『第249章 極限VS極限』
ジエトの力により地神龍がブレスの前兆を見せる。
それに気付いたラセンやヴリトスたちは早急に対処に行動を移していた。
『魔王様!船の防壁バリア稼働可能です!』
「わかった。エネルギーの装填を急げ。」
通信魔法で現状を把握するヴリトス。
「奴が放とうとしている攻撃は大地を破壊する。この国も一瞬にして焦土と化してしまうだろう。」
「防ぐ手段は無いんですか?」
「我らの船に搭載してある防壁を展開してみるが防ぎきれる自信が微塵もない。だが何もしないよりは遥かにマシだろう。」
「くそっ!俺たちも何か出来れば・・・!」
何もできない悔しさに歯を食いしばるラセン。
その時だった。
地面が揺れだし、地中から樹木の竜が現れたのだ。
「お待ちどうやで!」
竜の頭部から飛び降りてきたのは妖狐族の少女、コヨウだった。
「コヨウ!ホウライ!」
突然現れた樹竜にヴリトス含め、魔王軍は驚いていた。
「ごめんな。縄張りの結界張りに時間かかってもうた。」
「いや来てくれて心強いぜ。」
ホウライは地神龍の方を向く。
「我ガ時間ヲ稼グ。ソノ間ニオ主等ハ守リヲ固メヨ。」
「頼むでホウライ!」
コヨウがグッと親指を立て、ホウライは山の断崖から飛び降り地中に潜っていった。
「話は竜王から聞いとる!ラセン!これを魔族の皆に飲ませてや。」
「何だこれ?」
コヨウに渡されたのは紫色の丸薬だった。
「一時的に妖力を底上げさせる漢方や。これで透明な壁を張りまくるんや!」
「でも防ぎきれる自信が・・・。」
「いいから早よせえや!時間無いで!」
何やら急かすコヨウだが勢いに押され魔王軍は次々と丸薬を飲み込み、一斉に顔色が悪くなった。
ヴリトスも含めて。
「あ、漢方激苦やから気い付けや。」
「先に言ってやれよ・・・。」
荒野の地中をかけるホウライは地神龍の外殻の大地を潜って駆け上がる。
(ヤハリ外殻ハ自然ノ大地ソノモノ。コレナラバ我モ乗リ込メルト言ウモノ。)
ホウライの眼光が光ると地中から無数の樹木のツタが伸び、結晶の背びれに巻き付いて突出を押さえ込んだ。
「あのツタは⁉」
「ホウライか!」
それでも背びれの突出は完全には止められないが十分時間稼ぎにはなる。
(長クハ持タン。早急ニ頼ミマスル。竜王殿!)
ホウライのおかげで猶予ができ、従魔結石の力で翡翠に輝く極限状態となったタクマとバハムートは神器ラウタールを操るジエトと激しく交戦していた。
「合わせろバハムート!」
「心得た!」
見事な連携でジエトを圧倒していく。
・・・かに見えたが、
「報告通りだな。」
剣と爪を槍でからめとり二人の動きを止めたのだ。
そして六つのラウタールを螺旋に回転させ二人を弾き飛ばした。
「俺はレーネのようにはいかねぇぜ?」
「マジかよ・・・。極限状態になっても攻めきれないなんて初めてだぞ?」
妙なことにジエト相手には力を解放しても少々手こずっている。
「極限状態は有限だ。効果が切れると我らは動けなくなる。そうなれば、わかるな・・・?」
「あぁ。この限られた時間内に、奴を倒す!」
二人は再び飛び出しジエトに迫る。
だが当のジエトは終始笑みを見せていた。
「流石に極限状態を相手にするのはキツイな。だが今の俺にはアレがある。せっかくだ。お前らに見せてやるよ。最初で最後の歴史的瞬間を!」
その時、ガイアデロス頭部に設置した装置が突然起動し赤い従魔結石『オリジン』から魔力が溢れだし、地面を伝ってジエトに吸収されていく。
そしてジエトの身体から赤い稲妻が迸り、翼と髪が赤く変色。
眼も白くギラつく赤い極限状態となったのだ。
「極限状態・・・⁉」
「気をつけろタクマ。あれはもはや一時も気を抜くことは出来なくなった。我らの極限状態のタイムリミットも近い。早急に決着をつけるぞ!」
タクマとバハムートが気を引き締め身構えたその時、後ろの方でミシミシと嫌な音が聞こえてきた。
ホウライの力で樹木の根が絡みついたガイアデロスの背びれが徐々に勢いを取り戻していたのだ。
背びれが突出し根が引き継ぎられていく。
(クッ!コレ以上ハ持タン!)
とうとう抑えるのも限界となり、根が全て引きちぎられ背びれが順に突出し頭部に到達。
口部に莫大なエネルギーが蓄積されていく。
「まずい!このままじゃ!」
焦るタクマ。
すると、
「・・・すまぬがタクマ、我は戦線から離脱する。その代わり和国は我が守ろう。」
バハムートの決意の眼差しを見たタクマは、静かに頷いた。
「・・・わかった。お前を信じる。後は任せてくれ。」
互いに笑みを浮かべ、バハムートはその場から飛翔していった。
「ガイアデロスのブレスは止められない。例え竜王であってもな。」
「俺の相棒を侮るなよ?」
タクマも本気を出し眼が白くギラつく。
「お前との戦いもこれが最後だ!覚悟しろ、ジエト!」
互いに極限状態となった両者は飛び出し、眼で追いつけない速度でぶつかり合う。
その時、タクマの中で別の心音が強く鼓動した。
『よくも私のドラゴンたちを苦しめてくれたね。千年間の因縁、ここで晴らす!』
背びれの突出よりも速く飛ぶバハムートはガイアデロスと和国との間に留まる。
大きく口を開けるガイアデロスを見てふと昔のことを思い出した。
「まるであの時のようだな。ニーズヘッグ。千年前、ジエトが呼び起こした悪魔獣の熱線を二人で何とかしようと奮闘したものよ。・・・あの時は我らも今ほど力を有していなかった。悪魔獣の砲撃はかのワイバーンのおかげで難を逃れたが、此度は違う。」
翼を広げると金色に輝き、凄まじい魔力が口部へ集束されていく。
それと同時に三つの魔法陣が現れバハムートの周囲を浮遊する。
その時、彼の背にニーズヘッグがそっと手を触れたような気がした。
思わず笑みを見せるバハムート。
そしてガイアデロスの背びれが一斉に引っ込み、大気を震わす極大の熱線を発射した。
「来たぞ!船の防壁システム発動!並びに魔導士部隊、魔法壁展開!」
ヴリトスたちの指示で船から防壁が射出され両国の魔導士部隊が魔法壁を何重にも張る。
「だが完全に防ぎきれるかわからないぞ!」
「いや防ぐのはブレスやないで!」
「え?」
迫りくる熱戦を前にバハムートは、
「従神よ。貴様との因縁、今ここで断ち切らせてもらう!」
口部の魔力が圧縮され、辺りが一瞬無音となる。
そして、
『超天竜王砲‼』
全ての魔法陣が一つに重なりとてつもない威力の白銀ブレスを放つ。
両者のブレスが衝突し押し合いとなる。
その余波は想像を絶し荒野の岩が微塵となる。
「うおぉぉ⁉」
「な、なんて力だ⁉余波だけでこれほどとは・・・!」
魔法壁のおかげで緩和はされているがそれでも衝撃はヴリトスやラセンたちにも吹き荒れていた。
「ウオオオォォォォ‼」
バハムートのブレスが徐々にガイアデロスを押していき、最後の力を振り絞りブレスをかき消す。
そして轟音と共にガイアデロスに直撃、大爆発を起こした。
爆風が吹き荒れた後、煙が晴れるとそこには無傷のガイアデロスが顔を現した。
「嘘だろ・・・⁉バハムートのあのとんでもねぇブレスを受けて無傷かよ⁉」
「神龍、伝説には聞いていたが底知れない怪物だ・・・!」
自身の持つ最大級の大技を放ったことでバハムートの身体は既に限界を迎えていた。
飛び続けるのも出来ないほどに。
「ハァ、ハァ・・・、これでいい・・・。」
よく見るとガイアデロスの様子が少しおかしかった。
若干俯きになり進行速度も遅くなったのだ。
幾ら神龍と言えど無理やりあのような大技を放ったら流石に堪えるようだ。
意識が保てなくなったバハムートは極限状態が解け倒れるように落下していった。
(後は頼むぞ・・・。タクマ・・・。」




