『第267章 巨神レーグル』
魔械竜の楽園、その孤島の断崖にて海から大きな影が浮上してきた。
それは潜水艦であった。
「船体にかなりの損傷を受けましたが、無事島にたどり着きました。」
軍服を着た兵士が装置をいじりながら後ろに座するスナイプ銃を背負う女性に言う。
「ではこれより上陸。魔械竜を数匹捕獲するのだ!」
「はっ!」
(ようやく島に潜入できたのだ。失敗は許されない。必ず魔械竜を持ち帰る。あの兵器の完成のために!)
空中神殿にたどり着いたタクマとアルセラ、セイグリットの三人は足場が浮遊する中央広場へとやってきた。
「広いな。直径二百メートルはあるんじゃないか?」
空が見える吹き抜けの大広間には幾つもの浮遊する足場もある。
だがタクマにはどこか見覚えがあった。
「この感じ、セイグリットの空中闘技場に似てるな?」
「わかるか?あの闘技場はここの技術を少し拝借して儂が作った。じゃが所詮贋作、本物のこことは性能が段違いじゃ。」
「セイグリットでも模倣が限界なのか。」
「さて、おしゃべりもここまでじゃ。儂は噴火を止めるためここで失礼する。・・・後は任せたぞ、二人とも。」
先ほどセイグリットの真の目的を聞かされた二人は力強く頷き、セイグリットは転移魔法でその場から消えたのだった。
「・・・さて、あんな話を知っちまった以上、後戻りはできないぜ。」
「今更だろう。私はどこまでも君についていくと決めた。仲間だからな。」
『儂も忘れるでないぞ?』
カリドゥーンに触れこちらに微笑むアルセラにタクマも笑みを零す。
その時、強風が吹き荒れ二人は吹き飛ばされそうになる。
羽ばたく音と共に頭上から降臨したのは機械の神鳥、巨神レーグルである。
「さあちょっとした大仕事だ!気合い入れろアルセラ!」
「おう!」
「~~~~っ‼」
咆哮を合図にタクマとアルセラは走り出し、レーグルの放つ無数の熱線を掻い潜っていく。
「どうする?図体はデカいとはいえ相手は高所にいる。並みの攻撃じゃ届かないぞ!」
「問題ねぇ!周りの足場を利用する!」
高くジャンプし辺りに浮遊する足場を伝ってレーグルに近づくタクマ。
「まずは挨拶代わりだ!居合・斬破!」
無属性の斬撃を放ちレーグルに命中する。
しかし相手には傷一つ付かなかった。
「飛ぶ斬撃はあまり効かねぇか!なら、居合・一閃!」
一瞬の速度で斬りかかりそのまま地に着地する。
しかしこの攻撃もあまり効いていなかった。
「あれ?」
「タクマ!君は今弱体化してる身なんだ!あまり前線に出ない方がいい!」
「うぐ!そう言われるとグッサリくる・・・!」
「前線は私に任せてくれ!君は援護を頼む!」
「今はそれが最善か!あまり無茶すんなよ!」
アルセラはフェニックスのアーティファクトを解放し深紅の鎧を纏う。
そして炎の翼で飛翔しレーグルに攻め入った。
「『炎熱・紅蓮の太刀』!」
巨大な炎の太刀がレーグルの胴体に当たりその巨体をサイドに押し倒した。
「前よりアーティファクトの力を使いこなせるようになったのか。やるなアルセラ!」
「このまま攻めるぞ!カリドゥーン!」
『おうさ!』
起き上がるレーグルの反撃にも怯まずアルセラは果敢にダメージを与えていく。
そのまま地上から走るタクマはレーグルに近づく。
(情けねぇ。竜化さえ使えればアルセラに全て任せる必要なんてなかったのに!)
ああいってくれたアルセラだがやはり負担は大きいはずだ。
(いざとなったら、あの力を!)
「うわっ⁉」
そんなことを思ってる間にアルセラは鋭い反撃を受け地上へ叩き落される。
「アルセラ!」
立ち上がる暇も与えずレーグルは翼を振り下ろす。
「しまっー!」
「うおぉぉぉぉ‼」
全力疾走するタクマがアルセラを抱えギリギリ攻撃を避けることができた。
「タクマ!」
「力が使えなくたって、仲間を助けることくらいできるさ!」
再び武器を取り立ち塞がるレーグルを前に立つ。
「一筋縄じゃいかないな。どうする?」
「さっきのお前の戦闘を見て一つ試せそうな作戦がある。そのためにはまず奴を地上に落とす必要があるが・・・。」
アルセラを見ると彼女は察したように笑っていた。
「言うまでもねぇか。」
「あぁ、奴を落とす役目は飛べる私に任せろ!」
「頼むぜ、アルセラ!」
咆哮を上げるレーグルを相手にタクマとアルセラの二人は果敢に挑む。
セイグリットの目的、いや、願いのために。
「キシャァァ!」
「いやぁ気持ち悪い⁉」
迫りくる機械蟲を回し蹴りで粉砕するリヴ。
地下空洞の遺跡内で護蟲異形カブト率いる蟲の大群にバハムートたちは苦戦を強いられていた。
「畜生!数が多すぎやで!キリないわ!」
床に散らばる機械蟲の残骸を翼で仰ぎ片付ける。
それでも機械蟲は壁や天井の穴から無限に湧いて出る。
それを異形カブトが統率しているのだ。
「突破口が見えないわ!どうするのおじ様!」
炎ブレスで一掃するバハムートはウィンロスと背中合わせになる。
「普通に考えりゃ統率してるあのゴツイカブトムシを倒すのが一番やけど・・・。」
「それでもこの鬱陶しい大群は湧き続けるだろう。であれば・・・。」
バハムートは蟲が湧き出る壁や天井の穴を見上げた。
「リヴ!あの穴を氷魔法で全て塞げ!」
「穴を塞ぐ?・・・あぁ!その手があったわ!なんで気付かなかったんだろう!」
手をポンと叩いたリヴは海竜の姿となり冷気を口部に溜める。
「巻き込まれないよう気を付けてね!『フリージング・ゲイザー』!」
氷の範囲魔法で辺りを凍てつかせ壁や天井の穴を全て塞ぎ切った。
「これでもう蟲は湧かん!行け!ウィンロス!」
「あいよ!」
ウィンロスが異形カブトに攻め入るが相手も残った機械蟲をけしかける。
だがそれらをイフルが全て弓矢で射抜いた。
「私が援護する!」
「助かるで!おらぁ!」
そのままウィンロスは異形カブトに掴みかかった。
「オレと一対しようや!メカ蟲!」
そしてタクマとアルセラの方は、
「~~~~っ!」
「うわ⁉」
レーグルの攻撃を受けたタクマが後方へ弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。
だが寸前でアルセラが庇ってくれた。
「くっ、無事かタクマ?」
「あぁ、お前の胸がクッションになって助かった。」
「その一言はいらん!」
『セクハラじゃの・・・。」
イマイチ緊張感のない二人(と一本)だが正気は見えている。
これまでの戦闘でレーグルに着実とダメージが与えられ所々損傷個所が見られるのだ。
「最終段階だ。奴を地に落とす。そのあとは任せたぞタクマ。」
「あぁ、任せろ!」
アルセラは勢いよく飛び出し再びフェニックスのアーティファクトを解放。
飛翔しレーグルの攻撃を掻い潜り上を取った。
「全力で行くぞカリドゥーン!」
「おうさ!」
カリドゥーンに装着したアーティファクトのボタンを押し炎が噴射。
一気に急降下し足の手甲をかぎ爪へ変形させ炎を纏う。
「落ちろーーー‼」
まるで不死鳥のごとき紅蓮の蹴りがレーグルを地に叩き落す。
「決めろ、タクマ!」
浮遊する足場を伝い落下するアルセラとバトンタッチ。
上空へ飛び出し剣を手に取る。
(一瞬だけなら問題なく使える!)
刀身に黒炎を纏わせ巨大な大剣へと変貌させる。
そして剣を投げつけレーグルの胴体を貫く。
地に貼り付けにしたのだ。
「おらぁ!」
ウィンロスの強烈な蹴りが異形カブトを後退させる。
その間にリヴとイフルは残った機械蟲を一掃した。
「こっちは終わったわ!」
「あとは頼むで旦那!」
ウィンロスも下がるとバハムートは口部に魔力を集束させ始めた。
串刺しに固定されたレーグルだがなんと胴体の一部を変形させ身動きが取れるようにしたのだ。
「っ⁉逃がすか!」
咄嗟に鞘も黒炎の大剣にし投擲、レーグルの動きを完全に封じる。
しかしタクマの手持ちに武器が無くなってしまった。
(くそ!このままじゃ止めを刺せない!かくなる上は黒炎を完全に開放するしか・・・!)
事態に気付いたアルセラもどうすればいいか必死に頭を働かせる。
そして、カリドゥーンに眼が止まった。
「いいか?カリドゥーン。」
『無論、思うようにやれ!』
アルセラは頷きカリドゥーンを構えた。
「タクマ‼」
「っ!」
「受け取れぇ‼」
カリドゥーンを投擲しタクマの手に渡る。
そしてバハムートは口部に炎を最大限まで集束させる。
「「これで終わりだ‼」」
『超天炎王砲‼』
バハムートの放つ煉獄の業火が異形カブトを跡形もなく燃やし尽くす。
『居合の極致・獄炎一刀‼』
カリドゥーンの炎が巨大な刀身となりレーグルを一刀両断。
真っ二つにされたレーグルは沈黙したのだった。
「タクマ!」
落下する彼をアルセラが受け止めた。
「ありがとなアルセラ、カリドゥーン。」
『今回だけじゃからな。小娘以外に儂を振るわせるのは。』
「へへ、いざとなったらまた頼むぜ。」
『こやつめ・・・。』
カリドゥーンをアルセラに返し、レーグルに投擲した剣と鞘を回収する。
「そういえばレーグルを討伐した後、あれを回収してくれとセイグリットに頼まれてたよな?」
「ん?ひょっとしてあれの事じゃないか?」
レーグルの裂けた胴体の位置に豪華な包み箱が落ちていた。
『厳重な封印じゃな。じゃがレーグルが倒された今封印は剥がれるようになっておる。箱に触れてみよ。』
カリドゥーンに言われ箱に触れるとパリンと膜が弾けるように割れ、包み箱を開けてみる。
中に入っていたのは黄金にして純白の美しい剣だった。
「カリドゥーンと同じサイズの両手剣だな。それに滅茶苦茶綺麗だ。」
手に取りまじまじと眼を通すタクマ。
「ん?どうしたカリドゥーン?」
『この魔力、その剣、神器じゃぞ。』
「神器⁉それって七天神が持ってるあの武器か?」
『いや、あれよりももっと高位な武器じゃ。しかしこれほどの剣、何故こんな所に封印されてたんじゃ?』
「それも含めてセイグリットに報告しなきゃな。一先ず疲れた。キュディの拠点に戻って休もうぜ。」
「そうだな。もう夜も遅いし、流石にヘトヘトだ。」
『軟弱じゃのう。』
「ずっと背負われてるお前に言われたくない。」
そうして二人と一本は神殿を後にしたのだった。




