『第264章 神龍と少女 前』
「いやっほ~!」
「わ~い!」
「グアッ!」
広い大草原で護竜ヴェロキラプトルにまたがるタクマとメルティナは機械のオルニトミムスの群れを追いかけていた。
「この調子でどんどん追い込めラプター!」
その様子を高台から見下ろすアルセラとリーシャ。
「もの凄い意気投合だな。この前まで死闘してた者同士なのに。」
「でもメルティナさんも楽しそうです。」
昨日タクマたちと行動していたトレジャーハンタ―、キュディの正体はなんと神龍の一体『機神龍・QED=Δ』だった。
「機神龍・・・!」
「え⁉でもどう見ても人間の姿ですよ⁉まさかリヴさんと同じ人化のスキル⁉」
「残念ながら私の場合はちょっと違います。」
「こやつは機神龍の核そのものが人の姿をしておるんじゃ。なんせ神龍じゃ。何がどうなってても不思議ではない。」
だがそれ以前に気になることがある。
「・・・何故正体を隠して俺たちと行動を?」
「それはですね・・・。」
キュディが説明しようとしたその時、突然リリアが走り出しタクマの剣を奪い取ったのだ。
「うおっ⁉」
そのままリリアはキュディに向かって剣を振るう。
だがその剣先をキュディは摘まんで受け止めた。
「リリア・・・。」
「気安く呼ばないで!」
振り払い再び斬りかかろうとした時、セイグリットが立ちはだかり杖を振るうとリリアは突風に煽られ水に落ちる。
そして落ちた彼女を機械のプレシオサウルスが引き上げた。
「セイグリット殿・・・。」
「弟子の不躾を正すのも師の務め。あやつは暫し儂に任せい。」
プレシオサウルスに剣を返してもらったタクマは話を戻す。
「・・・アンタらはどんな関係なんだ?」
キュディとセイグリットは顔を見合わせる。
「一種の家族、とでも言おうかの。」
「セイグリット殿があなた方をここへ連れてきたのは私と会わせるためです。まずは貴女。」
「私?」
「同胞を、地神龍を救ってくださったことを深く感謝します。」
リーシャの前で頭を下げる。
「い、いえ!大したことじゃありませんよ!」
「大分大した事だろ・・・。」
ジト目でツッコむアルセラだった。
「今はこのペンダントの中でゆっくり休んでます。この子が元気になるまではテイムした私が責任をもって守ります。だから安心してください。」
「ありがとう。貴女は優しい方ですね。」
微笑むキュディにリーシャは照れくさそうに俯いた。
「セイグリットが俺たちをここへ連れてきた理由は分かった。ならどうして俺たちとバハムートたちを離したんだ?」
「ドラゴンたちには別件でイフルに同行してもらいたいのじゃ。心配はいらん。あるものを取ってきてほしいだけじゃからの。」
「・・・それで、貴女が私たちと同行していた理由をお教え願いたい。」
アルセラが話を戻した。
「・・・皆さんがどのような人物なのかは確かめるためです。いくらセイグリット殿の紹介と言えど人間はあまり信用してませんので。」
そういうキュディの言葉が少し曇るのだった。
「さて、そういうことじゃからお主らにはちとやってもらいたいことがある。」
「何がそういうことだよ。」
「黙って聞け。まずお主らには護竜と共に島の生態系の調査を頼む。近頃巨神も活動が活発になり明らかに異常が起きとる。お主らにはその異常を突き止めてもらいたいのじゃ。」
「魔械竜の楽園と呼ばれてるここがか?」
「うむ。儂等は手が離せぬ故な。では頼むぞ若造ども!」
「て、言われましたけど・・・、特に異常といった異常は無さそうなんですよね。」
辺りを見回すリーシャが言う。
「何より気になったのは彼女の言った巨神という存在だ。魔械竜とは違うとわかるが詳細を教えられてない。セイグリットはまだ私たちに何かを隠している。」
「アルセラさんはセイグリットさんを信用していないんですか?」
「・・・正直言うとそうだ。大賢者と言われる人らしいが、あの人が何を考えているのかわからない。私たちに黙ってこの島に連れてきたり、機神龍と友人だったり、万が一が起きた時、君たちを守れる自信が湧かないんだ。だから、怖い。」
「・・・誰だって初めてのことは不安で怖いですよ。セイグリットさんとは初対面でしたし。でもあの人は信頼のおける人だと確信してます。」
「それの根拠は?」
「イフルさんです。アルセラさんはまだいなかったのでわからないと思いますがイフルさんとは一度大きな事件を一緒に解決したことがあります。しばらく同行した私たちだからわかるんです。だからあのイフルさんが最も信頼しているセイグリットさんも信用に値する人、それが私たちの根拠です。」
「・・・そうか。なら私はイフルを信用する君たちを信じよう。仲間だからな。」
「はい。まずは私たちを信じ、それから徐々にセイグリットさんも信じてくださいね♪」
その時、オルニトミムスを追いかけていたラプターが急に立ち止まった。
「どうしたラプター?」
ラプターは姿勢を低くし唸り声を上げる。
すると前方の森の中からオルニトミムスの群れ。
そして機械のアロサウルスが現れたのだ。
「~~~~っ‼」
「こいつがそうか!」
「逃げてラプター!」
引き返すラプターをアロサウルスが追いかける。
「大変です!」
「行くぞ!頼むグレイド!」
「グオォ!」
アルセラとリーシャは護竜ティラノサウルスに飛び乗り崖を降りていく。
タクマとメルティナを乗せたラプターは深い樹海の奥へと逃げ込む。
「もう少し!」
そこへ木々を破壊しながらアロサウルスが迫ってきた。
「猪突猛進かよ⁉」
降ってくる木の根や岩の破片を避けながら突き進み太い木の根に絡まれた古い遺跡へとやってきた。
広場にアロサウルスが現れると、
「今だリリア!」
突如辺りに稲妻が迸り地面が隆起。
地中の鉄分から鋼のロープが錬成されアロサウルスを捕縛したのだ。
「うまくいったぜ。ナイスだリリア。」
物陰からリリアが出てきた。
だが彼女の顔はずっと反発的な表情だった。
「なんだ?まだふて腐れてるのか?」
「別に・・・。」
遅れてリーシャ達も合流し捕らえたアロサウルスをグレイドが押さえラプターが胴体に何かを取り付けた。
「その装置を付ければ元の生息地に戻るのか?」
「グアッ。」
装置を取り付けしばらく離れて様子を見ているとアロサウルスが起き、どこかへ歩き始めた。
「元の生息地にたどり着くまで後を付けよう。」
道なき森を進み、断崖エリアを抜けるとより整った環境の樹海にたどり着いた。
アロサウルスはそのまま森へと消えていき、護竜に乗るタクマたちは高所から辺りを見回す。
「あの魔械竜がこの地から離れた原因があるはずだ。調べるぞ。」
樹海の中を進む一同。
するとずっとだんまりだったリリアが話を振った。
「・・・ねぇ、どうして貴方達はこの調査を引き受けたの?」
「どうしてって、なんでそう思うんだ?」
「だって貴方達は先生に突然ここに連れてこられたのに、どうしてそうすんなり話を受け入れたのか理解できない。」
「理解も何も、俺たちはただの旅人だ。頼まれたらしっかり筋を通す。そういうもんだろ?」
「そうかもしれないけど・・・。」
「・・・お前の懸念は機神龍の事だろ。」
「・・・・・。」
リリアは黙ってしまう。
「あのドラゴンと過去にどんなことがあったのか知らねぇが、少なくとも奴は俺たちが今まで遭遇した神龍と違って話の分かる相手だ。お前が機神龍を目の敵にしてる理由はわからないが、一度面と向かって話してみたらどうだ?そしたらいろいろ吹っ切れるかもしれないぞ。」
「・・・お父さんを殺した奴にどう話し合えと?」
「そこはお前次第だ。」
そんなことを話し合っていると突如グレイドが立ち止まった。
「ん?どうした?」
「タクマ、この辺り硫黄の臭いがするぞ。」
「硫黄?でもそういうのって普通火山地帯にある奴じゃ?」
ここは樹海の真中、こんな所に硫黄があるはずがない。
するとリリアがグレイドから飛び降り地中を調べる。
「地中の温度が高い・・・、それに周りの草木が微妙に枯れている。」
リリアの言う通り、辺りの草木が所々しおれていた。
そよ風が吹くとタクマは何かを嗅ぎ取った。
「グレイド、川の上流へ向かってくれ。」
一同が川辺を遡り滝の上へやってくると異様な光景が広がっていた。
「これは・・・。」
川の上流では湯気が立っており、水面を覆いつくす無数の魚の死骸が浮いていたのだ。
「どう考えてもここは普通の川だったはずだ。それがお湯になってやがる。」
「地熱が上がって環境に影響が出たせいで魔械竜が本来の生息域を離れたってことね。」
タクマは活火山を見上げた。
「ひょっとしたら、噴火が近いのかもしれない。」




