『第250章 ジエトとの決着』
共に極限状態へと強化されたタクマとジエトが戦いながら広大なガイアデロスの背の上全体を物凄い速度で縦横無尽に駆け回る。
「『六突』!」
「居合・炎突!」
互いの強力な突きが弾かれ地上に落下する。
立ち上がり身構えたその時、轟音と爆風が吹き荒れた。
「っ!バハムート⁉」
途端にガイアデロスの進行速度が下がったことにジエトはスキル『千里眼』を発動させる。
「ガイアデロスのブレスを防ぎ切ったのか⁉ありえねぇ・・・!こんなことが・・・⁉」
先ほどまでの余裕の笑みが完全に消え動揺を隠しきれないジエト。
「言っただろ。俺の相棒を侮るなってな。」
「タクマぁ・・・!」
動揺から怒りの表情に変わり、再び激しい戦闘となるのだった。
一方、リーシャ達はガイアデロスのテイムを上書きするため奮闘しているが神のテイムを上書きするのは当然一筋縄ではいかず、何度試しても弾かれてしまうのだ。
「痛っ⁉」
「大丈夫⁉」
「はい・・・。でもやっぱりだめ。何度試してもテイムを弾かれてしまいます。」
「腐っても神と言うことね。あぁもう面倒くさい!」
半ギレで赤い従魔結石を殴り付けるリヴだった。
「さっきの光、たぶんジエトが極限状態を解放したのかもしれない。急がないとタクマも危ないよ。」
「そうは言っても地神龍を止めねぇとどうにもならへんやん。」
皆が頭を悩ませる。
(でも、この龍を止められるのは私しかいない。私が何とかしないと・・・!)
再びリーシャがテイム魔法を発動し魔法陣を張る。
しかし赤い従魔結石の強力な魔力に反発され赤い稲妻が走る。
「いっ⁉」
「リーシャ!」
(タクマさんだって戦ってる!私だって、あの人の仲間なんだから!絶対に守る!和国も、仲間も!)
その時、突如自身の中に悲しい感情が伝わってきたのだ。
(っ⁉何⁉)
一瞬驚いたが冷静になると、それは地神龍ガイアデロスの感情であった。
(神龍が、この子の感情がテイム魔法を通じて伝わってくる。)
眼を閉じ意識を集中すると真っ暗な空間の中、目の前に鮮やかに輝く緑の炎が燃えていた。
「・・・貴方が地神龍ですね。」
『グルゥ。』
言葉が理解できる。
リーシャはガイアデロスとの会話を試みた。
「・・・そうですか。貴方も、本当はこんなことしたくないんですね。でも従神に支配され無理やり動かされてる。そうですね?」
ガイアデロスも意識はあったが赤い従魔結石『オリジン』の強力すぎる力に抗えずどうすることも出来なかったと嘆いてた。
このままでは多くの命を奪ってしまいかねないと恐れている。
「優しいんですね。貴方の温かい気持ちが伝わってきます。だからこそ苦しんですよね。・・・私たちは貴方を止めたい。でも私たちだけじゃどうしても力が足りません。だからどうか、貴方の力も貸してほしんです。」
リーシャはそっと手を差し出す。
「もうこれ以上苦しめたくない。和国も友達も、仲間も、全部守りたいんです!そして、貴方自身も救いたい。どうか、私を信じてください。」
リーシャの真っ直ぐな眼差しにガイアデロスは心を打たれたのか、ゆっくり近づきリーシャの手に触れたのだった。
展開された魔法陣が突如輝きを増す。
「なんだ⁉急に魔力が強まった⁉」
「リーシャ⁉なにしたの⁉」
「説明してる暇がありません!皆さん!私に魔力を分けてください!今ならこの子を、神龍を助けられます!」
「神龍を助ける⁉何言いだすのリーシャ!」
「ごちゃごちゃ言うなやリヴ!リーシャがやるつってんや!オレらのありったけの魔力、全部くれたるわぁ!」
「私も手伝う!皆!私の鎖を使って!」
イビルが背から魔鎖を出しそれぞれに持たせる。
「私の『マジックインダクション』でより効率よく魔力を流すわ!」
「よっしゃ行くで!おらぁぁぁ‼」
「もう!こうなったらヤケよ!」
ウィンロス、リヴ、アルセラとカリドゥーンの魔力が魔法陣に注がれる。
(あともう一押し!)
「イビル!私にも鎖を持たせて!」
メルティナの特別な魔力も加わり一気に輝きが増す。
「皆さんありがとうございます!」
(絶対に成功させる!力を貸してくれた地神龍のためにも!)
杖を掲げるとガイアデロスの頭上に翡翠に輝く巨大な魔法陣が展開されるのだった。
そしてタクマとジエトの極限同士の戦いも熾烈を極める。
「オリジンで解放した俺の極限状態が遥かに上だ!お前の極限とはわけが違うぜ!」
鋭い突きがタクマを弾き飛ばし、瞬時に先回りし再び弾き飛ばすの繰り返し。
地面に叩きつけられるタクマだがその全てを受け流していた。
そこに一瞬の速度で背後に現れるラウタールを構えたジエト。
「これで終わりだ!消えろ‼」
槍を振り下ろしたその時、後ろを向いたままタクマがラウタールを掴み止めたのだ。
「「消えるのはお前だ・・・!」」
女性と合わさった声を発したと同時に、身体から黒い炎の翼を生やし極限状態から黒の竜化に切り替わった。
その瞬間、ジエトは覚えのある恐怖に包まれ顔を青ざめたのだ。
(な⁉こ、この禍々しい魔力、まさか・・・⁉)
気が付くとタクマの後ろ蹴りがジエトの腹部に食い込んでいた。
蹴り飛ばされた直後、先回りしたタクマに殴る蹴るの連続で上空へと飛ばされ、更にその上に黒い炎の拳を構え恐ろしい赤い眼を光らすタクマが現れる。
(思い出した!この力、あの黒炎・・・!何故死んだはずのお前がそこにいる⁉『黒魔のシーナ』‼)
千年前、唯一ジエトに恐怖と言う感情を植え付けたただ一人の人間、シーナの姿と重なったタクマの一撃が炸裂し地面に叩き落された。
大きくバウンドと同時に背後に拳を構えるタクマが現れる。
『竜の撃鉄‼』
超強力な一撃がジエトの脇腹に命中し幾つもの骨を砕き、神格に亀裂を入れた。
そして殴り飛ばされたジエトは樹や岩、遺跡の壁も貫通し広間に倒れる。
「がふっ・・・!ぐぉ・・・!」
計り知れないダメージを受けたジエトはもうまともに立つことも出来ない。
それどころか足すら動かなかった。
(は、早く・・・、逃げ・・・!)
這いずって逃げようとするジエトを彼は逃がさず背を踏みつけた。
「「・・・お前とは少なからず因縁があった。今も、昔も。これまで多くの命を弄んだお前を、俺は許さない。殺す。何が何でも殺す。神であっても殺す。お前に奪われた命の分まで殺す。何度でも、何度でも。」」
二重の声と赤い瞳で見下ろすタクマは剣をジエトの背に添える。
「い、嫌だ・・・!死にたくない・・・!死にたくない!俺は神なんだぞ・・・!絶対的な存在なんだぞ!嫌だ、嫌だ・・・!」
惨めにもがくが彼の運命はもう変わらない。
「「さよならだ。」」
トスッと剣を突き刺し、神格を砕いた。
そしてジエトの身体は光の塵となりその形を失い最後まで惨めな姿だった従神は、消滅したのだった。
「『テイム』‼」
同直後に巨大な翡翠の魔法陣が地神龍の巨体を包みこむ。
そしてガイアデロスの行進も止まり、赤い瞳が穏やかに落ち着くのだった。
「や、やった・・・!」
ウィンロスたちの力もあり、リーシャはガイアデロスのテイムの上書きを成功させたのだ。
「テイム、できたの・・・?」
「はい・・・!歩みも止まりました。和国もこの子も、もう大丈夫です・・・!あ。」
体力の限界で倒れるリーシャをメルティナが受け止める。
だがその時、ガイアデロスが突然光りに包まれたのだ。
「え、え⁉何⁉今度は何なの⁉」
「これは・・・?」
光りに包まれたガイアデロスは一瞬にして、その姿を消した。
「え?」
そして頭部にいたリーシャ達は空中に放り出され、当然、
「ええぇぇぇ~~⁉」
「なんでやね~~~ん⁉」
仲良く落下したのだった。
「せっかく助かったと思ったのに~⁉」
「ウィンロス!リヴ!頼む!」
「そうしたいのはやまやまだけどさっきの魔力譲渡で魔力枯渇してて・・・!」
「飛べる体力もうありまへ~ん!」
「嘘だろ~⁉」
「「うわぁぁ~~⁉」」
地面に落ちそうになった瞬間、大地から突如樹木が生え草木が生い茂った。
草がクッションとなりリーシャ達は助かったのだ。
「この樹は?」
「無論、我デアル。」
大地からホウライが顔を出し、口を開けると中からタクマが出てきた。
「よっ。お互い無事で何より。」
「タクマさん‼」
「主様~‼」
二人の少女がタクマに飛びつき、疲弊した身体では支えきれず転倒したのは言うまでもない。




