『第233章 月下の吸血鬼』
従神ジエトに過激派の魔族、奴らの行いにとうとうキレたウィンロスとアルセラはグリガロンの率いる過激派の軍勢を怒り任せに薙ぎ払っていく。
表情からも伝わる怒りに燃える二人は見事すぎる連携で過激派を圧倒していきグリガロンとケルベロスに迫り掛かる。
「二人だけで掛かってくるとは無謀だな!このまま返り討ちにしてやる!」
デブ腹が膨らむ程息を吸い込み、鼻から炎ブレスを噴射。
その炎をウィンロスが羽ばたきでかき消し真っ直ぐ加速するアルセラがカリドゥーンを突き付ける。
しかしグリガロンの自慢のデブ腹に弾かれてしまう。
「効かねぇって言っただろ?」
弾かれた反動の隙をつかれアルセラがケルベロスに噛みつかれる。
「くっ!」
なんとか口をこじ開け脱出するが気が付くとアルセラはケルベロス含む過激派の軍勢に囲まれていた。
「悪いが今は加減が利きそうにない。切り刻まれても文句は言うなよ・・・!」
そしてウィンロスは疲弊しきった魔王軍に範囲治癒魔法をかける。
「バトンタッチや。後は任せとき。」
「すまない。後はよろしく頼みます。」
指揮官の指示の下、魔王軍は城の中へと退いていったのだった。
「お前の相手はオレや。トカゲブタ!」
「トカゲ鳥に言われたくねぇな。」
互いの煽りが炸裂した直後、二人はぶつかり衝撃波が辺りに響く。
「ノーズフレイム!」
「ウィング・サイクロン!」
技がぶつかり合い炎の竜巻が巻き起こり、その中で激しく暴れまわるウィンロスとグリガロン。
一瞬の隙をつきウィンロスの蹴りが命中し炎の竜巻から叩き落された。
「やるじゃねぇか。ここまで高ぶったのは久しぶりだぜ。」
「そうか。せやけどオレは全然やで。高ぶりなんかよりも、怒りの方が強いからな!」
炎の竜巻から稲妻が迸り竜巻をかき消すと雷刃竜となったウィンロスが現れる。
「『スパーキング・ダンパー』‼」
翼から落雷をまき散らし広範囲でグリガロンを攻撃。
自慢の筋肉と脂肪、竜の鱗で受け止めるがかなりのダメージを与えた。
「馬鹿みてぇに攻撃しやがって・・・。所詮は獣ってことだなぁ!」
両手の手斧を投擲しウィンロスは飛翔で回避。
すかさず鼻から炎ブレスを噴射しウィンロスの動きを妨害する。
たまらず地上に降りた瞬間にブーメランのように手元に戻ってきた手斧を掴み急接近。
「その首もらったぁ!」
「っ!」
その時、頭上から幾つもの魔鎖が降り注ぎ気付いたグリガロンは急ブレーキし即後方へ回避。
そして魔鎖を伝って降りてきたのはイビルだった。
「またお前か。」
「イビル・・・。」
「ごめんウィンロス。遅くなっちゃった。」
「そんな事はええ。お前こそ大丈夫なんか?」
「うん・・・。もう大丈夫。」
イビルは首に下げた三日月のペンダントを握りしめる。
「過激派、アンタ達の悪逆非道の数々、到底許されることじゃない。何が先祖よ。何が悪魔族よ。そんな下らないことで多くの人達を苦しめ悲しませてきて、同じ魔族として恥ずかしいわ。私はアンタ達を殺してでも止める!もうこれ以上、私達のように絶望に苦しむ人を増やさないために!」
背から幾つもの魔鎖を突出させ身を屈め戦闘態勢に入るのだった。
しかし、グリガロンは突然不敵に笑い出した。
「何がおかしいんや?」
「いや、ここまで感情が高ぶったのは久しぶりだったもんでな。俺を楽しませてくれた礼だ。こっちもとっておきを見せてやる。」
そう言い取り出したのは緑色の魔石だった。
(あれは、転移にも使っていた魔石?)
「野郎共!今宵は祭りだ!愚かにも俺等に歯向かう強気な奴らに眼にもの見せてやれ!俺達過激派の、悪魔族の力をな!」
その号令の下、過激派の軍勢全員が緑の魔石を取り出し、次々と飲み込んでいったのだ。
グリガロンも魔石を噛み砕き飲み込むと、強烈なオーラを纏った。
他の魔族もオーラに包まれより凶暴性が増した表情になる。
「何をしたアイツ⁉」
ウィンロスにイビル、アルセラも奴らの変貌に驚く。
「さぁ、こうなったもうお前等に勝機はないぜ!」
過激派の軍勢が謎の覚醒をした頃、地底世界の更に地下の空洞にて巨大な緑の結晶を前に散らばる人骨。
すると骨がカタカタと動き出し、一つに集まっていく。
やがて骨は修復され黒いコートとハットをかぶった。
「・・・上手いこと欺けたな。」
拳銃をベルトに納める夜襲の亡霊が復活したのだった。
亡霊が結晶の麓にしゃがみこむと結晶に突き刺さったとある魔道具を抜き取った。
「いい具合に抽出したな。これを調べればいずれ・・・。」
すると結晶が強い光を放ち始めた。
「やはり奴らの力の根源はこれだったか。サンプルも手に入れた事だし、もう必要ないな。」
亡霊は五角形に発砲し、その場を後にする。
その直後、背後の結晶は粉々に砕け散ったのだった。
「任務完了だ。」
同時刻、魔石を食らい強化された過激派が突然弱体化したのだ。
動きが鈍った瞬間にアルセラが一閃を決め軍勢を切り伏せる。
「ごはっ⁉何だ、急に激痛が・・・⁉」
血反吐を吐き跪くグリガロン。
「なんかデジャヴやけど、チャンスや!『ギガスパーク!』。」
ウィンロスが角の間に雷を纏い放つが起き上がったグリガロンが手斧で防ぐ。
「まだ動けるんかいな。思いのほかしぶといで。」
(・・・一体何が起きた?魔石を食った直後、力が膨れ上がったと思ったら急に力が消えた?まさか、地下にあったあの石に何かあったのか?)
痛みで震えながらもグリガロンはゆっくり立ち上がる。
「何が起きたかわかんねぇが調子に乗るのは早いぜ!鳥トカゲ!」
「カッチーン!まだ言うかブタごらぁ!」
ウィンロスが煽られてると突然イビルまで跪いてしまった。
「イビル⁉やっぱりお前まだ毒が・・・⁉」
「いえ、違うわウィンロス。・・・雲が晴れてきたでしょ?」
見上げると曇天だった雲が少しずつ晴れていき、満月が顔を出した。
「私はね、とっておきの切り札を隠し持ってるのよ。でも結構醜い力だから極力使いたくなかったけど、お母さんと約束したから。奴らの思惑は絶対止めるって。だから、もう出し惜しみはしない。」
立ち上がったイビルはゆっくり歩きだす。
「何を企んでんのか知らねぇが、その切り札って奴を易々と使わせる俺じゃねぇ!」
グリガロンは炎を手斧に纏わせ投擲し、炎の大車輪を放った。
「避けろイビル!」
ウィンロスが叫ぶが彼女は動じず、大車輪が直撃する。
かに見えたがそこにイビルの姿はなかった。
「っ⁉どこ行った!」
辺りを見回していると月が完全に顔を出し、影が映ると城壁の上にイビルが立っていた。
(今の一瞬であんな所に?)
「ウィンロス。私の種族覚えてる?夜はね、吸血鬼の領分なのよ。」
するとイビルの身体が徐々に成長し始めた。
フードは割れて襟のように揺らめき、金色の髪も背丈以上の長さに伸びこめかみから血のように赤く揺らめく線髪。そして口元に八重歯が際立つ特徴的な口マスクを付けたスレンダーな女性が月をバックに立つのだった。
「さぁ、お仕置きの時間ですわ!」




