『第三十章 リーシャの従魔』
翌朝、一同は再び厩舎前に集まっていた。
一匹増えて・・・。
「クゥ~!」
「・・・うそん。」
「マジで?」
「まさか一晩で孵っているとは・・・。」
他の三人もまさかの結果に驚いていた。
「もう一度説明するとね。昨日の夜、月の光が卵に降りかかってそれで卵が孵ったみたいなのよ。」
リヴは呆れ顔で説明した。
「月の光?そういやラシェルを見た時も月明かりで神秘的に発光していたな。」
「妃様は月の光で身体を休めていたのだな。」
月の光で回復。
つまり卵が孵る条件は月の光を当てることだったようだ。
偶然にも卵を窓の近くに置き、雲が晴れ、月の明かりがダイレクトに降り注いだことによって卵が孵ったということらしい。
「にしてもちっこいなぁ。嬢ちゃんの頭に乗っかっても全然違和感ないな。」
「それどういう意味ですか?」
小竜はリーシャの頭の上に乗っかっており離れようとしなかった。
「何はともあれ、これでリーシャも本格的にテイマーの仲間入りだな。」
「テイマー、でもこの子はまだ生まれたばかりですから戦闘はあまりさせたくないですね。」
「その点はお前が戦ってカバーしていけばいいだろ?俺みたいに。」
話し合っていると小竜のお腹から小さな音が鳴った。
「あ、お腹空いちゃいました?」
「そういや朝飯まだやったな。嬢ちゃんの異空庫に何か入ってへん?」
「じゃぁみんなで朝ごはんにしましょうか。」
「クゥ~!」
朝食を終え一同はギルドにやってきた。
「そろそろ次の街に行くか?」
「そうですね。海での依頼もだいぶ片付いてきましたし。」
すると後ろから知っている声をかけられた。
「よう坊主!」
声をかけたのは輸入船の船長ガインだった。
「ガインさん!お久しぶりです!」
「おう、嬢ちゃんも元気そうだな!」
大きい手でわしわしと頭を撫でた。
「ん?そこの高貴そうな身なりの嬢ちゃんはもしかしてリヴァイアサンか?」
「あぁ、服を新調してもらったんだ。」
立ち話も何なので奥の席で話し合う。
「・・・そうか。行っちまうのか。行先はもう決まっているのか?」
「いや特には・・・。」
「だったらエルドラ大陸とかどうだ?」
エルドラ大陸。
今いる大陸より南西の方角にある大きな大陸だ。
特に港町では交易が盛んであり他の大陸にはない物もあるため客足も多い。
そして何より・・・、
「ダンジョンが多い!」
ガインがビシッと決める。
「・・・ほう?」
ダンジョンと聞いたバハムートはニヤリと笑った。
「ダンジョン・・・場所によって出現する魔獣が異なる地。でもそこで得られるアイテムはどれも貴重な物で高く取引されると聞きましたね。」
「へぇ~ダンジョンか。俺の故郷にはなかったからちょっと興味あるな。」
そんな話をしているとガインが突然難しい顔をする。
「ん?どうしたんだガイン?」
「いや、今少しある問題に直面していることを思い出してな。」
「私達で良ければ力になるわよ?」
「ハハハッ、リヴァイアサンに言われると心強いな。実は・・・。」
ガインの話によると冒険者たちの協力のおかげで海に散らばったゴミが全て回収できる目途が立ったみたいだ。
だが最近になって再びゴミの量が増えてまた以前の状態に戻りつつあるとのことだった。
「もう少しだったってのに最近になってまたゴミの量が増えたんだ。これまで通り皆と協力して回収してはいるんだが、どういう訳か回収スピードが間に合わないんだ。」
「・・・妙だな。」
タクマは腕を組んで考えた。
どうにも違和感を感じずにいられなのだ。
(そんな急激にゴミが増える事なんてあるのか?回収が間に合わない程の勢いで海に捨てられてるらしいし。・・・何か引っかかるな。)
ガインにはリヴを庇ってくれた恩がある。
そんな彼が困っているのであれば放っておくことは出来ない。
「ガイン、海清掃の依頼を出してくれ。」
「坊主?」
「俺が受注する!」
一方、タクマ達が悪魔と戦った森にて複数の信教団の人影が辺りを徘徊していた。
「・・・おかしい。悪魔の魔力反応が突然消えたと思って様子を見に来てみれば・・・痕跡はあるもののそれ以外は点で見当たらない!」
黒いローブ集団が悪魔の居たであろう痕跡の前に立っていた。
「リーダー!こっちに来てください!」
呼ばれて案内されるとそこには森が一直線に焼け焦げた跡があり、地形が大きく変わった光景が広がっていた。
「これは・・・、一体・・・!」
「おそらくですが、悪魔をも凌駕する力を持った何者かの仕業だと考えています・・・。」
「‼・・・まさか⁉」
「はい、報告にあったドラゴンを連れたテイマーかと・・・。」
「くっ!」
黒いローブの男は周りにいる他の信者に号令をかける。
「直ちに最終作戦を決行する‼今度こそアンクセラム王国を滅亡させる‼他の隊のリーダーに各自伝達!それと報告にあったドラゴンを連れたテイマーを目撃したら直ちに報告をしろ‼」
男は胸元に手を当てる。
「我ら!神の御心のままに‼」
「「我ら!神の御心のままに‼」」
そして集団は各地に散っていった。
「ドラゴンテイマー!これ以上我らの邪魔伊達はさせん‼」
海のゴミが異様に増えだし手に負えない状況に追い込まれたカリブル街。
その海域の上空にバハムートの背にタクマとリヴは立っていた。
「坊主たち、何する気だ?」
「私にもわかりません・・・。」
「クゥ~?」
「よしよし。」
「ところでずっと気になってたんだがその小竜は何だ?」
「私の従魔です。昨晩卵から孵ったんですよ。」
「あぁ!腰に下げていたあの卵か!」
ガインはポンと手を叩いた。
「いくぜ二人とも!」
「うむ!
「えぇ!」
リヴは両手を広げ巨大な重力の魔方陣を空に展開させる。
すると海から次々をゴミが浮き上がり徐々に数が増していく。
そしてゴミは魔法陣の中心へと集まっていった。
「主様!」
「おう!」
タクマは剣を抜きリヴと同じ魔法をコピーした。
「重力魔法の二重掛けだ!」
魔法陣の上にもう一つ同じ魔法陣が展開され海から浮き上がるゴミの量が格段に増え、あっという間に上空に巨大なゴミの塊が集まった。
「こりゃぁ、とんでもないな・・・。」
ガインが圧倒的な光景に言葉を失う。
街の人たちももの凄い光景にざわついている。
「エッグい量やな・・・。」
天に上るゴミの周囲を飛び回るウィンロス。
するとゴミの中に気になる物を見つけ、くちばしで掴み取った。
「ん?これは・・・。」
魔法陣はゴミを巻き上げ続け次第に海から現れるゴミが減りピタリと止まった。
どうやら海底に落ちていたゴミを全て巻き取ったようだ。
「くっ!」
重力魔法は上級に値する強力な魔術。
慣れていなければ身体への負担は計り知れない。
元の保持者はリヴでタクマは彼女からその魔術を借りているにすぎず、身体への負担が別格だった。
「主様⁉」
「大丈夫だ。この程度なら!」
タクマは立ち直し、次はバハムートのスキル『圧縮』をコピーした。
「仕上げだ‼」
スキルを発動させ集まったゴミを一か所に集中させ圧縮させる。
段階的に重い音が町中に鳴り響きゴミがみるみる小さくなっていく。
「うぉぉぉぉ‼」
最期の大きな音と共に圧縮されたゴミは野球ボール並みの大きさになった。
スキルを解除したタクマはバタリと倒れてしまった。
「主様‼」
「大丈夫大丈夫。少し無理しすぎただけ。けどこれ明日は筋肉痛だな・・・。」
「・・・普通は筋肉痛では済まんぞ?」
リヴは小さく圧縮されたゴミの塊を手元に寄せる。
「⁉待て触るな!」
突然タクマに止められリヴは咄嗟に手を引く。
引き寄せられた塊をよく見ると薄っすらとだが禍々しいオーラが出ていた。
「ゴミに交じってヤバい物が捨てられてたのか?」
『鑑定』スキルで塊を調べると『ダークマター』という項目が出てきた。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「まさかの物が出来上がったな・・・。」
軽く思考停止していると徘徊していたウィンロスが戻ってきた。
「?何しとんねん。」
「ゴミに交じってヤバい何かが混ざってたみたいで、圧縮した結果これが出来た。」
「マジでか・・・。ん?もしかして・・・。」
ウィンロスは先ほど拾った板をタクマに見せた。
「これは?何かの紋章みたいだが?」
「巻き上げてた時に見つけたんやけど。何かに見えへん?」
「片翼の天使?・・・まさか⁉」
バハムートも気づいた。
「王国滅亡を企てているあの信教団か!」
「奴らが海にゴミを捨てていた元凶か。」
ということは『新生創造神の右翼』のアジトがこの近くにある可能性がある。
「皆、旅に出るのは後だ。一旦リーシャ達のところに戻るぞ。」
「うむ。」
「おう。」
「うん。」
地上に戻った一同はリーシャにこれからの事を説明した。
「・・・なるほど。急激にゴミが増えたのは新生創造神の右翼が関係していたんですね。」
「あぁ、この時期になって奴らの活動が活発になっている気がするんだ。奴らの目的上とんでもないことをしでかすんじゃないかってな。」
直接は関わってはいないが目をつけられているのは確実だろう。
向こうが仕掛けてくる前にいっそこちらからと思ったのだ。
「ところでリヴァイアサンの嬢ちゃんが持っているそれは何だ?」
ガインが口を挟む。
リヴの手には重力魔法で浮かせている圧縮したゴミの塊もとい、ダークマター。
「さっき回収したゴミですよね。何か禍々しいオーラ放ってません?」
「あぁ、ゴミ自体は何とか出来たが代わりにエグイ物が出来上がっちゃってさ。」
タクマは頭をかいた。
処理しようにも何が起こるか分からず直接触るのも危険かもしれない。
「かといってこのままにしておくこともできんぞ?」
「そうよ。私もこのまま持っておくのも嫌よ。」
「う~ん・・・どうしたもんか。」
皆で処理法を考えているとリーシャが提案を出してきた。
「あの、でしたら私とこの子に任せてもらっても良いですか?」
「リーシャが?」
「はい。何となくですけど・・・私とこの子なら浄化が出来ると思うんです。」
他に手も思いつかないのでとりあえずダークマターの処理をリーシャに任せた。
「それじゃいくよ。」
「クゥ!」
小竜がバッと翼を広げるとダークマターの周りに白い魔法陣が展開された。
(生まれたばかりで魔法が使えるのか⁉)
小竜に続きリーシャも杖を掲げた。
(初めての魔法なのにやり方が解る。全部あの子から伝わってくる!)
光が強くなりダークマターを包み込んだ。
「いける!」
光に包まれたダークマターから禍々しい邪気が抜けていき、白い宝玉へと変化した。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
リーシャは激しく息切れし膝をついた。
「リーシャ!」
「大丈夫です・・・さっきの魔法に魔力をすごく持っていかれました。」
「クゥ~・・・。」
小竜も疲れてぱたりとリーシャの膝の上に落ちた。
「ウィンロス!」
「ほいほい!」
すぐさまウィンロスに魔力回復を頼んだ。
白い宝玉となったダークマターをリヴがチョンと触って確認し掴み上げた。
「うわ凄い・・・。邪気が完全に浄化されてる!」
バハムートは小竜を見た。
「妃様が残した新たな命。あの小竜は妃様の力を引き継いでいるのか・・・。」
何はともあれ海のゴミは全て一掃したのでガインは報告にギルドに戻って行った。
そしてウィンロスに回復してもらい元気になったリーシャと小竜。
「ありがとうございます。」
「ええで。」
「クゥ~?」
「君もありがとうね♪」
小竜の小さな頭を撫でた。
「・・・。」
「どうしたリーシャ?」
急に黙ったリーシャ。
「・・・ふと思い出したんです。この子の魔力、ラシェルと同じだった。少し・・・あの子を思い出して。」
少し悲しそうな表情をしたが小竜を見てすぐ笑顔になった。
「タクマさん・・・決めました。この子の名前を。」
「名前?」
「はい・・・この子はラシェルの残してくれた子だから、「ラル」です!」
「ク?クゥ~!」
嬉しそうにパタパタと飛び回る小竜だった。
同時制作作品はこちら。
『無人鉄機の進撃車 次元を駆ける復讐者』
https://ncode.syosetu.com/n2496hp/




