『第248章 水雷の竜』
「『六突』!」
「うわっ⁉」
六つの神器ラウタールによる攻撃がタクマを突き飛ばす。
すると土煙から雷の竜化となったタクマが飛び出し、雷速の速さでジエトに接近する。
「性懲りもなく突っ込むか!また返り討ちだ!」
「同じ手は食らうか!」
咄嗟に水の竜化に切り替わりしなる動きで刺突を回避。
そのまま水の尻尾で足元に巻き付きジエトを投げ飛ばす。
「チィッ!」
だが投げ飛ばされたままカウンターを放ち両者とも吹っ飛ばされる。
「まだだぁ!」
再び雷の竜化となり加速。
ジエトが立ち上がる瞬間に目の前まで迫り炎の竜化と切り替わる。
「居合・竜炎斬!」
至近距離の炎の刃が振られるがラウタールでガードされる。
「状況に応じて変身たぁ随分な曲芸だな!」
「出し惜しみして勝てる相手じゃないからな!」
左手に鞘を持ち二刀流となる。
「居合・鬼炎!」
追撃の炎の一閃がラウタールの一本を弾き飛ばす。
「無駄だ!ラウタールは六本だぜ!」
すぐさま別のラウタールが突き出され今度はタクマが弾き飛ばされる。
「ほらどうした!また雷で俺の下に来てみろ!」
そう挑発するジエト。
(このままじゃ同じことの繰り返しだ。ただ近づいて強い一撃を入れても奴には通用しない。どうしても竜化を切り替えるとき、僅かな隙ができちまう。素早くかつ強力な一撃まで繋げるには・・・、っ!)
するとタクマはあることを閃いた。
「ぶっつけ本番、試してみるか!」
二刀流を構え深く深呼吸すると竜化が解ける。
(変身を解いた?何をする気だ?)
タクマは意識を集中させる。
(水のようにしなやかに、雷のような激しさを・・・。)
するとそれぞれの剣に水と、雷を纏わせていく。
「流れる雷鳴、これが答えだ!」
眼を見開くとすさまじいオーラがタクマからあふれ出る。
そして彼の髪が青と黄色の鮮やかなグラデーションに変色し額に蒼い角と足に雷の爪、水の尻尾を纏う。
『水雷竜‼』
水と雷、二つの属性の融合。
雷炎に続く新たな姿『水雷竜』へと目覚めたのだ。
「二属性の融合だと⁉ハハッ、ハハハッ!面白れぇ!神に、俺相手にどんな悪あがきか見せてもらおうじゃねぇか!」
「悪あがきかどうか、身をもって思い知れ!」
走り出すと先ほどよりも速く、そして流れるように地を駆け回る。
ジエトの放つ魔法を運河のごとく掻い潜り、雷鳴の速度で斬り付ける。
(動きに一切の無駄がなくなった。なるほど、これが水雷竜の力か!)
あらゆる角度からジエトを次第に追い詰め一瞬の隙が生まれる。
「『居合・水雷刃』!」
X時の水と雷の斬撃を放ち、ジエトを大きく弾き飛ばした。
追撃しようと接近したその時、
「・・・フィールド展開。」
『桃源節気郷‼』
「っ‼」
光に包まれ気が付くと辺りの景色が豹変しており、薄暗い空に霧の地平線。
その上にタクマが立っていたのだ。
「この空間に捕らわれた時点でお前に勝ち目は無くなった。」
すると霧の大地から幾つもの剱山が現れ、正面に一際大きな鋭い岩山が飛び出す。
その上を巨大な白い大蛇が前足で這いずって登り、巨大化した一本の神器ラウタールを握る。
その大蛇はフィールドの力で変身したジエトだった。
「さぁ、ここからは一方的な狩りの時間だ。せいぜい足掻いて見せろよ?タクマ!」
その頃、地神龍の頭部では魔獣の大群とセレスを退けたリーシャ達が赤い魔石の設置された箇所に集まっていた。
「おそらくこれで地神龍を操っているんだ。」
「何なのこの赤い魔石?でもどこか覚えがある感じがするというか・・・?」
「リヴも気付いたんか?オレもや。従魔結石とそっくりな魔力を感じるで。せやけどオレ等の知ってる結石よりも滅茶苦茶濃い魔力やで。」
詳細は分からないが従魔結石に深く関係した魔石だと確信するドラゴン組。
「これをどうにかしないと地神龍の歩みは止まらず、和国に甚大な被害が出てしまいます。テイマーの私が何とかしてみます。」
リーシャが赤い魔石に触れようとすると、バチッと強い衝撃に弾かれてしまった。
「痛っ!」
「大丈夫⁉」
「はい、大丈夫です・・・。」
すぐ手に回復魔法をかける。
(なんて魔力量・・・。魔力が強すぎて迂闊に触れられないなんて・・・。)
魔石を攻撃したり、ブレスで破壊したりといろいろ試してみるがやはり魔石に触れることができず、一同が途方に暮れ始める。
「ビクともしない。こうなったらタクマさんがテイマー主であるジエトを倒すまで待つしか・・・。いや、それじゃダメ。全部あの人に任せるなんてできない。先に和国に到達されちゃう・・・!」
必死に頭を働かせているとリーシャの言葉を聞いたウィンロスがあることを思い出す。
「テイムの上書き・・・。」
「え、ウィンロス今なんて?」
「あ、いや。オレ魔大陸でオルトにテイムを上書きされかけたことあったやろ?あの時の魔法陣、これみたいに赤かったしふと思い出したんやが・・・。もしかしたらテイムの上書き出来ひんかなって。いや流石に無理か。すまん忘れてくれや。」
しかししばらく黙っていたメルティナが口を開く。
「いえ、出来るかもしれない。」
「・・・マジで?」
「図りしれないほどの膨大な魔力があれば不可能じゃないよ。ここにはテイマーのリーシャがいる。それに、目の前には膨大な魔力を宿す赤い魔石もある。」
全員がリーシャの方を向いた。
「え?」
「リソースは目の前にある。後はやるだけや。」
「頑張ってリーシャ!」
「えぇぇぇぇ⁉」
ジエトのフィールド魔法に閉じ込められたタクマ。
霧の地平線から突き出た剱山の間を駆け回り、巨大な槍が襲い掛かる。
巨大な白き大蛇に変身したジエトの猛攻を避けながら距離を詰め水の斬撃を飛ばす。
しかしジエトの白い鱗には傷一つ付かない。
「どうしたどうした!そんなちっぽけな攻撃じゃ俺は倒せないぜ!」
(くそ!でかい図体の割に攻撃に隙がない!その上、槍に弾かれたり風圧で吹き飛ばされたりとまともに近づくことも難しい。)
そこへ五本の巨大なラウタールがタクマに襲い掛かる。
何とか回避するもジエトの操るラウタールはタクマを逃がさなかった。
「もがけ!足掻け!脆弱な人間の姿をもっと見せてみろ!」
「チッ!さっきからうるさいんだよ!」
怒りの雷斬撃を放つが槍で防がれ空をも貫く突きがタクマに直撃。
剱山の一角に叩きつけられてしまう。
だが容赦なくジエトはラウタールをタクマ目掛けて放つ。
一瞬覚悟したその時、空間がひび割れ一頭のドラゴンが乱入する。
「『炎王砲』!」
炎ブレスでラウタールを全て弾き飛ばした。
「バハムート!」
「すまぬ。遅くなった!」
結界を破りバハムートが合流したのだった。
「お前、そっちは?」
「安心せよ。・・・終わらせてきた。」
「・・・そうか。」
タクマはバハムートの背に飛び移る。
「あの巨大な大蛇がジエトか?」
「あぁ。見ての通り苦戦中だ。だがいい所に来てくれた。バハムート。」
「我らは主従。二人揃って一蓮托生だ。我らが揃った今、恐れるものはない。」
フッと笑みを零し、身構える。
「行くぜ相棒!」
「心得た!」
力強く羽ばたき瞬時に加速。
一気に間合いを詰める。
「たかが一匹増えようが同じだ!神の前にひれ伏せ!」
ラウタールが振り下ろされるが軽快にかわし上昇する。
「我が親友の力、使わせてもらうぞ!」
口を開けると口部に黒い炎が蓄積される。
「『黒炎砲』!」
そして黒いブレスを放ったのだ。
「この黒炎、ニーズヘッグの⁉」
「そうだ!貴様に長いこと苦しめられた我が親友の力よ!あやつの分まで貴様を根絶やしにしてくれようぞ!」
怒りを原動力にバハムートは突き進む。
「『黒天竜牙爪』‼」
長く伸びた黒い爪で突き出されるラウタールを弾き、その隙にタクマがラウタールの上に降りジエトへ走っていく。
だがすぐ振り落とされ再びバハムートの背に受け止められた。
「くそっ!もっと速く走れれば!」
「来るぞ!しっかり捕まっていろ!」
再びラウタールが迫る。
するとバハムートは翼に闇の魔力を纏い金色の翼が漆黒の翼となる。
「『黒翼乱舞』‼」
凄まじい勢いで回転し黒い円刃となってラウタールを斬り付けそのままジエトに攻め入る。
そして至近距離から炎ブレスを直撃させ怯ませた。
「くっ!小癪な!」
すると今の回転攻撃でタクマはあることを思いついた。
「バハムート、頼みたいことがある。」
ジエトから距離を離れて耳打ちをし、バハムートは頷く。
「相分かった!」
「行くぞ!」
霧の地平線ギリギリを低空飛行しジエトに近づく。
「下から攻めて足場を崩す気か?そうはさせない!」
五本のラウタールをけしかけ軽快に避けるバハムート。
手に持つ六本目の槍の直撃を受け霧の地面に叩きつけられる。
「他愛ない。」
しかし、引き抜こうとした槍が抜けなかったのだ。
「ん?」
よく見ると霧の中でバハムートが槍先を押さえ込んでいた。
「行け!タクマ!」
すると霧をかき分け槍の上を水と雷を纏った球体が回転しながらものすごい勢いで駆け上がってくる。
「っ⁉」
雷の速さに水の柔軟性が加わったことで物理抵抗が無くなり回転がスムーズになっていたのだ。
雷水の球体となったタクマは槍の上を走りジエトに迫る。
するとジエトが槍を手放しタクマの突撃を回避した。
「その程度で俺を欺けると思ったか?」
叩き落そうと腕を振り上げると、
「我が主は囮である!」
バハムートが奪い取った槍を持ち替え力強く投擲。
ジエトが足場としていた岩山を倒壊させたのだ。
(最初からこれが狙いか⁉)
体勢が崩れた瞬間、頭上からタクマが降ってきて左の眼球に剣を突き刺した。
「ぐおあああ⁉」
悶え苦しむジエト。
「お前の慢心が敗北を引き寄せたんだ!図体がでかくなっても絶対に勝てると思うなよ!」
そしてタクマの身体に雷が蓄積されていく。
「『波蝕成神』‼」
突き刺した剣から稲妻が迸りジエトの体内を電撃が侵食する。
「ぐあぁぁぁぁ⁉」
大感電したことでジエトのフィールド魔法が崩壊し、爆発と共に外へはじき出されるタクマとバハムート。
元の地神龍の背の森に戻ってきたのだった。
そして、目の前には感電のダメージで地に膝をつくジエトもいた。
「おのれ・・・!たかが人間の分際で・・・!」
見下していた相手に一本取られたことが相当気に食わないのか憎しみの表情でこちらを睨んでくる。
「神という存在は絶対。神に歯向かったらどうなるか思い知らせてやる!」
腕を掲げると地面に手を付き魔法陣が展開される。
すると地神龍の眼光が光り、重苦しい咆哮を轟かせる。
そして尻尾の先端から結晶の背びれを突出し始めた。
「まさか、あの時の熱線を⁉」
背びれが順に突出していき頭部へ近づいていく。
それは頭部にいたリーシャ達も気付いていた。
「まずい!この射線は和国を吹き飛ばすわ!」
和国にいるラセンやヴリトスたちも気付き対処に行動を移していた。
「ハハハッ‼全てを消し飛ばせ‼」
「・・・どうする?」
「決まってるだろ。俺たちがやるべきことは一つ。」
タクマは剣を構えると腕輪の従魔結石が輝き、髪色が翡翠に変色。
バハムート共々身体に翡翠の稲妻を纏った。
「今ここで、ジエトを倒す!力を貸してくれ。相棒!」
「よかろう!今度こそ決着をつけようぞ!タクマ!」




