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『第三十七章 成り行き』

この街の冒険者ギルド、看板には『海竜の泉』と書かれていた。

「海竜・・・。」

「・・・何よ?」

全員リヴの方を向いた。

このギルドはバハムート達にとって小さいので二頭には外で待っててもらい残りのメンバ―はギルドに入った。

「そういえばタクマさん、欲しい物があるって言ってましたね。何が欲しいんですか?」

「あ~・・・、内緒。」

「え?」

「すまないがリーシャはバハムート達と待っててくれないか?あ、あとラルはこっちにいてくれ。ラルに関係することがあるんだ。」

何故か教えてくれないタクマだがリーシャは深く追求せず、言う事を聞いた。

(私には内緒なのに何でラルには明かすんだろう?)

そう思いながらリーシャはバハムート達の元で異空庫の整理をしていた。

「あっ⁉」

「ん?どしたん、嬢ちゃん?」

「ポーションの在庫が少ないです・・・。」

「確か、最後に補充したのはお主と出会った時期くらいか?」

「回復魔法が使えるとはいえ、いつ魔法が封じられる状況になるか分からんもんな。」

「この街にもショップはあると思うのでちょっと買ってきます。」

リーシャは小走りでその場を離れて言った。

「一人で大丈夫か?」

「心配いらん。」

そう言うバハムートの左目には小さな魔法陣が展開されていた。

「・・・過保護やね。」

「放っておけ・・・。」


 リーシャは一人ポーションの調達のため、街を歩いていた。

「アイテムショップ・・・ここだ!」

見つけた店のドアを開けようとすると、

「申し訳ありません!もう少しだけ待っていただけませんか!」

突然男性の声が聞こえてきた。

窓から中を覗くときっちりスーツを着た三人の男たちが店の主人であろう中年男性と話をしているみたいだ。

だが店の主人の様子がどうもおかしい。

「困りましたね。もう二か月も延長なさっているのですが・・・、いつ借金の返済をしていただけるのですか?」

オールバックに釣り目のスーツ男性がデカい態度で主人に詰め寄る。

「このままでは娘さんにこちらが紹介する仕事をして頂く他ありませんが?」

「む、娘だけはどうか許してくれ!あの子は関係ない!私の問題なんだ!頼む!」

必死に頭を下げる主人にスーツの男はニヤリと笑う。

「では、一週間待ちましょう。それまでに返済されなければ、わかりますね?」

「分かっている・・・。」

スーツの男たちは笑いながら店を出ていった。

ちなみにリーシャは入口上の屋根に上っていた。

「つい反射で隠れちゃったけど・・・、何か。」

屋根から降り、店の中に入る。

「くそったれが‼」

強くテーブルと叩く主人に一瞬びっくりした。

「ん?あぁ、すまない。驚かせししまったかな?」

「いえ、大丈夫です・・・。あの、実は先ほどの話を聞いてしまって・・・。」

「あぁ・・・見苦しいところを見せたね。申し訳ない。」

主人は頭をかく。

リーシャは先ほどの話が気になって仕方がなく、主人に話を聞いた。

「あの、さっきの人たちですが・・・。」

「・・・君に言っても仕方がないけど、実は・・・うちは借金をしているんだ。」

主人曰く、近くに新しく出来たボルドー商会と言うデパートのような大きな店が建ったらしく客足もそちらに遠退いてしまったという。

経営に首が回らなくなり幾つか借金をして食いつないでいたが今回で限界になったらしい。

「素直に店を畳んでいたらこんなことには、娘には迷惑をかけなかったのに・・・!」

主人は拳を握って悔しがった。

「そうでしょうか?」

リーシャは店に並べられたアイテムを手に取って見ていた。

「ここに置かれているのはどれも上質なアイテムばかりです。」

「分かるのか、嬢ちゃん⁉」

「はい、私は魔術師です。職業柄アイテムには結構敏感だと思うんです。」

リーシャの言葉に主人は感服した。

「良かった!世の中にはまだ見る目のある奴がいるんだな・・・!」

どうやらお客さんの問題でいろいろあったらしい。

「近頃の若い連中はダサいなど不格好だの、見た目にしか目を向けていなかったんだ。しっかり目を通してればそこらのアイテムよりも上等な物が沢山置いてあるってのに!」

「アハハ・・・。」

愚痴る主人の話を仕方なしに聴くリーシャだった。

しかし主人の言う通り、この店の商品はどれも上質な物ばかりだった。

確かに見た目はイマイチな物がほとんどだが効果や効能が尋常じゃない。

今まで売れていなかったことが逆に考えられない程に。

「―っと、紹介が遅れたな。俺はこの店、『ロコ庭』の店長のルインだ。」

「私はリーシャです。よろしくお願いします。」

ぺこりとお辞儀をした。

「ハハハ、礼儀正しいね。」

ここの商品はどれも凄く贔屓にさせたいリーシャ。

ここまで来たら乗りかかった船。

できる限り手を貸そうと決めた。

「まずですが、このお店のコンセプトを教えてください。」

「安くて買いやすい!以上!」

「・・・。」

リーシャは顔に手を当てため息をついた。

「それだけのコンセプトじゃお客さんは来ませんよ?」

「どうしてだい?」

「まず売りたい物の共通点をはっきりさせたいんです。今置かれているアイテムは武器、防具、薬品、ポーション、携帯食料、肥料と共通点が薄いです。ぱっと見ここは冒険者用のお店と思われますが、貴方はどんなお客さんに商品を売りたいんですか?」

「それはもちろん冒険者にだが?」

「でしたら薬品や肥料は必要ありません。それは冒険者の人にとって必要性が無いですから。」

薬品はポーションがあれば事足り、肥料は農業の道具。

冒険者には全く必要がない物だ。

「なのでこちらは除去します!」

「ほ、ほう?」

彼女の後ろに肥料と薬品が積まれた。

「そうなると自然と売るべき品が見えてきます。ルインさんは冒険者に商品を売りたいんですよね?」

「そ、そうだが・・・。」

「でしたらコンセプトは「冒険者が命を預けられる命綱」というのはどうでしょう?冒険者の方々もこのお店の商品なら安心して命を預けられると信用させます。そうすれば自然と客足も増えると私は思います。」

スラスラと話すリーシャにルインは驚いていた。

「す、凄いなお嬢さん。商業としては申し分ない提案だ!是非その案を採用させてくれ!」

「元よりそのつもりです。」

フッと笑うリーシャだった。

さて、コンセプトも決まり次の問題は、

「あの借金取りですね・・・。」

先ほどの話をメモしているルインにリーシャが椅子に座りながら話した。

「あの人達に借りている借金を何とかしないと方針を決めてもどうしようもありません。」

「面目ない・・・。」

自分が情けなく思い、ルインは肩を落とす。

リーシャが聞いた借金の金額は三桁に積もる金額だった。

正直それを一週間以内に返済しきるのはどう考えても不可能だ。

「仲間に相談しようかな?」

「いや、お客である君にそこまでしてもらうのは流石に申し訳ない。金額に関しては俺が何とかする。」

何とかすると言っても本当に手立てがない。

リーシャは前世のブラック勤務の記憶を思い出しながら頭をフル回転で考えているとギィッと後ろのドアが開く音がした。

「パパ・・・?」

顔を覗かせたのはリーシャよりも幼い短髪の女の子だった。

「レミ・・。」

てくてくとルインの元に歩み寄る少女はリーシャに気づいた。

「パパ、この人だれ?」

「リーシャちゃんていうんだよ。パパはね、この子にお仕事についてお話していたんだ。」

すっかり父親顔になるルイン。

レミは考え込むリーシャの前に寄った。

「ん?」

「えっとね・・・パパのお仕事手伝ってくれて、ありがとう!」

少女の無垢な表情にリーシャはズキュンッ‼と心を打たれた。

「はうっ‼」

「だ、大丈夫かい⁉リーシャちゃん!」

「だ、大丈夫です・・・。」

プルプルと震えるリーシャ。

レミの可愛らしいお礼に母性が刺激されたみたいだ。

(見た目十二歳でも中身は二十代ですからね・・・。)

しかしリーシャはふと借金取りの男が言っていた言葉を思い出した。

「ん?ちょっと待ってください?・・・あのスーツの男の人、返済できなかったら娘に働かせると言ってませんでした?」

てっきり十代後半の娘さんかと思っていたが目の前にいる娘はまだ十代にも満たない幼女。

「あの人たちはこのことを知っているんですか。」

「あぁ、知っている・・・。」

その言葉を聞いたリーシャの顔はそれは恐ろしかった。

娘さんがこんな幼い少女だと知っている上で金稼ぎの道具にしようとしている連中に怒りが抑えられない。

「・・・少し出かけます。」

「リーシャちゃん?」

リーシャは扉を開け、優しい笑顔でこちらに振り向いた。

「大丈夫です。少し調べ物をするだけですから。」

そう言い残し店を後にした。

「・・・お姉ちゃん?」

ロコ庭を出て町中を歩くリーシャは念話を繋げた。

「タクマさん。」

「ん?どうした、リーシャ?」

「ラルを私の元にお願いします。」


 ここは街の僻地にある館。

さっきのスーツの男たちが館に入って行った。

「どうだ?あの店の様子は?」

出迎えたのはゴージャスなアクセサリーに高そうなスーツに身を包んだ小太りの男だった。

「えぇ、作戦は順調です。ボルドー会長。」

オールバックのスーツ男が頭を下げた。

「そうかそうか!グハハハ!これで奴の店も終わりだな!」

高らかに笑うボルドー会長。

「フゥ・・・、今でも鮮明に思い出す。あの男に与えられた屈辱を・・・。」

ボルドーは昔の事を思い出したのか、歯を噛みしめて悔しそうな顔をした。

「あの頃はまだ会長も現在の権力は持ち合わせていませんでしたからね。しかし今となっては話は別です。」

「あぁ、そうだな。それで、奴は何と?」

「はい、返済期限を一週間に約束させました。期限内に返済しきれなかったら娘をこちらに渡してもらうように。」

ボルドーはニヤリと笑った。

「そうか、あの女の物をようやく手に入れられるか。フフフ、もうすぐだ。もうすぐで奴への復讐が完了する!フハハハ‼」

汚い笑い声が屋敷中に響き渡る。


 その様子を窓から覗き見ていたリーシャは杖を強く握った。

「・・・あんな連中にレミちゃんは渡さない!」

「クゥ~・・・!」

建物の周りを飛び回り、人気のない廊下の窓のロックを魔法で開ける。

人がいないのを確認し室内に潜入したリーシャ。

「よし、『感知』!」

物などをより敏感に感じ取ることが出来るスキル、『感知』を発動させ人気を避けながら建物内を調べて言った。

「クッ?ククク!」

ラルが一つの扉を指した。

扉には分かりやすく「資料保管室」と札がかけられていた。

「ナイス!ラル!」

魔法で鍵を開け中に入る。

念のため『音響遮断』のスキルは展開させ、資料を漁り始める。

(あの会長、結構腹黒い感じがしたし・・・ルインさんに恨みを持っているようでした。もしかしたら・・・。)

手当たり次第に資料に目を通していると一つの書類に目が止まった。

「・・・・・。」

「クゥ?」

書類を見たリーシャはしばらく黙りこみ、ゆっくり立ち上がった。

「・・・そっちがその気なら、受けて立ちます!」


 翌日、リーシャはタクマに事情を説明した。

「・・・その辺の知識は専門外なんだがな・・・。」

「いえ、タクマさん達は私のアシスタントをしていただければ問題ありません。」

商業に関してはリーシャが一番詳しいので主に彼女メインで動いていく方針を建てた。

「こんにちは~!」

「お、いらっしゃいリーシャちゃん。」

リーシャとタクマとリヴの三人はロコ庭にやってきた。

ちなみにバハムートとウィンロスは宿の厩舎でお留守番である。

「お姉ちゃん!」

勢いよく抱き着いてきたのはレミだった。

「こんにちは、レミちゃん。」

レミを見たタクマは念話で話しかけた。

(この子か?)

(はい・・・。)

「隣にいる子が昨日言っていたタクマ君かい?」

ルインが言う。

「はい、今回は彼にも手伝ってもらうんです!」

するとタクマをじーっと見ていたレミが言い出した。

「・・・お兄ちゃんはお姉ちゃんのかれしさん?」

「「⁉」」

幼女の口からまさかの言葉が出てきて二人は焦る。

「か、彼氏⁉レミちゃんどこでそんな言葉を⁉」

「パパが教えてくれた!」

にぱ~っといい笑顔で答えるレミ。

リーシャはルインに「こんな小さい子に何教えてるんですか!」と言わんばかりの目で睨んだ。

流石のルインもリーシャの眼力に恐怖を感じた。

「それで?私たちはまず何をしたらいいの?」

ずっと後ろに立っていたリヴが口を割る。

「では、まずは・・・。」

リーシャの作戦が猛威を振るう。


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