『第238章 機械の首長竜』
地底世界の更に地下、その地底湖に浸水した古代遺跡で遭遇した機械のプレシオサウルスとウィンロス、イビルが衝突していた。
壁を突き破り三者が飛び出す。
イビルが魔鎖をしかけるも機械の胴体に弾かれ反撃で水のブレスを食らってしまう。
そこへウィンロスが死角から思いっきり蹴り飛ばす。
それでもプレシオサウルスは起き上がる。
「固ぇ!足痛めたわちくしょう!」
(クリスタルドームで遭遇した奴ほどじゃないけど、それでも恐怖を感じさせるほどの威圧。そもそもあんな生物、見たことない。)
するとプレシオサウルスの後ろ脚がターボエンジンに変形し水圧を噴射し一瞬にして加速。
ウィンロスに突進したのだ。
「うげっ⁉」
ウィンロスは通路の向こうまで吹っ飛ばされた。
「ウィンロス!」
イビルが気に掛けた瞬間、水圧の速度で背後を取られ至近距離から水圧ブレスを放たれてしまう。
だが直撃する寸前、吸血鬼モードに変身しその超速度で攻撃をかわしたのだった。
「危ないですわね!はっ!ウィン様!」
一瞬の速度でウィンロスの下へ駆け寄る。
「無事ですかウィン様?」
「ぶえっくしょい!転がったせいで水かぶってもうた。びしょ濡れや。オレ濡れるの嫌いやのに・・・!」
そんなこと言ってる間にもプレシオサウルスは迫ってくる。
「これ以上長引くのは危険ですわ。一気に決めます!」
クラウチングスタートで走り出し真っ直ぐ加速する。
『超神速‼』
圧倒的な速度でプレシオサウルスに迫るイビルだが突如プレシオサウルスが身体を丸め球体となり、彼女の超神速を受け流したのだ。
しばらく転がった後、再び元の形へと戻った。
「そんな・・・⁉私の超神速を受け流すなんて・・・⁉」
技の反動で変身が解けてしまい、その隙にプレシオサウルスが水圧を噴射して一気に迫りイビルに体当たり、彼女の持っていた魔石を落とさせ奪い取ったのだ。
「イビル!この野郎!」
ウィンロスが風を巻き起こすが加速したプレシオサウルスには当たらず、再びジェット速度の突進を受けてしまい壁に叩きつけられる。
「くそっ・・・!」
するとプレシオサウルスは腹のファンから水を吸収し始める。
(っ!あの時の切断レーザーを放つ気か⁉)
この至近距離では避けられず倒れてるイビルにも当たってしまう。
「させるか!」
果敢に飛び掛かるもジェット速度で背後に回られ口を大きく開ける。
(アカン!避けられねぇ!)
一瞬覚悟したその時、何処からか四発の発砲弾がプレシオサウルスを囲むように放たれ電気を放出。
感電したプレシオサウルスは一瞬よろめいたが立て直し、その場から退いていったのだった。
「こんな所で何をしている?」
天井の崩れた隙間から現れたのは夜襲の亡霊だった。
「亡霊⁉何でここに⁉」
動けるようになったイビルは驚き、亡霊は天井から飛び降りてきた。
「質問してるのは俺だ。ここは地底世界の更に地下にある古代の遺跡だぞ?こんな危険な所に何故お前たちが二人だけでいるんだ?」
彼はもう過激派の者ではない。
魔王ヴリトスとも繋がっているため二人は顔を見合わせ話し出す。
「中身のない甲冑の男を追ってたらここに迷い込んだのよ。」
「中身のない甲冑?」
「信じられへんと思うが事実や。そいつを追ってここに来たら船の動力源になりそうな魔石を見つけたんや。せやけどさっきの機械の魔獣に取られてもうてん。」
「さっきの奇妙な魔獣はやはり魔石が狙いだったのか。俺も一度奴と遭遇したが俺が魔石を持ってないと知った途端無視して去っていった。」
「あの魔石、もの凄いエネルギー量だったわ。遺跡が起動してるってことは他にもあるってことよね。それを見つければ・・・。」
「それは無駄だ。俺もある程度ここを探索したが台座はあれど他の魔石は朽ちて使い物にならなかった。この遺跡が動いているのはマナの地脈が近い影響だろう。そしておそらく奴の奪った魔石が最後の一つだ。」
「マジか。なら取り返さなあかんのか・・・。」
ウィンロスがうなだれていると、
「・・・ねぇ、亡霊はお父さんに頼まれて船の動力になりそうな物を探してたのよね。貴方がここにいる理由も・・・。」
「無論、その通りだ。だがまさかお前達とこのような場所で遭遇するとは思わなかったがな。」
「じゃあさ、一緒に魔石を取り返さない?」
「イビル?」
「私達の目的は一致してるわ。それにもう一度あの魔獣と戦うのなら戦力は多い方がいい。」
「・・・俺は過激派にいた敵だぞ。そんな相手を信用するのか?」
「する。貴方の考えてることは難しすぎてわからないけど、お父さんとも古い知り合いだし、何より、子供の頃から貴方を知ってるから。」
イビルの真っ直ぐな眼に亡霊は、
「・・・あのチビッ子がデカくなったものだ。ましてや昔の魔王に似てきてやがる。いいだろう。俺も魔石を手に入れるためにここにいる。手を貸してやろう。」
「ありがとう。」
「だが俺は傭兵だ。依頼としてしっかり報酬はもらい受けるからな。」
「え、お金取るの⁉」
「せこい大人やで・・・。」
「タダ働きはしない主義でな。」
こうして夜襲の亡霊も加わり、三人はプレシオサウルスはと甲冑男を探し遺跡内を進むのだった。
一方、地上の首都ヴァンプローナではシルバーパイソンのアーティファクトが覚醒したことで力を使いこなすべく、アルセラとタクマ、リーシャ達は特訓をしていた。
激しい戦闘の後、休憩をとっているとアルセラが声をかけてきた。
「なぁタクマ。」
「なんだ?」
何やら不安そうな表情だ。
「・・・勝てるだろうか。あの巨大な龍に。」
「・・・どうかな。」
「タクマは一度、神龍と戦ったことがあるんだろう?君から見ても勝てる見込みがないのか?」
「あの時戦った神龍は目覚めたばかりでジエトにも支配できず、半暴走状態だった。そんな状態だったからこそ鎮めることが出来たのかもしれない。まあ実際神龍をぶっ飛ばしたのはネクトだがな。」
「私は、正直あれを相手にするのは怖い。あの時の神龍の存在感と圧、あれを相手にする勇気が私には湧かなかった・・・。」
その時の恐怖を思い出し手を強く握る。
「・・・俺だって怖いさ。でも、やらなくちゃいけない。奴らは和国へ向かった。ラセン達が危ないんだ。友達を助けるためにも神龍は勿論、ジエトを倒す!これ以上アイツ等の好きにはさせない!」
強い決意を見せるタクマなのであった。
遺跡内を突き進むイビル達三人は数々のトラップを夜襲の亡霊が解除してくれるため危なげなく探索が捗っていた。
そして三人は石柱の陳列した広い外広場に到達する。
「これである程度の罠は解除し終えた。だが全てじゃないから気を付けろよ。」
「それは分かったけど、本当に別行動するの?」
「俺は単独の方が動きやすい。何かあればこの発煙筒を使え。すぐに駆けつける。」
そう言い残し亡霊は一人その場から去っていったのだった。
「結局二人やな。しゃあない。行こうで。」
「うん。」
しばらく二人で遺跡内を探索しているとふとイビルがウィンロスに質問をしてきた。
「ねぇウィンロス。世界を旅するって、楽しい?」
「なんや急に?」
イビルの興味を抱いた眼差しを見たウィンロスは黙って答える。
「楽しいで。特に仲間との旅は最高や。お前には仲間とかはおるんか?」
「いえ、いろんな人と関わったけど、ずっと一人だった。冒険者になったのもお母さんを見つけるためだったし。冒険という事を一切考えたことなかったわ。」
「・・・・・。」
「でもね、ウィンロスやタクマ達と出会って、考えが変わった。私もいつか、世界を自由に旅していろんな事や物を見たいなって。一件落着したら、私も旅に出てみようと思う。」
「そうか。ええと思うで。冒険の旅はおもろいことばっかや!きっと楽しい思い出になるはずやで!先輩として分からないことがあれば何でも教えたるわ!」
「うん。楽しみにしてる。」
そんな会話をしていると、二人は突如違和感を感じ立ち止まった。
「・・・気付いたか?」
「えぇ・・・。」
足元を見ると浸水した床の水位が数センチ上がってることに気付いたのだ。
「おかしいと思っとったんや。この遺跡の構造、高所に建てられるような作りやってん。それが何故水に浸かってたのか疑問やったが・・・。」
「これは、非常にまずいことになるわ・・・!」
遺跡の一番高い塔。
その上から見下ろす夜襲の亡霊。
「なるほど、そういう事だったか。」
彼の眼に映っていたのは現在いる遺跡は巨大なピラミッドの上に建っており、その麓には地底湖に沈んだ大きな街が広がっていたのだった。




