『第276章 亜人解放』
ゲンタがセイグリットと出会って半年、帝国では変わらず亜人たちが奴隷のように働かされ軍事兵器を作らされていた。
だが一つ変わったことがある。
脱走者が出たことだ。
「まだ見つからないのか?」
「はい、奴隷が二人脱走。しかしまだ帝国領の外には出ていないと思われます。」
軍の指揮官と兵士が話し合う。
「帝国領は広い、ましてや海を渡るにしても大海原の境界線があり我が飛行戦艦以外他国へ行くことは出来ん。まだ大陸のどこかにいるはずだ。隈なく捜索せよ。」
「はっ!」
(片方は身体能力の高いダークエルフだが、もう片方はただの人間、まだ近くにいるはずだ。必ず捕らえこの失態を払拭せねば。)
その夜、亜人たちが寝静まる建物に人影が潜入する。
寝ている熊獣人ベンの顔を誰かがペチペチ叩く。
「起きろベン。」
「んあ?誰だこんな夜中に・・・、え、ゲンタ⁉」
「シーッ!」
「すまん・・・!」
慌てて口を押えるベン。
「お前なんで?」
「言っただろ。必ず迎えに来ると。」
「迎えにって、俺たちを脱出させる方法でも見つけたのか?」
「あぁ、少々力づくだけどね。」
その時、軍本部の向こう側から爆発音が響いた。
兵士が駆け付けるとそこには機械のティラノサウルスが本部の敷地内に立っていたのだ。
「な、なんだこいつは⁉魔獣か⁉」
「機械の魔獣なんて聞いたことないぞ⁉」
兵士が混乱する中、上空からもう一体、機械のプテラノドンも飛来し軍に攻撃を仕掛けた。
「敵襲だ!未知の魔獣を撃退せよ!」
軍兵器も持ち出し激しい戦闘が繰り広げられる。
だが機械の恐竜たちはものともせず軍を相手にする。
「一体何が起きてるんだ?」
「僕達の仕業と言ってもいいよ。ベンこれを。」
ゲンタはベンに牢の鍵を投げ渡した。
「君も手伝って。亜人の皆とここから逃げるんだ。」
「お、おう!」
二人は迅速に牢屋を開けて回り多くの亜人を外に連れ出した。
そして外で待っていたのはセイグリットだった。
「先生!連れてきました!」
「いや多いの⁉流石に定員オーバーじゃ!」
「では彼らを先に例の場所に転移をお願いします!」
「まぁそのつもりじゃ。」
杖を突くと亜人たちの足元に魔法陣が展開される。
「お主らは儂等が来るまで転移先で待機しておれ。決してその場から離れるな。」
「は、はい!」
「俺は残るぞー!」
「え、ベン⁉」
ベンが魔法陣から飛び出した直後、亜人たちは別の場所へ転移された。
「ベン、どうして?」
「決まってるだろ。お前らだけ残して行けるか!それに転移魔法ってのは再発動できるまで時間が掛かるだろう?だからそれまで俺も守ってやる!」
「ほう、魔法に対する知識があるのか。ただの獣人奴隷ではないようじゃのう。」
「お嬢ちゃん、獣人だからってあまく見てもらっちゃ困るぜ。」
その辺に落ちてた武器を構えやる気満々だ。
「何とも面白い若造じゃ。」
「あ~、ベン。この人僕達よりすっごい年上だよ?」
「マジかよ⁉」
その頃、表の方では無数の戦車や大砲、超電磁砲などの兵器が機械の恐竜を追い込む。
「今だ!仕留めろ!」
だが次の瞬間、上空から突如光の柱が降り注ぎ幾つもの兵器を破壊したのだ。
「な、なんだ⁉」
そして穴の開いた雲から姿を現したのは神々しい機械の龍『機神龍・QED=Δ』であった。
「ド、ドラゴン・・・?」
『ただのドラゴンではありませんよ。私は機神龍、世界を支える五神龍の一体です。』
「し、神龍だと⁉あり得ない!神龍は数千年前に太陽神によって封印されたはず!何故今になって目覚めた⁉」
指揮官の軍人がわめくがキュディは鼻で笑う。
『ある意味では、貴方達のおかげでしょうね。彼と出会わせてくれた貴方達にせめてもの慈悲を与えましょう。』
そういい機械の恐竜と共に地上に降り立った。
『さあ何処からでもかかってきなさい。現代の技術、この私が見定めてあげましょう。』
キュディが現れる少し前、本部内にあるホルマリンの機械にひびが入り、中からクリアな緑髪の少女が転がり落ちた。
「・・・生きたい。」
神龍であるキュディが注意を引いてくれたおかげで本部の警備は手薄。
その隙にゲンタたち三人は内部に潜入、ある物を手に入れるためだ。
「にしてもキュディはすごいな。たった二か月で僕が思い描いた機械の恐竜を二体も作っちゃったんだから。」
「キュディ、機神龍は神龍の中でも頭脳明晰。伝説によればあやつ一人で一つの文明を築いたほど、まさに叡智の神よな。」
「話の内容が凄まじくて理解が追い付かねぇ・・・。ゲンタ、お前逃げた後何があったんだよ・・・。大賢者に神龍?」
「まあ詳しいことは後でじっくり話すよ。」
厳重な扉をセイグリットが魔法で解錠し室内に侵入。
そこは薄暗い実験室だった。
ホルマリン漬けの気色悪い生物が幾つも並んでおり不気味さを拭えない。
「なんだここ?気持ち悪ぃ。」
セイグリットがデスクに散らばった書類に目を通すと表情が強張る。
「人造生命体、何処まで禁忌に触れるのじゃ、この国は・・・!」
「人造?それは悪い事なのか?」
「当たり前じゃ。自然の理を無視し生命を造れば生態系が崩れるだけでなく世界の秩序にも影響が出る。だから人造生命を造ることは禁忌とされてるんじゃ。」
「じゃあキュディの作った機械の恐竜たちは?」
「あれは生態系に組み込まれておらんから問題はない。」
「あ、そうなんだ・・・。」
ほっとしていい場面なのかわからなかった。
するとベンが部屋の奥に足を運ぶとある物を見つけた。
「お~い二人とも!ちょっと来てくれ!」
ベンに呼ばれ向かうと、
「この中に入ってるのって、人間だよな?」
ベンが見つけたのはホルマリン漬けにされた何人もの人間だった。
「・・・ホムンクルスか。」
「ホムンクルスって、人造人間てこと?」
「うむ。当然これも禁忌の一つじゃが、まさかこんなにも・・・。」
ギリッと歯を食いしばるセイグリット。
するとゲンタは機械の隅に倒れてる少女を発見した。
「人が倒れてる!」
急いで駆け付けると緑髪の少女の側には割れた機械があった。
ということは、
「この子も、ホムンクルス?」
「ひょっとしたらこの騒動で目覚めたのやもしれん。しかし何故この一つだけ・・・?」
「考えてても仕方ない。この子も連れてく。」
「まあお前ならそうすると思ったぜ。」
三人は人造生命体の研究資料と設計図、そして少女を連れて本部の屋上へやってきた。
下の方ではまだキュディと機械の恐竜たちが戦っている。
「楽しんでおるな。久々の外じゃそうもなるか。」
「ベン、布一枚じゃ足りないかもしれない。君の毛皮貸してくれ。」
「そうだな、・・・て脱げるか!」
ツッコミが炸裂したとき、突如足元から金属の縄が現れゲンタたちに襲い掛かる。
即座にセイグリットが魔法で弾き二人を手繰り寄せた。
そしてその場に現れたのは仮面を被ったマントの人物だった。
「貴様自ら出向くとはな、大総統!」
「この人物が・・・!」
大総統はゲンタの抱える少女に目線を寄せる。
「・・・貴女がこの騒動を起こしたのですか?大賢者セイグリット殿。」
「そうだと言っておこう。これまで不干渉じゃったがいい機会を得たのでな。これは返してもらうぞ。」
そういい取り出したのは書類の束と、黒いマーブル石だった。
「賢者の石。」
「あぁ、そんな大層な名で呼ばれてたのこれは。じゃがな、そんな夢のような代物ではない。これ以上貴様らが乱用すればいずれ取り返しのつかぬことになる。故にこれは儂が預かる。」
だが大総統は慌てるどころか冷静に反す。
「・・・一つくらいは持って行っても構いませんよ。」
「・・・そこまでかき集めたのか。愚かな。」
完全に話についていけてないゲンタとベン。
そこへ暴風と共にキュディが現れた。
「楽しんだか?」
『えぇ、おかげで多くの知識を得ました。今はこの程度で十分です。』
「まさか神龍を味方につけるとは・・・。」
「ちと縁でな。さて、儂らの目的は済んだ。退くぞ皆の衆!」
転移魔法を発動しキュディの背に乗り機械の恐竜たちと共に夜の空へと飛び去って行った。
その場に佇む大総統は真っ暗な夜空を見上げる。
「歯車に、綻びが生じたか。」




