『第235章 大地の神龍』
大穴の渦からタクマ達を乗せたバハムートが飛び出す。
上空から首都ヴァンプローナの様子を伺うが街は結構破壊されており生き残った魔王軍も虫の息だ。
「一足遅かったか?」
煙の立つ城の方へ向かうとそこには過激派の軍勢とケルベロス。
そしてグリガロンが打倒されており、城の外廊下でヴリトスと共に居るウィンロス達が見えた。
「どうやら向こうは片付いたようだ。」
「いらねぇ心配だったか。」
一先ず彼らが無事な事に安堵したタクマ達だった。
「大丈夫?お父さん。」
ヴリトスは先程の戦いでかなり疲弊しておりアルセラに応急処置してもらいながらウィンロスに回復魔法をかけてもらっていた。
「私は大丈夫だ。一番心配なのはお前の方だイビル。」
「・・・ようやく見つけられた母親との別れ。私も母を亡くしているから気持ちは痛いほどわかる。」
「ありがとうアルセラ。お父さんも。でも私は大丈夫。お母さんはきっと、ずっと見守ってくれてるから。」
そう言い首にかける三日月のペンダントに触れるのだった。
「とにかく一旦は落ち着けそうや。流石にクタクタやで・・・。」
ウィンロスはドスンと腰を降ろす。
「私もアーティファクトの反動でしばらく動けないな。ふう。」
アルセラも座り込みカリドゥーンが人間体になる。
(一先ず目先の脅威は去ったようじゃが、まだ神が居る。・・・胸騒ぎがするのう。)
一方、地底世界のとある洞窟内にて杖を突きながら歩く一人の神がいた。
七天神の一人、セレスである。
セレスは洞窟を抜けるとそこは緑に輝く地下空洞内の樹海が広がっていた。
セレスは飛び降り地面の光る樹海に降り立つ。
更に歩みを進めると遺跡のような広場に出た。
その中央には妙な魔道具が設置されており、そこにもう一人の男性神、従神ジエトがいたのだった。
「ようセレス。やっと来たか。」
「どうやら過激派の魔族は破れたようですよ。」
「だろうな。気配からして大体察していた。」
「・・・それと厄介な事がもう一つ。どうやら元創造神が記憶を取り戻したようです。」
「・・・何?本当か?」
「えぇ、千里眼で見ましたから間違いありません。」
「マジか。このタイミングで記憶が戻るとか。だがまぁ、今更記憶が戻った所で手遅れだがな。」
ジエトは魔道具を起動させると何かを入れるような形に変形した。
「セレス、アレを寄こせ。」
「手に入れるの苦労したんですから大事に使ってくださいよ。」
そういいセレスが取り出したのは大きな赤い魔石だった。
「ひゅ~!やっぱ実物は輝きが違うな。」
「とてつもない純度を備えた赤い従魔結石。その名は『オリジン』。現在人類が発見している翡翠の従魔結石の最初の姿。そこから長い年月をかけて魔力が抜けていき、最終的に最も純度の低い翡翠色になると言いますが。」
「人類おろか世界すら知り得ない事実。まさに隠れた宝石だぜ。」
「ですが気を付けてください。純度がとてつもなく高い分、扱いを間違えれば神である貴方ですら命を落とす可能性があります。」
「そんなんで俺がビビると思ってるのか?神ですら扱いが危険視される程の力、大いにそそるじゃねぇか!コイツがあれば神龍のテイムすら朝飯前だ!」
セレスは呆れてため息をついた。
「さてと、準備はいいか?セレス。」
「後片付けも全て終わらせました。後は貴方に任せます。」
ニヤリと笑うジエトは赤い従魔結石を掲げる。
「さぁ今こそ伝説が幕を開けるぜ!目覚めろ、『地神龍・ガイアデロス』!」
赤い従魔結石を魔道具にセットすると大地の緑の光が赤く変色する。
そして大きな地震が起こるのだった。
突如として発生した大地震に首都ヴァンプローナが襲われる。
「何⁉地震⁉」
「凄まじい揺れだ!皆気を付けろ!」
その地響きは上空のバハムート達にも感じていた。
「何が起きている⁉」
「おじ様!あそこ!」
リヴの指す山脈が崩壊し、大地から複数の尖った緑色の結晶が突き出てきた。
結晶は大地を裂き、巨大な胴体が盛り上がる。
「~~~~~っ‼」
大地を震わせる重苦しい咆哮を上げる四足歩行型の超巨大な大地の龍が月光の下に出現したのだった。
あまりの巨大さに上空のタクマ達は言葉を失っていた。
「なんだよコイツ・・・⁉」
「大きすぎます・・・、まるで、大陸・・・!」
巨大な龍の背には森の生い茂る大地が広がっており、緑の結晶が幾つも突起した背びれを有していた。
リーシャの言う通り、まさに大地そのものである。
その巨大さは離れたヴァンプローナからでも異常さを物語っていた。
「あれが、お母さんの言っていた神龍・・・!」
目覚めた神龍の頭部、その上には二人の神の姿があった。
「ハハハハッ!スゲェぜ!これほど強大な神龍を目覚めさせてもちっとも限界を感じない!流石『オリジン』の力だ!」
歓喜するジエトを横に至極冷静なセレス。
するとセレスは何かに気付く。
「ジエト、君にお客のようですよ。」
「あ?」
遥か前方に現れたのは翼を持つ過激派の魔族、その大群だった。
しかしその大群の様子がおかしい。
全員瀕死の重傷を負い力なくうなだれているにも関わらず翼で羽ばたいている。
そして大群の先頭には首をへし折られたオークドレイク、グリガロンもいたのだった。
「まさか生きてたとは思わなかったぜ。オルト。」
羽ばたくグリガロンに乗っていたのはオルトだった。
「まだだ・・・。まだ俺は、タクマに負けてない・・・!」
未練がましく唸るオルトはなんと瀕死のグリガロンと過激派の魔族を無理やりテイムしたのだ。
テイムされた彼らに意識はなく、もはや・・・、
「ネクロマンサーだな。その妬み、執念は眼を見張るぜ。で?俺達の前に立ち塞がってるのはどういう事だ?」
ジエトの問いにオルトは、
「そのドラゴン、アイツの従魔より強そうだ・・・。そいつを使って、今度こそアイツを、タクマを殺す!そのドラゴンを俺に寄こせぇーーー‼」
オルト率いる過激派の軍勢が一斉に神龍に攻め入る。
だがジエトは余裕の笑みを浮かべていた。
「お前ごときに神龍をテイム出来るわけないだろ。それ以前に、神の所有物に手を出すとは何とも罰当たりだ。その罪は、万死に値するぜ。」
すると神龍の結晶の背びれが緑色に発光し、尻尾の先端から順に突出していく。
「っ!いかん!今すぐここから離れるぞ!」
突然バハムートが叫び出し急いでその場から離れる。
発光する背びれは徐々に突出速度が速くなり、頭部まで到達。
口部に凄まじいエネルギーが集束されていく。
その瞬間、オルトは死を悟った。
(死?死ぬのか?俺。・・・嫌だ、まだタクマをぶっ殺せてない。まだ魔王を倒せてない。まだ俺は何も成せてない!嫌だ。こんなかませ犬みたいな終わり方、こんな終わり方だけは・・・!)
「どのみちお前等はもう用済みだ。だが光栄に思え。神龍の、俺の力をその身で味わえるんだからな。それじゃ、あばよ。」
突出した背びれが一斉に引っ込み、凄まじい威力のブレスを発射する。
「嫌だぁーーーー!!!!」
彼の叫びも虚しく、オルトやグリガロン、過激派の軍勢はブレスに飲まれ塵も残さず消滅したのだった。
大気を貫くブレスは海を跨ぎ、水平線の向こうで着弾、大爆発を起こした。
凄まじい音や爆風が遅れて迫ってくる。
爆風は首都の建物を吹き飛ばし、城の上にいるイビル達を守るようにウィンロスが覆い被さると頭上からバハムート達が飛来し間一髪全員を魔法壁で爆風から守ったのだった。
そして原爆を彷彿させる爆発と立ち昇る煙を前に神龍は重い咆哮を轟かせる。
「これが、神龍の力・・・?」
人智を遥かに超えた力を目の当たりにしたイビルとヴリトスは驚愕し、タクマ達も呆然とする。
「前に戦った神龍の比じゃねぇぞ・・・!アレは・・・!」
そしてその力を得たジエトは笑いが止まらなかった。
「ハハハハッ!見たか!これが神の力だ!これなら創造神様の期待に応えられる!」
「地神龍は目覚めさせた。次のプランに移りましょう。」
「あぁ、そうだな。和国に眠るもう一体の神龍『アジ・ダハーカ』!この力さえあれば手に入れることも容易い。次なる目的地は和国だ!」
地神龍は大地を震わせながら歩き出し、海に入り和国へ向かって進行していくのだった。
「二体目の神龍も、必ず俺の物にしてやる!」
その光景を目の当たりにしたタクマ達は、地神龍が海の向こうへ消えていくのをただ見ている事しか出来なかったのだった。




