『第二十四章 まさかの結果』
「リヴァイアサンってどういう事ですか⁉」
リーシャはタクマの肩を掴みぐわんぐわん揺らす。
「言葉通りだよ。溺れてたから助けに行くと目の前で人間の姿に変わってびっくりしたわ。」
リヴァイアサンは今も冒険者にあれやこれやと説教気味に騒いでいる。
「あれは人型に変身できる『人化』というスキルだ。スキル自体かなり希少で扱える者もそう多くない。」
スキルの中でも極めてレアなスキルだとバハムートは言う。
「お前は使えないのか?」
「情けない話、竜王である我でも獲得が難しいのだ・・・。」
自身のない声で言う。
バハムートが人間になったらどんな姿だろうと正直興味があったが持っていないのなら仕方がない。
「いや~、リヴァイアサンを何とかしてくれとは言ったがまさか連れてくるとは思わなかったぜ。」
ガインがリヴァイアサンを見ながらタクマの後ろに立つ。
「とりあえず依頼は完了てことでいいか?」
「あぁ問題ねぇ。ありがとな坊主!」
さて、依頼も完了しあとはあそこで騒いでいるリヴァイアサンと話し合いをしなくては。
「なぁリヴァイアサン。」
「あ?何よ?」
機嫌悪いな。
だがここで引いていては問題が解決しない。
「確認だがお前はこの船がゴミをまき散らしている原因だと思ってたんだよな?」
「・・・・・。」
「?」
「・・・冷静になって考え直すと、ここにいる人間たちから悪意を感じなかったわ。というかむしろ罪悪感と善意しかないというか・・・その、いきなり襲ってごめんなさい・・・。」
おや?意外と素直で話の分かる子だった。
やっぱり怒りで周りが見えなくなっていただけのようだ。
「いやお前の気持ちも分かるで。誰だって住処を汚されたら怒るがな。オレも野生で暮らしてた頃は寝床を魔獣の便所にされたこともあったからなぁ。」
ウィンロスが遠い目で空を見る。
「何それ最悪っ‼」
リヴァイアサンも流石に引いた。
話を戻しタクマは説明を続ける。
「とまぁ、人間全てが悪い奴じゃないってことは理解してくれたかな?」
「えぇ、理解したわ。改めてごめんなさい・・・。」
「分かってくれればそれでいい。」
と、タクマはつい癖でリヴァイアサンの頭を撫でてしまった。
リヴァイアサンはばっと頭を押さえて離れてしまった。
「あ、悪いつい・・・。」
「・・・そういえばタクマさん。時たま私を子ども扱いする時ありますね?一応中身は大人なんですが。」
「いやリーシャは無理あんだろ!実際俺より年下だし!」
「どうせ私は身も心も子供ですよ!」
「・・・実際そうじゃん?」
二人のやり取りをよそにリヴァイアサンは撫でられた頭を押さえる。
(何この感じ?今まで感じたことない感情が・・・?)
すると人混みの奥から何やら怒鳴り声が聞こえてきた。
「納得いくか‼」
全員の視線が後ろに向くと戦士職の男がずかずかと歩いてきてリヴァイアサンの前に立った。
「俺たちはこいつのせいで死にかけたんだぞ⁉何でお前らはこいつを許せるんだ‼」
冒険者の一人が言葉を返す。
「許すも何も、元々俺ら人間のせいで海がこんなことになってしまったんだ。彼女はそれが許せなかっただけで俺たちがどうこう責めることはない。」
「だが現にこいつに襲われたじゃねぇか!」
「そのことはもう彼女が謝ってくれた!これ以上彼女を責めるなら俺たちが黙ってはいないぞ!」
冒険者の全員がリヴァイアサンを守るように集まる。
もちろんガインやクルーたちも。
「貴方たち・・・。」
タクマがポンとリヴァイアサンの頭に手を置いた。
「どうだ?人間にもこんなに海を思ってくれてる奴らがいるんだぜ?」
「・・・うん!」
リヴァイアサンは俯き少し笑った。
「て、テメェ等・・・!」
誰一人味方がいない状況に戦士職の男はわなわなと震える。
すると船の後ろの甲板からクルーの一人が叫んだ。
「ガインさん!後ろに積んでいた油の樽が一つ無くなっています!」
「何?本当なのか!」
「在庫書類と照らし合わせたので間違いありません!」
その話を聞いたリヴァイアサンがハッと何かを思い出した。
「あっ‼思い出した!この船が原因と思い込んだのはこの船から油が捨てられたからよ!」
ガインが不審に思いリヴァイアサンに言う。
「待て!この船には海を綺麗にしたいと志す者しか乗船させないようにしている。ましてや海にゴミを捨てようなど・・・!」
途中でガインも気づく。
海に関心がなく人の心が欠けている人物を。
「お前か・・・!」
ガインはこれまで以上に怒りどすの効いた低い声で戦士職の男を睨む。
「な、何だよ・・・!俺がやったって言いてぇのか!」
すると他の冒険者がヒソヒソと話し合い始める。
「そういえばあいつら出てきたあと後ろの甲板に行ったよな?」
「あたしも見た。なんかぶつくさ言いながらだったよね?」
「俺は後ろの方から何か蹴る音を聞いた気がするぞ。」
「お、俺がやった証拠とかあんのかよ!あぁ⁉」
次々と出てくる証言に戦士職の男は醜い抵抗をすると、
「彼で間違いありませんよ?」
なんとパーティの一人、フードの人物が証言したのだ。
「私がこの目でしっかり見ましたからね。」
まさかの証言者に驚いていると戦士職の男はフードの人物の胸倉を掴んだ。
「テメェどういうつもりだ⁉」
「どうもこうも事実を述べただけですが?」
「何考えてるのアンタ⁉バラしたらとんでもないことに!」
「そのことについては私は関係ありませんので。」
状況についていけず軽く混乱するタクマ。
(あのフードの奴、影が薄くて気にも留めていなかったが本当に何を考えてるんだ?)
状況が徐々に悪化するなか、ガインが戦士職の男の後ろに立つ。
「とにかく・・・犯人はお前ってことでいいんだよな?」
今にも殴り掛かりそうな雰囲気で恐ろしささえ感じ、ガインのオーラに押しつぶされそうになる。
「ぐっ・・・!」
すると戦士職の男はリヴァイアサンに目を移す。
「あいつだ・・・。あいつさえ現れなければこんなことに‼」
ガインの隙をついて走り出しリヴァイアサンに剣を向ける。
「えっ⁉」
「うあぁぁぁぁ‼」
振り下ろされる剣は彼女を切り裂く。
かに見えたが切り裂いたのはリヴァイアサンの残像だった。
「何っ⁉」
「全く、分が悪くなったら暴行に走りやがって。」
戦士職の男は声のする方を向くとそこにはリヴァイアサンを抱きかかえたタクマの姿があった。
「え、え?え⁉」
リヴァイアサンは何が起こったのかわからず何度もタクマの顔を見る。
「しっかり捕まってろ。」
タクマがささやくと勢いよく飛び出した。
「こ、この!」
「お前なんか・・・冒険者の風上にも置けねぇ‼」
そう言い放って戦士職の男に鋭い回し蹴りを食らわし男は完全ノックアウトになって倒れた。
「大丈夫か?」
「は、はい・・・。」
(しかしドラゴンをお姫様抱っこするとは思いも寄らなかったな。)
と思ったタクマだった。
「あ、アイツがやられるなんて・・・!」
魔女装備の女が誰にも気づかれないように杖をタクマに向けて魔法を放とうとしている。
騒動を起こしてその隙に逃げようという魂胆だろう。
「せめてあのガキだけでも・・・!」
「動かないでください・・・!」
魔法を放とうとした瞬間、槍に変形した杖を首元に突き付けられた。
「あ、アンタ・・・⁉」
「もう貴女も彼と同罪です。このまま大人しくしていた方が身のためですよ?」
魔女装備の女は歯を食いしばって悔しがったがもはや抵抗するだけ無駄。
杖を手放しガクッと膝をついたのだった。
いろいろと騒動はあったが無事に船はカリブル街の港に到着した。
船から積まれたゴミの山を下ろし分別され一部はリサイクル場と残りは焼却場へと運ばれた。
乗船していた冒険者たちもぞろぞろと降りてくる。
そして騒動を起こした戦士職の男と魔女装備の女は自警団に連行されていったがあのフードの人物はいつの間にか姿を消していた。
「はぁ、初依頼で飛んだ目に遭ったな。」
「でもタクマさんも大活躍でしたね。」
「依頼内容とは全く関係なかったがな。」
「ていうか活躍ならオレらもやろ?」
「お主は娘と比べれば差ほど活躍はしとらんだろ?」
「旦那ぁ・・・。」
タクマ達も船から降りてきた。
ただし、いつもとは違う様子で。
「ところで・・・貴女、いつまでついてきてるんです?」
タクマの腕にはリヴァイアサンががっしりと腕を組んでいた。
「ふふふ、私決めたの!」
「な、何を?」
「私、この方の妻になりま~す!」
「ダメェェェ‼」
何故このような事になったのか。
それは昼間タクマが戦士職の男からリヴァイアサンを助けた時彼女に惚れられてしまったのだ。
リヴァイアサン自身今まで抱いたことない感情が起きたとかでタクマを気に入り、好きになったという。
「ん?つまりあれか?あんさんはタクマの従魔になるってことか?」
「あ、それもいいわね!その方が確実な繋がりも得られるし!」
「うぅ~っ、タクマさんはそれでいいんですか⁉」
何故か怒っているリーシャだが仲間が増えることにはむしろ大歓迎だ。
「妻とかはよく知らんけど従魔になりたいってなら俺は別に構わないぜ?」
「やった~!」
「そんな~・・・!」
飛び跳ねて喜ぶリヴァイアサンと崩れ落ちるリーシャ。
二人の差が激しすぎる。
「契約するなら早くしてくれ。我は腹が減ってしかたがない。」
「分かった分かった。じゃぁリヴァイアサ・・・う~ん名前長いな。お前のこと『リヴ』って呼んでいいか?」
「名前まで授けてくれるの⁉嬉しいー!一生ついていく!」
ずっとテンションの高いリヴァイアサン。
流石に疲れてきた。
「分かったから落ち着け!ほら頭出して。」
言われた通り頭を出しタクマが触れる。
二人は光に包まれ契約が完了した。
「これからよろしくな、リヴ!」
「はい、主様!」
「様はやめてくれ・・・。」
「いえ、主様は主様よ!」
新しい仲間が増え、旅は更に賑やかになりそうだ。
「うぅ~・・・。タクマさんに女の人がついちゃった。」
ズ~ンと沈んでいるリーシャにウィンロスが呼び掛ける。
「嬢ちゃん早よいくで。」
「はい・・・。」
トボトボついていくリーシャを見てウィンロスがニヤリと笑っている。
(おもろくなってきたかも♪)




