『第237章 地底の底』
「うおぉぉぉぉぉ‼」
突然現れた甲冑男が超綺麗な姿勢で首都内を全力疾走していた。
それを追うウィンロスと吸血鬼モードに変身したイビル。
「大人しくお縄に付きなさい!」
「嫌だ!俺は何としても逃げ延びる!絶対に捕まってたまるかぁ!」
甲冑男はスピードを上げイビルを追い抜く。
「ウィン様は上空から追ってくださいまし!私は地上から!」
「あいよ!」
イビルも加速しウィンロスが上空から甲冑男を見失わないよう追跡する。
甲冑男が街中の障害物を使って建物の上に飛び上がりイビルも持ち前の俊足で追いかける。
「あの甲冑野郎、変身したイビルの速さに負けねぇとかどんな脚しとる?」
見た目にそぐわない軽快な動きに違和感を覚えつつも甲冑男は屋上から飛び降り露店通りの中を疾走。
「どけどけ退けぇ!」
当然住民たちは驚きパニックになる。
「これ以上街の人達に迷惑はかけさせませんわ!」
背から魔鎖を出し甲冑男を巻きつけて拘束し急ブレーキをかける。
「大人しくなさい!」
それでも男は四つん這いになり抵抗する。
「うおぉぉ!沙羅くせぇ!」
その時、なんと甲冑男がバラバラに分解しその弾みでイビルが尻もちをつく。
ばらけた甲冑は再び一つとなり元通りにくっついた。
「脱出成功!」
そして再び走り出した。
「いたた・・・。中身が空の甲冑?一体どういうことですの⁉」
驚きながらもイビルも追跡を再開し男を追う。
「イビル!アイツ西門に向かっとるで!」
「分かりましたわ!」
二人は西門の所まで行くと復興作業中の工事現場に甲冑男が真っ直ぐ走っていくのが見えた。
「ん?なんだありゃ⁉」
現場の作業員が驚いていると甲冑男は小石を拾い丸太を吊るしたクレーンに投擲。
その隙に置かれた板の端に飛び乗ると落下した丸太を利用して梃子のようにして壁の向こうへ飛んでいったのだ。
「た~まや~!」
「あの野郎マジかよ⁉」
ウィンロスが度肝を抜いてるとイビルが魔鎖を使ってウィンロスの背に飛び乗った。
「このまま追ってくださいましウィン様!あのような者を野放しにはできませんわ!」
「確かにいろんな意味で騒ぎが出そうや!ほな行くで!」
ウィンロス達も壁を飛び越え森の方へ向かったのだった。
首都の外へ飛び出した甲冑男は森の中へと姿を消し、完全に見失ってしまった。
「どこ行ったあの野郎。」
「森に入られたんじゃ上空からじゃわからないわね。一旦降りて痕跡を探しましょう。」
「せやな。」
ウィンロスが降りようとしたその時、
「ああぁぁぁぁぁ‼」
遠くから甲冑男の悲鳴が聞こえた。
「あっちだわ!」
声のした方へ向かう二人。
「確かこの辺からやで。」
地上に降り立ち周囲を見渡すと古びた教会の遺跡があり、その奥には魔力渦の大穴が開いていたのだった。
「地底世界への大穴⁉」
「おそらくこれに落ちたんやな。となると厄介やで。あの広大な地底世界であの甲冑野郎を探すとなると骨が折れるどころの話やない。」
「早いとこ追ってなるべく早急に捕まえなくちゃ!行こうウィンロス!」
「んじゃしっかり掴まりや。飛ぶで!バンジーィィ‼」
イビルを乗せウィンロスは魔力の渦へ飛び込んだのだった。
大穴の渦へ飛び込んだウィンロスとイビルが出た出口は、水の中。
「ガボゴボッ⁉」
大慌てで水面に顔を出すとそこは地下水脈の洞窟川であった。
「なんちゅうとこに出口あんねん⁉」
「しかも激流!流される~!」
二人は荒波に飲まれ流されてしまうのだった。
・・・イビルが目を覚ますと目の前にウィンロスが倒れている。
「ウィンロス!」
「生きてます・・・。」
二人が目覚めた場所は水色に輝く大空洞の地底湖。
に佇む巨大遺跡の正門前だった。
「なんやこれ?遺跡?こんな洞窟の中に?」
「あそこの滝から落ちてきたのね私達。それにしてもこの底が光る湖、クリスタルドームにもあったクリスタルが沈んでるわね。あれが光源になってる。」
「んなこたええねん。出口があそこだったなら、あの甲冑野郎もここにたどり着いてるはずや。」
「そうね。さっさととっ捕まえて戻りましょう。この場所、なんだか妙な感じがするわ。」
違和感を感じつつも二人は遺跡内へ足を踏み入れていった。
その気配に気付く一人の骸骨がいた事にも気付かずに。
遺跡内は大分古く、床が完全に浸水していた。
「水び出し、さながら水中遺跡ね。」
「地底世界にも幾つか遺跡があったけど、魔大陸には古代文明があったんちゃうか?」
「正直そんな話は聞いたことなかったわね。何かしらの歴史はあったと思うけど、ここまで高度な文明遺産は初めて見たわ。」
壁に触れながら感想を述べるイビル。
「にしても室内なのに明るいな。これもクリスタルの影響か?」
「いえ、これは違うわ。この魔力反応、大地のマナを利用してる。何かしらの方法でマナを利用して遺跡全体に巡らせてるみたい。」
「スゲェな。」
二人で探索しながら進んでいるとまるで祭壇のような部屋にたどり着いた。
「なんやここ?広いな。」
「あの祭壇の上、何か光ってる?」
祭壇の階段を登り近づいてみるとそこには水色に輝く美しい魔石が浮いていたのだ。
「おそらくこれが遺跡内に巡っているエネルギーの源ね。・・・すごいエネルギー量を感じる。もしかしたらこれ、船の動力源に使えるんじゃない?」
「確かに!遺跡で眠ってるより有効活用したらええやん!使い終わったらちゃんと返すという事でちょっち借りてこうや!」
「でも古代文明の遺跡よ?下手にいじったら変なセキュリティとか動き出すんじゃ・・・。」
「え?」
もう既に魔石を咥えていた。
「・・・・・。」
思考が停止していると遺跡を照らす光が一斉に消え、暗闇に包まれた。
「暗っ!」
すると次の瞬間、再び水色の光が床を照らし出し元に戻った。
「どうやら他にもそれと同じ動力源があるみたいね。」
「罠もなさそうやな。あ~びっくらこいた!」
何はともあれ、予期せぬ予定で船の動力源になりそうな物を入手した二人。
後は甲冑男を探して地上に帰るだけだ。
二人が浸水した廊下を歩いていたその時、前方の突き当り、その向こうから何かが近づいてくる気配を感じた。
「っ!隠れてウィンロス!」
「え、何でや?」
「いいから!」
二人は両サイドの通路の壁際に身を潜める。
(妙だわ。こんな違和感のある気配、今まで感じたことが無い。まるで、自然の理から外れたような感じ・・・。)
二人が息を潜めていると薄暗い突き当たりからゆっくり現れたのは、不気味に発光する身体を持つ機械のプレシオサウルスだったのだ。
「なんやあれ?ロキみたいな奴が出てきたで?」
以前機械のティラノサウルスと遭遇しているイビルはその時の恐怖を思い出し息を呑んだ。
(機械の竜種、クリスタルドームで遭遇したアイツに似ている?)
様子見しようと少し足元を動かしたら水面が立ってしまい機械のプレシオサウルスの足元に触れてしまった。
その時、プレシオサウルスは腹のファンから水を吸収し始め、口を大きく開ける。
「っ!イビル!」
そして口から水のレーザーを発射し薙ぎ払うように遺跡の壁を破壊する。
寸前でウィンロスがイビルを庇ったことで何とか無事だったが機械のプレシオサウルスに見つかってしまった。
「あぶね~・・・!なんやあの魔獣?」
「分からない。でも前に似たような魔獣を見たことがある。あれと同じくらいの恐怖を感じたわ。」
「オレも似たような奴が知り合いにおるけど、あれは友好的な相手とは思えへんで。」
プレシオサウルスはイビルの持つ魔石を見て威嚇の唸りを上げる。
「どうやらアイツの目的はその魔石のようやな。」
「これは地神龍を追うために必要な物。悪いけど渡すわけにはいかないわ!」
魔石を懐に仕舞いイビル達も戦闘態勢に入った瞬間、プレシオサウルスが迫り襲い掛かってくるのだった。




