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『第236章 方舟計画』

過激派襲撃の夜から数日後、避難先から戻ってきた住民が首都の復興作業をしながら各々の生活に戻っていた。

「まいど!いつもありがとうね。イビルちゃん。」

露店通りで買い物をするイビルとそれに付き添うウィンロス。

「街も大分戻ってきたね。」

「全部イビルちゃん達のおかげよ!過激派の連中をぶっ飛ばしてくれたおかげでこうして心置きなく商売が出来るんだから。本当にありがとう。」

「お礼なら彼にも言ってあげて。彼らの尽力無しじゃ平和を取り戻せなかったから。」

「あん?」

二人は活気あふれる露店通りを歩いていく。

「にしても、あの話間に合うんかいな?」

「任せるしかないわよ。私達じゃあまり力になれないから。」


 数時間前、過激派の魔族との決着は果たせたが今新たな問題を抱えていた。

「お父さん、入るよ。」

扉をノックし玉座の間に入室するイビル。

玉座の間に設置されたデスクの上で仕事をする包帯を巻いたヴリトスとそこにはタクマやバハムート達も同席しており今後について話し合っていた所だった。

「お邪魔だった?」

「いや、話に一区切りついたところだ。何の用だイビル?」

「さっき市場で必要な物がないか調査してきた。リストはこのノートに纏めてあるから後で目を通しておいて。」

「分かった。ありがとう。」

ついでにイビルも席に着き、一同は話し合いを進める。

「それじゃ改めて、タクマとその仲間たち、我が国を救ってくれて感謝する。今の手持ちではこれしか出せないがいずれ相応の礼を約束する。受け取ってくれ。」

ヴリトスは袋に詰め込まれた金貨を差し出した。

「だがジエトの、七天神の企みを阻止できず神龍を目覚めさせてしまった。依頼を完璧にこなせたとは言えない。」

「だが君達は過激派を壊滅してくれた。少なくともヴァンプローナの危機を救ってくれたんだ。それだけでも十分すぎて感謝してもしきれないさ。そうだろ?イビル。」

「うん。おかげで付近の動物や農作物が荒らされることが無くなったから食料問題は解決した。街の人達も喜んでたし、いずれ元の活気に溢れた首都に戻るわ。だからそれは受け取って。私達魔族からの感謝の気持ちよ。」

「・・・そうか。」

観念したタクマは少し笑みを零し金貨を受け取った。

「さて、我が国の問題が解決した事は大変喜ばしいが・・・。」

「まだ安心できないな。」

ジエトとセレスは神龍の一体、地神龍ガイアデロスを目覚めさせ海を渡って行った。

その方向からして奴らの目的地は・・・。

「和国、イビルの母親が残してくれた情報だと奴らの目的は和国に眠る神龍『アジ・ダハーカ』が狙いかもしれない。いや、ほぼ確定と見ていいだろう。」

アルセラの言葉にウィンロスも頷く。

「イビルさん、お母さんと会えたんですね。」

「うん。私思うんだ。お母さんはきっと、ずっと私達の側で見守ってくれてるって。そう思うの。」

そう言い母の持っていた三日月のペンダントに触れるのだった。

「正直あまり悠長な事をしている場合ではない。神龍は一体だけでも世界を変えてしまうほどの力を有しておる。あの従神が更に神龍を手にしてしまえば世界はとんでもないことになりかねん。」

「バハムートの言う通りだ。ジエトとは少なからず因縁がある。これ以上奴らの思い通りにはさせない。必ず阻止する!」

「そう意気込むのはいいが、策はあるのかい?あの強大な力と体格を持つ龍に。」

ヴリトスに指摘されぐうの音も出ないタクマ。

彼の言う事も最もだ。

実際地神龍の力を目の当たりにした今、解決策が無いのも事実だ。

「以前戦った神龍は我らより二回りほどの大きさだった。力は強大だったがまだ対処出来た方だ。しかし、あれほど巨大な存在とは我とて対峙した事はない。故に有力な策もあまり思いつかんのだ。」

「おじ様ですらお手上げじゃどうすることも出来ないじゃない。」

リヴが力なくデスクの上に突っ伏す。

「大きさや力に関しては後にしませんか。今の問題はどうやって海を渡った地神龍を追いかけるかです。」

幸いな事に、魔大陸から和国までかなりの距離がある。

聖公国サンドリアスから海を渡ってきたタクマ達だが最低でも三日はかかった。

「あの進行速度だと猶予はもって二日、バハムート達に飛んでもらえばすぐ追いつくと思うが・・・。」

「相手が相手だ。何かしらの対策をしている可能性がある。無策に追いかけてもその先が賢明ではない。あの従神の事だ。我らの予想を超える従魔を幾つも用意しておるやもしれんぞ。」

当然その中にはニーズヘッグも含まれてるはずだろう。

バハムートはギュッと前足を握った。

「飛んで追いかけても疲弊したバハムート達じゃまともに戦えないか。だとしたら乗り物で追いかける他無くなるが・・・。」

「あの進行速度に追いつける船なんてこの世には存在しないわ。魔大陸の船だって全部帆船だしね。」

イビルもそう言い皆で頭を悩ませていると、

「・・・あの計画なら利用できるか?」

ぼそりとヴリトスが何かを呟いたのだ。

「どうしたんですか?ヴリトスさん?」

「ん?あぁ実はね、我が魔王軍では秘密裏にある計画を進めていたんだ。元々過激派の襲撃に対する計画だったんだが奴らが消えた今、計画も打ち止めになってたんだ。」

「その計画って何?お父さん?」

娘のイビルですら知らない事。

それは、

「『方舟計画』だ。」


 バハムートとウィンロスを留守番させたタクマ達一同はヴリトスに案内され暗い階段を降りていた。

(方舟計画って、神話に出てくる『ノアの方舟』的な?)

一人リーシャがそんな事を思っていると、

「元々はいずれ攻めてくる過激派から市民を逃がすために進めていてね。完成真近という所で君達が来てくれた。」

「その方舟計画って一体何なんだ?」

「あぁ、これだ。」

階段を抜け広く暗い空洞に明かりが灯る。

すると現れたのは色鮮やかな大きな帆船だったのだ。

「でか⁉港で見た船の倍はあるわよ⁉」

よく見ると船体に翼のようなパーツが付いており、後ろにはエンジンのような噴射機まで搭載されていた。

「まさかこの船・・・!」

「察しの通り、()()()()()()()。我が魔族の持つ技術力を全て結集させた革命をもたらす船。空を飛べれば過激派から逃げることも可能だった。今となってはその必要は無くなったがな。」

「いや、これは凄いぞ・・・。空飛ぶ船なんてまさに革命だ。これは完成してるのか?」

「船体や搭載エンジンは既に完成している。だが問題はそのエンジンを動かす動力源。船体を浮かす程のエネルギー量がなかなか手に入らず暗中模索してたんだ。」

「これを動かす動力源ですか。確かに並みの魔石などでは難しそうですね。」

リーシャが首を傾げていると、

「・・・実はね、その動力源に心当たりが出来たんだ。」

「マジっすか⁉」

「私の古い知り合いに探してもらっててね。ついこの間そのヒントを持ち帰ってきたんだ。」

「そのヒントって言うのは?」

「地底世界だ。あそこは未知の領域。我々の知らない物がゴロゴロしている。ひょっとしたらと思ってもう一度その知り合いに頼んで探ってもらってるんだ。」

動力源の関してもなんとかなりそうだ。

ただ問題は、地神龍の進行に間に合うかどうかだ。

「一先ず早急に整備や点検を技術班に行わせる。その間は申し訳ないが、自由に過ごしててくれ。動力を探ってる知り合いにも私から連絡をしておこう。」


 「その知り合いっつーのは・・・。」

「十中八九、夜襲の亡霊ね。」

デビルカジノで亡霊との情報を得た際、船の動力源を探ってる話も聞いていたのだ。

「しっかしもどかしいで。期限は早くて二日、整備はどうにかなりそうとは言っとったけど動力源が見つかるまではどうすることも出来へん。」

「自由に過ごしてとは言われたけど、タクマ達は今何してるの?」

「アルセラのアーティファクト訓練。あん時の戦いで新しくアーティファクトが目覚めてな。その力を完璧に扱えるようにタクマやリーシャ達と特訓しとるで。二日以内にものにするんだ!とか言っとったし。」

「彼等も彼等でしっかりしてるのね。それに比べて私達は街の視察と買い物。温度差が激しいわ。」

「何言うとる。視察も立派やで。民の意見に耳を傾ける。今はそれが一番必要や。」

「うん。ありがとうウィンロス。平和が一番ね。」

ウィンロスに励まされ少し気が楽になったイビル。

と、その時・・・、

「どけどけ!退けぇ!」

後ろから騒ぎが聞こえてきた。

二人が振り返ると露店通りを疾走する甲冑が滅茶苦茶姿勢よくこちらに向かって全力疾走してきたのだ。

露店通りの人達もパニック状態だ。

「なんやあれ?魔王軍の奴か?」

「いや、あんな古い甲冑じゃないわ。」

すると更に後方から鍛冶師の男性が追いかけていたのだ。

「誰かそいつを捕まえてくれ!」

どうやらただ事ではない様子だ。

ウィンロスは迫りくる甲冑男の前に立ち塞がる。

「お前に恨みはないが大人しくせい!」

「うおぉぉ!俺は絶対に捕まらねぇ!」

甲冑男はウィンロスの包囲を掻い潜り彼の頭を蹴ってやり過ごした。

「鳥如きに捕まってたまるかぁ!」

「カッチーン!誰が鳥やこなクソ!絶対捕まえたるわぁ!」

安い挑発に乗ったウィンロスは飛翔し空から甲冑男を追いかけていった。

「ウィンロス!もう、煽り耐性なさすぎでしょ!」

イビルは姿勢を低くし意識を集中させる。

(昼間だから百パーセントは出せないけど、追いかけるだけなら・・・!)

フードが割れて揺らめく襟となり、髪も伸びこめかみから赤い繊維が現れる。

そして八重歯の口マスクを纏いスレンダーな女性へと変身する。

「ふぅっ!」

そして音も出さず走り出すのだった。


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