『第239章 沈んだ古代都市』
衝撃の事実に気付いたウィンロスとイビルの二人は駆け足で通路を走っていた。
「水位の上がる速度からしてそう長くいられないわ!」
「早いとこ甲冑男をとっ捕まえて機械魔獣から魔石を奪い返さねぇと溺れ死ぬで!」
一刻の猶予も無くなった今、通路を突き進んでいくと覚えのある気配を感じ取った。
「この異質な気配、奴が近くにいるで!」
「好都合だわ!行くわよウィンロス!」
「あいよ!」
気配を頼りに進むと広間にたどり着く。
そしてその中央には機械のプレシオサウルスがいたのだった。
「見つけたでメカトカゲ!」
「魔石を返してもらうわ!」
二人は機械のプレシオサウルスに迫りかかり壁を突き破り通路に出る。
「先手必勝や!くらえ!」
強烈な回し蹴りをお見舞いしプレシオサウルスを蹴飛ばす。
ひっくり返ったその隙にイビルが飛び掛かり首元に収納された魔石を抜き取った。
「獲った!」
「ナイスや!」
魔鎖を手繰り寄せて彼女を受け止める。
そして魔石を取られたプレシオサウルスは取り返そうと二人に牙を向く。
「どうやらやる気になったようやで。ここで決着つけたるか?」
二人が気合を入れると突如地響きが発生し、遺跡内が揺れたのだ。
「なんや?」
「何かが崩れる音?まさか・・・!」
イビルの予感は的中。
ウィンロス達が落ちてきた滝の縁がひび割れ崩壊し一気に水がなだれ落ちてきたのだ。
水位が急速に上がっていく。
「うわっ⁉ウィンロス乗せて!」
イビルが飛び乗るがウィンロスでさえも底に足がつかなくなるほど水位が上がった時、滝に巨大な岩が流れ込み栓となって水がせき止められた。
「・・・止まった?」
「なんやようわからんけど一先ずは助かったみたいや。せやけど水かさが増して足が付かへん。これじゃ思うように動けへん。」
その時、プレシオサウルスが突然足元に現れ驚いたウィンロスは風魔法を利用して至近距離からの水圧ブレスを回避した。
「アイツ、スピードが更に増してるで!水中じゃアイツの方が有利や!」
水中で俊敏に動くプレシオサウルスを相手にするのは分が悪い。魔石も手に入れた今倒す必要はない。
「魔石はオレ等がゲットしたんや。もうお前を相手する必要は無くなったで!あばよ!」
イビルを背に乗せ反対方向へ泳ぐウィンロス。
しかしプレシオサウルスがそれを逃すわけがなく、脚を変形させて水圧ジェットで追いかける。
「やっぱつけて来るか!」
後方から水圧ブレスを何発も放ってくる。
「イビル!応戦頼むわ!」
「え⁉」
「オレは翼が濡れて飛べへんし風魔法も雷魔法も場所が悪くて使いづらい。それに吸血鬼モードの脚力ならそれなりの速度で泳げるやろ!」
しかしイビルの様子が少しおかしい。
何やら不安そうな表情をしている。
「どした?」
「な、なんでもない!」
イビルは吸血鬼モードに変身し身構える。
「い、行きますわ!」
クラウチングスタートで飛び出した瞬間、イビルの姿が消えた・・・。
下を見ると水中でもの凄い速さで脚をばたつかせている彼女が・・・。
「ぶはぁっ‼無理!やっぱ泳げない!私カナヅチなの!」
「ウソーン⁉」
突然の事実に驚愕していると腹から水を吸引し口を開けているプレシオサウルスが。
「うおぉぉ⁉カナヅチなら先に言えや!」
「いい歳した乙女が泳げないなんて恥ずかしくて言えるわけないでしょ!」
放たれる水圧ブレスを避けながら必死に泳いでいくと先ほどの石柱が陳列した広い外広場にまで戻ってきた。
「この広さなら十分戦える!覚悟しいや!」
石柱に飛び乗り身体を震わせ水気を取る。
「ウィング・サイクロン!」
横向きの竜巻を放ちプレシオサウルスに直撃し吹っ飛ばされた。
「行ったれイビル!石柱を伝ってけばええ!」
再び変身し魔鎖を使って機敏に駆け回りプレシオサウルスの背に飛び乗り魔鎖を首に巻きつけた。
「私のロデオテク、見せてあげますわ!」
振り払おうと暴れまわるプレシオサウルスだがイビルも必死に食らい付く。
その時、突然プレシオサウルスの動きが止まりガシャガシャと身体を変形させ始めた。
すぐさまイビルが離れるとプレシオサウルスは三角形の大きな両ヒレを有した魚雷のような形に変形したのだ。
後ろから水を噴射させ猛スピードで水上を疾走する。
水の抵抗を極限まで無くした形となったことで凄まじい機動力だ。
「速っ⁉」
その一瞬の速度で突進しウィンロスの乗る石柱をへし折ってしまった。
「うおっ⁉マジか⁉」
別の石柱へ飛び乗るも破壊、また破壊され続け最後の石柱へ飛び乗った直後、それも破壊される。
飛ぼうと羽ばたくもまだ湿った翼では飛べるはずもなく、落水してしまった。
「ウィン様!」
そこへジェット噴射で水中からプレシオサウルスがイビル目掛けて飛び出してきた。
寸前で回避するも壁に激突した衝撃で体勢を崩してしまい彼女の落水してしまう。
「イビル!」
折られた石柱を蹴ってイビルを救出する。
「ぶはっ!大丈夫か!」
「ゲホッ!大丈夫・・・!」
しかしプレシオサウルスはそんな彼らにお構いなく迫ってくる。
「クソッタレめ!調子に乗んなやメカトカゲ!」
その時、何処からかの発砲がプレシオサウルスの動きを止め難を逃れた。
「今のは・・・!」
頭上を見上げると夜襲の亡霊が折れた石柱の上に降り立った。
「少し眼を離した途端にこうなるか。手のかかる若人共だ。」
「亡霊!」
「奴の必死ぶり、どうやら魔石を手に入れたようだな。」
「うん。この通り。」
懐から魔石を見せる。
「なら急ぐぞ。ここは地底湖に沈んだ古代遺跡だ。今は岩が滝をせき止めてるからなんとかなっているが時間の問題だ。奴を片付けて甲冑の男も探し出すぞ!」
「言われずともや!」
夜襲の亡霊も加わり三人で猛スピードで迫ってくるプレシオサウルスを迎え撃つ。
「まずは弱点を探る!お前が正面から向かえ!援護する!」
「オレの主人はタクマやが今は言う事聞いたる!」
風魔法を使ってウィンロスも加速し正面衝突する。
勢いの押し合いとなり辺りの水が吹き荒れる。
そこへ拳銃の弾を入れ替えた亡霊が現れる。
「魔力増強の銃弾だ!ひっくり返せ!」
ウィンロスに銃弾を発砲し力が増幅される。
「うおぉぉぉぉぉ‼」
更にウィンロスの勢いが増しプレシオサウルスを徐々に押し返していく。
そして、
「おおぉらあぁぁぁ‼」
プレシオサウルスを突き上げ飛ばしたのだ。
「『鑑定』!」
亡霊が鑑定で弱点を索敵し、その場所を捉えた。
「腹のファンだ!そこを狙えイビル!」
魔鎖がウィンロスの脚に巻きつき思いっきり蹴り上げる。
その勢いで変身したイビルをプレシオサウルス目掛けて飛ばした。
しかし相手は寸前で元の首長竜の形へ変形しその長い首でイビルの突進を受け止めたのだ。
「止められた⁉」
「だが守るという事は弱点で間違いない。俺がもう一度チャンスを作る。今度こそ仕留めろ!」
イビルとスイッチで亡霊がプレシオサウルスの注意を引くのだった。
落ちてくる彼女をウィンロスが受け止める。
「まだ行けそうか?」
「えぇ、問題ないですわ。ですがこうも足場が悪いと思うようにスピードが出せませんわね。」
確かに辺りの足場は少ない折られた石柱のみ。
これだけではイビルの超スピードを生かしきれない。
「足場、か・・・。あ、閃いた!」
「?」
プレシオサウルスの放つ水圧ブレスを見かけによらず機敏に避ける夜襲の亡霊。
「重そうなコートを着てるにも関わらず動けるのは意外か。簡単な事だ。骨だからな俺は。軽いのさ。」
高く跳躍しプレシオサウルスの頭上を取る。
周りに四発撃ちこみ稲妻を発生させて感電させ、動きを止めた。
「チッ、腹を露出させることは出来なかったか・・・!」
「十分や亡霊!交代や!」
亡霊が振り向くと仰向けに浮き折れた石柱を角で挟んで固定したウィンロスがいた。
そして腹の上にはクラウチングスタートの構えを取るイビルも。
「魔械竜、貴方に恨みはありませんが一つの国を守るため、魔石はもらい受けます。泳げない私ですが踏み込める足場さえあれば、チェックメイトですわ!」
眼が赤く発光した瞬間、超速度で飛び出し水上を疾走。
真っ直ぐプレシオサウルスに攻め入る。
『超神速‼』
マッハのドロップキックが炸裂しプレシオサウルスは吹っ飛ばされ壁に叩きつけられる。
そして稼働を停止したのだった。
「よっしゃぁ!やったでイビル!」
「ガボゴボゴボ・・・‼」
「アカーン⁉」
技を使って変身の解けたカナヅチのイビルは今にも溺れそうな状態だったのであった。




