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『第三章 決闘』

タクマはこれまで起こったことをエリック先生に話した。

突然オルトが襲ってきたこと、バハムートの出会いを侮辱されたこと、彼が剣で切りかかて来たことを。剣はオルトがまだ握っていたのでなんとか信じてもらえた。

途中オルトが何度かわめいていたが腹パンがよほど効いたのかずっとうずくまって動けないようだ。

エリック先生が事情を聴き終えると、

「そうか、大変だったんだなタクマ。だが剣術を知らないお前がどうして剣の攻撃に対応できたんだ?」

エリック先生が疑問に思うのも無理はない。

タクマは今まで魔術一筋で勉学を学んでいたのだ。

よって剣術を学ぶ機会など全くといっていいほど無いのだ。

当然タクマも同じ心境だ。

「俺もよくわかりません。なぜか体がうまく反応して気づいたらこのような結果に・・。」

タクマもわからないようだ。

「とにかく無事でよかった。しかしバハムート殿、彼がピンチの時は従魔であるあなたが守っていただかないと。」

エリック先生はバハムートにも注意をする。

「う、うむ。その点はすまなかった。」

考え事があったとはいえタクマが危険な状況だったことも事実。

バハムートは肝に命じた。

「ちょっと待て、まだ終わってないぞ・・・タクマ、出来損ないでありながら貴族である僕に口答えしたんだ。おまけに手も出した。このまま無事で済むと思うなよ!」

フラフラになりながらようやく立ち上がったオルト。

どうやらまだタクマに対しての憎悪が残っているようだ。

「だから俺のは正当防衛だって言ってるだろ。それに俺は正しいことを言ったつもりだ。口答えじゃない。」

タクマははっきりと答えた。

腹パンのダメージでしばらく動くことはできないと思うがこのままではまたタクマに襲い掛りそうな勢いだ。

それを見たエリック先生は、

「このままではお互いに危険だな。なら二人とも、決闘をしたらどうだ?」

と提案してきた。

「決闘?」

「今の状況じゃまた同じことが起こってしまうかもしれない。であればいっそのこと正面から戦って白黒つけておいたほうがいいと思ってな。」

エリック先生がそういうと、

「おい、我らに落ち度はないはずだぞ。最初に仕掛けてきたのは奴ではないか。」

バハムートが口をはさむ。

オルトの勝手な逆恨みで危険に晒された挙句向こうの都合に合わせられることがバハムートには納得がいかないようだ。

エリック先生はバハムートの頭を下ろさせ耳元で、

「すまないバハムート殿、彼、オルトのご両親には学園の支援をさせていただいているのだ。貴族の方々なので彼に何かあれば支援支給を改められる可能性もある。だから私どころか学園長ですら彼に強く言えないんだ。」

そう耳打ちをする。

バハムートはため息をついた。

「はぁ、たかが一貴族ごときで情けない・・・。」

「ぐうの音も出ません・・・。」

そんな会話もしらずタクマは一人考えていた。

(確かにこのままずっと突っかかれても困る。だったら正面から黙らせればいいのか?なら決闘を申し込むのもやぶさかじゃないな。)

しばらく考えタクマが出した答えは、

「先生・・・。」

「ん?」

「俺、戦います。これ以上迷惑をかけたくないので。」

タクマは決闘を決意する。その目には覚悟がみなぎっていた。

「そうか、わかった!オルトもそれでいいな‼」

タクマもオルトの方へ振り向く。

「フン!いい気になるな。魔術もろくに扱えない出来損ないごときにこの僕が負けるはずがない。大勢の前で僕に歯向かったことを後悔させてやる!」

そういうと腹を押さえながらオルトは立ち去って行った。

「・・・すまんタクマ。場を収めるためとはいえ無理に決闘に申し込んでしまって。」

エリック先生はタクマに頭を下げながら謝った。

「頭を上げてください。戦うと決めたのは俺の判断ですから。それにあいつを放っておくと俺の幼馴染にまで危険が及ぶ可能性がありましたし。」

「・・・そうか。改めてすまない。」

そう言い残し、エリック先生も場を立ち去った。

「さて、戦うと決めたはいいが戦闘手段はどうしたものか。」

オルトが言った通りタクマは魔術が得意ではない。

ましてや攻撃魔術などもってのほか。

かえってオルトは匠の魔術使い、まともに戦えばタクマに勝機はない。

「そのことだが、我が主よ。」

「ん?」


 数日後、オルトとの決闘は二週間後に決まり学園のポスターで一面を飾っていた。

このことで学園内は少しざわつきが起こっている。

「タクマ・・・どうしてこんなことを?」

ポスターを見ていたルナが心配そうにつぶやく。

廊下を歩いていると前方に知っている背中が見えた。

「あ、タクマ!」

ルナがタクマに駆け寄る。

声をかけられたタクマが振り返ると、スケルトン・・・ではなくとんでもなくげっそりしたタクマだった。

「んぎゃあああああ⁉」

あまりの変わりように思わず叫んでしまったルナ。

「あぁルナか。なんか用?」

いつになく弱々しい声で返事をした。

「タ、タクマ⁉どうしたのその顔!もの凄い疲れてるじゃん‼」

「いやぁ実はこの前からバハムートと決闘に向けて特訓していたんだ。おかげで体中ボロボロだけどな・・・。」

「特訓?」


 数日前、決闘を申し出たあの日。

「タクマよ、この際ハッキリという。お主に魔術の才は一切ない!皆無だ‼」

バハムートは胸を張って宣言した。

その言葉を聞いたタクマはガーンとショックを受ける。

今まで魔術を使いたいがために学園で学んでいたが才能がないと真正面から否定されたのだ。

タクマは泣き目になりながらも、

「バハムート!それは言いすぎだろ‼使えなきゃこの学園に入学した意味がねぇじゃんか‼」

「うむ、皆無は言い過ぎたな。すまん。だが才能がないのも事実。お主が使えるのはせいぜい付与魔術ぐらいだろう。」

「つまり、付与以外の魔術は使えないと?」

「ご名答。」

「はぁ・・・。」

自分の悲しい現実を受け入れるにはもう少し時間が欲しいところだ。

しかしこうなるとオルトとの戦いでは魔術を行使した手段は完全に断たれた。

急いで他の打開策を考えなければならない。

「魔術が使えないとなると俺の攻撃手段はやっぱり・・・。」

チラッとバハムートの方を見る。

「たしかに従魔である我はタクマの持つ攻撃手段の一つだ。だがお主だけ指示を出すだけですべての攻撃を我が行うのは他の生徒に対しいささか信憑性が欠けるのではないか?」

そう、この決戦はあくまでオルトを懲らしめることも目的に入っている。

おそらくオルト自身も戦闘に参加してくるだろう。

そうなると自分だけ安全な場所でバハムートにまかせっきりにするのは自身への信憑性に欠けてしまう。タクマは腕を組み、

「やっぱり俺も戦わなきゃだよな。オルトは剣を使ってくるかもだし俺も武器を持ったほうがいいか。」

「そこで本題に入る!」

「え?」

何やら張り切るバハムート。

まるでずっと内緒にしていたことをようやく話せるかのように。

「タクマ、お前には魔術の才は無いが、代わりにとてつもない才能があるのだ。」

「とてつもない才能?」

魔術があまり使えない才能の代わりに持つとてつもない才能とは。

「それは、剣術だ‼」

キリッと決め顔で決める。タクマの時間が一瞬止まった。

「おい、そんな目で見るな。」

ジト目で見るタクマは置いとき本題へ。

「俺に剣術の才能?」

「うむ、お主は遠距離攻撃ではなく近接攻撃を得意としている。その中で一番相性がいいのが剣術だ。」

タクマは腕を組み、考え込む。

「剣か・・・。基本的な武器だな。でも俺剣なんて一度も握ったことないぞ?」

「この学園にいれば剣を握ることなどなかろうな。」

バハムートはオルビス学園の方を見て言う。

「そりゃぁ魔術の専門校だからな。」

「話を戻そう。そこで我はお主に剣術の訓練をつけようと思うのだ。」

「バハムートが⁉え、ドラゴンて剣術使えるの?」

その言葉を聞きバハムートは、

「竜の中にも剣術だけでなく人間の技術を取り入れている奴もいる。無論我も含めてな。」

「マジかよ・・・。」

ドラゴンが人間の技術を取り入れているなんて聞いたこともなかった。

世界にはまだ知らないことがたくさんあるようだ。

「まぁ我自身この体格故剣を振るうことはできんが剣術はしっかり心得ておる。

決闘までの間、我がみっちりとしごいてやるから覚悟しておけ?」

いろいろ驚かされたが今は打倒オルトのため剣術を身に着けようと決めた。

「わかった。よろしく頼む、バハムート!」

今後の方針が決まりバハムートとの特訓が始まった。

「ところでどうやって俺の才能を把握したんだ?」

「我が召喚されたあの日に鑑定した。」

「あぁ・・・、あのときか。」

確かに当時主に相応しいか調べるため鑑定されていた。


 そして現在、下校中のタクマとルナが山道を歩いていると、少しひらけた場所に出た。

そこには布で作られた一人用のテント、その横に衣服が干された竿。

中心には火の付いた焚火が置かれていた。

「遅い!もう訓練の時間だぞ!」

バハムートがお出迎え。足元に人形と木の棒が置かれており準備万端だ。

「わりーわりー、んじゃルナ、適当にくつろいでていいよ。」

とルナの方に振り向くと、なぜかルナは目をぱちくりさせて固まっていた。

「ルナ?」

タクマがふと顔を覗き込むといきなり肩を掴まれた。

「タクマ!君まさかこんな山奥で暮らしてたの⁉」

そういえばルナをこの場所に連れてきたのは今回が初めてだった。

「いくら貧乏だからってずっと野宿してたってこと⁉」

ルナの質問攻めが止まらない。

「別に今に始まったことじゃねぇよ。三年もたてば慣れたわ。」

前後に揺らされながらも半笑いで答えるタクマ。

ルナは呆れた様子で、

「入学当初からずっと・・・、よし決めた!タクマ!うちに来て‼」

「・・・はい?」

「ここだと木々が生い茂って狭いでしょ?特訓したいならうちの牧場なら最適だから!」

それを聞きバハムートはしばらく考え込み、

「ふむ、確かに特訓するにはちと狭いか。よかろう、娘の提案を飲もう。」

「え、ちょっと?」

「よし決まり!さっさと荷物まとめてレッツゴー!」

とんとん拍子に話が進み理解が追い付いていないタクマを引きずりながら、ルナの牧場へ引っ越していった。

「て、何で着くやいなやテント張っているの⁉」

牧場に着いたタクマとバハムートは広場の真ん中にテントを張ろうとしていた。

「家で泊まればいいのに・・・。」

「そこまでお世話にならなくてもいいよ。俺はこの生活を変えるつもりはないし、この場所を貸してくれるだけでもありがたいよ。」

と、タクマはいい笑顔でに言った。

「そっか、でもせめてご飯やお風呂の時ぐらいは家に来てね。私も特訓手伝うから!」

「ハハハ!では娘は我の助手として働いてもらうぞ?」

「お手柔らかに頼むぜ・・・。」

これからの特訓はとても賑やかになりそうだ。


 二週間後、迎えた決闘当日。

決戦会場はオルビス学園の敷地内に位置するコロシアムである。

会場は生徒のみならず街の一般客もが観戦に来ておりものすごい熱狂に包まれていた。

コロシアムの楽屋にて、タクマはエリック先生と最後の打ち合わせをしていた。

「あの、先生・・・。なんすかこの異常な盛り上がりは・・・。」

タクマがしら目でエリック先生を睨む。

「いやぁ広告には竜王であるバハムート殿も参戦されると書いただけなのだがまさかこれほどとは・・・。」

どうやらエリック先生もこのような事態は予想外だったようだ。

「まぁいいです。俺たちのためにいろいろ動いてくれてたみたいですし。」

すると扉からノックが鳴り、ルナが入ってきた。

「よかった。間に合った。」

なぜか少し息を切らしており、手にはバケットを持っていた。

「はいこれ!気合い溜めに食べて。」

とバケットを押し付けられる。

「お、おう。ありがとなルナ。」

中にはたくさんのチーズが入っていた。

おそらくルナなりの応援なのだろう。

(あとでバハムートにもあげるか。)

「タクマ、そろそろ時間だぞ。」

「わかりました。」

タクマは席を立ちあるものを手に取り、会場へ向かおうとすると、

「タクマ。」

「ん?」

ルナに呼び止められる。

「・・・ううん、何でもない。オルト君なんかやっつけちゃえ!」

何かを言いかけたがあまり気には留めなかった。

「あぁ、言ってくる‼」

そう言い残しマントを羽織る。

その時ルナはタクマの背中が少しだけ大きく見えたのだった。


 熱狂の最中、タクマとバハムートは会場に姿を現す。

すると熱狂がさらに上がっていく。

「あれがドラゴンか。」

「ドラゴンなんて初めて見た!」

「カッコいい‼」

ドラゴンであるバハムートはフュリア王国では珍しいので観客が興奮するのも無理はない。

「うお、こんなに注目されるなんて人生で初めてかもしれねぇ・・・。」

少し緊張してきたタクマをしり目にバハムートがからかう。

「なんだ?今になって怖気づいたか?」

「言ってくれるな・・・お前こそどうなんだよ?」

「先ほど食したチーズで準備万端である。」

チーズを食べて気合十分、案外単純だ。

「む、来たぞ。」

反対側の扉が重々しく開き禍々しいうなり声が聞こえる。

暗い影から黒い魔獣が姿を現す。

「あれがケルベロス?」

「本当に首が三つある。」

「こわカッコいいかも・・・。」

観客たちがざわつき始め、ケルベロスの足元に一人の男が立っている。

オルトだ。

両者は中央まで歩みより開会の儀を受ける。

「これより、オルビス学園生徒タクマ対オルトの決戦を開始する!従魔は互いに一体ずつ武器の持ち込み可、魔法の使用可、道具の使用否、以下のルールを厳守で行う‼」

この時タクマはオルトとはたっと目が合った。

(逃げなかったことは誉めてやるぞ。)

と目で言ってきた。

ニヤつくオルトを見てタクマは覚悟を決めた。

そしてお互い距離を置きいよいよ決戦の鐘が鳴る!


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