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『第263章 亜人の隠れ集落』

一方、タクマたちと離されたバハムートたちはセイグリット宅で何冊もの書物を漁っていた。

「う~ん・・・、難しい文字ばかりで分かんない・・・。」

「死滅した太古の文字や未知の文集。これほどの書物を集めるに何年、いや何十年費やしたことか。」

「んなこたぁどうでもええねん。本当にイフルの言ってた鍵が入ってる本なんてあるんか?見つかる気せえへんけど?」

あの夜の後、イフルが言うには目的地に向かうにはセイグリットの隠した秘密の鍵が必要とのこと。

タクマたちと連絡の取れない今バハムートはイフルの申し出に応えるしかなかった。

「主様たち、大丈夫かな?」

「大丈夫であろう。下手なことをするつもりはないとイフルも言っておった。確かに大賢者の行動は気がかりではあるが、タクマたちなら心配いらんだろう。」

流石竜王であるバハムート、心に余裕を持っている。

そこへイフルがやってくる。

「どう皆?鍵見つかった?」

「全然やで。こんだけ探しても見つからへん。ホンマに鍵なんてあるんか?」

「セイグリットは嘘はつかないもん。特に私とレイガ相手だとね。」

頬を膨らませて言うイフルだった。

「リヴ、あそこの本棚から何冊か取ってきてくれ。」

「高⁉あんなところも探すの⁉おじ様でかいんだし自分で取ってよ!」

「我の体躯では本を傷つけてしまう恐れがある。よその宅で器物を破損させたくはない。」

「全く変なところで律儀なんだから・・・。」

リヴは渋々梯子を登り本を取ろうとする。

だがぎゅうぎゅうに詰まってるせいか硬くて抜けなった。

何とか引き抜こうと思いっきり本を引っ張る。

「おい、そんなに引っ張ったら・・・。」

案の定、スポンと引き抜けた瞬間にリヴが無数の本と一緒に落ちてきた。

「リヴ!」

バハムートが彼女を受け止め、本の雪崩はウィンロスに覆いかぶさった。

「なんでやねーん⁉」

完全に巻き沿いを食らったウィンロスは本の山に埋もれたのだった。

「なんて不運・・・。南無。」

「生きとるわい!」

本の山から顔を出すとバハムートは彼の角に引っかかった一冊の分厚い本に眼が行った。

「ウィンロス、じっとしておれ。」

本を持つとページの中から一つの金装飾の鍵が零れ落ちた。

「絵の中から鍵が⁉」

「なるほど、セイグリットらしいわ。大事な鍵を魔法で本の絵に埋め込んで隠す。昔から変わらない手ね。」

鍵を拾い一同は玄関前にやってくる。

そして鍵をドアノブに差し込み回す。

一瞬隙間が光り扉を開けると深い樹海の中に佇む一本の太い大樹。

その根元から一同は現れた。

「えらい深い森やな。」

「薄暗くてちょっと不気味。」

「セイグリットが言うにはここは皇都からかなり離れた地図にも載っていない隠された土地らしいわ。」

「この地にお主の言うダンジョンがあるのか?」

「らしいわ。でもその前にある人に会わないといけないみたい。行きましょう。」

イフルを先頭に一同は森の中を進むと前方に石壁が見えてきた。

「なんやこの石?壁みたいに横に連なっとるで?」

「え~と・・・。」

イフルがメモ帳を開く。

「セイグリットが教えてくれた方法は・・・、この石の出っ張りを下に引いて、ここの突き出た枝を押し込む。最後にここの隙間に呪文を唱える、と。『セイグリットは世界一可愛い』!」

「なんやねんその呪文・・・。」

「呪文なのかしら・・・?」

二人が呆れてるとゴゴゴと岩が動き、トンネルが目の前に現れたのだ。

「開くんかい!」

「ハァ~!身内だからこの呪文言うのすっごい恥ずかしいわ!早くいこ!」

赤くなった顔を覚ましながら一同は洞窟へ入り、入り口は再び石の壁に塞がれたのだった。


 一本道を進んでいくと前方に光が見えた。

「出口よ。」

出口を抜けるとそこに広がっていたのは何とも自然豊かな美しい大地だった。

川は清く、草木も穏やかに揺らめく。

「何ここ?めちゃくちゃ綺麗な所なんだけど?」

「大気中のマナが新鮮だ。なるほど、このマナがこの地に充満しこれほど美しい環境が形成されておるのか。」

そんなことを言ってると一羽の蝶がリヴの鼻先に止まった。

「ドラゴンである我らを恐れぬとはな。」

「へくちゅん!」

思わずくしゃみし蝶が飛んでいくとその視線の先に小さな集落を見つけた。


 その集落に住む住民は全て、亜人であった。

「きゃあぁ⁉ドラゴン⁉」

武器を持った獣人たちが前に出てきて警戒態勢に入った。

「なんや久しぶりやなこの感じ。」

「言ってる場合か!」

「おやめなさい。あんた達。」

すると獣人たちを掻き分け、ウサギの老婆が現れた。

「ゴホッゴホッ、君たちがセイグリットさんの言ってた子たちだね。あたしの家においで。」

四人はウサギのお婆さん宅に連れられお茶でもてなされた。

「すまないね。ドラゴン用の茶飲みが用意できなくて。」

「いやいやお構いなくやでおばちゃん。」

イフルがお茶を一口飲み、本題に入る。

「セイグリットが言ってたって、どういうことですか?」

「ゴホッ、あの人からエルフの女の子とドラゴンがここに来るって話があってね。君たちが来たらあのダンジョンを開けてくれって頼まれたのさ。」

「ダンジョンを、開ける?」

一同は場所を移し街中を歩む。

「ここのダンジョンは少し特殊でね。攻略済みのダンジョンなんだけどセイグリットさんが改造して入り口を閉じてしまったの。その管理をあたしに一任してね。」

「あのロリババアなに考えとんねん?」

「大人の考えることってよくわからないわね。」

(・・・セイグリットは物事の探求には真っ直ぐだけど、ダンジョンの管理なんてことは昔から興味がなかったはず。一体なんでそんなことを?)

セイグリットの事をよく知るイフルは不思議に思ってると突然足元に石が転がってきた。

「?」

石が飛んできた方を見るとダークエルフの少年が二人こちらを見ていた。

「よそ者め!この村から出ていけ!」

少年の一人がイフル目掛けて石を投げつけてきた。

だがバハムートがイフルを庇うと軽い『竜王の威圧』を放つ。

威圧に充てられた少年たちはビビりその場から逃げていった。

「教育がなってへんな。あのガキども。」

「ゴホッゴホッ、ごめんね。ここにいる子供たちは親を亡くした子たちが多くて。特にダークエルフの子たちは純血なエルフを嫉んでいる。自由に外で暮らしてる貴女に嫉妬してるのよ。」

ウサギのお婆さんが代わりに誤り頭を下げた。

「同じ亜人でもいざこざがあるのか。世も末だな。」

「それほどこの帝国が歪んでるってことよ。種族それぞれの良し悪しはあっても、それを一方的に押し付けるのは間違ってるわ。」

気を取り直して一同は墓地、大きな古墳(こふん)の地下にやってきた。

室内には多くの棺が陳列しており、前方に大きな壁画の下に立派な空きの棺が置かれていた。

「ゴホッゴホッ!」

「おばちゃん、さっきから大丈夫かいな?」

「大丈夫よ。もうすぐ楽になるから。」

「え?」

ウサギのお婆さんは壁画の前に立つ。

「この壁画がダンジョンへの扉。強力な魔法がかけられてて絶対に開かない扉。」

「そんなものどうやって開けるの?」

「簡単よ。()()()()()()()()。」

「「っ⁉」」

一同は驚く。

「あたしの命と繋げてあたしが生きてる限り、この扉は決して開かない。セイグリットさんが信頼する人が来るまでいろんな方法で生き永らえたわ。でも、もうその必要もなくなった。」

お婆さんは豪華な棺の前に立つ。

「お婆さん・・・。」

「もう自分の死期はとっくに迎えてたんだ。だから悲しむことはないよ。」

棺に横たわりバハムートたちが集まる。

「本来獣人はひっそりと命を終えるんだけど、誰かに看取ってもらうのも悪くないね。」

「・・・ありがとうお婆さん。後は私たちに任せて、ゆっくり休んでください。」

イフルに手を握られ、お婆さんは優しく微笑む。

「願わくば、未来ある子供たちに、幸、あれ・・・。」

四人に見守られながら、ウサギのお婆さんは静かに息を引き取った。

すると壁画がゆっくりと開き、ダンジョンの入り口が現れる。

イフルはお婆さんの手を胸元に合わせ、花を添え祈りを捧げた。

「・・・行こう、皆。」

イフルを先頭にバハムートたちはダンジョンへと乗り込むのだった。


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