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『第277章 ホムンクルスの少女』

皇都襲撃から一か月、救出した亜人たちはセイグリットたちの協力で遠く離れた樹海に避難させた。

その中にひっそりと小さな集落もある。

あの二か月で用意した亜人たちのための隠れ集落だ。

亜人たちはセイグリットとゲンタに深く感謝し、その集落で暮らすこととなった。

ゲンタが様子見で集落に訪れると、

「お、ゲンタ!」

畑仕事をしていたベンが出迎えてくれた。

「調子はどうだい?」

「もう最高よ!しっかしたった二か月で集落を一つ作っちまうなんて、大賢者ってのはスゲェな!」

「錬金術で作ったんだ。実は僕も手伝ってね。先生の下で錬金術を学んだんだ。」

足元の砂を掴むとバチッと光り、小さな鉄塊が出来た。

「スゲェな・・・!」

「砂鉄を集めて固めただけだよ。」

集落を歩くたびに亜人たちに感謝されるゲンタ。

皆の元気な姿を見れた安心しセイグリットの下へ戻った。

「ただいま先生・・・臭っ!」

家に入った瞬間、薬品の臭いが襲ってきた。

「おぉ、帰ったか・・・。」

マスクをしながら本を読んでたセイグリット。

「ゲンタ、キュディを何とかしてくれんか。」

キュディは一部スペースを借りて小さなラボを作っており、異臭の薬品を造っていた。

「キュディ、何してるんだい?」

「お帰りなさいゲンタ。今栄養ドリンクを作っています。」

「ドリンク?これが?」

作ってる液体は明らかに色がやばい。

「連れてきたホムンクルス、ずっと眠っていたでしょう?そろそろ栄養を与えないと流石に可哀そうです。それに良薬口に苦しと言いますし。」

(やく)って言っちゃったよ。」

そんなこんなでドリンクは完成。

別室に入ると保護したホムンクルスの少女がベッドの上で窓の外を眺めていた。

日の光が彼女の緑の髪をより美しく輝かせてる。

「気分はどうだい?」

「大丈夫、です・・・。」

どこからどう見ても人造人間には見えない。

そんなことを思いながらゲンタはキュディの作ったすごい色の栄養ドリンクを差し出す。

「青いお姉さんが君のために作ったんだ。ここに置いておくから後で飲んでね。」

「は、はい・・・。」

まだ体調が万全とはいかない様子なのでゲンタは一旦退室した。

「先生・・・。」

「なんじゃ?」

「あの子、本当にホムンクルスなのかな?」

「正真正銘ホムンクルスじゃ。まだ信じられんか?」

「うん、どう見ても普通の人間の女の子だ。あの子、これからどうなるんだろう?」

「どうもこうも、世間知らず、一般常識知らずじゃ。このままでは生きていくことも難しかろう。」

(何より、ホムンクルスは皆例外なく・・・。)

そこまで考えセイグリットは首を振った。

その間、少女は側に置かれた栄養ドリンクを口にし、

「・・・おえ、まずい。」

撃渋な顔をしたのだった。


 動けるまで回復した少女は皆とテーブルに座らされ、たくさんの料理を目の前に出されていた。

「まずは腹ごしらえです。皆で食べましょう!」

「これ、キュディが作ったのかい?」

「いえ、彼に作らせました!」

どや顔で紹介したのはコック帽子を被った機械のヴェロキラプトルだった。

「また新しい恐竜が増えてる・・・。」

「小型ですのですぐに完成しました。彼には戦闘力だけでなく料理の知識もプログラムしたんです!」

「なんで?」

「人の姿で過ごす以上、美味しいものが食べたいからです!」

そういいまたどや顔を見せた。

「流石神龍、やること成すことが常識を逸脱しておる。」

「ですが彼らに関しては少々問題面も・・・。」

「?」

「いえなんでもありません!ささ、食べましょう!」

一同が料理を堪能する中、ゲンタは少女に器具の使い方を教えていた。

「こうやって食べるんだよ。」

手本を見せ少女も真似てスープを口に運ぶ。

一口飲むと全員がじっと少女を見る。

「・・・美味しい。」

三人は顔を見合わせ笑顔を見せた。

「ホムンクルスにも食事の美味さが伝わったか。」

少女は生まれて初めて食べる料理に次第に涙を流し始めた。

「こんなに美味しいもの食べたことないよ。心がすごくあったかい・・・!」

泣きながら食べる少女にゲンタは優しく彼女の頭を撫でたのだった。

それを見たセイグリットはふと思う。

(まるで親子じゃのう。)


 それから数日後、ゲンタは再び集落へ足を運んでいた。

「あ、ゲンタさん!」

今回は子供たちがお出迎え。

「やあ皆、元気だったかい?」

「元気ぃ!」

笑顔の眩しい子供たちにゲンタは和む。

すると子供たちは彼の後ろに隠れる少女に気付いた。

「おじさんこの子は?」

「あぁ、紹介するよ。『リリア』だ。訳あって僕の所で暮らすことになったんだ。ほらリリア、教えたとおりに挨拶。」

多少ビビりながらも少女、リリアは前に出て、

「こ、こんにちは・・・。」

「こんにちは!」

「良ければ僕たちがここにいる間リリアと遊んでくれるかい?」

「いいよ!リリアちゃん、行こう!」

リリアは手を引かれ子供たちと一緒に連れていかれる。

でもどこか少し笑ったようにも感じた。

子供たちが遊んでいる間、ゲンタはベンの下へ訪れる。

「パンと腸詰肉を作れないか、だって?できなくはないと思うが何故急に?」

「実はキュディが料理ができる機械魔獣を作ってね。彼の腕なら僕の大好物、チリドッグが作れるんじゃないかって思って。」

「ちりどっぐ?聞いたことない食い物だな。もしかして・・・。」

「あぁ、僕の生まれ世界の食べ物だ。この異世界にはない。」

「二度と食えない故郷の味、か。それが食える可能性があるってんなら行動あるのみだわな。」

「パンの素、小麦は作れるとして問題は腸詰肉、ソーセージだ。僕の世界じゃ豚から作ってたけどここには豚の獣人もいるからちょっとね。」

「あ~なるほどな。だったらイノシシはどうだ?この近辺の森に割と生息していた。完全再現手まではいかないだろうが代用はそれでいいだろ?後で捕まえて養殖するぜ。」

「あぁ、恩に着る。」

「実際恩があるのは俺達だって!遠慮せず要望を言ってくれ!」

バシバシ背中を叩かれるゲンタだった。

二人は草原の丘で子供たちと遊ぶリリアを見る。

「いい笑顔じゃないか。ホムンクルスなんて微塵も思えねぇ。」

「人造人間と言えど一人の命だ。何も変わりはない。」

「んで?結局あの子はどうしたんだ?お前が引き取ったのか?」

「今も一緒に暮らしてるけど?」

「そうじゃねぇ、あの子の父親になったのかって聞いてるんだ。」

「父親・・・、僕が?」

ゲンタはぱちくりと眼を見開く。

「側から見たら親子だぜ。いろいろと教えてやってんだろ?ならもうあの子の父親じゃないか。」

「僕が父親、か。考えたこともなかったな。」

ゲンタは生まれた時から親の愛と言うものを知らなず一人で孤独の中生きてきた。

この異世界に引きずり込まれそこでも辛い思いをたくさんしてきた。

「親の愛も知らない僕が、あの子を愛せるんだろうか?」

「知らずともあの子を一番に思えばいい。そうしてれば自然と愛が育まれるもんだ。大事にする、それが最も大切だ。」

ベンの言葉にゲンタは少し戸惑ったが一つはっきりしてることがある。

リリアを大事に思ってることだ。

「ありがとうベン。君のおかげで僕の気持ちに自覚が持てたよ。」

「用は済んだんだろ。早いとこリリアの所に行ってやんな。さっきの話、後は俺たちが何とかしとくからよ。」

「あぁ、よろしく頼むよ。」

ゲンタはリリアを迎えに行く。

「リリア!そろそろ帰るよ!」

「うん!じゃあ皆、またね!」

「またね~!」

リリアの顔には年相応の笑顔が溢れていた。

帰路につくゲンタは道中リリアに尋ねる。

「ねぇリリア。君に親はいるのかい?」

先ほどまで笑顔だったリリアは急にしゅんとする。

「・・・わからない。気が付いた時はあのベッドの上だったんだもの。でも何も覚えてないのに言葉だったり多少の知識だったり、正直少し気持ち悪かった。そもそも両親の顔もわからないし。」

やはりリリアは自分がホムンクルスであることを自覚してないようだ。

「集落の皆にも聞かれたけど、お父さんとお母さんて何?」

「そこからか・・・、要するにね、リリアを助けたり守ってくれたりするとても大切な人ってことだよ。その人と一緒にいると心が落ち着いたり大好きって思える、そんな人だと僕は思う。」

(まあ僕は一度もそういうことを感じたことは無いんだけどね。全部先生からの教え。)

「じゃあ、おじさんたちがボクの親?」

「え?」

歩みが止まり目が点になる。

「だって、セイグリットもキュディもボクのためにいろいろしてくれるし、何より皆といるとすごく落ち着いて、ここがあったかくなるの。」

「親、僕が・・・。」

ゲンタは先ほどのベンの言葉を思い出す。

『大事にする、それが最も大切だ。』

(わかったよ、ベン。)

ゲンタはしゃがみリリアと目線を合わせる。

「リリア、君は、僕が父親でいいと思うかい?」

「父親?お父さんてこと?」

「あぁ、お父さんとお母さんは元々他人だ。その二人が結ばれて初めて子供が生まれる。僕も君も他人だけど、僕は君の父親になりたいと思ってる。君さえよければ、僕と家族にならないか?」

「家族・・・?」

「そう、家族だ。」

笑顔で答えるゲンタにリリアは、

「家族、お父さん・・・!ボクのお父さん!」

パァっと笑顔になりゲンタに抱き着いた。

「なる!ボクお父さんと家族になる!」

「あははっ!そうかい、僕も君と家族になりたい!」

彼女を抱え上げその場でぐるぐると回り、芝生の上に倒れた。

「これからはずっと一緒だ!よろしくねリリア!」

「うん!お父さん!」

こうして二人は父と娘、本当の家族になったのだった。


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