『第二十六章 プライド』
「さ、出ておいで!」
眼鏡の女性に言われ部屋の奥からリヴがゆっくりと出てくると美しい青いドレス風の服装に身を包んだ彼女が出てきた。
タクマとリーシャはその姿に目を奪われた。
「ど、どう?」
初々しい反応をするリヴ。
その反応はあまりにもズルい。
「に、似合ってる・・・。」
「うわぁ、綺麗です!」
リーシャは目を輝かせていた。
「どうよこの服!ベースカラーは髪の色とベストマッチする深い青色に白い服の上に重ね着することで互いの色を引き立てる使用!そして個々に身に着けた金色のアクセサリー。これで気品のある見た目になるの!そして私のイチオシは額に付けた髪飾り!私の最高傑作よ!」
細かい説明を噛まずにペラペラと勢いに乗る女性を一旦落ち着かせ、例の件はどうなのか聞いてみた。
「あぁそのことなら安心していいよ。この服は彼女の魔力から編んだ服だからね。魔獣に変身しても魔力が変化して破れないし人型に戻っても再構築されて着てる状態になるから。」
「滅茶苦茶優れものだな・・・。」
「従魔製品なら私の右に出る者はいないわ!」
自信満々に腕を上げた。
「今更だけど俺はタクマだ。リヴの服ありがとな。」
「私はシャメイ!これからもうちを贔屓にしてくれ!」
店の見かけはボロくても腕は確かだ。
何かあれば遠慮なく頼ろう。
こうしてタクマ達はリヴ専用の衣服を手に入れた。
そして新しい服を貰ってご機嫌のリヴとおまけでアクセサリーを貰ったリーシャ。
一緒にバハムート達の待つ噴水広場に戻ると広場に大勢の人だかりが出来ているのに気付いた。
「何だ?」
気になり近づいて様子を見ると一人の豪華な身なりをした幼い少女とウィンロスが互いに口論しあっていた。
バハムートは二人を無視してただ腰を下ろしているだけ。
「せやから今タクマは席を外しとるっちゅうてんやろがい!」
「ですからそのタクマと言う方をお呼びなさいと言ってますの!」
「お、お嬢様!あまり彼らを刺激する発言はお控えください・・・!」
ドラゴンであるウィンロスに容赦なく言い合う令嬢。
執事は顔面蒼白だった。
「おい、何の騒ぎだ?」
人混みをかき分けタクマ達が合流した。
「あ、タクマ!」
合流すると同時に令嬢がタクマに気づく。
「貴方がタクマね・・・!」
キッと睨む令嬢。
そのままタクマの元に歩いてくる。
恨みを買うようなことは一切してないはずだったが令嬢がタクマの前に立つと同時にこう言い放った。
「貴方、どんなインチキを使ったんですの⁉」
「・・・は?」
タクマ達全員が首を傾げた。
一度人混みを解消させ、タクマ達一同と貴族のような幼い令嬢と執事で話し合いをする。
「申し遅れました。こちらこの地の領主様の一人娘「メーレン・シュヴァロフ」お嬢様にございます。そして私は執事の「フロウ」と申します。」
「・・・どうもタクマです。(棒)」
「リーシャと申します。」
タクマは先ほど言われた言葉のせいか若干不機嫌だった。
「さて、挨拶も済んだことですしタクマ様にはいろいろと白状してもらいますわ。」
メーレンがビシッとタクマを指さす。
「貴方、どんな手を使って最高種族のドラゴンを手なずけたんですの⁉」
タクマは機嫌が悪そうに答える。
「手なずける?人聞き悪い事言うな・・・!」
「せや!オレ等は自分から進んでタクマの従魔になったんやぞ!」
「無理して合わせなくても良いのよ?で、本当はどうやったんですの?」
説明しても全く聞く耳を持たないメーレンにタクマとウィンロスのイラつき度は更に上がる。
すると執事のフロウが言った。
「ここでは何ですし、我がシュヴァロフ家の屋敷にご招待したいのですがよろしいでしょうか?」
確かにずっと広場で言い合ってても埒が明かない。
提案を受け入れシュヴァロフ家の屋敷に招待されよう。
「あ、お連れの方々もご一緒に。」
「あ、どうも。」
一同は馬車に乗り屋敷に向かう。
移動中、タクマとウィンロスの二人はずっと不機嫌で空気がピリピリしていた。
(何事もなければいいですが・・・。)
リーシャの予感は悪い方に的中してしまったのはもう少し先の話。
カリブル街から少し内陸に進むと大きな屋敷が見えてきた。
あれがメーレンの屋敷だろう。
「さ、着きましたよ。」
馬車から降り案内されるがまま屋敷に入る一同。
大勢のメイドと執事がエントランスで出迎える。
「ではこちらの客室にてお待ちください。お茶を持ってきますので私は一度失礼いたします。」
フロウがお辞儀をして部屋を出て行った。
「さ、ここなら遠慮なく話せるわね!」
ドカッと椅子に座るメーレン。
「改めて聞くわ。どうやってドラゴンを従魔にしたの?」
「何度も言うがみんなから従魔になりたいと志願してくれた。俺から言ったんじゃない。」
鋭い目つきでにらみ合う二人に部屋の空気は重くるしった。
しばらくするとメーレンがフウっと息をつく。
「・・・本当の事みたいね。」
「潔いな。広場では全く信用しなかったくせに。」
不審に思っているとフロウがお茶と何やら加工された魔石を持って部屋に入ってきた。
「申し訳ありません、試すような真似をして。お嬢様を納得させるにはこの方法が確実だったのです。お嬢様本人は気づいていたみたいですが。」
どうやらフロウはあのまま広場にいたらメーレンの一点張りでタクマ達との関係に亀裂が起きてしまうことを恐れ、屋敷に戻させ真実の魔石を持ってきてメーレンを納得させようとしたらしい。
「いや、わかってくれたのならそれでいい。けど何で領主の娘が一介の冒険者の俺を探してたんだ?」
「せや。オレと旦那がタクマの従魔であることも知っとったみたいやし。」
窓からウィンロスが顔を覗かせる。
「実はですね・・・これは他言無用でお願いしますが、メーレンお嬢様はタクマ様と同じテイマーの職をお持ちなんです。」
話を聞いていたリーシャが驚いた。
貴族がテイマーの職を持つのは珍しくないが需要が低いのだ。
気高い貴族であるため従魔は高位種族でないと下に扱われてしまうらしい。
「高位種族。そっか、私達ドラゴンはその中でも最高位の種族に分類されてるんだっけ?」
「うむ。ドラゴンは他の魔獣に比べてより強い力を持つからな。」
「自画自賛するなよ・・・。」
「しとらん。」
「してないわよ。」
フロウが説明を続ける。
「タクマ様たちを知っていたのは先日海の依頼に出ていた冒険者たちの間で「ドラゴンを連れた子供たちに助けられた」と話題になってたんですよ。」
流石この地の領主。
情報が早い。
リーシャはあることに気づき話始める。
「てことは、メーレンさんはその最高位種族であるバハムートさん達を連れたタクマさんに・・・「嫉妬」してたんですか?」
メーレンはプイッとそっぽを向く。
(図星か・・・。)
全員でそう思った。
「お嬢様は既にある従魔と契約を成されていますが幾分種族がイマイチでして。」
「いやその言葉、契約した従魔に失礼でしょ!」
リヴが指摘する。
「ごもっともです。ですがお嬢様はあなた方の噂をお聞きした途端、お嬢様はタクマ様たちを探すよう手配をされまして・・・。」
「・・・嫌な予感しかしねぇ。」
一通り説明を聞き終えるとメーレンが立ち上がる。
「つまり私が言いたいのは、貴方のドラゴンを私に譲ってくれません事?」
その頃、どこかに位置する教会にて例の黒いローブの信教団が銅像の前で祈りをささげていた。
「・・・・・女神さまの信託、確かにお受けいたしました。」
先頭で祈っていたローブの男が立ち上がる。
「皆聞けい!これよりレーネ様より賜った信託により「悪魔召喚」を行う!悪魔を呼びこの国を滅亡に導こうぞ!」
「「うおぉぉぉぉぉ‼」」
その信教者の様子を水晶玉で覗く二人の影。
「ふふふっ。意外と使える人間たちね。」
「しかしこれまでの信託での命令は全て失敗に終わってます。彼らにとってこれが最後のチャンスでしょうね。」
水晶の前に座る女性と側に鎧をまとって立つ女性。
二人の背中には白い翼が生えており頭部には光の輪が浮いていた。
「そうね。そろそろ新しい信教団でも作ろうかしら?繁殖しすぎた人間の駆除にも繋がるし一石二鳥ね。」
そう言い席を立つ。
「レーネ様。どちらへ?」
「ん?水浴び♪」
神秘的な神殿の中をつかつかと歩くレーネはとある扉の前を通った。
「あ、ちょっと寄ってこうかしら?」
扉を押し開き階段を降りると稲妻で出来た檻が置かれており、中に一人の女性が入っていた。
「・・・‼」
「あら~?意外と元気そうね。ふふふ。お元気にしてました~?元創造神様♪」
「貴方のドラゴンを私に譲ってくれません事?」
とんでもないお願いにタクマは思わず立ち上がった。
「ふざけるな‼」
突然の怒鳴り声にリーシャとリヴはびっくりした。
「従魔は物じゃねぇ!互いを支えあう仲間だ!貴族だから偉いのか知らねぇが全て自分の思い通りになると思うな‼」
あまりの気迫に部屋にいる全員が固まる。
驚いてしばらくボーゼンとするメーレン。
すると次第に涙目になり、
「な、何よ!フロウ!この男私の言う事聞かないんだけど⁉家ではみんな私の言う事聞いてくれるのに‼」
メーレンは半泣きでフロウに言う。
「お、お嬢様。タクマ様たちはお客様であって身内ではございません。」
必死になだめようとするがメーレンは止まらなかった。
「もういいわ!あなた達に用はない!出て行って‼」
そう言いながらメーレンは部屋を出てしまった。
「お嬢様‼」
フロウも後を追うとするがもうメーレンの姿はなかった。
「も、申し訳ありません。来ていただいたばかりに失礼な言葉を・・・。」
「いえ、お気になさらず・・・。」
リーシャが返答するとタクマがあることを聞いた。
「フロウさん。メーレンが契約している従魔はどんな種族だ?」
「お嬢様の?」
「え⁉まさか主様、あの女の言う事に乗るの⁉」
「ちげーよ。どんな種族なのか把握するだけだ。」
「お嬢様の従魔は庭の厩舎にて住まわせてます。ご案内いたします。」
タクマ達は庭の厩舎に案内された。
広い厩舎には馬車ようの馬が三体並んでおり、その奥に馬と明らかに違う生き物がいた。
よく見てみるとリーシャは再び驚く。
「ワーウルフ⁉」
それはオオカミの顔に二足歩行の人型の魔獣「ワーウルフ」だった。
(人型、最近どっかでみたような?)
タクマは何か既視感を感じ考え込んでると、
(ルナのガルーダ!)
幼馴染の従魔を思い出した。
ワーウルフはタクマ達には気にも留めず畜産フォークで藁をまとめていた。
「彼がお嬢様の従魔ワーウルフです。控え時にはこうして身の回りの世話を手伝ってもらっているんです。」
「ワーウルフか。人間並みの知能を持つ希少な種族だ。これのどこがイマイチの種族と言うんだ?」
バハムートが疑問に思いフロウに問い直す。
「いえ、イマイチと思っているのは主人であるお嬢様だけなんです。見ての通り彼はこうして仕事を手伝ってくれるいい子なんで私達召使いはすごく感謝してるんですよ。」
話を聞いたタクマが口を開く。
「・・・なるほど。メーレン自身がワーウルフの価値に気づいてないのか。」
「確か前にギルドの掲示板見た時、ワーウルフはBランクの魔獣と書かれとったわ。」
これでハッキリした。
貴族としてのプライドがメーレンの価値観を歪めていたのだ。
「じゃぁあの女にワーウルフの魅力を分からせればもう私たちに執着してくることは無くなるのね?」
「そういう事だな。」
「で?どうわからせるんや?」
「ん~・・・!」
どうするか考えているとメイドの一人が慌ててこちらに走ってきた。
「フロウさん!こちらにお嬢様はいらっしゃいませんか⁉」
「いえ、おりませんが・・・何かあったのですか⁉」
「お嬢様がお嬢様が居なくなってしまったんです‼」
「何ですと⁉」
その言葉を聞いたワーウルフは慌てて道具を投げ捨て外へ走って行った。
「ワーウルフ⁉」
「主人を助けに行ったのだな。タクマ、我らも追うぞ!ワーウルフは嗅覚で主人を探すだろう!絶対見失うな!」
「分かった。皆行くぞ!」
「はい!」
「おう!」
「オッケー!」
一斉に走り出す一行。
そして彼らが向かった森からは異様な空気を漂わせていたのだった。




