『第247章 神速の三日月』
盾の神器『プリドゥラ』と融合し金色のオーラと翼を纏った治癒神セレス。
その彼にはありとあらゆる攻撃が一切無効化されるのだった。
「きゃぁ⁉」
攻撃を仕掛けたリーシャだがあまりの硬さに逆に弾き返されてしまう。
火炎弾を連続で放つもセレスは不動だった。
(どんなに攻撃しても怯みもしない。それどころかダメージが入っている様子も見られない。・・・七天神が持つ最強武器『神器』。これまでいくつか見てきましたがそれらの武器にはそれぞれ特徴がある。例えばジームルエさんが持っていた神器エクスカリバ―。あれは自身の攻撃力を底上げする効果があると本人に聞きました。そして彼が持つプリドゥラという盾。見立て通りあれは防御力を底上げさせる神器。増してや持ち前の回復力も合わさってとんでもない耐久を持つ存在となった。)
攻撃を止め不動に歩いて近づいてくるセレスから離れる。
(彼の言ってた通り、やはり神という存在は人智を超える。・・・でもなんでしょう?絶望的な状況のはずなのに、不思議と落ち着いてる?)
するとふとタクマを思い出し、思わず頬が上がった。
(ほんと、不思議ですね。あの人の安心感。)
「精神面では年下のはずなのに・・・。」
「なに一人でボソボソつぶやいてるのですか?」
「やっぱり信じるって大事ですね。貴方には信頼できる人っていますか?」
「なんですか突然・・・?」
「私はいますよ。どんなに苦しく辛い時も、その人が側にいてくれるだけで安心できる。そういう人って凄く貴重ですよね。信じてるからこそ、全力を出せるもの!」
一瞬の速度でセレスの懐に入り腹部に杖を突きつける。
「エア・ショット!」
風の魔弾を放った瞬間、セレスだけが吹っ飛ばされた。
(っ⁉飛ばされた⁉一体なぜ⁉)
よく見るとリーシャは杖を地面に突き刺していた。
(そういうことですか。杖を地面に固定したことで魔法を放つ瞬間に生じる反発を押さえ、結果僕だけを飛ばした。神器で不動となった僕をこの程度の事で動かすなんて、この少女、容姿に合わず機転が鋭い!)
驚いたセレスは金色の翼でホバリングする。
「心が落ち着いているおかげで冷静な判断ができる。勝負はまだわかりませんよ!」
一方、アルセラたちは突如弱体化した魔獣の大群を相手に徐々に優勢を取れるようになっていた。
「よくわからないけど魔獣が再生しなくなったよ?」
「わからないも何もこれウィンロスたちの仕業でしょ!」
だが倒せるようにはなっても如何せん数はやはり多い。
するとアルセラは森林の奥から迫ってくる気配に悪寒を覚えた。
「まさか・・・⁉」
森林の奥から現れたのは夥しい数のゴブリンだった。
「やっぱりゴブリンだぁ‼」
「え⁉どうしたのアルセラ!その慌てっぷり⁉」
いつも勇ましく立ち向かうアルセラだがゴブリンを前に怯えた様子を見せていた。
「わ、私はゴブリンだけはだめなんだ!近衛騎士時代奴らに襲われかけたトラウマがあるんだ!」
「あらま。意外な弱点発見。」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
アルセラが戦意喪失気味は非常にまずい。
この数のゴブリンは流石に相手しきれない。
万事休すの状況となったその時、
「皆お待たせ!」
メルティナの詠唱が完了し上下の魔法陣には強力な魔力が宿っていた。
すると脅威を感じた魔獣の大群が一斉にメルティナ目掛けて押し寄せてきた。
「皆走れ!メルティナを守るんだ!」
三人が全力疾走すると頭上を何かが追い越す。
それは鳥型の魔獣だった。
(ダメ!まだ皆が魔法の範囲に入ってて発動できない!)
「間に合わない!」
鳥魔獣がその鋭い爪をメルティナに振り下ろしたその時、
「させっかぁーー‼」
颯爽とウィンロスが現れ魔獣を蹴り飛ばしメルティナを守った。
「ウィンロス!」
「はよ来い!」
ウィンロスのおかげで三人は間に合いメルティナの背後に集まった。
「いけ!メルティナ!」
「ありがとう。皆の繋いでくれたこの瞬間、無駄にはしない!」
二つの魔法陣の回転が止まり大気の魔力が収束されていく。
「『神聖極大魔法・イグジスゼロ』‼」
手を叩くと二つの魔法陣が一つに重なり、眩い光が辺りを飲み込んだ。
その光にはリーシャとセレスの二人にも充てられる。
・・・光が晴れると、メルティナたちの辺りには魔獣の大群が一体も存在していなかった。
「あの大群が一瞬で消えた?」
「正確には一度存在を消して、新しい命に置き換えたの。」
「新しい命?」
「うん。動物や植物、大自然へとね。」
辺りに風がそよぎ、木々を揺らし鳴らす。
「にしてもすごい魔法だったわ。流石元創造神ね♪」
「えへへ♪」
照れくさそうに笑うメルティナだった。
「まだ油断は出来ないよ。このままじゃ和国が危ない・・・!」
「七天神はあの二人に任せて、私たちは地神龍の進行を止めるぞ!」
一同は頷き、地神龍の頭部へ急ぐのだった。
一方、メルティナの魔法の光を浴びたセレスの様子がおかしかった。
翼の金色が剝がれるように崩れていたのだ。
「今の光は、まさか『神聖極大魔法』?術者が敵対している存在にのみ効果を発揮する力。どおりで彼女には何も影響がないわけですね。」
どうやらその魔法を受けたことで彼の神器『プリドゥラ』が損傷したようだ。
そこへ畳みかけるようにリーシャが突きを繰り出しガードしたセレスを弾き飛ばす。
「よくわかりませんが絶対防御が崩れたみたいですね。正直幸運でした。」
「侮らないでください。防御が崩れても、僕の圧倒的治癒力は揺るぎません。あまり時間もかけられなくなりましたし、ここで終わらせます!」
リーシャはクーレスロッドを構え警戒しているとセレスは元の姿に戻り杖を構えた。
すると杖先に圧倒的な魔力が収束されていく。
その瞬間にリーシャは悪寒を感じた。
(あれは、防ぎきれない!)
直感が危険視しその場から離れようとする。
だが、
「『ザ・レイ』。」
螺旋式に放たれた太い光線は辺りを飲み込み、ガイアデロスの背から彼方へと空を横切る。
大地を抉った跡には木々ですら何も残っていなかった。
「っ‼」
だがよく見ると跡のすぐ横に人影があることにセレスは気付く。
「危なかったですわ・・・。」
光線に飲まれる寸前、間一髪でイビルがリーシャを守ったのだ。
「た、助かりました。イビルさん・・・。」
「こちらの要件も無事何とかなりました。ここからは、私も加勢いたしますわ!」
「一人増えようと状況は変わりません。」
セレスは地面に杖を突くと背後に複数の魔法陣が展開され無数の光の矢が二人へ放たれる。
「きゃっ⁉」
イビルは即座にリーシャを抱っこし超スピードで光の矢を掻い潜る。
「奴は相当手強いですの?随分苦戦しているように見えますが。」
「はい・・・。治癒を司る神らしく、どんなに攻撃しても魔法壁や治癒で全て回復されるんです。ですが防御が崩れた今が攻撃のチャンス、なのですが、このように攻撃の隙が無いんです。」
リーシャの話を聞いたイビルはしばらく黙ると、
「でしたら攻撃の隙を作れば良いのですね?そうすればあの少年を倒せると。」
「技を溜める時間があれば・・・。」
するとイビルは走りながらリーシャに耳打ちをし、リーシャは頷いた。
「であれば私にお任せを!」
リーシャが飛び降りるとイビルは高速で駆けまわり矢の雨を掻い潜っていく。
セレスも魔法陣の数を増やし光の矢の密度を上げて対抗する。
「数を増やしても無意味ですわ!」
魔鎖の乱舞で矢をねじ伏せていき、一直線に走りセレスの懐に入った。
超至近距離から蹴りを入れるが魔法壁に防がれる。
「そちらこそ無駄です。僕にはどんな攻撃も意味を成しません。」
「ですがその壁は魔法なんですよね?であれば魔力を消費するはずです。」
「確かに展開するたびに魔力は消費します。ですが僕の魔力量は貴女方の想像よりも遥かに多いです。先に貴女方に限界が訪れますよ。」
「ご忠告、どうもですわ!」
魔法壁を蹴って後方へ大きく離れると再び超速でセレスに攻撃を仕掛ける。
「ですから無駄ですと何度言えば・・・。」
するとイビルは再び距離を取りまた体当たりしてきた。
そしてまた離れて体当たり。
また体当たりの繰り返し。
次第にその頻度は速くなり息もつかせない猛攻がセレスを襲う。
(なんて速度⁉しかも一撃一撃が非常に強力。直撃の度に魔法壁を展開していますが頻度が速すぎて予想より魔力消費が早い・・・!ありえない、こんなことは想定外です・・・⁉)
全方位からほぼ同時に近い連続攻撃を仕掛けるイビルの速度はどんどん速くなり、次第に微動だにしなかったセレスに動きが現れ始める。
(魔力が、削られる・・・!)
変化に気づいたイビルは大きく距離を取り、手を地につけ前かがみの態勢に。
「そこですわ!『超神速』‼」
眼光が赤く染まり轟く神速でドロップキックを放つ。
セレスも魔法壁を何重にも展開させるが三枚を残して全て貫通される。
だがイビルの一撃を耐えきった。
技の反動でイビルの変身が解ける。
「貴女には驚かされましたが、ここまでです!」
杖を振るい反撃を入れようとすると、
「やっちゃえ‼リーシャ‼」
「っ‼」
振り返ると二つの杖を合体させた『月神槍・ツクヨミ』を構え青白い魔力を纏うリーシャがいた。
「ありがとうございます!イビルさん!」
(彼女の速度に気を取られて、向こうの注意が削がれていた!)
「顕魂一天!『死滅の三日月』‼」
力強く踏み込み轟音轟く青白い槍を投擲。
セレスは残った三枚の魔法壁で槍を受け止めるが次第に一枚、また一枚と砕かれていき最後の一枚となる。
(なんですかこの威力⁉報告と話が遥かに異なる⁉)
「貫けぇぇぇぇ‼」
リーシャが追撃で槍を蹴り、魔法壁を砕き光がセレスを飲み込むのだった。
「うわぁぁぁぁぁ‼」
・・・昇る光の柱が消えるとそこにセレスの姿はなかった。
「ハァ、ハァ・・・。」
「倒した、の・・・?」
「おそらく倒し切れてはいませんが、神殺しの力を全力で放ちましたからいくら治癒の神と言えどしばらくは動けないと願いたいですね。ゲホッ・・・!」
全力の大技を使ったことで疲弊が凄まじいリーシャ。
まだ動けるイビルが彼女を背負いアルセラたちの下へ向かうのだった。
(あとはこの神龍をどうにかしなければ、・・・そちらはお願いします。タクマさん・・・!)




