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『第252章 最後のアーティファクト』

アルセラの前に突如として現れた伝説の魔狼『フェンリル』。

夜闇と対極の純白の体毛に身を包み、額に鉄兜を付けたその姿は生物とは思えない圧倒的存在感を放っていた。

「カリドゥーン、もしかしてこいつは・・・!」

『うむ。間違いない。儂等が探し求めていた三つ目にして最後のアーティファクト。フェンリルじゃ!』

「だがアーティファクトにしては随分生物的というか・・・、魔道具に見えない?」

『言ったであろう。フェンリルは自分の意志で動くアーティファクトじゃと。生物に化けるなど造作もないのじゃ。』

「まさか向こうから姿を現すとはな・・・、しかし一体なぜ?」

『おそらくお主が持つ二つのアーティファクト。その力を使いこなせるようになったからじゃろう。その力に共鳴し、フェンリル自らやってきたんじゃ!』

だが向こうは敵意をむき出しの様子。

とても仲間になってくれるような雰囲気ではなかった。

「・・・試そうというのか。私がアーティファクトを持つに相応しいかを。」

『十中八九その通りじゃろうな。これは試練じゃ。全てを持って己を認めさせてみろというのじゃろう。』

「・・・いいだろう。丁度力を欲してたところだ。必ず認めさせてみせる!勝負だ!フェンリル!」

「グオオォォォ‼」

咆哮を上げフェンリルが迫ってくる。

そして前足を振り下ろしてきた。

初撃を回避して右サイドに回り一撃を入れる。

しかし、

「硬い⁉」

まるで鋼鉄を叩いたかのように手ごたえがなく弾き飛ばされてしまう。

「くっ!」

受け身を取るがそのすぐ直後、フェンリルが目の前に迫っていたのだ。

「うおっ⁉」

なんとか紙一重で避けられた。

(速い!一瞬でも気を抜くとあっという間にやられる!)

地形の岩場を利用しフェンリルの猛攻を回避し続けるがなかなか反撃を入れる隙がない。

『避けてるだけじゃ勝ちはないぞ!』

「わかってる!」

襲い来る猛攻を掻い潜り、一瞬の隙をついた。

「破極牙線‼」

鋭い一撃がヒットしフェンリルが距離を取った。

「ようやく一撃か・・・。」

攻撃を当てたはいいがやはりダメージを受けた様子はない。

今のままではまるで歯が立たないようだ。

であれば、

「カリドゥーン。最初から本気で行くぞ!」

『出し惜しみして勝てる相手ではない!全力で行け!』

フェニックスのアーティファクトを装着し紅蓮の紅騎士へ換装するアルセラ。

炎の翼を羽ばたかせ空を飛んだ。

「飛べれば奴の速さに追いつける!行くぞ!」

カリドゥーンに炎を纏わせ紅蓮の一撃をお見舞い。

フェンリルに直撃した。

「まだだ!」

脚の手甲を不死鳥のかぎ爪に変形させフェンリルの顎下を思いっきり蹴り上げる。

しかし大した怯みもせず、次の瞬間アルセラに嚙みついたのだ。

「ぐあっ⁉」

アルセラを咥えたまま振り回し岩に叩きつけた。

『大丈夫か小娘!』

「大丈夫だ・・・。不死鳥の力ですぐ回復する。でも、全力で技を叩きこんだが全く応えてない様子だ。」

『当然と言えば当然か。フェンリルは三つのアーティファクトの中で最も強力な魔道具じゃ。それに加え高い知能も持つ。生半可な覚悟では認めさせるのも夢物語じゃ。』

「上等だ。今の私が奴に相応しいかどうか、見せてやる!」

カリドゥーンの話を聞いたアルセラは立ち上がりシルバーパイソンのアーティファクトに付け替えた。

氷絶の鎧を纏い雪の結晶が髪をポニテに束ねる氷の騎士となる。

その時、フェンリルはかつての使い手、古の勇者の面影をアルセラと重ね笑みを浮かべた。

「魔大陸で特訓した成果、今こそ披露だ!」

冷気漂うカリドゥーンを構え眼を閉じる。

「『我が騎士道にかけて、汝に打ち勝つ』‼」

眼を見開き金色の瞳となったアルセラは冷気をその身に纏い背後に白い大蛇が現れる。

「『氷絶・白蛇』‼」

そして大蛇と飛び出し轟音と共にフェンリルへ迫る。

「ハアァァァァ‼」

そして強力な一撃がフェンリルに直撃。

大爆発を起こした。

「ハァ、ハァ・・・。どうだ?」

煙の中立ち尽くすアルセラ。

・・・だがその時、

『っ‼後ろじゃ‼』

なんとフェンリルが背後から襲い掛かり前足でアルセラを叩きつけてしまったのだ。

「がっ⁉」

押しつぶされそうなくらい押さえられる。

「そんな、持てる最大火力をぶつけたはずなのに・・・⁉」

あの一撃を受けて傷一つないフェンリルに驚愕する。

フェンリルはアルセラを叩き飛ばし口部に光を溜め始めた。

「ま、まさか・・・⁉」

予感は的中し、フェンリルが純白のブレスを放ちアルセラは光に飲み込まれた。

ブレスの振動は凄まじく、和国にいたタクマたちにまで届いていた。

「っ⁉なんだこの揺れ⁉」

「地震ですか⁉」

・・・フェンリルが立ち尽くす先にはブレスによって地面が抉られた荒野が広がっていた。

そしてその中腹には瀕死のアルセラが横たわっている。

(なんて強さだ・・・。これがアーティファクトの、フェンリルの力なのか・・・?)

もはや戦える状態ではなく意識も遠のいていく。

そこにフェンリルが目の前に現れる。

「・・・・・。」

圧倒的存在の前にアルセラは成す術がなく惨敗し、そこで意識が途絶えたのだった。



 「・・さん!・・・ラさん!アルセラさん!」

「っ‼」

リーシャの呼びかけに目が覚めるアルセラ。

「よかった~!アルセラさ~ん!」

「リーシャ、それにここは?」

眼が覚めたアルセラは早朝の寝室にいたのだ。

「起きたか。アルセラ。」

「タクマ・・・。」

「妙な揺れがしたから様子を見に来てみれば地形が抉られててそこにお前がカリドゥーンと倒れてたんだ。」

「そうだ!カリドゥーンは⁉」

「ここにおるわ。」

横には包帯巻きにされたカリドゥーンがいた。

彼女も無事だったようだ。

「・・・何があったんだ。昨日の夜、あの場所で?」

アルセラはカリドゥーンを見て彼女は無言で頷いた。

「実は・・・。」

特訓中、突然最後のアーティファクト『フェンリル』が現れたこと。

戦いを挑み、敗北したこと。

全てを話した。

「まさかアーティファクトの方から現れるなんて。しかも伝説の魔狼フェンリルか。」

「カリドゥーン。あの後フェンリルは?」

「どこかへ去っていった。お主を認めるにはまだ相応しくないと判断したのじゃろう。」

「そう、か・・・。」

はっきり言われると悔しい気持ちが沸々と抱く。

「まあ聞いた限り、フェンリルはまた現れる可能性がある。次はもっと強くなっていつかリベンジしろ。何はともあれ、無事でよかったよ。」

「・・・あぁ。ありがとう。」

いずれ再戦のためもっと強くなる。

そう決意するアルセラであった。

「さて、アルセラも起きたし、出発の準備をするか。」

「もう出るのか?」

「あまり長居してもあれだしな。魔大陸方面から旅の続きをしようと思てるんだが・・・。」

「ちょっと待てい!」

突然病室にラセンがスライディングインしてきた。

「びっくりしたぁ⁉脅かすなラセン!」

「わりぃわりぃ。出発前に思い出せてよかったぜ。」

そういい差し出したのは一通の手紙だった。

「これは?」

「二日前にお前がいる魔大陸に送ろうとこの国に届けられてな。その前にお前らが来たから直接渡しとくぜ。」

誰からの手紙だろうと中身を確認すると、

「イフルからだ!」

差出人は知り合いのエルフの少女、イフルからだった。

「なんて書いてあるんだ?」

『拝啓、タクマ。元気にしてる?実は今私はルイラス帝国にいるの。ずっと行方知らずだった古い知り合いと偶然会えてね。ただちょっとこの国で面倒な事が起きてて人手が欲しいのよ。結構危険な件なんだけど、迷惑じゃなければ手を貸してくれるとありがたいわ。無理にとは言わないから貴方たちが決めてね。それじゃ、良い旅を。~イフルより~』

「・・・だってさ。」

「ルイラス帝国・・・。」

ラセンはルスターブ中将率いる帝国軍を思い出し表情が曇る。

「ルイラス帝国は亜人差別が強い国なんだよな?そんな所にエルフの彼女がいて大丈夫なのか?」

「その古い知り合いに匿ってもらってるのかわからないが、わざわざ手紙で知らせてくる辺り相当困ってると見た。だったら・・・。」

タクマの表情にアルセラとリーシャは分かりきったように笑った。

「行くに決まってますよね。」

「タクマの事だ。私たちはどこまでもついていくぞ。」

「よし!それじゃ次の目的地はルイラス帝国だ!皆それぞれ準備を進めてくれ!」

「はい!」

「おう!」


 「・・・ということが昨日決まったらしい。」

「道理で皆ちょっと忙しそうやったわけや。」

和国の見渡せる丘上の公園でくつろぐバハムートとウィンロスの二頭。

「ルイラス帝国か。数年前からあまりいい噂は聞かん。」

「この前の帝国軍連中クソやったからな。思い出しただけで腹立つで!」

ぷんすこ怒るウィンロスだがふとバハムートを見ると彼は少し寂しそうな眼をしていた。

「・・・どしたん?いつもより覇気がないで?」

「そう見えたか。・・・少し昔を思い出していただけだ。」

「・・・ニーズヘッグの事、残念やったな。」

「あぁ。だが良いのだ。最後の最後にあやつと分かり合えた。それだけで十分救いになる。今はあやつを苦しみから解放してやれたことを喜ばしく思う。」

「そうか。なら良かったで。」

「それと、ほれ。」

バハムートが従魔証明のスカーフを渡した。

「あ!オレのスカーフ!失くしたと思っとったで!旦那が拾っといてくれてたんか!」

「・・・いや、我ではない。我の親友だ。」

「っ!」

「たった一人のな・・・。」

千年前の、かつての仲間との思い出に浸るバハムートなのであった。


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