『第三十三章 水竜』
光の柱を断ち悪魔の出現を阻止し、残った悪魔の掃討をする二体のドラゴン。
「ウォーターブレス‼」
口から水のブレスを発射し悪魔を飲み込む。
「何や、芸のないネーミングやな。」
「うっさい!そういうアンタこそ、ただ風をまき散らしているだけで全然悪魔減ってないじゃない。」
「・・・確かに吹き飛ばしてるだけで倒しきれてないのがほとんどやな。なら!」
ウィンロスはバッと翼を広げると魔力を凝縮させその身に纏う。
「あれ?」
「うっし!いけるで!」
そう意気込み、目にも止まらぬ速度で悪魔を次々となぎ倒していく。
先ほど魔石を破壊した時に使った技だ。
「完全にコツ掴んだしこの技『神速』と名付けるか!」
ハイテンションで飛び回るウィンロスの片隅に悔しそうに頬を膨らませるリヴ。
「ムムム、一番年下のくせに・・・。」
しかしあれほどのスピードだと残りの悪魔を一掃するのもウィンロスだけで良さそうだ。
「・・・一足先に主様のところに合流しようかしら。悪魔はアイツに任せても大丈夫そうだし。」
新技で楽しんでいるウィンロスに気づかれないようリヴはこっそりとその場から離れて行った。
空中で二人の剣士が激しくぶつかり合う。
相手は天使であるがタクマも竜化で強化し、戦いについていく。
流石に生身では適わないからだ。
「ここまで私について来られる人間は初めてだ。だがそれはあくまで剣技の内だ。」
そういうと天使は手をかざすと黄色の魔法陣を出した。
魔術による攻撃かと思いきや剣を魔法陣に刺したのだ。
「何してるんだ?」
警戒しているとハッと何かに気づいたバハムートが叫んだ。
「タクマ、気を付けろ‼その魔法陣は鞘だ‼」
「もう遅い。」
「⁉」
「『天の型、居合・聖滝綴‼』」
魔法陣から勢いよく抜かれる剣は強い魔力を帯びており巨大な光の刀身がタクマを地面へと叩きつけた。
「貴様もタクマと同じ、居合の使い手だったか。」
「下界と一緒にするな。私の居合は万物をも切り裂く唯一無二の天界の技。下等な人間が到底達することの出来ない領域の極致だ。」
天使は剣を突き立てバハムートに狙いを定める。
「・・・貴様の相手はまだ我ではない。」
「⁉」
「ぬあぁっ‼」
瓦礫の下からタクマが勢いよく起き上がった。
竜化は解けており、いつもの黒髪に戻っていた。
「私の技を受けて無傷だと⁉」
(ふむ、竜化を維持する魔力を全て防御に回したのか。あの一瞬でよく機転が効くものだ。)
タクマは首を鳴らしながら立ち上がる。
「あっぶねー。防御しなかったら骨を何本が砕かれてたな。にしても俺と似たような技を使ってくるなんて。甘く見てたら痛い目見るな。」
天使を見上げて言うタクマ。
再び竜化しようとした瞬間、頭上から天使が切りかかってきた。
その重い一撃を受け止めはじき返す。
「やはり貴様は生かしてはおけない存在のようだな。」
先の一撃を防ぎ切ったことでタクマが自分たちの脅威に成りうるかもしれないとより一層思ったのだ。
すると後方からリヴが合流してきた。
「主様~!」
「リヴ!」
リヴは天使を見つけるとすぐに状況を察し天使目掛けて魔法弾の雨を降らした。
「くっ!」
攻撃をかわしタクマと距離を取った。
「主様、大丈夫⁉」
「あぁ、ちょっぴり手こずってる。やっぱり天使と言われるだけあって油断ならない相手だ。」
「おじ様は何してるの?」
「バハムートはずっと空中待機の状態だよ。」
リヴは上空にいるバハムートに叫んだ。
「おじ様何してるの!主様はすごくピンチなのにただ見てるだけなんて‼」
そこまでピンチではないんだが、少し大げさなリヴ。
バハムートは怒鳴られるも平然とその場に留まり続けていた。
「リヴ。バハムートが手を出してこないのは何か考えがあるんだろうよ。あいつが考えなしにただ見てるだけなんてありえないさ。」
「そ、それはそうだけど、でも・・・。」
「だが正直リヴが来てくれてよかったかもしれない。」
「え?」
タクマは剣を鞘に納めて言った。
「天使と言う強敵だ。お前との初めての共闘に丁度いい相手だと思わないか?」
「主様と共闘?」
「そっ、俺とリヴでタッグを組んであの天使に目にもの見せてやろうぜ!」
「~っ‼うん‼」
リヴは嬉しそうに目を輝かせて頷いた。
「・・・存じていたが、海の帝王まで人間に与しているとは。」
天使はリヴを睨みつける。
「何よ、悪い?主様はとても魅力的で強いのよ。強い男に魅かれるのは女の性でしょ?」
「理解できんな。相手を好いる感情など戦いの足かせでしかならない。ましてや人間相手になど。貴様も分かっているはずだ。人間がどれほど醜く愚かな種族なのかを!」
「分かってないのはそっちでしょ・・・!」
リヴは感情的な声で叫ぶと魔法陣を展開し、水のブレスを放つ。
天使はその攻撃をかわした。
「確かに以前の私は人間は海を汚す酷い種族だと思ってたわ。でも主様と、タクマと出会って助けられた時知ったの。人間には良い心、優しい心を持っている人もいるってことを!人間の悪い部分しか見ていないアンタたち天界の住人の方がよっぽど愚かよ‼」
リヴの言葉を聞いた天使の身体から膨大な魔力が溢れ出てきた。
「貴様・・・天界の住人を愚弄することは、即ち女神レーネ様も含まれていると言うのか?」
「そうなるわね。」
「ゆ・る・さ・ん‼」
凄まじい憎悪を放ち迫ってくる天使。
「行くぞ、リヴ!」
「えぇ、主様!」
タクマはリヴの頭部に乗り天使を迎え撃つ。
「レーネ様を愚弄する者は誰であろうと許さん‼」
「こっちだって!主様を悪く言う奴は私が許さない‼」
天使とリヴが互いにぶつかり合い女同士の戦いが始まった。
(・・・あれ?何か俺、場違い?)
ポーションのおかげで一命を取り留めたアルセラ。
だが傷が癒えても流れ出た血は回復しないので身体を動かすことはできず、建物の残骸に寄りかかっていた。
「ハァ・・・ハァ・・・。血を流しすぎたな。全く力が入らない。」
「アルセラさん!」
顔を上げるとリーシャがこちらに走ってくるのが見えた。
「リーシャ?」
「大丈夫ですか⁉魔力が乏しく低下していますが⁉」
「あぁ、大丈夫だ。タクマがくれたポーションのおかげで命に別状はない。」
「よかった。」
「クゥ~?」
安心して胸を撫で下ろすリーシャの側にいたラルがアルセラを見て何故か首をかしげていた。
「リーシャ、この小竜は?」
「私の従魔のラルです。この前卵から孵ったんですよ。」
「あぁ、いつも腰に鶴下げていた卵か!」
ラルはとてとて歩くと小さな手でアルセラの足に触れた。
「クゥ~!」
すると突然アルセラは光に包まれる。
「わっ⁉」
「ラル⁉」
二人は驚いているとアルセラは次第に体調がよくなっていくことに気づいた。
そして光が治まるころにはいつもよりも少し元気な感じになった。
「これは、身体が完全に回復したのか?」
立ち上がっても何の支障もなく動ける。
「今の、ラルがやったの?」
「クゥ~!」
ラルは「そうだよ」と言わんばかりに手を上げた。
「リーシャも知らなかったのか?」
「はい、以前この子と浄化魔法を使っただけで・・・まさか全回復までできるとは思いませんでした。」
「・・・ん?待て今、浄化魔法と言ったか⁉」
「はい、言いましたが?」
「浄化魔法は歴史上どの魔術師でも会得できなかった伝説の光属性魔法だぞ⁉君がその希少魔法を使えるというのか⁉」
必死に問い詰めるアルセラにリーシャはたじろいだ。
「そ、そんなこと言われましてもラルと一緒に出来ただけですし・・・あ、これ浄化したダークマターです。」
すっと異空庫から白い宝玉を取り出しアルセラに見せた。
浄化魔法だけでもすごい事なのにダークマターと聞いたアルセラは頭を抱えた。
「浄化魔法にダークマター・・・リーシャ、君も大分常識外の人物になってきたな・・・。」
「え、えぇぇぇ⁉」
街の上空で天使と竜の戦いが繰り広げられる。
女神を愚弄された天使と主を侮辱されたリヴの一騎打ちだ。
ちなみにタクマは荒れ狂うリヴの頭部で必死に角にしがみついていた。
「・・・何をしているのだ、あ奴は。」
遠くでバハムートが呆れた様子で見ている。
「うおぉぉ⁉リヴ落ち着け!俺が危ない!」
タクマの言葉に我を取り戻したリヴは離れて天使にブレスを放った。
天使も軽く我を忘れていたがため、ブレスが直撃して体制を崩し地上へ落ちていった。
「あ~助かった・・・。」
「ご、ごめん主様!私つい・・・!」
「いや大丈夫だ。けど誰かを乗せてるときは気を付けてくれ、マジで。」
そういえば出会った時もリヴは怒りで我を忘れて周りが見えなくなっていたっけ。
(一種の狂化じゃねぇか・・・。)
リヴは極力怒らせないようにしようと強く決心したタクマだった。
「くっ、不甲斐ない。私としたことが取り乱した。」
リヴの水のブレスを受けて頭が冷えた天使はゆっくりと立ち上がった。
「さてリヴ。お前の力、借りるぞ!」
タクマは剣を抜くと刀身が水に包まれていった。
(バハムートの竜化と同じ要領でやればいけるはず!)
刀身の水が大きくなりタクマを包み込む。
そして包まれた水がはじけ飛ぶと海のように青い髪に額に一本の角。
そして水でできた竜の尻尾がついた水の竜と化した。
「行くぜ!」
タクマを乗せたリヴは天使に向かって急降下する。
「ブレスだ!」
タクマの指示で水のブレスを真下に撃つ。
それに気づいた天使は寸前でかわすがそれをタクマは逃さず追撃で切りかかった。
「貴様、何だその姿は⁉」
「水の竜化だ。覚えておけ!」
タクマの未知の力に対応しきれず困惑する天使は距離を取るため翼を広げ飛び立つ。
だが飛び立とうとした瞬間、何かに足を掴まれ飛ぶことができなかった。
「っ⁉」
足元を見るとタクマの水の尻尾が天使の足に巻き付いていた。
「悪いがこの竜化は飛べないんでね。地上に留まってもらうぞ!」
尻尾で天使を引き寄せ建物の残骸に叩きつける。
「畳みかけるぞ!リヴ!」
「オッケー!」
二人は天使にかかる。
が・・・、
「図に乗るなよ・・・人間が‼」
タクマ達が優勢に見えた矢先、天使が魔力を暴発させてタクマ達諸共辺りを吹き飛ばした。
「うぉっ⁉」
一瞬の攻撃が戦況を大きく変える。
魔力を解放した天使は先ほどよりも素早く動き、リヴの首下に強烈な一撃を食らわした。
「あぐっ⁉」
リヴは耐えきれず倒れてしまった。
「リヴ!」
「従魔の心配をしている場合か?」
気が付くと天使はタクマの背後に回っており切りかかってくる。
咄嗟にガードするもさっきよりも力が増しており、いとも簡単に吹き飛ばされてしまった。
「主様‼」
リヴが身体で受け止めてくれた。
先ほどのダメージで動きづらいであろうに。
「すまない助かった。けどあいつ、急に強くなったな。」
するとバハムートが念話で説明をしてきた。
「あれは内に秘めた魔力を解放しているのだ。解放することで能力を底上げさせている。」
説明を聞く限り魔力を放出している間は強くなるらしい。
ということは、
「長期戦に弱いってことか?」
天使の魔力量はどれほどなのかはわからないがその強化を続けていればいずれ限界が来るはず。
だが長期戦にしても天使の一撃は重い。
あの攻撃を耐え続けるのは流石に無理だ。
つまりやれることは一つ。
「こっちも攻撃して奴の魔力を早く消費させる!行くぞリヴ!」
「分かった!」
リヴの頭上に飛び乗り空を舞う。
「フン‼」
天使は魔法陣を展開し無数の追尾光線を放つ。
リヴはその巨体に合わず素早い動きで追尾光線をまいた。
「上を取れ!」
タクマの指示で急上昇するリヴ。
天使も負けじと後を追ってくる。
そのまま上昇し続け、ついには雲の上まで来た。
「ここなら思いっきり戦える!」
互いに魔法陣を展開、幾つもの魔法弾を激しく打ち合う。
互角の戦いが続く中タクマが仕掛けた。
「居合・一閃‼」
リヴの頭部から飛び出し天使を切りつける。
だが天使は一閃の速度を見切りいなす。
「一閃の速度にもついてこられるか。」
先回りしたリヴに受け止めてもらいもう一度仕掛ける。
「居合・裂破‼」
今度は一枚の斬撃を飛ばした。
しかしこの一撃も効かず剣で砕かれてしまった。
「何度やっても無駄だ。お前では私に傷一つ付ける事も不可能だ。」
「そうかい・・。」
その時、強い鼓動音と共に天使の様子が急変した。
「グフッ、な、何だ⁉」
何が起きたのか分からず胸を押さえて苦しみだしたのだ。
「まさかダークマターの魔力がここまで効くなんて・・・直に触らなくてよかったわ。」
リヴがドン引きして言った。
あの時、直接ダークマターには触れていないが一番近くにいたせいかダークマターの黒い魔力が少しリヴに写っていた。
タクマはそのことに気づいていたのでその魔力を利用できないかと念話でリヴと相談していたのだ。
先ほどの一閃にリヴの中にあったダークマターの魔力を乗せ天使に切りつけたのだ。
切ることはできなくても触れさえすれば魔力を移すことも可能だった。
「でも主様。戦闘中の念話は気が散るからあまりしないでね?」
「あぁ、気を付ける・・・。」
天使はかろうじて飛べてはいるがどす黒い魔力に身体を蝕まれ、とても戦える状態ではなかった。
「ぐ、ぐぐ・・・ダークマターの魔力など、どこで手に入れた⁉」
「ちょっといろいろあってな。さて、ダークマターは文字通り闇属性。お前たち天使は見て分かる通り光属性だから闇属性とは相反する存在。お前を弱体化させるにはこの方法が最善策だった。」
以前王都でクズ勇者との戦闘経験が役に立った。
「さぁ、決着つけようぜ!」




