはどうなった?」

ケルベロスは会場の隅でお座りしていた。

「奴にはもう戦意はない。主人が戦闘不能になれば従魔も大人しくなる。故に我もこれ以上戦闘は行わん。」

従魔はあんなに常識あるのに主人があれじゃ難儀だなと半笑いで思ったタクマだった。

「んじゃ、戦って腹も減ったし早く帰って飯でも食いに行くか。」

「我はチーズを所望するぞ。」

「はいはい。」

何気ない会話をしながらタクマ達が帰ろうとすると、突然バハムートから鋭い警戒心を感じた。

「どうした?バハムート。」

「タクマ・・・、まだ終わってないぞ。」

バハムートが睨む方向へ目を目向けると、会場の出入り口から鎧を着た兵士がぞろぞろと現れた。

フュリア王国の国王軍だ。会場も突然の国王軍の登場にざわつき始める。

「な、何故ここに国王軍が⁉」

エリック先生も想定外の状況に焦りだす。

「もしや以前国王が言っていた我を囲いたいという連中か?」

「おそらくそうだろうな。」

(いつか来るとは思っていたけどまさかこのタイミングで来るとは)

タクマとバハムートはより警戒を強める。

「フフフ、いいタイミングだ、打ち合わせ通りに来たな・・・。」

後ろで倒したオルトがぶつぶつ言いながら立ち上がる。タクマはすぐに感づいた。

「お前が軍を手引きしたな?」

「あぁそうさ。国王軍がそのドラゴンを欲しがっていることは知っていたからな。だから勧誘の機会を与えたのさ。あぁちなみにこの会話は僕とお前にしか聞こえないよう結界を張ったからこのことが世間に知れ渡ることはない。」

「確かにお前が裏で手引きしたと知れたら貴族としての立場が危ういからな。・・・そうまでして俺に勝ちたいか?」

正当な決闘で不正を働いたという事実にタクマの目には怒りがこみ上げる。だがオルトはヘラヘラと笑い、

「当たり前だ。僕は貴族だ。出来損ないのお前らとは違う選ばれし者だ。そんな僕に僕のより強い従魔、そして魔術の使えない愚民が僕に勝つなど、あってはならないんだよ!」

貴族貴族とうるさい、だから何だというのだろう。

貴族だろうが平民だろうが同じ人。

自分の立場に酔いしれ周りを見ようとせず己の偏見を振りかざす。

他者を妬み落ちるとこまで落ちてゆく。もはや救いようのない人種だ。

「・・・それがお前の最後だな。」

「は?」

タクマは指をパチンと鳴らした。

「む?もういいのかタクマ?」

「あぁサンキュ。バハムート。」

そういうと頭上から何かが崩れ落ちる音が聞こえる。

それは結界が割れる音だった。

「な、何で⁉防音結界は僕しか解除できないはずなのに⁉」

「あんな薄い結界など我の手にかかれば紙切れに等しいわ。」

フフンとバハムートは自慢げに鼻を伸ばす。そして会場はざわざわとざわめき、オルトへの批判殺到が飛び交っていた。

「一体、何がどうなって・・・⁉」

顔面蒼白のオルトにタクマが説明する。

「お前の防音結界を見せかけの結界に張り替えたんだよ。こっそりとな。だからさっきのお前の言葉は全部筒抜けだったってことさ。」

「だ、だが父上や国王にはまだ知られていないはずだ。会場にいるすべての奴らに口封じをすれば・・・!」

ここまで追い詰められても尚往生際の悪いオルト。

タクマは呆れてため息をつく。

「と、おっしゃってますがどう思います?国王様。」

と審判の方を向く。

は?とオルトは目が点になる。

タクマにそういわれた審判はカツラと眼鏡、髭を取り外しなんとその場に国王が現れた。

「いつから気づいておった?」

「今の俺はバハムートのスキルをコピーしている状態ですので気配察知スキルを使えるんですよ。」

「やれやれ、せっかくの潜入調査が台無しだな。」

と国王は笑った。

どうやら国王も問題解決のために独自に動いてくれていたようだ。

「さて、オルト君よ。お主の言動は少々度が過ぎたようだ。このことは親御さんにしっかり話しておくから覚悟しときなさい!」

国王に自分の行いがバレ、オルトは膝から崩れ落ちた。

「当然の結末だな。」

「あぁ、けどバハムート。まだやることは残っているぞ。」

タクマは国王軍の方を向いた。首謀者であったオルトが崩れ、そして国王がお忍びで会場にいたことに騎士団たちは動揺を隠しきれないでいる。

「俺に用があるなら聞きますが?」

タクマが国王軍に吹っ掛ける。

すると騎士たちの間から人一倍目立つ赤マントを付けた若い兵士が話しかけてきた。

「貴殿がタクマか?」

「えぇそうですが、何か用ですか?」

「単刀直入に問う。我々国王軍に入ってはくれないか‼」

「・・・。」

タクマとバハムートはその言葉に嫌悪感を覚える。

「あの貴族にそそのかされてこの場に来場したのは認める。しかし先の決闘とても見事だった!貴殿が我が軍に入ってくれればこの国は安堵する。どうだろうか?是非我が国王軍に・・・、」

「お断りします。」

若い兵士が言い終える前にタクマははっきりと断った。

軍はタクマを迎え入れたいのではなく最強のドラゴンであるバハムートを囲いたいだけだ。

「大切な相棒を軍事利用されるのはごめんなんで。お断りします!」

念押しに二度答えた。

若い兵士は慌てながら、

「で、ですがあなた様のような強い方が守る立場になれば多くの民衆が救われる!どうか考え直し・・・、」

「おい、主は断るといっている!それ以上踏み込むと我も黙ってはおらんぞ‼」

しつこい勧誘にしびれを切らしたバハムートが若い兵士に怒鳴る。

他の兵士たちはバハムートの気迫に押され今にも逃げだしそうな雰囲気だ。

だが若い兵士は諦めが悪く勧誘を続けようとしている。

「いい加減にしないか!」

「こ、国王様⁉」

兵士のしつこい勧誘を国王が止めた。

国王はいつもの豪華な装いに着替えており後ろに騎士団長のエリック先生もいた。

「私がいるにも関わらず無理強いの勧誘を行うとは、お前たちの処遇はもうわかっておるな?」

国王軍の騎士たちはうつむきもはや反論の意志も何も残ってはいなかった。

(やれやれ、これでやっと一息つけるかな?)

こうして最強竜召喚から起こった出来事は無事収束したのだった。


 オルトとの決戦から一週間、国王はバハムートに対する執着を禁止する法律を作った。

フュリア王国内のみの法律だが故郷で安心できるので問題はなかった。

オルトは決闘での悪行に家系から幻滅され貴族の立場を追われ追放となったようだ。

そしてバハムートを秘密裏に囲おうとした国王軍は国王直々に処罰を下し、半年の謹慎処分とした。

そして平和の戻ったオルビス学園でタクマは新たな問題に直面していた。

「進路どうしよう・・・!」

机の上で頭を抱えるタクマにバハムートが窓からぬっと顔を覗き込んだ。

「まだ決まっておらんのか。」

「仕方ねぇだろ。ここ数週間誰かさんの特訓のせいで進路を考える暇なんてなかったんだから。」

特訓もそうだが決戦のあとのクラスメイトのタクマに対する興味が生まれこの一週間質問攻めの毎日だったことも理由の一つだ。

(けどバハムートのおかげでできることが増えたのは感謝しなきゃな。念願の魔法も使えたし。)

その時、以前バハムートと話した言葉を思い出した。

外の世界では魔術に頼らずに生活している国もあればまだ知らない魔術もあふれていることを。

(そうだ!あの時感じた胸の高まり、俺は外の世界を知りたがっている⁉)

そう思うと自然とやりたいことが出来てきた。

タクマは手元の進路表に黙々と書き込んでいく。

(いらぬ心配だったな。)

その様子を見たバハムートは安心した表情を浮かべた。

 そして数日後、進路希望書の提出期限がやってきた。

「はーい皆さん!進路表はかけましたか?」

マリア先生の呼びかけにクラスメイトが元気よく「はーい‼」と返事した。

「では出席番号順に前に提出して下さい。」

教団の上に進路表が次々積まれてゆく。

「お前進路何にした?」

「冒険者にしたぜ。」

「僕は実家の家業を継ごうかな。」

クラスは進路のことで盛り上がっていた。

そして最後の一枚が置かれ、マリア先生はその項目を見て優しく微笑んだ。。

「タクマ君・・・進路、決まったんだね。」

「はい。」

項目には『世界を見る旅』と書かれていた。


 その夜、暗闇にまみれた牧場の真ん中にポツンと小さなテントの光が漏れていた。

バハムートが眠る側、テントの中ではタクマが鼻歌を歌いながら旅支度をしていた。

「野宿は慣れてるからいつもの道具であと衣服とさっきバハムートと作ったポーションと武器とそれから・・・。」

すると入口から寝間着姿のルナが入ってきた。

「タクマ・・・。」

「ん?どした、ルナ?」

「今日マリア先生に聞いたんだけど・・・、旅に出るって本当なの?」

ルナの表情が少し曇っている。

どうやら何も相談せずに決めたことを怒っているようだ。

「あぁ・・・相談しなかったのは謝るよ。でも外の世界のこと考えると止まらなくて。」

するとルナは突然タクマの背中に抱き着く。

「・・・タクマと離れたくないよ。小さいころからずっと一緒にいたじゃん。」

背中に顔をうずくめ、泣くルナ。

タクマはルナの手に触れ、

「別に二度と会えなくなるわけじゃねぇよ。気が向いたらここに帰ってくるさ。」

その言葉を聞いたルナは背中から離れて小指と起てた。

「絶対だよ?約束!」

「おう!」

その小さな契りは二人にとても大きなものだった。

その様子を見ていたバハムートが優しく微笑んだのは言うまでもない。


 翌日、オルビス学園に通う三年生はこの日をもって卒業する。

卒業生はそれぞれの道を歩むため、泣いて笑って祝福しあっていた。

そして、一人の少年の旅立ちの日でもある。

「よっと!」

荷物を背負い正門へ向かう一人と一体。

「なんだかんだこの牧場には世話になったな。これほど心地の良い場所などそうそうない。」

「・・・そうだな。」

「ところで、あの娘には合わなくてよいのか?」

「あぁ、あいつは今学園で花道を歩いてる最中さ。邪魔は出来ねぇよ。」

「それにしても昨日のうちにそつぎょうしょうしょう?なるものを受け取り、生徒の花道には赴かずに出発しようとは。なぜだ?」

そう、タクマは卒業式前日に学園長にお願いし卒業彰祥を受け取っていたのだ。

なぜそんなことをしたのか?

その理由は、

「そんなもん決まっているだろ?男がひっそりと姿を消す。それすなわち・・・カッコいいからさ‼」

タクマは振り向いてニカッと笑う。

「やれやれ・・・。」

バハムートは呆れて首を振ったがその口は嬉しそうに笑っていた。


 タクマとバハムートが正門までやってくると門の前に見覚えのある人物が立っていた。

「あれは、エリック先生!」

立っていたのは国王軍団長でありオルビス学園の教師でもあるエリック先生だった。

エリック先生はタクマを見つけると、

「水臭いではないかタクマ少年!我らに黙って行ってしまうなど。」

「・・・おおかた学園長に聞きましたね?」

「ガハハ!その通り‼まぁ見送りも兼ねてこれを渡したくてな。」

そういうとエリック先生は一通の手紙と小包を差し出してきた。

判には王国の紋章が記されている。

「国王様から?」

タクマは手紙をひろげ読み上げた。

『此度は其方に大変迷惑をかけてしまったな。改めて詫びる。その詫びの印に其方に役立つ物を授けようと思う。是非受け取ってほしい。それともう一つ、よい旅を。』

小包を開けると中には翡翠の魔石が輝く純黒の腕輪が入っていた。

それを見たバハムートとエリック先生は驚いた。

「なんと!それは従魔結石ではないか⁉」

「従魔結石?」

「うむ、その腕輪に組み込まれている魔石は契約した従魔の命令権を得るだけでなく従魔の力を引き出すこともできる極めて希少な代物だ‼噂には聞いていたが実物は初めてみたわ。」

バハムートは腕輪をまじまじと見ながら説明した。

エリック先生も小包の中身は知らなかったようで驚きを隠せないでいた。

「まさか従魔結石だったとは・・・、国王もだいぶ思い切っていらっしゃる。」

タクマはハハハと笑うしかなかった。

だがせっかくの国王様からの贈り物だ。

ありがたく受け取っておこう。

「じゃ、俺たちはそろそろ行きます。先生、いろいろとありがとうございます。」

「あぁ、世界は広い!お前の知らない物がたくさんあるからな。頑張れよ‼」

「はい‼」

二人は固い握手を交わした。

タクマとバハムートは正門をくぐり広い草原が広がる台地に立つ。

「いくぜバハムート!広い世界が俺たちを待ってるぜ‼」

「いや、我は外からきた長命種だから大体は世界を理解しているぞ?」

「おい!せっかくの雰囲気ぶち壊すなよ‼」

「フハハハ‼」

(まったく、賑やかな奴らだ。)

二人の背中を仁王立ちで見送るエリック先生。

「さて、わざわざ卒業式を抜け出してきたのに別れの挨拶もしなくてよかったのか?」

エリック先生がそういうと近くの民家の物陰からルナがひょっこりと現れた。

「いいんです。せっかくあいつがカッコつけてるんですからいつかいじってやるんです。それに・・・。」

「?」

「約束しましたから。必ず帰ってくるって!」

草原を見るともう二人の姿は見えなかったが吹いた風がまるであの二人の背中を押しているような、そんな感じがしたのだった。


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