『第四十三章 危険度最上位』
ヴェン達の言う欲しい素材を取りに行くため、タクマ達は危険度最上位ダンジョン『死滅の鍾乳洞』への潜入許可をギルドに申し立てた。
当然職員には猛反対されたがギルドマスターのゴルドンがタクマ達の実力を考慮し、特別に許可を出してくれた。
鬱陶しくなるほど念を押されて・・・。
そして一同は街から少し離れた洞窟、『死滅の鍾乳洞』にやってきた。
「な、なんやねんこれ・・・。入口から既におぞましい気をビンビンに感じるで・・・。」
「なるほど、危険地指定されるだけはある。皆、気を抜くなよ?常に死と隣り合わせであることを忘れるな。」
「分かった。」
ダンジョンに入ると奥に進むにつれてそのおぞましい気を強く感じてくる。
以前入ったダンジョンとは明らかに死の臭いが濃かった。
「アンタらは大丈夫か?」
タクマが後ろから荷物を背負ってついてくるヴェンとガンジに伺う。
「大丈夫だ。これくらい耐えなきゃ工業長など勤まらんさ。」
「儂も同意だ!」
この気に押しつぶされない程、割と根性があるみたいだ。
「せ、狭いで・・・。」
「我慢しろ。我だって同じ気持ちだ。」
通路はバハムート達がギリギリ通れるくらいの狭さ。
外で待っててもらう事も考えたが今回のダンジョンは危険度が桁違いだ。
出し惜しみをする余裕は一切なかった。
ある程度進んでいくと徐々に天井が高くなり、そこから長い年月で育った巨大な鍾乳石が無数に広がる光景がっていた。
「うわぁ、串がめっちゃ刺さってるみてぇ。」
「タクマさん、その例えは無いです・・・。」
「あら?」
首が痛くなるほど長い鍾乳石の間を通っていく一同。
鍾乳エリアを抜けると今度は壁や天井、床までもが鉱石に溢れた空洞に出たのだ。
「ん?この鉱石ってもしかして・・・。」
「ミスリルですよ⁉」
リーシャが叫んだ。
辺り一面にミスリルがむき出していたのだ。
「このダンジョンはレア度が恐ろしく高いアイテムや希少鉱石がゴロゴロ溢れてるんだ。俺達、制作側の人間からしたらまさに黄金の山なんだよ。」
ヴェンがつるはしを持って説明した。
「き、貴重過ぎるミスリルがこんなに?・・・頭がおかしくなりそう・・・。」
リヴが軽く思考停止している。
ヴェンとガンジはミスリルを採掘する。
だがそこまで量は取らなかった。
「目当てはミスリルじゃないからな。」
「おそらくもう少し進んだ先にあると儂は踏んでおるぞ!」
二人はテンションが上がりさっさと先に進んでいった。
「あ、先に行っては危険です!待ってくださーい!」
リーシャ達は慌てて二人を追った。
「・・・・・。」
「ん?どうしたバハムート?」
バハムートが何やら考え事をしている。それもいつもより眉を顰めて。
「気になることがある。危険度がかなり高いダンジョンのはずだが、さっきから一向に魔獣の襲撃がない。それどころか気配すらしないぞ?」
そう言われると確かにそうだ。
ダンジョンに潜ってから一切魔獣を目撃していない。
危険度の高いダンジョンで魔獣が出ないのは明らかに異常だ。
(何かあるな・・・。)
早いとこ切り上げた方が良さそうと思うタクマだった。
順調にダンジョンを進んでいく一同。
バハムートが言った通り、魔獣の襲撃は一切なかった。
不気味な程に。
「お、見えてきたぞい!」
ガンジが指す出口の先にはとてつもなく広い空洞があり、天井には数えきれない程の大量の鍾乳石。
そして周りにはミスリルとは違った黒い純鉱石が輝く光景が広がっていた。
「着いた!ここがダンジョンの最深部!」
「うおぉぉぉ‼儂の悲願が叶った‼さっそく採掘に行くぞぉぉぉ‼」
ヴェンとガンジは目を輝かせて興奮し、走り出した。
「だから勝手に行かないでくださいってば‼」
リーシャ達も慌てて二人を追いかけた。
「いい歳したおっさんが何はしゃいどんねん・・・。」
呆れながらウィンロスも飛んで追いかけた。
「アイツが飛べるほどの広さか。ざっと見ただけでも街一つ分くらいあるんじゃないか?」
タクマが言うがバハムートは終始だんまりだった。
「・・・やっぱり気になるのか?」
「あぁ、不自然すぎる。結局最深部まで魔獣の遭遇はなかった。・・・タクマよ、我は少し場を離れる。この空洞内にはいる故、何かあれば念話で呼ぼう。」
「分かった、気をつけろよ?」
「うむ。」
バハムートは空洞の壁をそるように飛んで行った。
そしてタクマもリーシャ達を追いかけた。
タクマが追い付くころには無我夢中で鉱石を叩きまくるヴェンとガンジがいた。
「見ろ、兄ちゃん!これが俺たちが求めていた物だ!」
ガンジが鉱石の塊を手に取り見せた。
しかしタクマにはただの黒く輝く鉱石にしか見えない。
リーシャ達も同様初めて見る鉱石のようで首をかしげていた。
「まぁ滅多に出回らない知名の低い鉱石だからな。これは柔黒曜石といってそこらの鉱石よりずっと固く、かつ柔軟性に優れた職人にとっては喉から手が出るほど欲しがる鉱石なんだ。」
ヴェンが一通り説明をした。
「固いのに柔軟なの?何か矛盾してない?」
「いえ、そう言った物は世の中に幾つかあります。私が知っている物では普段は液体状でも強い力を受けると人が浮けるぐらい固くなる物もありましたから。」
「人が液体に浮く?そんなのもあるんだ。」
女子の会話の隅にどんどん柔黒曜石を採取するおっさん二人。
するとガンジが世間話を始めた。
「昔はこの鉱石が沢山取れる鉱山が山ほどあったんだが、どういう訳か突然その鉱山から鉱石が取れなくなっちまったんだ。それだけじゃねぇ、この柔黒曜石以外にも普段取れていた場所からいろんな素材がめっきり無くなっちまったらしい。おかげで俺ら職人以外でも冒険者や薬剤師が仕事を無くすって事が多々あったんだ。」
「・・・ん?それっていつ頃からそないな状況になったんや?」
ウィンロスが何か引っかかり問い返す。
「そうだな・・・大体五十年くらい前からだな。」
「・・・そうか。」
ウィンロスの様子がおかしかった。
何かを思い詰めるように。
「ウィンロス?何か知ってるのか?」
「原因は知らんけど、昔オレが住んでた地域でも同じような現象が起きてたんや。」
話によると、エルドラ大陸とは別の大陸に住んでいたウィンロスは森の環境が突然変わり、引っ越しを余儀なくされた事があったらしい。
原因は不明だが突然魔獣たちがその地域から離れ始め、次第に生態系ががらりと変わったという。
短期間にあまりの変容ぶりに驚いたとウィンロスが語った。
「いつもの林檎の木から異臭の放つ果実に変わったり、山にある鉱石が全て別の鉱石に変わったり、明らかにおかしかったわ。この現象が起きたんは丁度五十年前なんや・・・。」
ガンジの話とほとんど同じだ。
それも起きた時期も同じ五十年前、偶然とはとても思えなかった。
(確かに引っかかるな。けど何だ、あと一歩が出てこねぇ!)
何かに繋がりそうでギリギリ思いつかない。
タクマが眉をしかめて考えていると、
「タクマよ。こちらに来てくれ。」
バハムートから念話が届いた。
彼から連絡が来たという事は何かを見つけたのかもしれない。
「すまん、ちょっとバハムートの所に行ってくる。」
「あ、私も行きます!」
「ウィンロスとリヴはおっさん二人を頼む!」
「あいよ。」
「はーい♪」
その場を二頭に任せ、タクマとリーシャはバハムートの元へ向かう。
鍾乳石の間を通り抜けてバハムートと合流した。
「バハムート、どうしt・・・え?」
「ふぇっ⁉」
合流したバハムートの足元には白い布を身体に巻いた長い白髪の少女が倒れていたのだ。
その白さはまるで天使のようだった。
「む、来たか。」
「バハムート、まさかお前が仕留めたんじゃ・・・。」
「阿呆、なわけあるか。」
「冗談だよ。でも何でダンジョンの奥に小さい子供が?」
見たところ少女は気を失っているようだが。
「分からぬ、我が見つけた時には既にこの状態よ。」
リーシャが少女の容態を調べる。
「・・・特に外傷などは見当たりません。気を失っているだけですね。」
とりあえず無事だという事が分かった。
しかし何故危険度の高いダンジョンの奥地に少女が倒れていたのか。
魔獣の件といい、謎が増える。
「魔獣がいなかった事がせめてもの幸いだな。」
そうタクマが言うとバハムートが口を割る。
「実はそのことだが・・・、」
「ん?」
「お主達が来るまでにこの娘を『鑑定』で調べたのだが、どうにも腑に落ちんのだ。」
「どういう事だ?」
「項目が偽装されていたのだ。普段であったらその者の情報が移るのだが、この少女の情報に靄がかかっており我でも見ることが出来なかったのだ。」
タクマは驚いた。
バハムートの『鑑定』はかなりの高レベルであり見た者から大体情報が得られるはずなのだが、その彼ですら見ることが出来ないレベルの偽装だという事。
見たところリーシャと同じくらいの少女だが・・・、この少女は何者なのだろうか?
(バハムートでも見破られない偽装・・・。何が起こっているんだ?)
バハムートは話を続ける。
「そこでだ、このダンジョンに魔獣がおらんのはどうやらこの少女が原因のようなのだ。」
「えっ⁉」
「少女の魔力が他とは何か違う。おそらくその魔力の影響で魔獣がこのダンジョンから離れたのやもしれん。」
確証はないがそうとしか考えられなかった。
確かに少女から感じる魔力は他の人間とは明らかに違った。
「この子がいたからダンジョンの魔獣が現れなかったんですね。」
「そう考えた方が妥当だろう。」
とりあえず、このままにしておくこともできないため、少女を抱えウィンロス達の元へ戻った。
天界。
神々が住まう異界。
中央に建つ城の一室にてクリスタルの中に入っている天騎士の療養をしている一人の天使がいた。
「・・・あとは魔力の回復を待つのみ。」
「性が出ますな。セレス。」
部屋に老人が入ってきた。
「ローウィル様、僕に何か御用で?」
中性な容姿のセレスが問いかける。
「ガミウ殿を見ませんでしたか?」
「ガミウ?僕は見てませんが・・・。」
「そうですか、少々御用があって探しているのですが先ほどからお姿が見えないのです。」
するとセレスが思い出した。
「あ、そういえばガミウは逃げ出した先代の創造神を追っていると報告を受けました!」
「なんと!では彼は今下界へ赴いているのですか。どうやら行き違いになってしまったようですね。お戻りになるまで待ちましょう。ではセレス、失礼しました。」
お辞儀をして老人は部屋を出ていった。
「ガミウの事ですからすぐに先代を見つけて戻ってくるでしょう。彼は天界一の戦闘狂ですから・・・。」
フウッとため息をつくセレスだった。
「・・・下界、あの人は今下界へ逃げているという事ね!」
反対側の扉の向こうから大きな鎌を持った少女が話を盗み聞きしていた。




