『第四十章 ダンジョン突入』
タクマ達一同は再び冒険者ギルド『海竜の泉』にやってきた。
バハムートとウィンロスは表で待機してもらい中に入る。
「タクマ様、お待ちしておりました。」
受付嬢が出迎えてくれた。
「・・・様?」
リーシャは聞きなれない単語に首をかしげる。
「奥でギルドマスターがお待ちです。こちらへ。」
案内されるがまま奥の部屋へ通される。
そこにはガタイが良すぎる強面の男が座っていた。
「お前がタクマか?」
鋭い目つきでこちらを睨む。
(怖っ⁉)
リーシャがビビる隣でタクマが返す。
「あぁ、そうだ。」
ギルドマスターはしばらくタクマを見ると、
「ほう、ガインが認めた冒険者とのことだが・・・こんな子供だったとは。まぁいい、座りな。」
向かいの椅子に座らされるタクマ、リーシャ、リヴの三人。
ギルドマスターはまず自己紹介をした。
「俺が『海竜の泉』のギルドマスター、ゴルドンだ。よろしくな!」
見た目通り、名前もゴツかった。
「ガインからの手紙は受け取った。お前らになんかあったら手助けしてやってくれとな。」
ガインが手紙を渡してほしいと言った相手はギルドマスターの事だった。
どうやら二人は旧知の仲らしい。
「それで、お前の要望は従魔結石が報酬のあの依頼だったよな?」
「そうだ。仲間にも従魔結石を渡したくてな。」
ゴルドンはチラッとリーシャを見る。
彼女は緊張でカチカチだった。
「中々可愛い連れじゃないか。こいつのために何かしたいってのも分からなくもない。」
リーシャは恥ずかしくなり顔を赤くし俯く。
「依頼を受けたいってのはいいが、この依頼はランク上限があるのは知っているか?」
「ランク上限?」
リーシャが首をかしげる。
「依頼の中には非常に高難度な依頼が幾つもある。それらの依頼は新人やランクの低い奴らには命の保証がない。だからランク制限をかけているんだ。」
それらの依頼は難易度が高いが報酬が凄くいい。
だが報酬に目がくらみ自身の実力に見合わないまま依頼に挑み帰ってこなかった者が後を絶たなかったそうな。
「とりあえず依頼書を見せてくれ。」
依頼書に目を通すと、確かに報酬はいい。
この依頼の報酬品は従魔結石になっているが金額面も悪くない。
確かに実力を理解しない冒険者が受けようと思うのも無理はなかった。
「ん?受注した場合の集合日にちは明日?」
「あぁ、既に何人か高ランクの冒険者がその依頼を受注しているんだ。ランク制限はB、受注している冒険者はいずれもBとAランクがほとんどだ。」
(Sランクはいないのか。まぁそう数の多いランクじゃないし当然か。)
「聞いたところ、お前はこの依頼を受けたいそうだな。」
「従魔結石が目当てだからな。」
「お前たちのランクは?」
「俺はD、リーシャはFだ。」
ゴルドンは頭を抱えた。
「・・・お前、正気で言ってんのか?」
「正気じゃなかったら何なんだ?」
「DとF?下位ランクじゃねぇか!当然かもしれないがそれじゃ依頼は受けられないぞ?」
するとリーシャがふと思い出した。
「そういえば最後にギルドでランク申請したのっていつでしたっけ?」
「最後にしたのは確か・・・、あのクズ勇者と戦う前だ!」
アンクセラム王国の王都に赴く前の話だ。
とんでもなく長い間ランクの申請をしていなかった。
「やべっ、すっかり忘れてたぜ・・・。」
不安になり二人はカードを取り出す。
「なぁギルドマスター、今この場で申請できないか?」
「普段だったらしっかり受付から申請してもらうが、今回だけは大目に見てやろう。」
ゴルドンの情けを貰い二人はカードを渡す。
「・・・ん?な、何だこの経歴は⁉」
ゴルドンは二人のカードを見て度肝を抜いた。
「最後のランク申請から魔剣の討伐、海の帝王リヴァイアサンと戦闘、長年問題視されてた海の不純物の駆逐、そして極めつけは・・・天使の討伐⁉何者なんだお前は⁉」
前のめりでタクマに言い寄るゴルドン。
その強面で迫られると正直ビビる。
「ただの旅人だ・・・。」
「そ、そんな訳あるかーーーーーー‼」
ゴルドンの魂の叫びは町中に響き渡ったのだった。
翌日、タクマとリーシャ、リヴの三人はとあるダンジョン前の広場に来ていた。
ランクに関してはゴルドンの計らいにより二人とも一気にBランクまで駆け上がったのだった。
そしてダンジョン前の広場の周りにはかなりの実力がありそうな冒険者が数多く集まっている。
先日ゴルドンが言っていたBランクとAランクの冒険者である。
「今回はバハムートさん達はお留守番ですか?」
「いや、アイツ等は俺の切り札だ。いざとなったら俺の前に『空間異動』してもらうよう頼んどいてある。」
それまでは自力で進むよう考えていた。
リヴが同行してくれるためテイマーとしての本職も問題ない。
「それにしても強そうな冒険者ばかりですね。」
「Bランク以上限定の依頼だからな。報酬品より金銭目的がほとんどのはずだ。」
待機しているとギルドの職員が集合をかけ依頼の説明を始めた。
依頼内容は出現して数十年、今も拡大を続ける高難度ダンジョンの調査兼壊滅。
数年間の間にダンジョンから魔獣が溢れては近隣の村などで被害が多発していた。
ダンジョンに潜り無事に帰った冒険者は一人もいないとの事も。
ヌシを討伐し、ダンジョンの消滅を目的としたのがこの依頼だ。
「スケールが大きいですね。」
「数十年、それほど経ってもダンジョンは成長し続けてるのね。強い魔獣もいるみたいだし腕がなるわ!」
「なるべく人間形態で戦ってくれよ?竜化は最後の手段だ。」
「はーい!」
説明が終わり次々と冒険者がダンジョンへ入って行った。
「よし、俺達も行こう!」
一パーティずつ感覚を開けながらダンジョンに潜り、タクマ達は一番最後に入った。
「何で私たちが一番最後なのよ!」
少し不満をぶつけるリヴにタクマは説明した。
「最後に受注したのが俺らってこともあるが、これはこれで都合がいいんだ。」
「都合?」
「先に入った冒険者が探索してこの魔術で共有された地図に浮かび上がるんだ。ほら、今も道が新しく記されていく。」
タクマの持つ一枚の真新しい大きな地図に幾つもの道がじわじわと記されていた。
「傍から見ると気持ち悪いわね・・・。」
「だがこれでダンジョンの全貌が明らかになってくる。ダンジョンてのは日に日に形を変えるからな。こういう仕組みだから後に入ったパーティが若干有利になるんだ。まぁ先頭、後方でもそんなに大差はないんだけどな。」
しかし安全面から捉えるとこれ以上ない良条件だった。
「しかし流石に広いな。地図が全く埋まらない・・・。」
数十年存在し続けただけある。
数えきれないほど道が枝分かれしていたのだ。
「冒険者が通った道はあまりアイテムとかなさそうよね。報酬品が目当てとはいえもうちょっと刺激が欲しいなぁ?」
チラチラとタクマに目線を飛ばす。
「・・・。」
「じ~っ。」
「分かった、誰も通ってない道を選んで進むか・・・。」
「やった~!」
リヴは飛び上がって喜んだ。
結局タクマ達も探索をすることになり、まだ解明されていない道を進んでいた。
道中魔獣の襲撃を何度か受けるが難なく蹴散らし順調にダンジョンの階層を降りて行った。
「リーシャ!あの宝箱ミミックだわ!魔獣の臭いがプンプンするもの!」
「合わせてください!リヴさん!」
二人はダンジョンを堪能していた。
「・・・お前の主、たくましいな。」
「ク~・・・。」
それからしばらくダンジョンを順調に進んでいくと少し広けた部屋にたどり着いた。
「安全領域か。」
既にパーティが何組か休息を取っていた。
「俺達も休憩するか。」
「賛成~!」
休息の間際、リヴはダンジョンで手に入れたアイテムを整理している。
「・・・お前そんなにアイテムに執着があるのか?」
「そういう訳じゃないけど、私の習性みたいなものかな。海にいたころは気に入ったアイテムとか見つけてよくコレクションしていたから。」
なるほど。
リヴにはアイテム管理を任せれていいかもしれないとタクマは思った。
「ふぁ~っ・・・。」
リーシャが隣で大きなあくびをする。
「何リーシャ、眠いの?」
「おそらく魔力が減っているんだろう。ここに来るまでお前とガンガン魔法を連発していたからな。」
「アハハ・・・楽しくてつい・・・。」
今にもうっかり倒れそうになる彼女を見てタクマは体勢を変える。
「ほら。」
胡坐をかくタクマの上にリーシャをそっと寝かせた。
「・・・スピ~。」
「しばらく寝かせるか。」
(・・・いいなぁ、主様の胡坐枕。)
リヴは羨ましそうに指をくわえて見ていた。
その間、周りの男性冒険者が妬ましい視線をタクマに浴びせ続けたのは言うまでもない。
一方、ギルド『海竜の泉』の裏庭にて待機中のバハムートとウィンロス。
ゴルドンの計らいで特別な接待を受けていた。
「すみません。ギルドでは少々素朴な食事になってしまいますが・・・。」
「構わん。食事を貰えるだけでもありがたいものだ。」
「タクマの呼びがかかるまで世話になるで。」
二頭の粋な計らいでギルドスタッフは胸を撫で下ろした。
「にしても昨日のギルマスの反応はおもろかったで!」
「ギルドの名が『海竜』なだけに目の前で本物の海竜を見せられたのだからな。」
ランク申請の際に海竜の戦闘経歴に注目したゴルドン。
その海竜がリヴであることは知らされていなかったので少し驚かせようと目の前で竜形態のリヴを見せつけてやったら椅子から飛び上がるほど驚いたという。
「しっかしまだ呼ばれんのかな?オレもダンジョン行きたいで。」
「大人しく待つのみだ。」
二頭はうずうずしながらも大人しく呼び出しがかかるのを待ち続けた。
「レッツゴー!」
元気が有り余ってるリヴを先頭にダンジョンを降りていくタクマ達。
「・・・いつまで俯いてんだよ、リーシャ。」
隣で顔を赤くするリーシャにリヴがからかう。
「あーあ、私も主様に枕してもらいたかったなぁ。ねぇ?奥さん?」
「もう‼リヴさん⁉」
ある意味仲がいい二人だった。
「元気がよろしいことで・・・。」
「ク~ゥ♪」
タクマ達は順調に下層へと降りていくと遠くから戦闘のような音が聞こえることに気づいた。
「・・・この音、一番最初に潜ったパーティがボスにたどり着いたのか?」
時間差的に辻褄が合う。
「かなり遠いわね。同じ音が何度も聞こえるからかなり苦戦しているみたい。」
耳を澄まし状況を把握するリヴ。
するとあることに気づく。
「っ‼音がする部屋はこの真下よ!」
「真下か・・・、なぁ二人とも。」
「うん?」
「はい。」
「この依頼の報酬金は、先にボスを倒したパーティが受け取れるって決まりだったよな?」
「確かそのように職員さんが説明してたと思いますけど・・・。っ⁉」
「主様、もしかして・・・。」
リヴがニヤリと笑う。
「折角だ。報酬金も貰うぞ!」
タクマは剣を取り、地面に勢いよく突き刺した。
「リヴ!水魔法、借りるぞ!」
リヴの魔法をコピーすると突き刺した剣先から大きな青い魔法陣が現れる。
「居合・水圧の陣‼」
魔法陣が地面ごと爆発し、タクマ達は崩落に巻き込まれる。
「わあぁぁぁ⁉」
「流石主様!私の魔法も使いこなしてるわ!」
リヴはリーシャを抱きかかえ落下中。
「この調子で最下層まで行くぞ!」
タクマ達は水圧の陣を連発しながら各階層を突き抜けていった。




