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『第230章    』

「メルティナさん‼」

不意に投擲された剣に身体を貫かれてしまったメルティナ。

リーシャが倒れる彼女を受け止めるとギ・ドラムが首を鳴らしながら歩いてきた。

「油断したぜ。まさか消えていなかったとはな。今度は油断しねぇ。テメェは私の手で直接消滅させてやる!」

怒りのギ・ドラムが右腕の竜首を掲げると黒炎の首も二つ現われ三つの竜がリーシャ達にけしかけられる。

「っ!」

メルティナを抱えたリーシャは風魔法を脚に集中させて大ジャンプして避ける。

「逃がすか!」

ギ・ドラムも飛翔し追いかける。

リーシャは半重力の中、宙に浮遊する岩を伝って逃げるも飛べるギ・ドラムから逃れられず追いつかれてしまう。

「ヘル・バルガ!」

衝撃波を放ちリーシャを浮遊岩に叩きつける。

それでも彼女はメルティナを離さない。

「チッ、面倒だ。そいつを離さないのならお前ごと始末してやる!『ザ・ブラック』!」

竜の腕が口を大きく開け漆黒の炎を放ち、二人を包むように囲う。

タクマ達が助けに向かおうとするが残っているダメージの影響で動けない。

「メルティナさん‼」

漆黒の炎は瀕死のメルティナを抱きしめるリーシャごと飲み込んでしまったのだった。



 ・・・気が付けばリーシャは見知らぬ宮殿の廊下に立っていた。

『あれ?ここは・・・?私は確か黒い炎に飲まれて・・・。」

すると後方から鎧を着た兵士が数人走ってきた。

『あ、すみません!ここは何処ですか・・・?』

しかし兵士たちはリーシャの声に気付かず、ましてや彼女の身体をすり抜けたのだ。

『え・・・?』

「急げ!創造神がお呼びだ!」

「玉座の間に呼び出されるなんて、俺何かミスしちまった?」

「それは分からないが他の天使や七天神にもお呼びがかかったらしい。とにかく急ぐぞ!」

慌てた様子で廊下を疾走する兵士たちをリーシャは呆然と佇んでいた。

(まるで私が見えてないような・・・、他にどうすることも出来ないし、ついていってみよう。)

リーシャも兵士を追いかけていったのだった。


 リーシャが大きな扉をすり抜けるとそこには大勢の鎧兵士と、背に翼を持つ人物たちが玉座の間のような部屋に集まっていたのだ。

(天使⁉一体ここは・・・?)

人混みの間をすり抜けていくと、玉座の前に二人の男女が立っていた。

男は黒いマントを羽織った黒髪のレイガであり、隣にいるのは六枚の翼を持つ美しい女性だった。

『レイガさん!でも髪も服も黒い?それに神様独特の気配もない?どういうこと?』

全く状況が理解できないでいると玉座にいつの間にか女性が座っており、部屋にいる天使たちが一斉に跪いた。

現れた女性は他の天使や神よりも一際強い存在感を放っている。

そして何より、メルティナと同じ顔だったのだ。

『メルティナさん、いや、あんな大人な姿ではなかったはず・・・。もしかして、創造神だった頃のメルティナさん⁉という事は、ここはメルティナさんの記憶の世界・・・!』

どういう訳かメルティナの記憶に入りこんだリーシャ。

するとメルティナ、ではなく創造神が口を割った。

「説明をしてもらいましょうか?セレンティアナ。」

『セレンティアナって、タクマさんのお母さん⁉』

「はい。私は彼、人間を天界へ招き入れました。」

周りの神々がざわつく。

本来人間が神の住まう天界に足を踏み入れることは禁忌(タブー)とされている。

「七天神の貴女が禁忌を犯してしまうとは思いませんでした。・・・彼を連れてきた理由を聞かせなさい。」

すると今度はレイガが口を割った。

「全て俺が彼女に無理をお願いした。彼女ではなく、俺を咎めてください。」

そう言い頭を下げる。

「俺はどうしてももう一度()()()()と、仲間たちと会いたいんです!そのためなら俺は何だってします!だからどうか、俺を神にしてください!」

レイガは土下座し誠意を見せる。

「・・・人間から神になると言うのは今まで前例がありません。それでも、貴方は我々のようになりたいのですか?」

「仲間ともう一度会える可能性があるのならこの命、惜しくありません!」

「・・・創造神様、私からもお願いします。彼らを近くで見てきたのは私です。何よりも彼の言葉は信用に値します。どうか、私達に機会をください。」

セレンティアナも土下座をし周りの神々が更にざわついた。

「あのセレンティアナ様が頭を⁉」

「何故そこまであの人間に・・・?」

『人間⁉レイガさんて元々人間だったんですか⁉』

リーシャが驚いていると創造神の女性はふうっと息をつく。

「・・・いいでしょう。」

「創造神様⁉」

「静まりなさい。セレンティアナ、そしてレイガ。貴方達の覚悟はよくわかりました。ですがやはり前例がないことも事実。そして禁忌に触れた事実。よってセレンティアナ、禁忌を犯した罪として貴女には七天神の座を降りてもらいます。」

周りの神々が驚きの表情を見せる。

「今後七天神として返り咲くことは二度とありません。神としての仕事も一切任せられることはないでしょう。」

創造神の判決にレイガは心を痛める。

だが、

「そして、彼を貴女の一番弟子として認めます。」

「「っ‼」」

「貴女の生涯を彼に全て注ぐのです。そして必ず、彼を立派な神に育て上げなさい。女神としての、最後の仕事です。」

そう言い笑みを見せる創造神。

その判決に驚く者は多かったがセレンティアナとレイガは顔を見合わせ笑顔になる。

「その罰、謹んでお受けいたします!」

『なるほど、それでレイガさんは人間から神に成り上がったのですね。』

一人リーシャが納得していると負の気配を感じ取る。

移す視線の先には美神となる前のエルエナが爪を噛んで睨んでおり、更にその先には不敵な笑みを浮かべる眼鏡の男性神、ラウエルもいたのだった。


 それから百数十年がたったある日、宮殿の屋上テラスで夕焼けの空を眺める創造神がいた。

そこへセレンティアナが飛来してきた。

「こんな所にいたんですか。創造神様。」

「セレンティアナ、・・・少し考え事をしていただけです。」

「・・・そうですか。レイガから聞きましたよ?()()()を下界に追放したとか?」

「・・・後で彼に注意をしなければいけませんね。」

呆れるように頭を抱えた創造神だった。

「貴女の判断は正しいですよ。いくら罪人とはいえ研究の、しかも禁忌の死者蘇生の実験に利用するなんて許されることではありません。まぁ、既に禁忌を犯した私が言えることではないですが・・・。」

「・・・貴方はよくやってくれたと思ってますよ。誰も期待していなかったというのに彼を、レイガを立派な神に育て上げたのですから。」

「今では自慢で誇らしい弟子です。」

「・・・彼は大切な仲間を取り戻したのですね。」

「はい。連れて戻ってきた時はそれはもう嬉しそうでした。」

創造神はしばし夕陽を眺める。

「・・・私は、創造神としてしっかりやれているだろうか。」

「どうしたんですか?突然・・・。」

「いや、最近他の神々や天使たちから随分反対意見が多くなってな。私の指針に納得がいかないらしい。」

「それは向こうの考え方がおかしいだけですよ。今世界の平和が保たれてるのは創造神様のおかげなんですから。ご自身の決断力に自信を持ってください。」

「・・・自身、か。」

少し気が沈んでいる創造神にセレンティアナは何やらニヤニヤしている。

「・・・そんな顔してたら美しいお顔が台無しですよ。()()()()()()()()。」

「ちょっ⁉宮殿でそのあだ名はやめろと言ったでしょう!」

「何でですか?私の付けたプライベート用の可愛いあだ名じゃないですか。」

「~っ!貴女にあだ名をつけてもらったのは間違いだったかもしれない・・・!」

悔しそうに顔を赤くしながら拳を握る創造神にセレンティアナは思わず笑いを零した。

「やっぱり、貴女に沈んだ顔は似合いませんね。」

「セレンティアナ・・・。」

「では私はそろそろ帰ります。今夜はレイガと久しぶりの外食なので。・・・くよくよしてても何も変わりませんよ。変わるには思い切った決断が必要です。私の弟子のように。」

それだけを言い残しセレンティアナは飛び去って行った。

残った創造神は再び夕陽を見る。

「決断か。・・・ジャバル(かれ)を追放したことは正しいと思っているさ。でも、子も同然に接してきた相手を切り離したというのに、何も感情が湧かなかった。私は、とても最低かもしれない。決断なんて言ってるが、それは私自身がその結果に無理やり納得するための言葉でしかない。時々自分の在り方に疑問が(よぎ)って仕方ない。私は本当に創造神として、存在していいのかな・・・?」

彼女の迷いが次第に大きくなり、後に世界は愚か天界まで大波乱を巻き起こす事となるのだった。


 それから更に月日は流れ、玉座の間に鎧兵士が慌てた様子でやってきた。

「ご報告します!一部神々や天使兵軍が反旗を翻しました!」

「何⁉それは誠かアドモス!」

鎧兵士のアドモスから話を聞き創造神は力なく玉座に腰を落とす。

側近の天使たちも不安の様子だ。

「恐れていた事が起きてしまったか。だがセレンティアナが神器の一つを持って先に姿をくらませたのが功を制したな。皆は直ちに宮殿から退け!」

「創造神⁉」

「私達も戦います!」

「ダメだ。向こうの方が戦力が大きい。お前達まで失いたくないんだ。心配はいらん。私は全能の創造神。己自身でなんとか生き延びて見せるさ。行け!」

「―っ!申し訳ありません!ご武運を!」

悔しそうに口を噛みしめるもアドモスは側近の天使を無理やり抱えその場から退いていったのだった。

そして、玉座の間の扉が破壊されラウエルを筆頭に後の七天神となるジエトやレーネ達神々、そして大勢の天使兵を引きつれた軍勢が入ってきた。

「・・・ラウエルよ。何故このような事を?」

「決まってるじゃないですか。クーデターですよ。貴女の目指す世界はぬるすぎる。私ならもっとより良い世界を創れますよ。」

「血迷ったことを。貴様に世界をどうこうする力も資格もない。そのことが分からぬ阿呆でもあるまい。」

「ご心配なく。既に策は用意してますので。クククッ!」

不気味に笑うラウエルはその後、創造神を捕らえその座を奪い取ったのだった。

「貴女の時代は終わったのです。()創造神様。」

その光景を見ていたリーシャは彼等の行いと何も出来ない自身の怒りで杖を握りしめるのだった。


 そして気が付くと何もない真っ白な空間の中にポツンと立っていた。

「あれが、メルティナさんの過去・・・。」

すると何処からかすすり泣く声が聞こえる。

声のする方へ走るとそこには玉座の間の中央に座り込むメルティナの姿があった。

「メルティナさん!」

急いで駆け寄るリーシャ。

「メルティナさん、大丈夫ですか?」

「・・・ごめんなさい。」

「え?」

俯くメルティナは涙を流す。

「私はずっと後悔していた。本来守るべき世界を守れず、この世界は彼らのいいように扱われ壊された。全部私のせい・・・。ごめんなさい、私が皆を不幸にしちゃった・・・!」

泣き崩れるメルティナにリーシャは、

「貴女が創造神と知った時は確かに驚きました。でも貴女が悲しむ必要はありません。全てラウエルとその取り巻きが悪いんです。そんな神達に世界を委ねたらこうなるのは必然、だから私達が戦っているのです。私達だけではありません。この世界に生きる生命皆より良い世界にしようと力を尽くしています。貴女もこれまでの旅でそういう人たちを見て来たでしょう?」

「・・・・・。」

「失ってしまったものはどうにも出来ません。だから今得られているモノを大切に、前に進みましょう。」

そう言い手を差し伸べるリーシャだが、

「ごめんなさい、リーシャ・・・。私はもう、前に進めない。」

「な、何を言って・・・?」

リーシャがメルティナの手に触れた瞬間、彼女の手が(すす)のように崩れてしまったのだ。

「っ⁉」

気が付くと周りの景色も塵と化して崩れて消えていき、メルティナの身体も崩壊し始める。

「私はもう、存在出来ない。ギ・ドラムに創造神としての核を食べられていたの。その彼女が私から抜け出した今、私は消える。」

「そんな、嫌です!メルティナさんが消えてしまうなんて!」

「もう、運命は変わらない。でも、最期にリーシャやタクマ達と一緒に冒険が出来て、楽しかった。それだけがせめての救い。」

「・・・・・。」

「ありがとうリーシャ。さようなら・・・。」

その時、リーシャが崩壊するメルティナを抱きしめた。

「さよならなんて言わないで!貴女が創造神だったとしてもそれはもう過去の話!それに、今まで貴女を助けてくれた天界の人々やこの旅で出会った人たちの気持ちも忘れないで!この世界に必要のない存在なんてない!私達にとっても貴女はとても大切で必要な存在なんです!」

リーシャの叫びも虚しく、メルティナは眼を閉じていく。

それでもリーシャは彼女を離さない。

「創造神だとか関係ない!誰が何と言おうと、貴女はメルティナと言う一人の女の子!私達の仲間で、『家族』です‼」

するとメルティナの手先がピクリと動く。

(・・・な、かま、・・・()()。)

その時、リーシャの魂の言葉に応えるかのように崩壊が止まり全てが修復されていく。

そしてメルティナは外皮が剥がれるように塵が弾け元のメルティナに戻ったのだった。

「リーシャ・・・。」

「っ!メルティナさん!」

リーシャは涙を流しメルティナを再び抱きしめる。

次第にメルティナも涙を流した。

「これからも、一緒に冒険しましょう!」

「うん・・・!一緒に!」



 包まれる黒炎から光が溢れ弾け飛ぶ。

「っ⁉何だ⁉」

ギ・ドラムは勿論、タクマやバハムート達も驚きを見せる。

黒炎が弾け現れたのは神々しく輝く純白の翼にバトルドレスを身に着けた少女。

眼を開けるとその瞳は金色に輝いており、美しい天使の少女が光臨したのだった。

少女は抱えるリーシャを見て微笑む。

「ありがとうリーシャ。貴女のおかげで私は全てを思い出した。私はもう、皆の前から消えたりしない。」

「メルティナさん・・・!」

リーシャを降ろすメルティナはギ・ドラムに向き直る。

「テメェ・・・!」

「決着をつけよう。ギ・ドラム!」


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