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『第二十八章 自身の過ち』

腰が抜けて動けないメーレンはリーシャに叱られたことがよほど効いたのか大人しくしていた。

(・・・私は、テイマーだったお母様に憧れていた。自分の職業が分かったときすごく嬉しかった。私もお母様みたいにカッコいいテイマーなれるんだって。でも学園に通う他の貴族は皆高ランクの従魔を連れていて自慢していた。私も貴族。だから従魔召喚では凄い魔獣を従魔にするんだって意気込んでいた。でもなぜか私は従魔召喚が出来ず、結局野生の魔獣をテイムするしか手がなかった。)

「・・・そういえばあの時もこうして先走って一人で迷子になって魔獣に襲われたっけ。」

昔から何も変わってない自分に悔しくなり手を強く握りしめる。

するとワーウルフがメーレンの手にそっと触れた。

「ワーウルフ・・・。」

「わふ・・・。」

(そうだ、思い出した!迷子になって魔獣に襲われてた時、助けてくれたのはこの子だった!野生の魔獣が何で助けてくれたのかわからなかったけど、私は彼を従魔にしたいと強く願った。そんな私の願いを彼は受け入れてくれた。)

メーレンの目から涙がこぼれる。

「・・・ごめんなさいワーウルフ。貴方と契約したのに・・・私は周りの目ばかり気にして、貴方を見ようとしなかった。また、こうして助けに来てくれたのに・・・イマイチな従魔とか言って・・・ごめんなさい!」

ワーウルフは彼女を許すように優しく抱きしめたのだった。


 思い地響きを鳴らしアンクセラム王国の王都へと歩みを進める悪魔。

そこにタクマ達が追い付き悪魔の前に立ちはだかる。

「あくまで狙いは王都か。俺達にはあまり敵意を向けないな。」

「攻撃し続けて鬱陶しく思わせたらええんとちゃう?」

「そうね。こんなデカブツを倒すなら被害の少ない森の中でしかできないし。」

「とにかくこいつを止めないと王都の人たちが犠牲になる。なんとしても奴を断くぞ‼」

剣を抜きタクマの合図とともに一斉にかかる。

ウィンロスはスピードを生かし注意を引き、リヴは魔法を駆使し動きを鈍らせる。

そしてタクマとリーシャはバハムートに乗り攻撃を当てていく。

初めての全員戦闘ではなかなかのチームプレーだ。

「ブモォォォォ!」

悪魔は完全に歩みを止めタクマ達に襲い掛かる。

「リーシャ!足場頼むぜ!」

「アイシクル‼」

タクマはバハムートから飛び出すと空中に氷の塊が現れた。

その氷を足場にタクマは悪魔の頭上へ降り立つ。

「フン‼」

額に思いっきり剣を突き刺す。

だが・・・、

「・・・無反応⁉」

悪魔は痛がるどころか突き刺された事にすら気づいてもいない様子だった。

悪魔は頭に乗ったタクマを叩こうと手を近づける。

「くっ!」

急いでその場から飛びウィンロスの背に飛び乗る。

「剣を指したのに反応がなかった。皮膚が厚いのか?それとも・・・?」

「ブォォォォ‼」

すると、悪魔は王都の人の気配を感じたのか雄たけびを上げると突然走り出した!

「いかん!人間の気配に気づいた!」

「早っ⁉アイツ‼」

「皆、追うんだ‼」

急いで追いかけるが予想外すぎる速さになかなか追いつけない。

「なんて早さよあの牛!いや羊?」

「嘘やろ、オレ速さが売りやのに!」

このメンツの中では最速のウィンロスでさえ悪魔に追いつけない。

(どうする⁉魔法で足止めをするか⁉)

必死に打開策を考えていると、

「・・・やむを得ん。」

突然バハムートが背に乗っていたリーシャを掴む。

「えっ⁉」

そしてウィンロスに乗るタクマ目掛けて放り投げた。

「えぇぇぇぇぇ⁉」

「うおぉ⁉」

突然飛んできたリーシャを受け止める。

「何してんの竜王様⁉」

リヴの質問に答える間もなくバハムートは速度を上げ悪魔に迫って行った。

「え、旦那早っ⁉」

猛スピードでバハムートは飛び悪魔を通り越し進路の先でとどまる。

悪魔も猛スピードでバハムートに迫ってくる。

「・・・悪魔族。いずれ()()すると思ったがまさかこの時になるとは・・・これも因果か?」

何やら意味深なことを言っているバハムート。

そして彼の脳内には一人の女性が思い浮かぶ。

「我は()()()よりも力をつけた。あの時成しえなかったこの屈辱、今果たす‼」

口を大きく開き大量の魔力が凝縮されていく。

それは今までの比にならないくらい膨大な魔力量だった。

「バハムートの奴、何する気だ⁉」

遥か後方で追いかけるタクマ達はバハムートが取る行動が理解できないでいた。

「受けるがいい!『超天竜王砲(ゼニス・バハームド)』‼」

超高出力のブレスが放たれ悪魔を飲み込む。

「ブォォォォォォオ⁉」

ブレスに飲まれた悪魔は断末魔を上げ徐々にその姿を消していく。

「「きゃぁぁぁぁ⁉」」

「危な⁉」

タクマ達はブレスの風圧に煽られ吹き飛ばされる。

「・・・っ⁉」

態勢を立て直すととんでもない光景が広がっていた。

森が直線状に焼け焦げ、遥か彼方まで続いていたのだ。

「これが・・・バハムートの力。」

ブレスを放ったバハムートの身体から蒸気が出ている。

「くっ、流石に魔力消費が激しいか。視界がぼやける・・・。」

ブレスでほとんどの魔力を使い切り飛ぶのも辛そうにふらつくバハムート。

煙が徐々に晴れるとそこには、

「何⁉仕留めきれなかっただと⁉」

そこには所々に骨格がむき出しになり、身体が焼け落ちているにも関わらず悪魔が立っていたのだ。

よく見ると傷が再生していくのが見える。

「もう、魔法も出せんか。あと一撃だというのに!」

意識が消えかける。

とその時、悪魔の背後から一太刀の光がその巨体を切り裂く。

「‼」

悪魔は半分に別れるとその後ろに一人の影。

「タクマ!」

タクマが瀕死の悪魔にとどめを刺したのだ。

そして魔力が消耗し疲弊したバハムートはもはや飛ぶ力も残っておらず力尽き落下する。

「うわっと⁉しっかりせい旦那!」

落下したバハムートをウィンロスが掴み助ける。

「ウィンロス!そのままバハムートを下ろせ。すぐに回復魔法をかけろ!」

「わかった!」

タクマはリヴの頭上に着地し一同は森の中へと降りて行った。

「フ~ン、この子たちだったの・・・。」

その様子を水晶で眺める人影があったことをこの時タクマは知らなかった。


 バハムートが謎の行動をとったが悪魔は無事倒すことが出来たタクマ達。

「バハムート!」

先の強大な一撃で魔力を消費しすぎて気を失っていたバハムートはウィンロスとリーシャの回復魔法で目を覚ます。

「まだ動かないでください。」

「あぁ、すまんな・・・。」

「・・・バハムート。何故あんな行動をとった?」

タクマが鋭い目つきでバハムートに問いかける。

「・・・竜王になる前に少しな・・・。すまないこれ以上はまだ言えん。」

「あら?主様に隠し事するの?」

「リヴよせ。幾ら従魔といえど言えない事情はあるものだ。無理に問い詰めるな。」

「はい・・・。」

タクマに注意されしゅんと落ち込むリヴ。

「いつか言える時が来たらその時に教えてくれ。だがもう勝手に無茶な行動はするなよ?」

「・・・すまない。」

バハムートの回復が済み、タクマ達はメーレンの元へ戻って行った。


 その頃、シュヴァロフ家の屋敷では一人の男性の声が響き渡っていた。

「早く衛兵の手配をしろ!一刻も早くメーレンを探し出すんだ!」

高価な装いに身を包んだ中年男性が使いの者たちに支持を出していた。

「旦那様、落ち着いてください!今客人の方々がお嬢様を探してくださっています。」

「どこの馬の骨も分からん輩に娘を任せられるか!私一人でも探しに行くぞ!」

「ですから落ち着いてください!」

人一倍騒いでいるのはこの地の領主でシュヴァロフ家の主であり、メーレンの父親「ブルファム・シュヴァロフ」である。

「うおぉぉ、メーレン‼」

「誰か旦那様を止めるのを手伝ってください!」

暴走気味のブルファムを必死に抑えるフロウ。

(先ほどの爆発音に奇妙な雄たけび・・・森で何かあったに違いない。お嬢様、タクマ様、ご無事でいてください!)

内心でタクマ達の無事を案じていると門番の一人が走ってきた。

「旦那様!フロウさん!お嬢様がお戻りになられました‼」

「「何っ⁉」」

二人は正門まで走ってくるとワーウルフに抱えられたメーレンとタクマ達が戻ってきた。

「メーレン!」

「パパ!」

メーレンはワーウルフの腕から降りブルファムに駆け寄った。

「良かった無事で!」

「ごめんなさいパパ・・・。」

フロウもホッと胸を撫で下ろしタクマに礼を言った。

「タクマ様、ありがとうございます。」

(どうやら悪魔の事には気づいていない様子だな。変に不安させないように黙っとくか。)

「いや、彼女を見つけたのはワーウルフだ。例ならそいつに言ってくれ。」

メーレンも見つかりもうこの場にいる必要は無くなった。

挨拶をしてカリブル街に帰ろうとすると、

「待て!貴様らが娘を連れだした輩だな!」

「・・・は⁇」

この場にいる全員が理解できなかった。

するとブルファム剣を手に持った。

「私の娘に手を出した報いを受けろ!テヤァァァァ‼」

理解が出来ない状況のままブルファムはタクマに切りかかってきた。

「あぁもうメンドクセェ‼」

「え?」

タクマはリーシャの杖を奪うと下から振り上げブルファムの剣を弾き飛ばした。

「なっ⁉」

武器を失ったブルファムはその場に立ち尽くす。

「パパやめて!彼らは私を助けてくれた恩人よ!」

「メーレン?」

メーレンの言葉にブルファムはようやく冷静になった。

「はい、杖返す。」

「何で私の杖何ですか・・・。」

「剣だと相手を傷つける恐れがあったからな。俺は別にあの人に恨み無いし。」

「タクマ様、申し訳ありません。旦那様はお嬢様の事となると暴走してしまいまして・・・。」

あの領主の様子を見る限り重度の親バカのようだ。

メーレンの我儘度合いが強い理由がよく分かった。

(甘やかしすぎだな・・・。)


 それからのメーレンは事件の後より自分の過ちを見つめ直し、よりランクの高い従魔に執着しなくなった。

二度も助けてくれたワーウルフを大切に思い二人で成長すると誓い合ったのだった。

だがこれはもう少し先の話である。


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