『第271章 楽園脱出』
夜明け方、とうとう噴火が始まってしまい、島中が地鳴りと共に大きく揺れる。
「きゃっ!」
転倒するメルティナをリリアが受け止める。
「あ、ありがとう。」
しばらくして揺れは治まった。
「・・・今の地震、明らかに異常を感じました。それにさっきの轟音、火山が噴火したのかもしれません。急いでキュディさんの下へ行きましょう!」
メルティナをラプターに乗せ急いでキュディの下へ。
だが、彼女はその場で苦しそうに座り込んでいたのだ。
「キュディさん⁉」
「来てはいけません!」
駆け寄ろうとするとキュディに止められた。
「でもキュディさん、とても苦しそうですよ?」
よく見ると彼女の瞳が赤くなっていることに気付く。
(この支配力、まさか奴が眠りから覚めたのですか⁉)
「ぐぐ、うぅぅぅ!」
「っ⁉リーシャ離れて‼」
何かに気付いたメルティナが叫んだ次の瞬間、
「うあぁぁぁぁ‼」
突如キュディが膨大な魔力に包まれその爆風でリーシャは吹き飛ばされる。
そして包まれた魔力から現れたのは見たことない超合金で肉体を構成した機械の巨龍、キュディの本当の姿『機神龍・QED=Δ』であった。
「キュディさん・・・?」
機神龍は赤く染まった眼を光らせ背に畳んでいた翼を広げ、ジェット噴射でその肉体を浮かす。
そして天井を突き破り大空へと舞い上がった。
「リーシャ!危ない!」
崩れた瓦礫が彼女に降りかかる。
だが寸前で機械のスピノサウルス、スピノザが現れリーシャを守った。
「あ、ありがとうございます。きゃっ⁉」
スピノザがリーシャを咥え崩れる部屋を出る。
「まずい建物が崩れる!」
一同は急いで脱出し、拠点は見るも無残に崩れてしまったのだった。
だが誰一人大きな怪我はなかった。
「し、死ぬかと思った・・・。」
「でもキュディが・・・。」
神龍の姿となったキュディはそのままどこかへ飛び去ってしまった。
「一体、何が起こってるんですか?」
「さあ、貴女様ならこの状況、放ってはおけないでしょう?」
ミザリーの言葉にセイグリットは舌打ちをし、その場から転移していった。
セイグリットが去ったことで帝国兵士たちは肩の力が抜ける。
「だが噴火は我々も想定外だ。潜水艇の修復はどうだ?」
「全体の八割は修復完了です。」
「残りは魔法や錬金術で応急処置だ。直ちに島から脱出し帝国へ帰還する!」
「ハッ!」
噴火する火山の上空へ転移したセイグリットは火山周辺を見渡す。
「もうマグマが溢れておる。この島はもう駄目か・・・!」
ギリッと歯を食いしばり、念話を飛ばす。
「・・・モーザ、今どこにおる。・・・何?海底洞窟で負傷しておるじゃと?帝国め、まさかモーザに負傷を負わせる兵器を開発したのか!」
噴火は激しさを増し、火山弾が島中に降り注ぐ。
もうこの島に安全な場所はもはやなかった。
「とにかく逃げましょう!」
護竜たちに乗るリーシャ達は急いで海へ向かっていた。
その途中、セイグリットから突如念話が届いた。
『皆聞け!』
「セイグリットさん⁉」
『儂は今負傷したモーザを修理しておる。この島は直に溶岩に飲み込まれる。島から脱出する故、お主らは南の港跡地まで来るんじゃ!修理が完了次第すぐに助けに向かう!それまで耐えるんじゃ!』
そうして念話は切れたのだった。
「そんな、この島には多くの魔械竜が生息しているのに・・・。いくら機械と言われても、皆生きてるのに!」
「リーシャ・・・。」
「・・・君の気持ちはわかるけど、機神龍のいない今、ボク達にはどうすることも出来ない。いくら先生でもなんでもできるわけじゃない。今は脱出することに専念しよう!」
「・・・はい。」
だがその時、降ってくる火山弾の衝撃で護竜たちが転倒してしまいリーシャ達は投げ出されてしまった。
「きゃあっ⁉」
「大丈夫⁉」
「はい、何とか・・・。」
「っ!見て!」
三人は崖の上から島を見渡すと、無数の火山弾や流れ出たマグマによって真っ赤に燃え広がっていたのだ。
「魔械竜の楽園が・・・。」
すると後方から誰かの声が聞こえてきた。
「この声は・・・。」
後ろの森から走ってきてのはトルプスに乗るタクマとアルセラだった。
「タクマさん!」
「全員走れぇ!」
彼らの後方から無数の魔械竜がこちらに雪崩れてきたのだ。
「うわぁ⁉」
急いでスピノザに乗り一同は魔械竜の雪崩の中を走る。
そして前方に港跡地が見えてきた。
「俺達にも念話が届いた!あそこがセイグリットが言ってた場所か!」
その時だった。
突如地面が盛り上がり、地中から巨大な機械のムカデが現れたのだ。
「ヌシ⁉」
ムカデはタクマたちに牙を向き襲い掛かってくる。
タクマがカウンターを放ち何とか回避できたが、
「完全に気が立っている。くそ!こんな時に!皆は先に行け!」
「タクマ⁉」
「このままじゃコイツも港までついてきて危険だ。タイミングを見て合流するから先に行け!」
「・・・わかった。必ず来るんだぞ!」
アルセラたちはそのまま港跡地へ向かい、その場にはタクマが残ったのだった。
「脱出前に決着をつけようか、ムカデ野郎!」
タクマがヌシを食い止める間にリーシャ達は港跡地へたどり着いた。
「着いたはいいけど先生いないよ?」
「まだ来てないんでしょうか?」
海を眺めていると火山が再び噴火し火山弾が辺りに降り注いだ。
「ここも安全じゃない。どこか身を隠さなければ。」
「もうこの島に身を隠せる場所はないですよ!」
辺りを見回していると海が大きく波打ち、一部部位が損傷した機械のモササウルス、モーザが港に打ち上ってきたのだ。
モーザが口を開けると中からセイグリットが現れる。
「待たせたの!全員モーザに乗り込むんじゃ!」
ヌシムカデの突進を正面から受け止めるタクマ。
「くっ、連戦続きで流石に限界が近い・・・!これ以上長引くとまずい!」
どうにか早急に対処したいが疲労が身体を鈍らせ思うように動けない。
それでもムカデは襲い掛かってくる。
「一瞬だけ使うしかない!」
黒炎を解放し瞳が赤く発光、姿勢を低くし居合の体勢をとる。
「居合・黒炎突‼」
迫るムカデを黒炎の突きで迎え撃つ。
「うおぉぉぉぉ‼」
力に押し勝ちムカデを弾き飛ばした。
だが疲労した身体に黒炎の強すぎる力がのしかかり、即座に解除する。
「流石に無茶しすぎたか・・・、もう動けねぇ・・・!」
しかしそれでもムカデは起き上がってくる。
「もういい加減にしろよ・・・!」
「~~~~っ‼」
だがその時、護竜ティラノサウルス、グレイドが現れムカデの首根に噛みつき止めを刺した。
「っ!」
「グオォォォ‼」
咆哮を上げるグレイドだが噴火の爆風が二人を襲い、グレイドはタクマを咥えてその場から走り出したのだった。
火山弾が降り注ぐ中、モーザの口の中で待機するリーシャ達はタクマたちを待っていた。
だが溶岩が大地を飲み込んでいき、火山弾が直撃寸前の位置に落下する。
「もう限界じゃ!港から離れる!」
モーザが港から離れ始める。
「待ってください!まだタクマさんが!」
「じゃがこのまま港に居ても危険じゃ!」
沖から離れた直後、メルティナが近づいてくる気配に気付いた。
「来た!」
火山弾の噴煙の中からグレイドに乗ったタクマが飛び出しこちらへ走ってくる。
「タクマさん!急いで!」
溶岩はもう彼らのすぐ後ろ。
だが港からモーザまでの距離が大分ある。
「飛べグレイド!」
「グオォ‼」
グレイドは加速し港から大きくジャンプする。
「アイシクル!」
リーシャが氷の足場を生成しその上を伝っていく。
だがそこに火山弾が降ってきた。
「タクマ!後ろだ!」
「っ!」
咄嗟に剣を抜刀、爆発を起こしその衝撃でグレイドが吹き飛ばされる。
「危ない避けて!」
そのまま彼らはモーザの中まで転がり落ち他の護竜たちに受け止められる。
「っ!タクマさん!」
「うおー!死ぬかと思った!」
グレイドから飛び降りるタクマにリーシャが駆け寄り抱きしめた。
「良かったです!無事で・・・!」
タクマもリーシャを抱きしめ返すのだった。
すると護竜たちは外に取り残された魔械竜を発見する。
島に取り残された魔械竜はこちらに鳴いているがもうどうすることも出来ない。
魔械竜は燃え盛る煙の中に飲み込まれ、その姿を消した。
その光景を見ていたタクマたち、特にリリアは思い詰めた表情をしており胸元で手を強く握りしめる。
モーザは口を閉じて海へ潜り、炎の島と化した魔械竜の楽園から脱出したのだった。




