『第232章 求め続けた真相』
メルティナとヘルズ・ラルマの決着がつく少し前。
地上の首都ヴァンプローナに進行し続ける過激派の魔族。
竜の力を得たグリガロンに加えオルトの従魔、ケルベロスとヴァンシー。
更に無数の軍勢に侵略されるのも時間の問題だ。
グリガロンが部下を引きつれ魔王城へ進行する中、王城の広間でケルベロスが暴れている。
そして城の外廊下で魔王ヴリトスとヴァンシーが戦っていた。
「どうしたどうした!俺達を食い止めるんじゃなかったのか⁉」
手斧と竜の尾を振り回し魔王軍を薙ぎ払うグリガロン。
軍はもはや手の打ちようがなくなり後退せざるを得なかった。
「どいつもこいつも腰抜けばかりだぜ。やっぱり魔族たるもの、力が全てだな!」
グリガロンの軍勢の勢いが衰えない中、城で自ら戦っているヴリトスは奇怪のヴァンシー相手に少々手こずっている様子だ。
(動きが読みづらい。まるでゴーストを相手にしているみたいだ。)
多彩な魔法を駆使しヴァンシーを追い詰めるヴリトス。
相手に隙が出来た瞬間を見計らい決め手を仕掛ける。
「スパイラルスラッシュ!」
螺旋状に放たれる突きがヴァンシーに命中する。
「っ⁉」
しかし今の攻撃をヴァンシーは何と魔法壁を張って防いでいたのだった。
しかもヴリトスにはその魔法壁には見覚えがあったのだ。
「その魔法は、まさか・・・⁉」
一方で城下の中庭でケルベロスと戦う魔王軍。
理性を失い本能のまま暴れるケルベロスに当然敵う訳がなく一方的に蹂躙されていく。
「手持ちの武器では歯が立たない!バリスタを使用する!魔法部隊、バリスタの準備が整うまで奴の気を引け!」
「了解!」
指揮官の指示の下迅速に動き、魔法部隊がケルベロスの注意を引いている間にバリスタが整い発射される。
しかしケルベロスは獣特有の危機察知と瞬発力で避けバリスタを攻撃、破壊してしまう。
「ダメです!バリスタも利きません!」
(くっ!もはや打つ手なしか・・・!)
その時、襲い来るケルベロスが突如謎の砲撃を受け吹っ飛ばされた。
「な、何だ⁉」
砲撃が放たれた方向から何かが迫ってくる音がする。
瓦礫を押し退け現れたのは、戦車だった。
「な、何だあれは?乗り物?あんな物見たことないぞ?」
魔法が主流の魔大陸には場違いな戦車が目の前に現れる。
魔王軍も理解が出来ず困惑しているとケルベロスが起き上がってきた。
「今はあれを気にしている場合ではない!皆体制を立て直せ!」
指揮官がそう指示したその直後、戦車がキャタピラを動かしケルベロスに突進したのだ。
「お、おい!搭乗者!何者かは知らないがあの魔獣にはむやみに近づくな!」
指揮官がそう叫ぶも戦車は速度を落とさず真っ直ぐケルベロスに突っ込んでいく。
その時、突如戦車が割れた。
「は?」
すると割れた所からガシャガシャと徐々に形を変えていく。
「~~~~っ‼」
なんと戦車が機械のトリケラトプスへと変形したのだった。
「な、なんだあれは⁉」
魔王軍が驚く中、機械のトリケラトプスは突進していきその鋭い角でケルベロスを持ち上げ、そのまま背負い投げ地面に叩きつける。
ケルベロスが起き上がりそれぞれの頭から三属性ブレスを放つもトリケラトプスの機械の身体に全て弾かれる。
トリケラトプスは再び戦車に変形し砲台をケルベロスに向ける。
エネルギーが砲台に蓄積されていき阻止しようと飛び出すもその瞬間にチャージが完了し、至近距離で砲撃が発射されケルベロスは城壁の向こうへ撃ち飛ばされたのだった。
あまりの不可解な光景に魔王軍の兵士たちは空いた口が塞がらない中、戦車は再びトリケラトプスへと変形し、反対方向へ歩き出した。
「ま、待ってくれ!」
指揮官が呼び止めトリケラトプスがこちらに振り向く。
「誰だが存じ上げないが助かった。礼を言わせてくれ。」
礼を言う指揮官だがトリケラトプスは何も答えず歩き出し、その場から去っていったのだった。
「搭乗者に直接会って礼をしたかったが、今はそんな状況でもないか。」
「あの、指揮官。多分なんですけど、あの戦車、人は乗ってないと思います。」
「どういう事だ?」
「動き方が騎乗物には見えなかったんです。ぱっと見でしたが、アレは生物のような自然な動き方でした・・・。」
「では、あれはれっきとした生物であると?」
「自分の偏見ですが・・・。」
(だとしたら、あんな生物は見たことないぞ?まさか過激派が秘密裏に?いや、だとしたらケルベロスを攻撃しないハズ・・・。あれは一体、何だったんだ?)
疑問が渦巻き頭を悩ませていると兵士が突然慌て出した。
「指揮官!ケルベロスはまだ健在です!」
砲撃を直撃したケルベロスが再び立ち上がったのだ。
「あの魔獣は不死なのか?もうこれ以上の足止めは厳しいぞ!」
それでもケルベロスは容赦なく魔王軍に襲い来るのだった。
そして、ある疑惑が浮上したヴリトスはその剣筋が鈍りヴァンシーに追い詰められ始めていた。
(ありえない!そんなことは・・・!)
同様のあまり態勢を崩してしまったヴリトスはヴァンシーの超音波に直撃し吹き飛ばされてしまう。
(耳が聞こえない!それに身体に力も入らない。しくじったか・・・!)
動けないヴリトスにヴァンシーは容赦なく迫る。
だがヴリトスに魔法壁が展開されヴァンシーの攻撃を防いだ。
「自発型の魔法だ。身動きが取れなくなった時のために備えていた物だ。」
しかしヴァンシーは恐ろしい程の勢いで魔法壁を攻撃し続ける。
すると次第に魔法壁に亀裂が入る。
ヴリトスは超音波の影響でまだ動けない。
(・・・格なるうえは、この魔法で!)
ヴリトスが背の後ろで手を構えた直後、魔法壁は砕かれヴリトスの腹部にヴァンシーの鋭い爪が突き刺される。
「ぐふっ⁉」
しかし、突き刺した爪が抜けなかった。
ヴリトスが腹に力を籠め抜けないよう固定したのだ。
「捕らえたぞ・・・!」
だがヴァンシーはそのまま口部にエネルギーを溜め始める。
この至近距離からあの超音波を発する気だ。
この距離で撃たれたら肉体が持たずバラバラに引き裂かれるかもしれない。
(間に合え!)
背の後ろに構えた手に白い光が蓄積されていく。
その時だった。
「お父さーーーん‼」
上空からウィンロスに乗ったアルセラとイビルが飛来してきたのだ。
するとイビルを見たヴァンシーの動きが一瞬止まった。
その隙を逃さず、ヴリトスは光り輝く右手を構える。
「今だ!『エクソシズム』‼」
魔王の放つ浄化魔法がヴァンシーにヒットし辺りは眩い光に包み込まれたのだった。
・・・光が晴れると浄化魔法の残滓が雪のように降り注いでいた。
あまりの眩しさにウィンロスが外廊下の上に墜落していたが乗っていた二人は無事だった。
ヴリトスも魔族の身でありながら光の魔法を使用したことで多少身体に火傷を負っているが無事のようだ。
そして、
「ウ、ウゥ・・・!」
浄化魔法を受けたヴァンシーはうなだれるように苦しんでいる。
「ウゥアァぁ、あァぁ・・・!」
よく見ると頭を抱え悶えているヴァンシーの中から人の影が見え隠れしている。
「なんや?様子がおかしいで?」
ウィンロス達が凝視しているとその人影を見たイビルとヴリトスは眼を疑った。
「なんで・・・?」
「っ、嘘であって、欲しかった・・・!」
身体を押さえながらもヴリトスが走り出すと同時にヴァンシーの外皮が溶けるように剥がれ落ち、白いワンピースを着た美しい女性が現れたのだ。
「嘘、そんな・・・⁉」
フードがとれるほど走り出したイビルは倒れる女性を受け止める。
ヴリトスも彼女の下へ駆け寄り女性はゆっくりと眼を開けた。
「・・・イビル?」
「お、お母さん・・・!」
「っ⁉」
「う、嘘やろ・・・⁉」
なんと、ヴァンシーの正体はイビルの母親だったのである。
「お前、どうして・・・!」
夫であるヴリトスも驚きを隠せないでいた。
「ごめんなさい、あなた・・・。禁術の代償として、私は悪魔に全てを捧げてしまったの。肉体は奪われ、魂もいじられ、私は醜い魔獣へと変えられてしまった。・・・貴方の忠告を聞かず勝手な事をしてしまって、ごめんなさい・・・。」
「謝るな・・・!謝らなければいけないのは私の方だ!君の心が追い詰められていたにも関わらず、私は君に寄り添ってあげることが出来なかった。本当にすまない・・・!」
涙を流し悔やむヴリトスに母は優しく微笑む。
「でも、後悔はしていない。だって、こうして大きくなった娘をこの目で見ることが出来たんですもの。」
「お母さん、私・・・!」
「イビル。一緒に居てあげられなくて、ごめんなさい・・・。母親らしいことも、してあげられなかった。」
「そんなの、これからいっぱいしてくれればいいよ!これからもずっと一緒に・・・!」
しかし母は首を横に振った。
「私は禁術の代償で命を持っていかれた。私はもう、一緒に居てあげられない。」
「そんな・・・!嫌だよ!せっかく見つけられたのに!やっとお母さんと会えたのに!」
泣きながらイビルは母を抱きしめる。
だが母はそんなイビルの頭を優しく撫でる。
「大丈夫。この先、どんな困難があっても、貴女ならきっと乗り越えられる。貴女にはもう、かけがえのない大切なものがいっぱいあるから。」
すると母の身体が徐々に透明に消えていく。
「お母さん!」
「イビル、貴女のお友達に伝えて。神は、この地に眠る神龍を目覚めさせて、和国に眠る神龍も手に入れようとしている。どうか神の暗躍を、止めて。」
その話を聞いたウィンロスとアルセラは互いに顔を見合わせる。
「和国の神龍って・・・!」
「アレか・・・!」
その時、城門の方で何かを叩きつける音がしてきた。
グリガロンが城も前まで到達し門を破壊しようとしているようだ。
「イビル、あなた、どうか幸せに生きて・・・。」
「お母さん・・・。」
「お前・・・。」
母はイビルの綺麗な金髪に触れ涙を流しながらも優しく微笑む。
「愛してるわイビル。私の、天使様・・・。」
愛の言葉と三日月のペンダントを残し、母の身体は光の粒となり月の輝く夜空へと昇っていった。
「~~~っ!お母さん・・・!」
二人は共に泣き崩れ、ヴリトスはイビルを抱きしめるのだった。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
二人を見守り佇んでいたウィンロスとアルセラは、
「アルセラ・・・。」
「分かってる・・・。」
何度も叩きつけられた城門がとうとう破壊され、過激派の軍勢を率いるグリガロンが入ってきた。
「あの犬っころもここにいたか。随分暴れまわってるみたいだな。野郎共!魔王の首はすぐそこだ!抵抗する魔王軍も全員嬲り殺せぇ!」
グリガロンの号令で過激派の軍勢が押し寄せたその時、上空から凄まじい一撃が放たれ軍勢の一部を吹き飛ばした。
「なんだ⁉」
そこに現れたのは完全な怒りを露わにしたウィンロスとアルセラだった。
「お前たちは絶対に・・・!」
「ぶっ潰す・・・‼」




