『第266章 巨神と護蟲』
広大な地底空洞に広がる古代都市。
その中央には巨城が佇んでいた。
「こんな地下に滅茶苦茶広い空洞があることにも驚きなのに・・・。」
「この都市、廃墟となってから数百年は立っておるな。」
街中の風化具合を見て話すバハムート。
その時、イフルがこちらに近づく気配を感じ取り咄嗟に弓矢を構える。
バハムートたちも辺りを警戒していると、物陰から無数の機械の蟲が現れたのだ。
「気持ち悪⁉」
「機械の蟲⁉」
バハムートが炎ブレスを放ち機械蟲を一掃する。
しかし次々と物陰から飛び出してくる。
「キリがない!全員あの巨城まで走れ!」
バハムートとウィンロスがリヴとイフルを背に乗せ一目散に城へ向かって走り出す。
蟲の大群も追ってくるが室内へ飛び込むと同時に門を閉め、蟲の侵入を防いだのだった。
「あ~びっくらこいた!あんな蟲見たこと無いで・・・!」
「あれも魔械竜の一種なのかしら?」
「どう見ても竜ちゃうやろ。」
「多分、生物兵器だと思う。」
イフルの言葉に全員が耳を傾ける。
「生物兵器だと?どういうことだ?」
「・・・セイグリットから聞いた話だとね、帝国軍は蟲を模倣した機械兵器を量産してるんだって。でも、その技術は元々セイグリットが人形ゴーレムを研究してた時に編み出したもの。帝国はセイグリットの技術を盗んで蟲型の生物兵器を作ったって。」
「じゃあここにいる蟲って・・・。」
「うん。セイグリットが作って配置したものだと思う。」
「どこまで行ってもロリババアの手に平の上かいな。」
「まあこのダンジョン、セイグリットが管理してるからね。」
一息ついた後、先を進む一同。
廃墟となった巨城内を探索しながら進んでいくと地下へ続く階段を見つけた。
バハムートたちがギリギリ通れる幅のため、所々詰まりながら下っていくととても場違いな空間へたどり着いた。
「何ここ?さっきまでの廃墟とは違って妙に綺麗じゃない?」
「天井の高さもかなりある。これほど広い空間の中央にあんな奇妙なものが無ければもう少し調べられるのだがな。」
バハムートの言う通り、中央にはドーム状のガラス瓶内に生けられる一輪の光るアジサイがポツンと置かれていたのだ。
「なんやこれ?こんな花見たこと無いで?」
「私も初めて見るわ。」
「エルフのあんたでも?」
(長い年月を生きてきた我でも存ぜぬ花だ。もしやこれは・・・。)
その時、突然花瓶の置かれたテーブルが床に収納されたのだ。
「ありゃ?どこ行った?」
「っ!皆上よ!」
リヴが叫ぶと同時に頭上から巨大な何かが落ちてきた。
咄嗟に回避した一同の前に現れたのは巨大な機械のカブトムシだった。
しかし従来のカブトムシとは違い異形の形をしている。
「これも大賢者が用意した生物兵器か!」
「蟲の、護蟲!」
咆哮を上げるカブトムシが花を護るべく、バハムートたちに牙を向くのだった。
リーシャが廊下を歩いていると屋外テラスにいるリリアを見つけた。
「こんな所にいたんですね。」
「リーシャ・・・。」
リリアの隣に立つリーシャ。
「・・・リーシャ、さっきはごめん。感情的になって銃を向けちゃって。」
「いいえ、私の方こそデリケートな話に首を突っ込んでしまいました。お互い様ですよ。」
「・・・うん。」
静かな仲直りが済むと後ろから何かがトテトテ歩いてきた。
振り返るとそこにいたのは小さな人形のセイグリットだった。
「あ、先生の小型ゴーレム統括人形だ。ここにいたんだね。何か用?」
冷静なリリアとは裏腹に、人形セイグリットを見たリーシャは口元を隠しわなわな震えていた。
「リーシャ?」
次の瞬間、感情が爆発したように人形セイグリットに抱き着いたのだ。
「可愛いぃ♡自宅にいたミニセイグリットさんたちも可愛かったですけどこの子ももっと可愛いです!小さいサイズですから抱っこしやすいし!」
勢いよく人形セイグリットを愛でるリーシャにリリアは少し引いていた。
そんなリーシャに頬をすりすりされながらも人形セイグリットはリリアにチリドッグを手渡した。
「え?」
「そういえばリリアさん、夕ご飯食べてませんでしたね。きっと心配して持ってきてくれたんですね。セイグリットさんの指示ですか?」
「いえ、たぶんこの子は自分の判断で持ってきてくれたんだと思う。この子には自我が芽生えてるから。」
「え、そうなんですか⁉」
「先生も偶然の産物だって言ってたしね。」
セイグリットが作ってきたモノの中でも珍しい突然変異体らしい。
魔法と錬金術は奥が深いものだ。
「私も錬金術を学んでみようかな?」
リーシャが人形セイグリットを可愛がる中、リリアは夜空の二つの月を見上げる。
(リーシャに怒られてから機神龍への復讐心が薄れてる。彼女の言う通りだったんだ。・・・私は、本当は何がしたいんだろう?)
自分の存在意義がわからなくなり、リリアはぎゅっと拳を握るのだった。
一方、タクマとアルセラはセイグリットに連れられ火山の火口付近まで足を運んでいた。
「やはりお主らの言う通り、マグマが活発化しておるな。」
「噴火の兆しがある。セイグリット、あんたから見て噴火までの猶予はどれくらいある?」
セイグリットはジッとマグマの動きを観察する。
「そうじゃの。・・・持って半日かの。」
「早いな。早急に対策を取らなければいけないぞ。」
「その件は儂が対処しよう。お主らにはやってもらいたいことがある。」
「またですか・・・、ここ最近そればっかだな。」
少しうんざりしたタクマだが三人は火山の洞窟を抜けると前方の上空に浮遊する大きな神殿が見えた。
「あれは、この島に来た時に見えた神殿。」
「あの神殿は巨神の巣じゃ。封印を解いたからもう戻ってきておるはずじゃが・・・。」
その時、頭上を巨大な影が暴風と共に飛行していった。
「でっかい機械の鳥⁉」
「あれがこの島の巨神『レーグル』じゃ。キュディたちがやってくる前からこの島に住み着いてる、言わば神獣に近い存在じゃ。」
「あれも神々が作ったってのか?」
「どうじゃろうな。レーグルが機械である以上、人為的に生み出されたのは確実。儂の推測じゃが数千年前の太古の文明時代に作られたと思っておる。」
「太古の文明・・・、そういえば魔大陸にもそれらしき遺跡とかも多く見たな。」
「歴史に残らない歴史、か。中々ロマンがあるが今はそれどころじゃない。セイグリット、俺たちは何をすればいいんだ?」
セイグリットは振り返りフッと笑みを見せる。
「あのレーグルを討伐するのじゃ。」
タクマとアルセラは眼を合わせる。
「「・・・はあっ⁉」」
セイグリットが杖を振り回し地面を強く突くと魔法壁の階段が生成され神殿へと道を繋いだ。
「俺たちに何させようってんだよ、セイグリット。」
階段を登りながらタクマが問う。
「・・・いい加減教えてください、セイグリットさん。貴女の目的は何ですか?」
セイグリットは歩みを止めた。
「あまり話とうはなかったが・・・、これ以上信用を失うわけにはいかんな。全て話そう。儂の目的は・・・。」
強風が吹き荒れセイグリットの声が遮られる。
だが彼女の言葉はタクマたちにしっかり伝わっており、二人は驚愕の表情で固まっていた。




