『第四章 スキル』
「では両者!構え‼」
審判の号令でタクマとオルトは武器を構える。
すると観客席にいるオルビス学園の生徒達はタクマの持つ武器を見てざわつきだした。
「おい、タクマの持ってるあれって・・・」
タクマの手には『剣』が握られていた。
「え、タクマが剣を⁉」
「てっきり魔術で戦うと思ってた。」
生徒たちが口々に言う。
今までのタクマは魔術一筋で勉強していたのを知っていた生徒たちは驚きを隠せないでいた。
「なんだ?僕の真似事か?はん!これだから庶民は。」
鼻で笑うオルトにムッといら立ちを覚えたが今は試合に集中する。
「ふうぅ、やるぞバハムート。」
「うむ。」
「それでは、始め‼」
審判が合図で腕を大きく振り下ろす。
その瞬間、タクマの目の前に何かが迫ってきた。
「うお⁉」
咄嗟に後ろに飛び寸前でかわした。
目線を戻すとさっきまでタクマが立っていた位置にオルトが立っている。
(合図と同時に切りかかってくるとか、やっぱり気が抜けねぇ奴。)
「ちっ、今のを避けるか。ならこれでどうだ!」
オルトが手をかざすと赤い魔法陣が現れた。
「くらえ!ファイヤーボール‼」
オルトの手から凄い勢いで火の球がタクマめがけて放たれる。
タクマは剣でガードしようとした途端、目の前で火の球が踏みつぶされた。
「バハムート!」
「オルトとか言ったか?これは貴様らだけの戦いではない。我もいることを忘れるな?」
バハムートは鋭い眼光でオルトを睨みつける。
だがオルトは怯むどころか自信満々に、
「もちろん忘れてないさ。やれ!ケルベロス‼」
「ウオォォォン‼」
すさまじい遠吠えと同時にケルベロスがバハムートめがけて迫ってくる。
「あの犬は我が相手する。お主はあの小僧に目にものみせてやれ!」
そういうとバハムートもケルベロスめがけ突っ込んだ。
そして互いに頭部がぶつかり合う。
その衝撃は凄まじく会場全体が揺れた。
その時ケルベロスの左の頭から高い魔力反応を感じた。
「むっ⁉」
バハムートはいち早く察知し後ろに下がった。すると魔力反応はみるみる薄くなっていく。
「フッ、犬っころがブレスを使おうとするとは。あの小僧に覚えさせられたか?面白い‼」
バハムートは翼をひろげ再び戦闘体制に入った。
「バハムートだって戦ってるんだ。俺も負けてられないな。」
タクマも剣を構え直し体制を整える。
しかし剣と魔法の両立で攻めてくるオルトに対しては真っ向から立ち向かっても勝機は薄いであろう。
そこでタクマがとった行動は、
(少しかまをかけてみるか・・・。)
「おい、オルト!」
「ん?」
「お前は散々俺を庶民だとか見下したり何かと突っかかってきたよな。けどな、今の俺が前の俺と思ったら大間違いだぞ?」
タクマは軽い挑発を試みた。オルトは眉を引きつらせる。
「何が言いたいんだ?」
「俺の方が強いってことだよ。」
そう、オルトは貴族であるが故プライドが人一倍高い。
自分より下の奴が上に立つことは彼のプライドが許さないはず。
一時の賭けだが果たして反応は?
「ハハハ・・・、ハハハ!はぁぁぁぁ⁉庶民で出来損ないのお前ごときが‼この僕より強いだと⁉ふざけるな‼上に立っていいのは僕だけだぁぁぁぁ‼」
乱心状態になったオルトが勢いよくタクマに切りかかってくる。
だがタクマは先ほどよりも危なげなくオルトの斬撃をかわしていた。
(やっぱり、興奮状態になれば剣技が多少乱れる!これなら避けやすい。)
離れたところでバハムートが始終を見ていた。
「ほう、なかなかに考えるな。これは我も負けてられん‼」
バハムートは前足を大きく上げ下ろし、ケルベロスの左右の頭を地面にたたきつけた。
「グルル、ウォォォォォォォン‼」
「うお⁉」
突然真ん中の頭が耳がつんざくほどの雄たけびをあげた。
バハムートは思わず押さえていた両端の頭を離してしまう。
「やりおる・・・!」
軽く感心しているとケルベロスの三つの頭の口から高い魔力を感じた。
「む⁉三つ同時にブレスを打つ気か⁉」
バハムートが身構えた瞬間ケルベロスの口から右からは氷属性、左からは雷属性、真ん中からは炎属性のブレスが放たれる。
そして三つのブレスはバハムートに直撃した。突然の大技にタクマはバハムートの方へ振り向く。
「ハハハ‼この決闘のためにケルベロスに覚えさせた三属性ブレスだ!いくらドラゴンといえど複数の属性を同時に防ぐことはできまい‼」
容赦なく剣を振りかざしてくるオルト。
どうやら先ほどのケルベロスの雄たけびで多少我に返ったようだ。剣筋も徐々に元に戻ってきている。
(このままじゃジリ貧だ。そろそろ攻めないと!)
回避に専念していたタクマ。
バハムートのことも気がかりだが自身の身も危なくなってきた。
反撃に出ようとするがオルトの容赦ない連撃がそれを拒む。
「ほらほらどうした‼避けてばっかいないで反撃したらどうだ⁉」
と剣と同時にオルトは魔法も打ち込み始めた。
突然の魔法攻撃にタクマはたまらず腰を落としてしまう。
「ま、させねぇけどな・・・!」
とニヤニヤしながらタクマを見下すオルト。
「・・・・・。」
「なぁ、オルトの奴ちょっとひどくないか?」
「タクマは魔法が使えないのに自分ばかりどかどか使うなんて。」
「勝負ってのは公平に行うものだよな?」
その光景を観客席で見ていたオルビス学園の生徒たちはオルトの戦い方に不快感を覚え始めていた。
ざわざわとする観客席からの言葉はタクマの耳にも届いていた。
(公平、か・・・。)
タクマはゆっくりと立ち上がる。
「お前もしつこいな。いい加減降参したらどうだ?僕とお前の実力の差は一目瞭然だ。どんなに足掻いてもこの僕には勝てねぇよ!」
「いや、勝ってやるさ。」
「あ?」
「コイツを使ってな!」
そう言いタクマは剣を前に構えた。
決闘の数日前、ルナの牧場でタクマとバハムートは訓練に勤しんでいた。
ちなみにルナはテントの横で二人の訓練を眺めている。
「おらぁぁぁ‼」
「ムン‼」
木刀を力いっぱい振り下ろすもバハムートの固い鱗にはじき返されてしまった。
「ももも、もう少し手加減してくれませんかね?」
衝撃で木刀を持ったタクマの腕が震えている。
バハムートは呆れながら、
「この程度で情けない・・・。」
「んだと⁉」
プンスコ怒るタクマをよそにバハムートは何かを考え込む。
「タクマ、お主魔法は使いたいか?」
「使いたい‼・・・ん?え、どゆこと?」
勢いのあまりつい即答したがタクマはわけがわからずにいた。
「お主には魔法の才は無いといったがその分の空きがあるはずだ。」
と言われたがタクマはわけがわからず首をかしげている。
そこに様子を見ていたルナが口をはさんだ。
「個人差もあるけど人には魔力の容量があるのよ。この前講義でやってたじゃない。」
「あ、その時俺特訓の疲れで寝てたかも。」
ルナはため息をつく。
この世界には多種多様なスキルが存在し人間はもちろんすべての生き物にスキルを覚えられる容量が存在する。
体術、魔術もスキルの一種であり基本的にこの二つを覚える者が大半である。
「つまり?俺は剣術のスキル分は埋まっているけど魔術の分の容量は空いている状態ってことか?」
「まぁ、そういうことだ。」
「よく理解できました。パチパチパチ。」
「手叩くな。なんかムカつく・・・。」
バハムートは説明を続ける。
「つまりだ、お主は自発的に魔術は使えんが外からもらった魔術なら使えるということだ。」
タクマも話を聞いていたルナも目を丸くして驚いていた。
「え、バハムートさん!それってどういう・・・⁉」
ルナが若干パニックになりながら質問するとバハムートは、
「我の魔術をタクマに貸し与えるということだ。」
そして現在、タクマの姿を見たオルトがわなわなと震えだした。
「な、な、なんだよそれは⁉」
タクマの身体の一部と剣は荒々しくも美しい赤い炎が纏い、頭部には炎で模られた角、背中に燃える翼、その姿はまるでドラゴンそのものだった。
観客席の人達は驚いている。
学園の生徒たちも、
「嘘だろ⁉タクマが魔法を⁉」
「あの姿、まるでドラゴンみたい⁉」
「どうなっているんだ⁉」
観客席に移動していたエリック先生も驚きを隠せないでいた。
「まさか彼が魔術を使うとは、一体どんな特訓をしたんだ・・・?」
隣にルナもいた。
「おぉ、思った以上の仕上がりだなぁ。いけータクマ‼」
今までと違うタクマにオルトは動揺する。
「ありえねぇ・・・、魔術が使えない出来損ないがこんな・・・!おい審判‼こいつは魔術が使えない奴だぞ!なのにこんなことはおかしい!何か道具を使ったに違いない、反則だろ⁉」
と審判に判決を求めるオルト。
審判はタクマに確認を取ったあと腕を水平に広げた。問題なしの合図だ。
「道具を使ってないだと⁉」
「フン、当たり前だ。今の主には我の力が備わっているからな。」
驚いたオルトは声の方へ振り向くと土煙の中からバハムートが現れる。
「馬鹿な!ケルベロスの三属性ブレスをくらって無傷だと⁉」
「我は芸達者でな。三つの属性バリアを同時に張るなど造作もない。」
とどや顔で自慢するバハムート。
「で、さっきも言った通りタクマには我の力が行使できるようになっている。今や人間がドラゴンの力を持っているといっても過言ではない。」
「まぁそういうこった。これで条件はフェアだ。全力で行かせてもらうぜ!」
タクマは勢いよくオルトめがけて突っ込んでゆく。
オルトも素早く反応するがタクマの動きが急激に変っておりどんどん後ろに押されていった。
「クソ!この僕がお前ごときに‼」
オルトは剣を振り上げタクマの剣撃を止めそのすきに距離を取った。
「調子に乗るなよ庶民風情がぁぁぁ‼」
怒り狂ったオルト剣を突き立て迫ってくる。
「死ねぇぇぇぇぇぇ‼」
「一つ教えてやるよオルト。」
タクマは腰を低くし居合の構えをとる。
すると剣に纏った炎が徐々に膨れ上がっていく。
「庶民はな、庶民なりに努力して上に上がっていくんだ!」
炎が膨れ上がった剣をオルトが間合いに入った瞬間に引き抜く。
『居合・竜炎斬‼』
巨大な炎刃となって切りつけた。
「ぐああぁぁぁぁ‼」
切りつけられたオルトはバタリとその場に倒れる。
「貴族だろうが何だろうが家系に頼って何もしてこなかった。それがお前の敗因だ。」
とタクマは剣を収め、纏った炎が消えていく。
こうしてタクマとオルトの決着はついたのだった。
だがこの時会場の陰でいくつもの人影が近づいてきているのをタクマはまだ知らない。