『第244章 千年越しのけじめ』
魔大陸を出発した昨晩、夜の雲海を走る帆船の上でタクマ達が作戦会議をしていた。
その時に、意を決したバハムートが己の過去を打ち明けたのだ。
「それが、バハムートの過去・・・。」
「うむ。我の前の主人シーナを失い、親友であったニーズヘッグと対立してしまった。逆鱗に飲まれる奴を瀕死にまで追い込むことが出来たが、その後のトドメはささなかった。いや、出来なかったのだ。あの時の我に、その覚悟がなかったからだ。」
バハムートはギュッと拳を握る。
「それ故に、奴は神の手駒として利用されお主等にまで牙を向けさせてしまった。お主等にも、ニーズヘッグにも悪いことをさせてしまったと思っている・・・。」
「バハムート・・・。」
己の後悔から頭を下げるバハムートにだんまりだったリーシャは、
「そんなの、バハムートさんが謝る必要なんてないじゃないですか・・・。」
「リーシャ?」
「全部、悪いのはレイラス王国の人達です!自分たちの欲望のために多くの命を弄び、バハムートさん達まで巻き込み唾を付け傷つけた!それだけに飽き足らず親友との絆を引き裂いてまで、バハムートさんがどれほど心に傷を負ったか・・・!あんまりじゃないですか・・・!」
悔し涙を流すリーシャにバハムートが優しく頭を撫でる。
「我らのために涙を流してくれるか。心から感謝するぞ。リーシャよ。」
タクマも体内にいるシーナを想いそっと胸に手を当てた。
「旦那があの黒竜に本気になる理由は分かったで。せやけどこれからが問題とちゃうか?」
「えぇ。おじ様と同等の力を持ってる奴が従神の影響で更に強くなってるわ。当然私達ですら太刀打ちできない。」
「うむ。そこでだ。奴の相手は我一人に任せてもらいたい。」
全員が驚きの表情を見せる。
「もうあれから千年も経っておるのだ。奴の活動限界はとうに超えている。だが従神によって無理やり生かされ酷使されておる。故に奴は苦しんでおる。あの時、我がトドメをささなかったからだ。だから、他ならぬ我の手で奴を止める!それが親友としての、最後のけじめだ。」
「グルアァ‼」
覚醒の姿となったバハムートとニーズヘッグがぶつかり合う。
ニーズヘッグの振るう拳を腕を得たバハムートがあしらいいなす。
「驚いたか?ドラゴンがパリィを使う事に!」
いなした腕を掴みニーズヘッグを背負い投げた。
「あれから千年も経ったのだ。知識を蓄え様々な技術を身に着けた。あの日の過ちを、二度と繰り返したくはないからな!」
上を取り殴りつけるバハムートを強引に受け止め口部に魔力を溜める。
「っ!」
間一髪で反撃のブレスを避け距離を取る。
そして荒れ狂いながら迫りバハムートと取っ組み合う。
その時、尻尾をバハムートの脚に引っ掛け転倒させた。
「ぬおっ⁉」
その隙に首を掴み翼を羽ばたいて上昇、急降下して地面に叩きつけたのだった。
「きゃぁ⁉」
「っ⁉揺れた?」
一方、タクマを先に行かせたリーシャ達は無限に等しく襲い来る魔獣の大群を相手に多勢に無勢を強いられていた。
「リーシャ!後ろだ!」
「っ!」
背後を取られ大蛇がリーシャに襲い掛かる。
だが間一髪でガンズ・ド・ラルが狙撃し窮地を逃れた。
「あるがとうラル!」
「でも数が多い。上空の魔獣はお兄ちゃんとお姉ちゃんが対処してくれてるけど、地上の魔獣だけでもすごい数だよ!」
ラルの言う通り、倒しても倒しても現れる大群。
小型から大型の魔獣までもが波のようにやってくるためキリがなかった。
「タクマがジエトを倒すまでこのエンドレスは続くかもしれないな。」
「しんどすぎるわ!」
上からウィンロスがツッコみながら降りてくる。
するとメルティナがふと言葉を漏らした。
「あの魔法だったら多少は・・・。」
「メルティナさん?どうしました?」
「実はこの状況に最適な魔法を持ってるんだけど、発動時間も長くてその場しのぎしか出来ないかもしれない。」
「なんでもいい!時間さえ稼げれば上々だ!」
「やってくださいメルティナさん!私達が守ります!」
アルセラとリーシャの言葉にメルティナも決心する。
「・・・わかった!」
天使の姿に変身し頭上と足元に魔法陣を展開する。
そして詠唱を始めた。
「発動までメルティナを守るんだ!」
「はい!」
団結する彼女達を前に魔獣の大群が押し寄せていくのだった。
パラパラと降り積もる瓦礫の山を前に佇むニーズヘッグ。
その時、山から影が飛び出しニーズヘッグはすかさずブレスを直撃させる。
だがそれは瓦礫の破片だったのだ。
「っ⁉」
「そっちはブラフだ!」
瓦礫の山から口部に魔力を溜めたバハムートが特大のブレスを放つ。
ニーズヘッグを大きく吹っ飛ばし石柱に叩きつけた。
「支配はされても頭は相変わらず回るようだな。」
すると立ち上がるニーズヘッグの様子がおかしい。
「グウゥ・・・、バハ、ムート・・・!」
「っ‼」
微かだがニーズヘッグに自我の片鱗が見えたのだ。
「そうか・・・。お主もずっと、抗っておったのだな。己の意思で、我と決着をつけるために・・・!」
「オォォォ‼」
咆哮を叫びながら迫りくるニーズヘッグ。
「ならば、全身全霊で全てを受け止める!来い!ニーズヘッグ‼」
互いの拳が互いの頬にぶつかった瞬間光に包まれ、焼け野原となった亡国の大地で元の姿の二頭が戦っていた。
まるであの時の続きをしているかのように。
「「ウオォォォォ‼」」
殴る、投げ飛ばす、叩きつけるの繰り返しで戦い続けるバハムートとニーズヘッグ。
そして胸元を殴りつけられたニーズヘッグは大きく転倒する。
「これで最後だ!ニーズヘッグ!」
覚醒姿のバハムートが翼を広げると鮮やかに発光。
拳に赤い炎が集中していく。
ニーズヘッグも同様に翼を寒色に輝かせ青い炎を拳に纏う。
「オオォォォォ‼」
「ガアァァァァ‼」
勢いよく飛び出す両者の一撃が決まり、衝突音と共に背中合わせとなる。
そして互いの外殻に亀裂が走り、ニーズヘッグが爆発。
バハムートも覚醒が解け元の姿となった。
爆発したニーズヘッグの肉体は闇の粒子となって消滅していく。
だが次の瞬間、バハムートが彼の核を喰らい粒子をその身に吸収したのだ。
「力を取り込む⁉」
帆船で話し合っていた時、バハムートから驚きの提案を出されていた。
「そうだ。奴は既に己の限界を超えておる。倒した直後、奴は消えるだろう。・・・奴の罪は元は我が引き起こしたもの。であれば、その罪は我も背負うべきだ。奴を弔い、力と共にその罪も背負う。それが親友としての、我のけじめだ。」
核と共に粒子を全て吸収した直後、闇の魔力が自身の魔力との拒絶反応を引き起こし禍々しい魔力が溢れ出る。
「ぐぐ、グウゥッ・・・‼ウオォォォォォォォォ‼」
バハムートは苦しそうに叫ぶ。
だが彼の精神世界では燃える亡国の大地に背を向けて佇むバハムートとニーズヘッグがいた。
「もう十分暴れただろうニーズヘッグ。大人しく我の中で眠るがいい。」
「・・・俺は、お前を憎んでいるんだぞ?」
「許してくれとは言わん。この罪は、生涯背負って生きていく。」
「・・・そうか。だが俺達の罪はあまりにも大きい。いつかその重みに耐えきれず、身も心も滅ぼすぞ。」
「心配はいらん。今の我にはタクマが、支えてくれる仲間達がいてくれる。・・・お主も含めてな。」
「っ!・・・ふっ。俺はお前を許さないからな。・・・ありがとよ。親友。」
思わず笑みを零したニーズヘッグはその姿を消し、曇りかかっていた空が晴れ光が差し込んだ。
虹色に輝く黄金の翼をたたみ、バハムートは一人佇む。
その表情は悲しく寂しそうではあるが、どこか心が晴れた気持ちを抱いていたのだった。
光の差し込む遺跡の中、バハムートは空を見上げる。
「シーナ。お主の願い、千年越しに聞き届いたぞ。」
バハムートの過去はこちら
世界最強のドラゴンテイマー外伝 キング・オブ・メモリア
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