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『第三十八章 ブラックの賜物』

漁港には他の大陸からたくさんの冒険者や行商人がやってくる。

港にはいろんな出店が立ち並んでおり、宣伝がてら商売をする店舗もたくさんあった。

その中で図一売上率が高いのはこの街一の商会、ボルドー商会の商品だった。

「さぁさぁ、こちら上級ポーションの特売だ。今なら定価の半額にて販売しております!他にも武器や防具、その他アイテムも大量に仕入れております!どうぞお買い求めください!」

きっちりしたスーツ姿の男たちが大声で客寄せする。

店員の見た目はあれだが商品に関しては信用度がそれなりに高いので買い求めるお客も多かった。

そしてその漁港の端くれにぽつんと建つ一つの出店があった。

「出店なんて何年ぶりだろうな。」

「以前にも出店を開いていたのですか?」

リーシャがルインに問う。

「俺の店も昔はそこそこ名が売れていた商会だったんだ。ある時を境に商会は若いもんに引き継がせて俺は引退したんだ。でも商売魂がどうしても押さえられなくて今の小さな店で商売していたんだ。」

話を側で聞いていたリヴが口を挟む。

「ふ~ん、大方お相手が出来て幸せになるために引退したってとこかしら?」

からかい混じりにルインに言うと本人は恥ずかしそうに頭をかいて笑っていた。

「ビンゴみたいだぜ?」

「・・・マジ?」

リヴ本人もまさか当たるとは思ってもみず一番驚いていた。


 そして時間が経つにつれて港には多くの人で賑わっていた。

他国からの来場者も多く他の店舗も商品を売りさばくのに大忙しだ。

「それにしてもやっぱあのボルドー商会って奴の売れ行きが凄まじいな。」

ボルドー商会の店舗の前には長蛇の列が並んでいる。

タクマ達も接待をするが他の店舗と比べて客足が少ない。

当然と言えば当然か。

「売り込みってのはこんなに難しいのか・・・。」

「でしたら私たちに任せてください!」

そう意気込む声の方を向くとそこには可愛らしいメイド服を身に着けたリーシャとリヴが立っていた。

「ジャーン!売り子にはメイド服です!」

「・・・どこから持ってきたそのメイド服。」

「異空庫から取り出しました!」

グッと親指を立てるリーシャ。

一体どれだけの物が異空庫にしまってあるのだろう。

「ふむふむ。意外と着心地は悪くないわね。」

リヴもまんざらでもなさそうだった。

「けど何でメイド服なんだい?」

ルインが質問する。

「ふっふっふ、作戦その一!可愛い売り子で客引きです!」

自分で言うか、と内心ツッコむタクマだが実際二人は傍から見てもかなり可愛いので問題はなかった。

リヴの正体さえ知らなければ・・・。

「そういえば、レミは今どんな状況なんだい?」

全員で港に来ているのでレミの面倒は現在バハムート達に頼んでいた。

「俺の従魔に預けている。あの二頭ならしっかり面倒見てくれているさ。」


 一方、山にいるバハムートサイドではレミがウィンロスの翼で滑り台をしており、バハムートは側で見守っていた。


 場所は戻り、リーシャとリヴの可憐さに引き寄せられてかルインの店に沢山のお客が寄ってきた。

七割ほどが男性だが。

「はい、ポーション三つですね!ありがとうございます!」

見事な営業スマイル。

お客もリーシャの笑顔を見てほっこりしていた。

「・・・・・。」

その様子を見ているタクマにリヴがちょっかいをかける。

「大事な人が他の男どもに取られないか見張ってるの?」

「ば、そんなんじゃねぇよ!」

耳を赤くし反論した。

主の反応を面白がっているのかリヴは煽るように笑う。

「ハハハ、若いねぇ。」

ルインも見守りながら接待を続けた。

そしてある程度男冒険者の人数が落ち着いてきた頃にリーシャが叫んだ。

「よし、では続いて作戦その二!開始です!」

「あれか。」

「あれね。」

「フフフ、ここから一気に畳みかけますよ!」

彼女はニヤリと笑った。


 「・・・おい、何かおかしくないか?」

ボルドー商会出店のスーツ男の一人が急に減った客足に違和感を覚えた。

「冒険者だけじゃなく商人まで向こう側に流れていくぞ?」

「あっちは確か会長が目の敵にしているルインの出店だったよな?何であっちの店に客が寄り付くんだ?」

「俺、ちょっと見てくる。」

スーツ男の一人は大勢の人だかりの後ろから背伸びして様子を伺う。

そこには白毛玉な小さな竜に群がる子供と女性冒険者、そして可愛い二人の売り子に商品をプレゼンしてもらっている男性客でルインの出店は繁盛していた。

(あ、新しい店員でも雇ったのか⁉しかしこの繁盛具合・・・明らかに異常だろ⁉)

扱う商品に何かあるかとスーツ男は裏にある倉庫に忍び込む。

そこには幾つもの木箱が大量に積まれているだけだった。

「・・・いつもと変わらない商品⁉なのにあんだけ繁盛していたというのか⁉」

スーツ男がそう驚いていると、

「他社の事業を覗き見るとはいい度胸だな・・・。」

突然タクマに背後を取られ剣を突き付けられた。

「っ⁉誰だ⁉」

「こっちのセリフだ。何故他社の事業を覗き見る必要がある?まさかとは思うが、お前らの商会が大きくなったのは・・・。」

そうタクマが言い終える前にスーツ男は懐から球を取り出し地面に投げつけた。

すると玉から煙が蔓延し視界を奪う。

「チッ‼」

煙を振り払うとスーツ男はどこかに消えていた。

「・・・リーシャの考えが的中してきたな。」


 それから日没までルインの店は繁盛し続け、港でも過去最大の利益をたたき出した。

倉庫に侵入してきたスーツ男の連中はあれから一切干渉はして来ず、いつの間にか出店も消えていた。

終始警戒をしていたタクマだが店を畳む作業中ずっと気が気でなかった。

(あいつら・・・、ボルドー商会には何かありそうだな。後でリーシャに伝えておこう。)

後片付けも済、過去最大の売り上げを出したルインはホクホクだった。

「いやぁ、こんなに売れたのは開店以来だよ。本当にありがとう!」

リーシャの手を取り感謝を述べた。

「これで冒険者や商人が商品の良さを各地に広げてくれれば大成功です!」

リーシャも商事がうまくいって満足げだ。

「ラルもありがとね。」

「クゥ~♪」

ラルは子供と女性客を中心に客引きをしていた。

おかげで広い範囲で売れ込みも行えたので今回の大看板だ。

「そろそろバハムートさん達も戻っている頃でしょうし、レミちゃんのお迎えお願いしますね。」

「あぁ、本当にありがとう!後日お礼をしたいからまた店に立ち寄ってくれ。」

そう言い残しルインは荷車を引いて帰って行った。

「さてと、向こうの動きはどうでしたか?タクマさん。」

「・・・もうお前が怖いよ。」

リーシャはボルド―商会が偵察をしに来ることを予測していた。

もはや恐怖レベルだ。

タクマは昼間の事を報告する。

「逃げるときの手腕もかなり手練れていた。潜入したのは今回が初めてじゃなさそうなくらいにな。」

リーシャはしばらく腕を組んで考え込む。

「・・・これで確信を得ました。後は証拠さえ掴めれば・・・。」

その時だった。

少し離れた場所から爆発音が聞こえたのだ。

「な、何だ⁉」

「ねぇちょっと、あの位置ってもしかして・・・‼」

「ルインさんのお店がある場所です‼」

タクマ達は急いで走り出した。


 爆発したルインの店があった場所には野次馬が大勢いた。

「ルインさん‼」

「リーシャちゃん⁉」

野次馬の後ろにルインが立っていた。

「良かった!無事だったんですね!」

「あぁ、店に入ろうとした瞬間に突然こんなことに・・・。」

ルインも何が起きたのか理解できないでいた。

幸い怪我人はいなかったがルインの店にあった上質な商品が灰となってしまった。

「こんなことする奴らなんて・・・!」

「あぁ、間違いないな。」

タクマとリヴの表情は怒りに満ちていた。

それはリーシャも同じ。

「ボルドー商会・・・‼」


 時は少しさかのぼり、倉庫に潜入したスーツ男は港から離れ辺境館にいるボルドーに事の顛末を報告した。

「何だと?ルインの店が我らより売り上げを出しただと⁉」

「はい・・・あの調子で商売が進めば借金を返済しきれる額まで到達すると見舞われます。」

ボルド―は悔しそうに歯を食いしばった。

「何だってこんな時にアイツの店が繁盛するんだ⁉このままでは計画が!」

「でしたらボルドー会長。私どもにお任せを。」

オールバックの釣り目スーツ男が部屋に入ってきた。

「私どもが裏で彼らに損失を出してまいります。」

「あぁ、もう手段は問わん!奴らに絶対借金を返済させるな!俺の復讐を完成させるためにな!」

オールバックの男はニヤリを笑ったのだった。


 「タクマさん!リヴさん!お願いします!」

「あぁ‼」

「任せて!」

リヴが青色の魔法陣を両手に展開、次にタクマが水色の魔法陣を展開させる。

「ストリーム・ブラスト‼」

リヴの魔法陣から大量の水が噴射され店の炎を消していく。

「フリージング・ゲイザー‼」

続いてタクマの水色の魔法陣から強い吹雪が放たれ店を凍り付かせていく。

二人の完璧な連携で店の火事は迅速に鎮火したのだった。

「す、素晴らしい!見事な連携だ・・・!」

火事の通報を受け駆けつけた自警団の隊員は唖然としていた。

「ふう、とりあえず火の気は押さえた。燃え尽きてなければ商品も幾つかは無事だろう。」

パンパンと手を掃うタクマ。

そして鎮火した店の前に佇むリーシャ。

「・・・タクマさん、リヴさん。もう少しだけ力を貸していただけませんか?」

後ろ姿からでも分かる。

彼女はこれまで以上に怒っていることを。

「当たり前だ。ここまでされちゃぁこっちも黙ってねぇよ。」

「私も異論はないわ・・・。」

「ありがとうございます。」

リーシャは異空庫から杖を取り出しクルクルと振り回した。

「あちらがその手で来るなら、こちらも同じことをするだけです!」

彼女を先頭に後の二人もついていく。

「リーシャちゃん・・・。」

ルインと街の人たちはただ彼女らを見送ることしかできなかった。


 悪手に走ったボルドー商会。

その館ではボルドーの悪い笑い声が響いていた。

「ハハハハハッ‼ルインめ、いい気味だ!調子に乗って俺の商会より売り上げを出しやがって!トップは俺だけでいいんだ!」

「その通りでございます。会長。」

ルインの店に火をつけた張本人、オールバックの男がクククと笑う。

「これで奴の商率は格段に下がり借金を返済するしかなくなるかと思われます。」

「よくやった。そういえば、奴の娘の様子はどうだ?」

「既に手は打っております。今頃部下が冒険者を雇い連れてくるよう動いている頃でしょう。」

その報告を聞き、ボルドーはワインの入ったグラスを手に取り高らかに笑った。

「ハハハッ!これで奴が持つ全てが俺の者だ!ついに、ついに奴への復讐が完成するぞ!フハハハハハ‼」

勝ちを確信したのか慢心するボルドー。

ワインを口に運ぼうとしたその瞬間、館の外から重い音と地響きが襲い掛かった。

「な、何事だ⁉」

持っていたグラスを落とし椅子にしがみつく。

すると一人のスーツ男が慌てた様子で入ってきた。

「た、大変です!正門から三人の冒険者が殴り込んできました‼」

「冒険者⁉何故冒険者なんかがやってくるんだ⁉」

「私が見てきます。」

オールバックの男が表に出るとそこには数十人のスーツ男が倒れており、正門の前には杖を持ったリーシャとタクマ、リヴが立っていた。

「クンクン、あの人間から店と同じ火薬の臭いがするわ。」

「アイツが火をつけた犯人てことか。」

自分が火をつけたことが速攻でバレたオールバックの男。

「それは心外ですね。突拍子に私を犯人だと決めつけて。そういう言葉は証拠などを持ってから発言していただきたい。」

軽く警戒はしながらも余裕の表情を見せる男。

だがタクマ達からすればあまりにも白々しかった。

「とぼけても無駄よ。私の嗅覚は犬の何十倍も強力だからそんなウソすぐに見抜けるわ。」

ズバッと言うリヴにオールバック男は睨み返す。

「人の個人情報を盗み知るなど、悪趣味ですよ?お嬢さん。」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ。」

怒りに満ちた笑顔で笑うリヴ。

「主様、リーシャ。この人間は私が相手する。」

「リヴ?」

「私をなめて見てるから痛い目に遭わせてやるわ!」

リヴはあの男が心底気に入らないのか本気で息の根を止めそうな雰囲気だった。

だが止める必要はない。

タクマ自身も初対面ながらオールバック男は直感的に気に食わなかったからだ。

「分かりました。ここはお願いします!」

リーシャとタクマはジャンプし、屋敷のテラスに上って行った。

去り際にタクマがリヴに念話を送る。

「殺すなよ。そいつに死はぬるすぎる。死ぬよりも恐ろしい目に遭わせてやれ。」

その指示にリヴはよほど共感したのか、目が獲物を睨む大蛇のようにギラついた。


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