『第四十一章 ダンジョン攻略』
時は少しさかのぼる。
一番最初にダンジョンに潜ったのはAランク、深紅の鎧の少年と僧侶の少女、侍のような身なりの青年の三人の冒険者パーティだった。
「ねぇ、あそこに扉があるよ?」
僧侶の少女が指さす先には一際豪華な扉があった。
「もしかしたらボス部屋かもしれない。気を抜くなよ?」
「心得た。」
扉を少し開け中の様子を伺うと、部屋の中心に巨大な大蛇が佇んでいた。
「初めて見る魔獣だな。あれがボスで間違いなさそうだが、二人は行けそうか?」
「大丈夫!私たちはAランクのパーティよ。いざとなったらしっかり退くから!」
「拙者も同意。」
「よし!行くぞ!」
三人が突入すると同時に大蛇も動き出した。
「シャァァァァァ‼」
「セイゾウ!お前はサイドから攻めろ!俺が奴の注意を引きつつ攻撃を続ける!ルシアは後衛から俺たちのサポートを頼むぜ!」
「承知!」
「オッケー!」
見事な連携で大蛇を翻弄しつつ着実にダメージを与えていく。
流石Aランク冒険者なだけあって実力が高い。
「シュルルルル‼」
大蛇が舌を鳴らし始める。
「気をつけろ!何か来るぞ!」
大蛇は大きく口を開けると耳がつんざく程の超音波を発し、パーティに降りかかる。
「うおぉぉっ⁉」
三人は耳を塞ぎ耐え忍ぶ。
「凄まじい咆哮でござる!」
「セイゾウ!相手の出方に注意しつつ攻撃を続けろ!ルシアはさっきの舌の音がなったら全員に防音の魔術を付与してくれ!」
「分かった!レオも気を付けて!」
「おう!」
その後、順調に大蛇を追い詰める三人。
大蛇もダメージの蓄積で動きが鈍くなっているのが分かる。
「よし、この調子なら・・・!」
そう思ったのも柄の間、大蛇が予想外の行動をとった。
「な、何だ⁉」
突然壁を伝って天井に張り付くかのように留まった。
すると今度は喉を鳴らし始め下に向かって狙いを定める。
「まさか!ルシア!すぐに最大の防壁をはるでござる‼」
セイゾウの掛け声でルシアは咄嗟に防壁を展開。レオとセイゾウも防壁内に飛び込む。
「シャァァァァァ‼」
大蛇は地面に向かって灰色の煙を吐き出した。
すると煙が触れた個所が徐々に石化していったのだった。
レオ達は防壁のおかげで難を逃れたが、
「これって、上位クラスの石化ブレス⁉」
「てことは・・・この大蛇は最高位のSランクの魔獣⁉」
三人は焦りの表情を見せる。
「迂闊・・・!相手の力量も見極められぬとは!何たる失態!」
「とにかく俺達だけじゃかなう相手じゃねぇ、一旦退くぞ!」
石化の煙が晴れると同時に扉まで下がる三人。
扉に手をかけるが何故かビクともせず、固く閉ざされていた。
「あ、開かない⁉まさかこのダンジョン、ボスを倒さない限りここから出られないってことか⁉」
これまでダンジョンに潜った冒険者の消息が絶ったのも納得がいった。
「くそっ!やるしかねぇのか⁉」
武器を構え直す三人。
地面に降り立つ大蛇は完全に三人を捉え、逃がさんとする程の威圧を放つ。
「ん?待って!この扉術式が組み込まれてる!」
ルシアが扉に組み込まれた術式の存在に気づいた。
「は?それがどうしたんだ?」
「おそらく天然の術式だと思うけど、内側からは空けられないだけで外からならいつでも開けられるようになってるみたい!出来るか分からないけどこの術式を反転させれば!」
「そうか、多少は魔術の知識があるルシアがそう言うんだから間違いないな。なら俺達が時間を稼ぐ!その間にルシアは術式をなんとかしてくれ!」
「分かった!」
「行くぞセイゾウ!」
「承知!」
レオとセイゾウの二人はルシアに注意がいかないようにしながら大蛇の相手をする。
「グレイトスラッシュ‼」
「秘剣・土俵崩し‼」
レオが大蛇の頭部に思い一撃を食らわせ体勢を崩し、セイゾウの剣技で足元を切り刻み大蛇を転倒させた。
「どうだ!」
しばらく土煙が漂う。
すると次の瞬間、煙から太い尻尾がセイゾウの脇腹に直撃してしまう。
「ぐぅっ⁉」
セイゾウはそのまま壁まで吹き飛ばされてしまった。
「セイゾウ⁉」
「不覚・・・、っ⁉レオ、後ろ‼」
気づくのが遅かった。
レオの背後に大蛇が現れ襲い掛かる。
咄嗟に攻撃を回避するにも全てとはいかず、レオの左腕が食われてしまった。
「ぐあぁぁぁぁ⁉」
「レオ⁉」
ルシアが駆け寄ろうとすると、
「来るな!お前は術式に集中しろ!」
「でも・・・!」
現状、レオは腕を失い、セイゾウはダメージで動けない。
ルシアが扉の術式の解読を手放すとここまでの時間稼ぎが無駄になってしまう。
それでも大蛇は容赦なくパーティに迫ってくる。
「くそっ!ここまで来て・・・!くそぉぉぉぉぉ‼」
その時だった。天井が突然崩れてきたのだ。
「なっ、天井が⁉」
崩れる瓦礫の中から現れたのは一人の少年と二人の少女。
タクマ達だった。
「よっしゃぁ!着いた!」
大蛇は崩れ落ちてきた瓦礫に埋もれていく。
タクマ達も落ちる瓦礫を伝って地面に着地した。
「あ、あんた等は・・・?」
レオが話しかけてくる。
タクマはレオの失った左腕を見る。
「・・・なるほど、状況は大体理解した。」
瓦礫の山から大蛇が再び姿を現した。
「シャァァァァァ‼」
「リーシャ!怪我している奴らを回復させろ!こいつは俺とリヴがやる!」
「分かりました!」
「ま、待て!」
レオが身体を引きずりながらもタクマに話す。
「そいつはSランクの魔獣だ!Aランクの俺達でも到底敵わない相手なんだ!あんた達も逃げてくれ!」
だがタクマはその提案を否定する。
「生憎こっちはどうしても依頼を完了しなきゃいけない事情があるんでね。お前らには悪いが、こいつは俺達が貰うぞ!」
タクマは剣を取り、大蛇を前に構えた。
「クゥ~!」
「おわっ⁉」
ラルがレオの服を引っ張り、扉の前まで連れてきた。
「ラル!あそこの人もお願い!」
「クゥっ!」
ビシッと敬礼し次はセイゾウの元へ飛んで行った。
「今治癒魔法をかけますね!」
「何で、何で逃げないんだよ・・・。俺らを庇ってまで!何で!」
「・・・綺麗ごとかもしれないですが、私達は目の前で苦しんでいる人を放っておくことはありません。彼らは悪人には容赦はしませんが命を見捨てることは絶対にしない。」
リーシャは止血の治癒をかけながら語る。
「私も彼に命を救われた身ですからね。」
彼女は照れ臭そうに笑った。
「人を見捨てられない・・・、そんなお人よしじゃこの業界では足元を救われるかもしれないぞ?君達のその優しい心に付け入る外道も多いこの世の中で・・・。」
「大丈夫です。例えそうなっても覆せるほどの強さを、あの人達は持っていますから。」
「リヴ!足場頼むぜ!」
「了解!」
リヴの氷魔法で空中に氷の塊が現れ、それを足場にタクマは空を駆ける。
「居合・風裂傷‼」
無数の風の斬撃が大蛇に直撃するが固い鱗に全て弾けれる。
「何かリヴと初めて戦った時を思い出すな!」
「シャァァァァァ‼」
大蛇がタクマに噛みつこうとするも難なく避ける。
「じっとしてなさい!フリージング・ゲイザー‼」
氷の範囲魔法で大蛇の足元を凍らせ動きを止める。
「ナイスだリヴ!」
動きが鈍くなる大蛇にタクマが攻める。
「居合・一閃!《乱》‼」
連続の一閃が大蛇に切りかかり、大蛇の顎の下から鋭い一撃を食らわせ体勢を崩す。
二人の連携の取れた戦いにレオ達の目は釘付けだった。
「スゲェ・・・何だよ、あの戦い方。」
「なんとキレのある太刀筋。少女との連携もまったく無駄がない!」
リーシャがレオに回復魔法を施していると同時にラルにも回復魔法が伝わり、セイゾウを癒していた。
「あ、あの!二人の容態は?」
ルシアが扉の解析を続けながら聞いてきた。
「大丈夫です。止血もできましたし、もう一人の方も無事です。」
「よ、よかった・・・!」
ルシアはホッと胸を撫で下ろす。
「貴女も休んでください。」
「えっ!でも、扉の解析が・・・!」
「大丈夫です。もう直出られますから。」
タクマとリヴの猛攻を受け、大蛇は奥の手を出す。
「シャァァァァァ‼」
咆哮を上げ壁を登り天井に張り付く。
「何だ?」
「気を付けてくれ‼石化ブレスが来るぞ‼」
レオが叫んだ。
大蛇は下に向き口から灰色の煙を吐き出した。
タクマとリヴはギリギリ煙を避けながらレオ達の元に急ぐ。
「リヴ!」
「うん!氷壁‼」
全員扉の前に集まり、リヴが氷の壁を展開する。
氷の表面が石化していったが全員無事だった。
「見えたぜ!討伐の糸口!」
タクマは剣を地面に思いっきり突き刺す。
すると背後に巨大な魔方陣が展開される。
「来い、ウィンロス‼」
バチバチと音を立て、魔法陣からウィンロスが現れた。
「よっしゃぁぁぁぁ‼」
突然目の前に出てきたドラゴンにレオ達は驚愕した。
「ド、ドラゴン⁉」
「きゃぁぁぁぁ‼」
「っ⁉」
待ちに待った出番だからかウィンロスはやる気に満ちている。
「ウィンロス!俺があの大蛇を天井から叩き落す。そしたらお前はこの灰色の煙を奴に浴びせてくれ!」
「あいよ!」
タクマは壁を駆けあがり大蛇が巻き付いている天井の出っ張りに斬撃を入れた。
出っ張りは崩れ、大蛇は地面に落ちた。
「今だウィンロス!」
「ウィング・サイクロン‼」
ウィンロスの羽ばたきで暴風が巻き起こり、石化ブレスを巻き取る。
そしてそのまま暴風は地面に落ちた大蛇を飲み込んだ。
「ギャァァァァァ‼」
凄まじい断末魔を上げながら身体は自身のブレスで石化していき、最終的には巨大な石像と化してしまった。
「ナイスだ、ウィンロス!」
「おうよ!」
タクマとウィンロスはハイタッチをした。
「嘘だろ?Sランクのダンジョンボスを、倒しちまった・・・。」
「凄い・・・!」
「あっぱれだ・・・。」
三人は呆然とタクマ達を見ていたのだった。
ダンジョンのコアであるボスが討伐された事は外に待機していたギルド職員にも伝わっていた。
突如ダンジョンコアの反応が消失した事で手元に置いといていた魔力を感知する魔石が反応しなくなったからだ。
「えっ⁉嘘⁉」
数十年未討伐だったダンジョンが経った今討伐された事に職員は驚きを隠せなかった。
「魔石の反応がない・・・じゃぁ、本当にダンジョンが⁉」
職員は急いで報告書を作成した。
ダンジョン討伐が成されたことで近いうちに崩壊するだろう。
各パーティに持たせた通信魔石で事を報告し直ちに脱出するよう促した。
転移や徒歩で次々とパーティが戻ってくる中、地面から何やら地響きが聞こえてくる。
すると地面が盛り上がり回転しながらウィンロスが飛び出したのだ。
「わぁぁ⁉」
「何だ⁉」
驚く冒険者たち。
ウィンロスは地面に降り立つと背中からタクマ達が降りてきた。
「ショートカットはうまくいったが・・・、もうこの手は勘弁だな・・・うぇっ。」
回転して来たため気分が悪くなっていた。
「ほら着いたで?早う降りーや。」
背に乗っているリーシャとリヴ、レオのパーティ三人全員の様子が明らかにおかしかった。
「・・・おいまさか!」
ウィンロスが青ざめる。
「う、おえぇぇぇぇ‼」
全員目を回しており一斉にキラキラが出た。
「ギャァァァァァ⁉早よ降りろやーーーーーーー‼」
ウィンロスの断末魔は森中に響き渡ったのだった。




