『第三十九章 制裁』
館に侵入したタクマとリーシャの二人は道中ボディーガードらしき集団を蹴散らしながら気配を頼りに突き進み、奥の大きな部屋にたどり着く。
ドアを勢いよく開け中に入る。
「っ⁉」
「誰も居ない・・・。」
部屋は者抜けの空だったが明らかについさっきまでいた痕跡が残っている。
「『鑑定』プラス、『追跡』!」
バハムートのスキルをコピ―、同時発動させ痕跡を浮かび上がらせる。
「こっちだ!」
一方、ボルドーと金の入った大袋を担ぐ数人のスーツ男は予め用意していた隠し通路を走っていた。
「クソっ!この俺がこうして逃げる羽目になるなんて!」
「この一件に会長が関与していると知られてはいけません!ここはリーダーに責任を背負ってもらいましょう!」
「あぁ、とっくにそのつもりだ!」
平気で部下に罪を擦り付け、自分らだけ逃げる。
それが彼らの考えだった。
「とにかくこの通路を抜ければあそこに出られる!」
一行は走り続け、階段を登っていき外に出た。
出た場所は街で有名な観光スポット。
闘技場遺跡の会場に出たのだ。
「ハァ・・・ハァ・・・、ここなら誰にも気づかれまい。」
息を切らし、全員呼吸を整えていると、
「人の店を燃やしといて逃がすと思うか?」
一行は驚き、全員上を見上げると外壁の上に先回りしていたタクマとリーシャが月をバックに立っていた。
「あ、アイツ等です、会長!館に殴り込んできたのは!」
「何だと⁉」
二人はボルドー達の前に降り立つ。
「何だ、ガキじゃないか。驚かせやがって!ホントにこんなガキどもが殴り込んできたのか?」
「わ、我々も直接見たわけではなく報告のみですが、子供だと聞きました・・・。」
「まったく、こんなガキどもに俺はビクビクしてたのか。」
ボルドーは二人の容姿に完全に油断している。
「しかしよく見るとこの女、なかなか容姿が整っているじゃないか。おいお前ら、あの女のガキを捕らえろ。アイツを奴隷商に売れば結構な額にならないか?」
ボルドーは小声でスーツ男たちに言った。
「し、しかし今はこの場から離れなくては・・・。」
「問題ない。相手は子供だ。大人を舐めてかかるとどんな目に遭うか思い知らせてやれ!」
スーツ男は渋々であったがボルドーの命令なのでタクマ達を囲むように動いた。
じりじりと近づき、そして、
「今だ!掛かれ‼」
ボルド―の合図で一斉に襲い掛かった。
「はぁ・・・、どこまでも救えない人ですね。」
そう言いリーシャが屈むと同時にタクマが飛び上がり、円を描くように剣を振るった。
その強力な風圧で襲い掛かったスーツ男全員は吹き飛ばされた。
「な、何をしている!早く立て‼」
しかしボルドーが呼び掛けても男たちは無反応だった。
よく見ると全員白目をむいて気絶している。
「あ、あの風圧程度で、だと⁉」
「なら食らってみるか?」
威嚇も込めて剣の風圧を食らわせる。
「ぐ、ぐぉぉぉぉ⁉」
以外にも耐えきる。
蓄えた脂肪で威力が緩和されているみたいだ。
だがそれでも立つことは出来ず、ボルドーは尻もちをつく。
その彼を見下ろすリーシャ。
「な、何故こんなことをする!一介の冒険者どもが!」
「何故?貴方は自分がした行いがどれほど人の道から踏み外れているのか理解できないのですか?信用が要の商人なら尚更の事。」
ボルドーを見下ろすその目は冷酷な緑色に光っていた。
「貴方がこれまでルインさんにしてきた悪行、調べさせてもらいました。貴方は過去、ルインさんと肩を並べたライバル同士だと解りました。そしてお二人は一人の女性に思いを寄せていたことも。」
リーシャは館に潜入した際に発見した資料や日誌の内容を話した。
「互いに競い合い、そして女性と結ばれたのは、ルインさんでした。」
「つまり、レミちゃんのお母さんだな。」
「しかし、貴方はその事実を認められずルインさんに長い事嫌がらせをしていました。次第に嫌がらせは過度が増していき、ついには意図的にルインさんに借金を負わせるよう仕向けた。ただの逆恨みで人の人生を狂わせようとした貴方は、決して許されません!」
だがボルドーは不気味に笑いをこぼす。
「ククク、いくら言われようが無意味だ!店の発火は俺の指示じゃねぇ!それに俺が奴にした嫌がらせの証拠は既に処分済みだ!幾らお前が証言しようと真相は闇の中だ!」
それでもリーシャは顔色変えずボルドーを見下し続ける。
「今、俺の部下がルインの大事な物を奪いに行っている。館にいるお前らの仲間も今頃俺の部下にコテンパンにされているだろう、ざまぁみやがれ‼」
黙って聞いていた二人はハァッとため息をついた。
「大方お前らが奪いに行っているルインさんの大事な物ってのはレミちゃんの事だろう?」
「あぁそうさ!あのガキはいろいろと利用価値があるからな。アイツからすべて奪わねえと気が済まねぇからな!」
「・・・レミちゃんは俺の相棒たちに預けている。お前は完全に虎の尾を踏んだな。」
「はぁ?何を言って・・・。」
ボルドーが首をかしげていると近くの山から強烈な光線が闘技場の上空を切り、光から数人のスーツ男や冒険者たちが黒焦げで落ちてきたのだ。
「な、何が起こった⁉」
「相棒の一撃だ。」
一方、山の方では突然黒スーツの男達と雇われた冒険者がレミを連れ去りにやってきたがそこには災害級の魔獣二頭が居り、全員無様に返り討ちにされたのだった。
「ドラゴンさん強ーい!」
ウィンロスの翼にくるまれたレミがキャッキャとはしゃぐ。
「全部あの闘技場に落っことしたで。流石や旦那!」
「フッ、この程度朝飯・・・いや、晩飯前だな。」
どや顔で誇るバハムートだった。
「な、何なんだ今の魔力量は⁉あんな魔法を打てる人間がこの世に居るのか⁉」
何が起こったのか理解できず混乱するボルド―。
「俺の相棒は人間じゃない。ドラゴンだ!」
「ド、ドラゴン⁉災害級の魔獣であるあのドラゴンだと⁉嘘をつくな!そんな魔獣がこの街にいるはずがないだろう‼」
「じゃぁその目でしっかり見せてやるよ。リヴ‼」
「はーい♪」
タクマが呼ぶと闘技場の壁の上からリヴが姿を現した。
壁から降りてくると彼女の相手をしていたはずのオールバック男がボコボコの状態で引きずられていた。
「ごめんね、こいつ弱すぎて退屈だったから館に隠されてた物根こそぎ持ってきたら遅れちゃった。」
そうは言うが見たところリヴはそんな大荷物を持っているようには見えないが・・・。
「あ、不思議そうに思っているね。じゃぁこれ見て?」
するとリヴの横にリーシャと同じ異空庫の穴が開いたのだ。
「え⁉それリーシャの⁉」
「フフフ、驚いた?実は店番の休憩時間に私からもリーシャの異空庫を開けるように本人から教えてもらったの!」
つまり、リーシャの異空庫をリヴからも出し入れできるよう教えてもらったとのこと。
そのおかげでリヴが見つけた物は全部リーシャの異空庫に収納できたそうだ。
「根こそぎってことはもしかして・・・!」
タクマは異空庫に顔を突っ込み、ゴソゴソと何かを探す。
「あった!」
取り出したのはボルドーが処分したと言っていた書類の束だった。
「な、何故それを⁉完全に処分したはず!」
「あれで処分したつもりなの?アンタ馬鹿?ただゴミ箱に捨ててただけじゃない。」
それはあまりにも馬鹿だ。
てっきり燃やしたりなどで処分したと思ってたが、ここまでおおまぬけだったとは。
何故トップに座っているのか理解に苦しむ。
「あとこれも返すわ。」
ポイッとボルドーの前にボコボコにされたオールバック男を投げつけた。
「こ、この役立たずが・・・!」
恨むように男を睨みつけるボルドーだが男はまるで地獄でも見てきたかのような絶望的な表情で震えている。
ボルド―がいるにも気づかない程に。
リヴはちゃんとタクマの命令道理にやってくれたようだ。
「ところで主様。さっき小耳にはさんだんだけど、この人間リーシャを奴隷商に売りつけるとか抜かしてなかった?」
ボルドーはビクッと震える。
あの小声をリヴは聞き逃していなかったのだ。
地獄耳だ。
「私の大切なお友達に手を出そうものなら、覚悟はできているんでしょうね?」
怒ったリヴは人化スキルを解除し、巨大な竜の姿となってボルドーを睨んだ。
「ヒ、ヒィィィィ‼」
突然目の前に現れたドラゴンにボルドーは思わずその場から逃げようとする。
だがそれをリーシャは逃さず土魔法で足元を封じ身動きを止める。
そしてボルドーの上に立ち杖を構える。
「ルインさんとレミちゃんにしてきた苦しみ、貴方にも味合わせてやりますよ!」
「や、やめろっ‼」
「ふんっ‼」
杖を突きさすように思いっきり振り下ろし、土煙が蔓延する。
煙が晴れると杖はボルドーの顔すれすれの位置で突き刺さっており、ボルドー本人はぐしゃぐしゃの顔で気絶していた。
そしてリーシャは杖を引き抜く。
「商人なら、商品で勝負してください・・・‼」
それから数日後、タクマがポケットに音を録音する魔石を忍ばせていたためボルドーが発した悪行の証拠をバッチリ掴んでいた。
それが証拠となり自警団が動き、ボルドー商会は差し押さえられたのだった。
おかげでルインの不当の借金もなくなった。
途中夜中に凄まじい光の光線を見たと噂があったがそのことについては干渉しないようにした。
確実にバハムートのブレスだからだ。
そして現在、タクマ達はルインの店に来ていた。
ちなみに焼け落ちた店はタクマとバハムートがスキル『クリエイト』で速攻で直した。
「君たちには感謝してもしきれないよ。本当にありがとう!」
ルインはリーシャの手を握り深く感謝する。
「いえ、私たちはそんな・・・。」
「感謝は受け取っておけ。今回の功績は全てお主なのだからな。」
「それにしてもルインさん、大分出世したんじゃない?」
そう、ボルドー商会が消えた今、交易に大きな支障が出てしまったがその点は問題なかった。
以前ルインが会長をしていた商会がルインを再び会長として一緒に働いてほしいと連絡が来たのだ。
ルインも今のままでは出張している奥さんや娘のレミにまた迷惑をかけてしまうと考え、その話を承諾したのだった。
今は籍だけだがいずれ元の会長として働くことが出来るだろう。
「会長と言われているが今の俺は『トコ庭』の店長であり、レミの父親だ。この子のために頑張るよ!」
「その意気です!ルインさん!」
「そうだ!君は旅のために俺の店に寄ってくれたんだったな。お礼としては足りないが、これを貰ってくれないか?」
手に出されたのは綺麗に畳まれた紫の布だった。
「これは?」
「昔、とある冒険者から買取した貴重な物だ。君にならこれを使いこなせると思ってね。」
渡された布を開くと出てきたのは翡翠色に輝く魔石のかけらだった。
「えっ⁉これって⁉」
「従魔結石だ‼」
全員が驚いた。
かけているとはいえ、従魔の力を引き出すことが出来るテイマーにとって要の道具。
あまりに希少な存在のため身に着けられる者は数少ない。
思いも寄らないお礼に驚きを隠せなかった。
「あ、主様・・・。」
「・・・・・。」
「こ、こんな希少な物頂いてもよろしいんですか?」
「もちろんだとも。君もテイマーなんだろう?結石もテイマーに持ってもらった方が本望だろ。是非受け取ってくれ。」
ニッコリとほほ笑むルイン。
リーシャはぎゅっと結石を握りしめ、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
ルインの背後からレミも顔を出しリーシャの元に来た。
「お姉ちゃん!パパを助けてくれてありがとう!」
満面の笑みでお礼を言う。
リーシャはたまらずレミをぎゅ~っと抱きしめた。
ルイン達に見送られながらタクマ達はギルドに向かった。
「まさか従魔結石がもらえるとは思わんかったで・・・。」
「いずれとんでもない商事になるのではないか?あの店主・・・。」
驚き疲れた二頭の側でタクマは何か考え事をしていた。
「タクマさん?どうかしたんですか?」
「あぁいや、その、何だ?」
「主様、貰ったのはかけらよ?どのみち探しに行かなきゃいけないわ。」
「ク~!」
「ほら、ラルも行こうって言ってるわ。」
二人と一匹の会話にまったくついていけない三人。
タクマは観念して皆に話した。
「出来れば秘密にしておきたかったが、しょうがない。実はな・・・、ギルドで従魔結石が報酬の依頼を見つけたんだ。」




