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『第269章 伝説の魔狼』

セイグリットの動くガラクタの自宅に戻ってきたイフルとバハムートたち。

「ねぇイフル、お風呂借りていい?もう埃だらけで・・・。」

「いいよ。て言っても家主はセイグリットだけど。」

「ラルも一緒に入ろ♪」

「は~い。」

二人が席を外す中、バハムートたちはダンジョンで入手したドーム状のガラス瓶に生けられた光るアジサイの花を持ち出した。

「んで?結局これ何なん?」

イフルが花の図鑑をめくるが該当のページが見つからない。

「やっぱり図鑑にも載ってない。それにこれ、ただの花じゃないよ。」

「光ってる時点でただの花ちゃうで。」

するとアジサイをジッと見るバハムートが口を割る。

「我の見立てだが、おそらくこの花はこの世界のものではないだろう。」

「この世界のものじゃない?どういうこと?」

「この花は、()()()()()の可能性が高い。」

「異世界?」

「リーシャの前世の世界の花っちゅうことかいな?」

「彼女の世界の花とは断定できぬが、我らが知りえぬ花。それだけは事実だ。」

「ともかくセイグリットにとって大事なモノよ。しっかり保管しよう。」

「そうだな。」

バハムートがアジサイを持ち上げた時、ガラスが外れ誤って落としてしまった。

「危ない!」

間一髪イフルがスライディングで受け止めた。

だがふと花に触れてしまった瞬間、彼女の眼にある光景が映ったのだ。

「お、おいイフル?大丈夫かいな?」

「すまぬ、気を抜いていた。」

心配する二頭だが当のイフルの様子がおかしかった。

彼女は、()()()()()()()



 一方その頃、最後のアーティファクト『フェンリル』の前足二回攻撃をタクマは二刀流パリィで全て受け流す。

だがどの攻撃もかなり重く、増してやレーグル戦の疲労もあるため完全に防ぐことは出来なかった。

そこへ護竜(ガーディアン)トリケラトプスのトルプスがフェンリルへ突進し力の押し合いとなる。

その動けない隙にアルセラがトルプスを踏み台に頭上へ飛び上がり強烈な一撃を叩きつけた。

だがフェンリルには大したダメージはなく、トルプスごと押し飛ばしてしまった。

「なんて硬さだ。バハムートの鱗並みか?毛のくせに。」

しかし護竜(ガーディアン)のトルプスですら力負けしてしまうほどの馬力を持つ相手に正面から戦うのは現状得策ではない。

戦いながら相手の情報を得なければ。

「居合・斬破!」

無属性の斬撃を飛ばしフェンリルの注意をこちらに向ける。

「おらこっちだ!かかってこい!」

狙い通りタクマを狙うフェンリルの猛攻を弾いてはかわし勝機を探る。

(アーティファクトとはいえ生物のように意思がある。必ず綻びがあるはずだ!)

タクマがフェンリルの相手をしている内にアルセラとトルプスは体制を立て直す。

「力技は通用しない。トルプス、君は援護射撃に徹してくれ。」

頷いたトルプスは戦車へと変形しアルセラが前に出る。

「タクマ!今度は私が受け持つ!その隙にできるだけ情報を探ってくれ!」

「わかった!」

アルセラと入れ替わりタクマは後方へ下がった。

「せめてバハムートの鑑定スキルが使えればよかったんだが、無いものを頼っても仕方ない。肉眼と戦闘で見極めるしかないか。」

アルセラとの戦闘を遠目で伺いフェンリルを観察する。

(攻撃予兆、動き、攻撃力と防御力、見れば見るほどどれも偏差値が高い。)

戦車となったトルプスの援護砲撃が直撃し一瞬怯みを見せる。

その隙にアルセラは一旦距離を取ろうとするがフェンリルは逃がさない。

「まずい後ろを取られた!」

逃げるアルセラを追うフェンリルをタクマも追いかける。

(フェンリル、伝説の魔狼。前にリーシャから教えてもらった神話ではフェンリルは神々の戦争で神の一人を倒したという逸話があるらしいが、ひょっとしたらこのフェンリルも、リーシャと同じ神を殺せる力を持っているかもしれない。今後こいつの力は必ず必要になる。絶対アルセラを認めさせねぇと!)

「アルセラ!まだいけそうか?」

「すまない!一瞬だけ隙が欲しい!」

「了解!俺が受け持つ!」

横腹に鋭い突きを食らわせフェンリルの注意をこちらに向けさせる。

その隙にアルセラがシルバーパイソンのアーティファクトを解放し氷結の鎧を換装した。

「アーティファクトにはアーティファクトの力だ!『氷絶・フロスブリンガー』!」

大地を滑るように加速し一瞬の速度でフェンリルの足元を凍らせ転倒させた。

更に追撃で刀身に斬氷を纏わせ振り下ろす。

だがフェンリルの軽快な身のこなしで一撃を避け、地面の氷を物ともせずその場から離れたのだ。

「あの状態から避けるのかよ・・・!」

「やはり一筋縄じゃいかないか。」

「グルルル!」

そこにトルプスの砲撃が直撃、フェンリルは戦車体のトルプスに襲い掛かり車体をひっくり返した。

「『氷絶・白蛇』でも奴に勝つことは出来ない。何か決定打になる策がないか?」

『・・・烈日の炎。』

「カリドゥーン?」

『フェニックスの力が持つ太陽の力じゃ。まだ小娘が未熟だった故伏せておいたが。』

「そんな力があったのか⁉ならそれを使えば・・・!」

『じゃが烈日は諸刃の剣、未熟のまま扱えば己の身を蝕む。』

「己を・・・。」

タクマは和国でフェニックスの力で命を落としかけたアルセラを思い出し胸元が締め付けられる感覚に見舞われる。

「でもそれしか勝機が無いんだろう?だったら私は迷わずそれに賭ける!」

だが他でもないアルセラが言う。

「アルセラ。」

「君の心配は嬉しい。でも私は今よりも強くならなくちゃいけない。君やリーシャ、皆を、仲間を守れるようになりたいんだ。君が安心して背中を任せられるように。」

アルセラの決意の眼差しにタクマは思わず口角が上がった。

「全くお前ってやつは。俺は最高の親友に恵まれたようだ。いいぜ、その一か八か、やってやろうじゃねぇか!」

「おう!」

フェニックスのアーティファクトに付け替え深紅の鎧を換装する。

「カリドゥーン!その烈日の奥義は発動までどれくらいだ?」

『ざっと三分じゃ!』

「オーケー!それまで俺たちが時間を稼ぐ!」

タクマは走り出しトルプスの加勢に向かう。

砲台に噛みつかれるトルプスだがそのままの状態で変形し無理やり体勢を変える。

そこへタクマが鋭い一撃を与えフェンリルを引き剝がした。

「トルプス、奴を抑え込む。合わせてくれ!」

「グアゥ!」

一斉にフェンリルへ迫り目の前で散開、左からトルプスが突進し右からタクマがフェンリルの顔にローブを覆いかぶせしがみついた。

振り払おうと暴れまわるがタクマは離さずトルプスも何度も突進し動きを牽制する。

「あと一分耐えきれトルプス!うわっ⁉」

あまりの暴れっぷりに振り落とされてしまった。

するとフェンリルは遠くで詠唱を唱えているアルセラを見つけそちらへ向かっていった。

「トルプス!」

戦車に変形し砲撃の反動で飛びフェンリルを先回り、再び変形し正面からフェンリルを食い止めた。

(まだ四十秒以上ある。・・・出し惜しみしてる場合じゃない!)

タクマの背に黒炎の翼が燃え盛り黒の竜化となる。

(力を借りるぞ、シーナ!)

剣を地面に突き刺すとフェンリルの足元から黒炎が噴き出し、炎がフェンリルに巻き付き拘束したのだ。

しかし黒炎の反動で身体に激痛が走る。

(ぐっ!長くは持たない!アルセラ!)

詠唱を続けるアルセラは以前メルティナの極大魔法発動時の状況を思い出していた。

(この状況、あの時と同じだ。一人の奥義発動のため仲間が守ってくれる。でも、私はあの時、トラウマのせいでメルティナを危険に晒してしまった。それが悔しくて一人で焦っていた。力を求めることは悪いことじゃない。でもそれで回りが見えなくなってしまったら本末転倒だ。だがそれもこれまで!)

フェンリルは黒炎の拘束を振り払いトルプスを弾き飛ばし、アルセラへ向かっていく。

「アルセラ!」

(もう二度と見失わない!大切な仲間を守るために!)

詠唱が完了し剣を掲げ炎が天を貫く。

烈日奥義(れつじつおうぎ)紅蓮不雀(ぐれんふじゃく)‼』

炎柱が紅蓮の不死鳥となりて天から降り、フェンリルを烈日の炎が包み込み規格外の爆発を起こす。

その瞬間だけ、その場が昼間のように明るくなったのだった。

「う~わ、暗い夜に急に明るくなったから眼が・・・。」

なんとか視力が戻るとその場には座り込むアルセラが。

「アルセラ!」

タクマが駆け付けようとしたが彼女の目の前には無傷のフェンリルが立っていた。

(嘘だろ⁉あの一撃を受けても無傷⁉)

剣に手をかけたがすぐに状況を察し、剣から手を離した。

「・・・これが私の答えだ。フェンリル。」

「・・・・・。」

「私は大切な人たちを当たり前のように守れるようになりたい。そのためには貴方の力が必要だ。どうか、私に仲間を守る力を。」

アルセラの願いにフェンリルはかつての使い手、古の勇者を思い出す。

「ゴフッ!」

『おい大丈夫か⁉やはりまだ烈日はお主には早すぎたか。すまぬ、儂の判断ミスじゃ・・・。』

「そんなことない。私のために烈日の存在を伏せてくれてたんだろう。私を案じてくれてありがとう、相棒。」

『全くお主は・・・。』

そんな二人の関係性を見たフェンリルはアルセラに再生の魔法を施す。

するとアルセラの身体の調子がみるみる回復し、痛みも疲れも全て癒えたのだ。

「フェンリル・・・。」

フェンリルはゆっくりと顔を近づけ、アルセラはその鼻先にそっと触れた。

そしてフェンリルは光に包まれ、気付くとアルセラの手にフェンリルの頭部を模したアーティファクトが握られていた。

『どうやらフェンリルにも認められたようじゃの。流石儂の使い手。』

「触れた時、フェンリルがこう言っていた気がしたんだ。『己が信念を貫け、我が主よ。』と・・・。」

アルセラはフェンリルのアーティファクトを胸元に強く握りしめるのだった。


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