『第四十六章 白少女の目覚め』
翌日、野宿していた一同。
先に起きたのは女性陣だった。
「ふあぁぁっ!」
大きく腕を伸ばすリヴ。
ボサボサの髪を解き身支度を整えテントを出る。
「―っと、確認確認!」
テントに戻り、保護した少女の様子を伺う。
「・・・うん、魔力は十分回復してる。あとは目を覚ますのを待つだけね。」
安心したリヴは再び外に出てタクマ達を起こす。
起こされた男どもは寝ぼけながらもリヴに活を入れられつつも身支度を整えさせられる。
「リヴ・・・お前やけに家庭的だな・・・。」
目をこすりながらタクマが言う。
「ふふん!主様の将来の妻として人間の生活を勉強してたのよ!」
(いつの間に・・・。)
「何だ何だ坊主?もう嫁をこさえてるのか?案外隅に置けねぇな!」
ガンジがニヤニヤしながら肘で突いてくる。
タクマは無視をして歯を磨く。
遅れてリーシャも起きて朝食を済ませ、一同はトレンストに向けて出発した。
ヴェンとガンジが馬車に乗って積み荷を持ち、タクマはバハムートの乗せてもらい残りのメンツは徒歩で付いていった。
「オレが飛べさえすればそんくらいの荷物持ってあっちゅうまに目的地に着けるんやけどな~。」
「お主の安静のためだ。大人しく歩け。」
「心遣い感謝いたしますわ。」
そんなやり取りを他所にリーシャがタクマに話しかける。
「タクマさん、彼女の寝袋が少しズレてます。」
「ん?ほんとだ。よっこいせ!」
寝袋の位置を戻した。
(・・・何でこの子はあのダンジョンの奥にいたんだろうな?)
眠っている少女を見ながら疑問を拭いきれないタクマだった。
「ん?何じゃこりゃ⁉」
ガンジが叫び、ヴェンが馬車を止めた。
「どうしたんですか⁉」
「あれ見て見ろよ。」
ガンジが指さす先には橋が崩れた崖が行く手を阻んでいた。
「ロープに噛み切った跡があるわね。歯がかゆかったのか魔獣が噛んでロープが切れたみたい。」
「う~む、我らだけならこの程度の距離飛び越えられるが・・・。」
バハムートは馬車に目をやる。
迂回しようにも崖の底には川が流れている。
陸続きになっている可能性はまずないだろう。
「どうする?木を切って橋を造るか?」
「いや、それだとかなり時間がかかってしまう。少女の事を考えると橋を建築している余裕はないよ。」
ヴェンとガンジも難しい顔で考えていると、
「・・・タクマ、リヴと共に頼めるか?」
「ん?・・・あぁそういう事?多分大丈夫だ。魔法を扱えるまでは回復していると思う。」
「ならお主等に頼むぞ。」
「はいよ。リヴ!」
タクマバハムートから降り、リヴに説明をする。
「何それ、面白そう!」
「それじゃぁ、いっちょやってやろうぜ!」
タクマとリヴは崖の前に立ち構える。
「何をするんだ?」
「まぁ見ていろ。」
最初にリヴが水と重力の二つの魔法陣を展開し、片方の陣から水が溢れ出る。
次にもう片方の陣が発動し溢れ出た水を操り橋の形状に整えていく。
「主様!」
「おうよ!」
タクマが剣を抜きリヴの氷魔法をコピーする。
「フリージング・ゲイザー‼」
タクマの放つ吹雪が形作った水を徐々に凍らせ、美しい氷の橋が完成した。
「一丁上がり!」
あっという間に出来た橋にヴェンとガンジは口を開けて固まっていた。
「ふふふっ!そういう反応になりますよね。」
リーシャは嬉しそうに笑った。
その後は特に大きな問題もなく、無事に歩みを進めていった。
そして日が暮れる頃には途中にある宿場町に立ち寄った。
「年を取ると疲れが尋常じゃないな。」
「年は取りたくねぇな。」
「俺達は先に御者専用の宿で休むから君たちは食事でもしてきてくれ。」
「あぁ、分かった。」
ヴェンとガンジはタクマ達とは別の宿に入って行った。
二人と別れたタクマとリーシャは宿場町の名店に足を運んだ。
その店の料理を注文、テイクアウトしバハムート達の待つ宿の庭に戻った。
「買ってきたぞー!」
「待ってました!」
リーシャの異空庫からテイクアウトした料理を取り出し並べる。
「いっただっきまーす!」
と、同時に料理に食らいつくウィンロス。
「タクマも沢山食しとけ。傷は癒えても血までは戻らんからな。」
「おう、たくさん食うさ。」
タクマもガッつく勢いで食べていった。
「・・・ねぇ、おじ様。」
「何だ?」
「食事中申し訳ないんだけど、この子におじ様の光の魔力を与えてくれないかな?」
リヴは箸を置き後ろで寝かせている少女を見た。
「ある程度は魔力も回復したけど、あと一歩何か足りないと思って。ひょっとしたらこの子から感じてた光の魔力が足りないのかなと思ったの。」
「なるほど、確かにこの時代光属性の魔力は希少な存在だ。よかろう。」
バハムートは少女に光の魔力を分け与える。
「・・・これで直に目を覚ますであろう。」
「ありがとうおじ様。」
そうしていると後ろが何やら騒がしかった。
「ウッグググ⁉」
「ウィンロス⁉」
「わぁぁ!ウィンロスさん!お水!はい、お水です!」
「・・・何をしておるんだあやつは・・・。」
「アハハ・・・。」
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・・・私は、どうして生かされたのだろう。
もはや創造神としての力も微塵も残っていないというのに。
(我らにとって創造神は貴女だけです!)
命を賭してまで私をあの王宮から助け出してくれた彼が残した言葉。
あの言葉に・・・私は意味を与えることが出来るのだろうか?
創造神の座をあっけなく奪われただけでなく、自分を慕ってついてきてくれた者すら救えない哀れな神を。
考えている内に涙が溢れる。
私には何が残されているのだ。
地位も、名誉も、力も、そして仲間も・・・!
これ以上失うものがない程失っているというのに!
もう、私に出来ることは、創造神として何もできなかった自分を嫌い、妬み、無力さに打ちしがれながら只々泣きわめくことしかできなかった・・・。
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少女がゆっくりと目を開ける。
横を向くと焚火が目に映った。
「・・・・・・ここは?」
「お?お目覚めか?」
突然目の前にぬっと大きな顔が現れる。
「きゃぁぁぁぁぁぁ⁉」
「おわぁぁぁぁぁぁ⁉」
ゴチンっと鈍い音が鳴ったと思ったらバハムートがウィンロスにゲンコツを食らわせ、ウィンロスは床に伏せていた。
「気をつけんか馬鹿者。目覚めの少女にお主の大きな顔には驚くのも無理は無かろう。」
「旦那がそれ言うんかいな・・・。」
デカい顔同士を後ろに下げリーシャが少女の前に座った。
「ごめんなさい、驚かせてしまって・・・。体調に問題はありませんか?」
「え、えぇ・・・大丈夫。」
すると少女のお腹から小さな音が鳴った。
「あ・・・。」
「フフフッ、お腹が空きましたね?待っててください。」
リーシャは異空庫から材料を取り出し、せっせと簡単なサンドイッチを作った。
「どうぞ。」
「・・・・・・・。」
少女はサンドイッチを手に取りパクッと食べる。
「・・・美味しい!」
あっという間に完食してしまった。
「まだありますからゆっくり食べてください。」
「あ、ありがとう・・・。」
その様子を見てたタクマ達。
とりあえず少女が目を覚まして一安心した。
「話を聞くのは後の方が良さそうだな・・・。」
「そうだな。」
リーシャのサンドイッチを食べ終えるのを待ち、タクマ達は少女に話を聞いた。
「元気になって良かったわ。」
「リヴさんずっと彼女の看病してくれてましたものね。」
少女はリヴにぺこりとお辞儀をする。
「・・・そろそろ話しをしてもいいか?」
タクマが先導して彼女にいろいろと質問をしていった。
「まずお前の名前は?」
「名前・・・。」
少女は口を籠らせる。
「・・・分からない。」
「はい?」
「分からない、何か大切な、とても大切なハズの事が・・・何も思い出せない!」
手が震えている。
体感は覚えているようだが何らかの衝撃で記憶がうまく思い出せないらしい。
「記憶喪失・・・一番厄介な症状だな。」
バハムートが言う。
「他に何か覚えていることはないのか?」
タクマが質問を続けるが少女は首を横に振る。
「さっき、夢で何か見てた気がするんだけど・・・うまく思い出せない。」
この様子だとおそらくダンジョンの奥地にいた事、あの死神に追われている理由などを聞いても求めている返答は得られないだろう。
これ以上の質問は無理そうだ。
「この話は辞めだな。思い出した時でいい。その都度俺達に話してくれ。」
そういいタクマは席を立った。
リーシャが優しく少女の頭を撫でる。
「大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですから、だんだんと思い出していきましょう?」
「・・・うん。」
「それにしても名無しなのは不便よね。何かいい呼び名でもつけてあげない?」
リヴがドカッと少女の隣に座る。
「そうですね・・・、髪が長くて白いですし、シロちゃんてのは?」
「まんますぎるから却下。」
即答された。
リヴも案を出すが少女自身がイマイチ気に入らないらしく微妙な表情をする。
するとラルが木の枝で地面に文字を書き始めた。
「ラル?」
ガリガリと書き続けるラル。
「アンタ器用ね・・・。」
書きあがると地面に『メルティナ』と書かれていた。
「センスも抜群⁉」
「クゥ~!」
ドヤァと自慢げのラル。
「凄くいいよラル!貴女はどう思う?」
「メルティナ・・・?」
少女はその名を見ると突然頭痛が襲った。
「あぐっ⁉」
「だ、大丈夫ですか⁉」
リーシャが優しく背中をさする。
そして次第に痛みが治まっていった。
「ありがとう・・・もう大丈夫。」
おそらくこの頭痛は記憶が戻ろうとする前兆だ。
「何か思い出したんですか?」
聞いてみるが少女は首を横に振る。
さっきの頭痛では何も思い出せなかったみたいだ。
「でも、メルティナ・・・。どこかで聞いたような気が・・・・・・、やっぱり思い出せない。」
肩を落とす少女にリーシャが寄り添う。
「さっきも言った通り、思い出すのはゆっくりでいいんです。焦らず記憶が戻るのを待ちましょう。」
「・・・・うん。」
リヴとラルもふうっと息をついた。
「それじゃ貴女の事はメルティナって呼ばせてもらうわね!」
「はい!よろしくお願いします!」
女子たちが仲良く会話する最中、席を外した男性陣は夜風を浴びていた。
「向こうは話がまとまったみたいだな。」
「こういうのは同性同士に限るわな。」
「・・・・・。」
「どした旦那?」
やはり少女、メルティナが何者なのか改めて気になるバハムート。
しかし彼女自身名を忘れるほどの記憶喪失が激しいため、その疑問を掃う事は出来なさそうだった。
「いや、何でもない。タクマよ、どうする?少女が目覚め今、街に着くまで共に行動する他ないが・・・その後の事を早めに考えておいた方が良いのではないか?」
「・・・あぁ、そうかもな。」
今後、メルティナの事も考えなければと思うタクマだった。




