『第265章 神龍と少女 後』
タクマたちが島の調査をしている頃、セイグリットは上空に浮かぶ空中神殿へ足を運んでいた。
中央部への入り口には魔法壁が張られており、触れるとバチッと彼女の手を弾いた。
「キュディめ、なかなか強力な結界を使っておるな。じゃがこの先、奴に護らせているモノが必要となる。そのために・・・。」
小さな杖を取り出し魔法壁を軽く叩くと魔法壁はボロボロと崩れ去ったのだった。
「タクマたちにはちと厳しい仕事をしてもらおうかの。」
すっかり日も暮れ、タクマたちは拠点へ戻ってきた。
「キュディ、いるか?」
呼びかけるが返事がない。
するといつの間かセイグリットが目の前に現れた。
「焦ったぁ⁉」
「キュディならこっちじゃ。ついてこい。」
セイグリットに案内されたのは大きな装置のある部屋だった。
そこにキュディはいた。
「準備は出来たか?キュディ。」
「えぇ、丁度完了しました。」
装置に入れられていたのは以前タクマたちが回収した三つのギルティマーブルだった。
「これをどうするんだ?」
「まあ見ておれ。」
そこへ別室から護竜スピノサウルスが横たわる魔械竜を台車に乗せて持ってきたのだ。
「ご苦労様です、スピノザ。」
「なんだその魔械竜?」
「化石から復元した個体じゃ。この地の魔械竜は全てああやって復元しておる。無論、護竜たちもじゃ。」
スピノザは魔械竜を装置にセットし、キュディが装置を起動させるとギルティマーブルから魔力が引き抜かれて透明の石となり、その魔力が魔械竜へ移植される。
すると魔械竜が目覚め立ち上がったのだ。
「グレイド、あとは頼みます。」
キュディから指示を受けグレイドは目覚めた魔械竜を外へと連れて行った。
「とまあこんな感じでキュディにはギルティマーブルの浄化を頼み、魔械竜の生命力として利用しておるんじゃ。何事も有効活用せねばの。」
「なるほど、ウィンウィンなんですね。」
するとどこからか可愛らしい空腹音がなった。
振り返るとメルティナがお腹を押さえていた。
「お腹すいた・・・。」
「もう夕飯時じゃな。今宵は大勢じゃし儂が夕飯を用意しよう。」
「私もお手伝いします。」
「よい。魔法で量産するだけじゃ。リーシャも皆と待っておれ。」
そういいセイグリットは席を外した。
「この際だ。キュディ、調査の件も含めていろいろ話してもいいか?」
「神龍と話す機会なんてまず無いものな。」
「構いませんよ。」
休むスピノザに腰を掛けタクマとアルセラは質問交じりにキュディと会話をする中、ふとリリアを見た。
「アルセラ、ちょっと外すぜ。」
タクマは室内の水辺に座るリリアの隣に腰を下ろした。
「ふて腐れてても何も始まらないぞ。」
「ボクの勝手でしょ。ほっといて。」
「・・・あまり聞くつもりはなかったけど、お前とキュディに何があったんだ?」
「・・・・・何度も言うように、アイツはボクのお父さんを殺した。ずっと信じてたのに、アイツはボクを裏切ったんだ。」
「裏切る?キュディがか?」
アルセラと会話するキュディに振り向く。
「お父さんと機神龍はパートナー同士だったんだ。どんな困難も一緒に乗り越えてきたってお父さんによく自慢された。ボクも小さいころ一緒に過ごしたから家族同然の間柄だった。でも、ある日機神龍はお父さんを殺した。何も言わず突然・・・。どんなに理由を聞いても話してくれなかった。それから機神龍はボクを遠ざけ、その後先生に預けられた。」
「それでセイグリットに錬金術を学んだのか。」
「・・・正直ボクが錬金術を学んだ理由は機神龍に復讐するためだったんだ。」
「っ⁉」
驚きの発言に思わず声が飛び出しそうになった。
「また物騒なこと企んでたな・・・。」
「でもその理由が先生にバレて急遽破門にされた。そこからは君たちも知る通りだよ。」
話を振ったのはこちらだがリリアの過去を聞いたタクマはかける言葉が見つからなかった。
するとそこへリーシャがやってきたのだ。
「途中から話は聞いてましたが、リリアさん、貴女は本当に復讐のためにここまでやってきたのですか?」
リーシャは眼でタクマに後は任せてほしいと伝え、タクマはその場から離れた。
「お話を聞く限り、貴女はただ復讐のために錬金術を学んだとは思えませんでした。何か別の、もう一つの理由があるはずです。」
「ないよ。何度も言うようにボクはアイツに復讐する。お父さんの仇を取るんだ。」
「仇を取る、それは口実ですよね?」
リーシャの言葉にリリアはピクリと反応する。
「これでも私は様々な悩んでいる人を見てきました。リリアさん、貴女の本当の目的はキュディさんにお父さんのことを問い詰めることです。そのために力を、錬金術を身に着けた。違いますか?」
リーシャの鋭い指摘にリリアはぎゅっと拳を握った。
「違う、ボクは・・・、本当に機神龍を・・・!」
「このままでは誤った道へと進んでしまいます。自分の気持ちに素直になってください。そうすれば自ずと貴女のやるべきことが・・・。」
「うるさい‼」
衝動的になったリリアは隠し持っていた拳銃を手にリーシャへ銃口を向けた。
タクマたちが武器に手をかけたがリーシャ本人に止められる。
「大総統が言ってた!機神龍はボクたち家族を裏切ったんだ!そんな奴に今更話をしたところでお父さんは帰ってこない!誰が何と言おうとボクは機神龍を倒す!他でもないボクがやらなくちゃいけないんだ!」
「リリア・・・?」
彼女の言葉にキュディは困惑を隠せないでいた。
そんなキュディを見てアルセラは少し違和感を覚えた。
その時、リーシャが杖を地面に突くと強烈な風圧が放たれリリアを転倒させた。
「そんな一方的な理由で私たちが納得するとでも?本人と話し合いもしないで決めつけるのはおこがましいんですよ!」
怒りを見せるリーシャにタクマは苦笑いしている。
(そうだ。リーシャは怒るとやばいんだった・・・!)
「もしかして、昨晩彼女と何か話したのか?キュディ。」
「えぇ、少々昔話を・・・。」
あまり見せない怒りのリーシャ。
その気迫に圧されたのかリリアは腰を抜かし後ずさる。
「貴女が武力行使で黙らせようとするならやってみなさい。ただし、貴女も決して無事では済まないと覚悟なさい!」
リリアは完全に戦意喪失している。
そこにメルティナが間に割って入ってきた。
「待って待ってリーシャ!リーシャの本気は怪我じゃ済まないから!落ち着いて!」
そんな彼女らをお茶と煎餅をかじりながら眺めるタクマとアルセラ。
「いや皆も止めてよ‼」
「飯出来たぞ~。」
「おばあちゃーん⁉タイミング!」
セイグリットの持ってきた山盛りの『チリドッグ』に群がる一同にキレてるリーシャを必死に抑えるメルティナ。
もう現場はある意味カオス状態だった。
「私じゃ収集がつけられないよ~!助けてリヴお姉ちゃーん!」
「ん?」
「どしたリヴ?」
「いや、なんかメルティナの助けを求める声が聞こえたような?」
「気のせいやろ。」
現在ドラゴン組とイフルはダンジョン内の洞窟で一休みしていた。
「皆、準備はいい?」
「いつでも良いぞ。」
「リフレッシュ完了や。」
「ラルはイフルの側を離れないでね。」
「オッケー。」
一同が洞窟を抜けると広大な地下空洞に出た。
「ようやく本番てとこか?」
彼らの行く手には薄暗い地下空洞に佇む巨城の廃墟が彼らの来訪を待っていた。




