『第228章 破滅の黒少女』
バハムート達と原初の龍の戦いは熾烈を極めていた。
相手はバハムート達よりも遥か昔に生きた言わば伝説そのもの。
力の差は歴然であり気付けば劣勢にまで追い込まれていた。
「『天の神鳴り』‼」
「きゃぁっ⁉」
雷帝王の放つ轟雷が直撃し地上へ落とされてしまうリヴ。
その横をメルティナを乗せたラルが低空飛行で横切る。
「本当にこの辺りなの?」
「そのはず・・・!」
メルティナは眼を閉じ集中するとある一点の反応を感知する。
「いた!あの尖った岩の左側!」
「オーケー!」
その尖った岩の下にいたのは腕を押さえて岩に寄り掛かるオルトだった。
呼吸も乱れておりかなり衰弱していた。
「くそっ・・・!あのドラゴン、俺を利用しやがって・・・!」
原初の龍への供給パイプに利用され許容を越える魔力が体内を駆け巡り苦しむオルト。
「早く、ここから離れねぇと・・・。」
すると彼の目の前にラルが飛来してきた。
「見つけた!」
「な、何だお前等⁉」
すかさずメルティナが飛び降り水筒をオルトの口に突っ込んだ。
「ゴホッ!なにをする!」
殴り掛かるオルトからメルティナを守り即座に飛翔する。
「何を飲ませた?・・・お茶?」
上空からラルとメルティナはニヤリと頬を上げる。
「上手くいった!」
オルトが何かを飲ませられた直後、三体の原初の龍に異変が現れる。
「っ⁉」
「うぐっ⁉何⁉」
「力が・・・⁉」
突然動きが鈍くなったのだ。
「なんや?」
「何が起きてるの?」
「よくわからんが、好機!」
その隙を逃さずバハムート達三頭は原初に向かっていき、それぞれの最大火力の一撃が直撃した原初の三体は地上へ落下した。
「ハァ、ハァ・・・。」
既に限界が近い三頭。
飛んでいるのもやっとだ。
・・・その時、土煙から熱戦が放たれ不意を突かれたリヴに当たってしまった。
「リヴ‼」
落下するリヴを助けようとすると今度は轟雷がバハムートに襲い掛かり咄嗟に魔法壁を展開するも威力が強く壁を貫通し直撃してしまう。
「ぐあぁ‼」
バハムートとリヴはクリスタルの上に落ち、残ったウィンロスにも零線が襲い来る。
初撃は回避できたものの追撃が避けきれず直撃してしまい凍り付いてしまう。
「いかん・・・!」
落下する凍り付いたウィンロスに炎ブレスを放ち、クリスタルに落ちる寸前で氷を溶かし砕壊を防いだ。
「この程度で倒したと思ったか?随分と舐められたものだ。」
土煙からゆっくりと立ち上がる原初の三体。
「嘘、全然効いてない・・・!」
(まずい・・・。我もリヴ達も既に魔力が枯渇寸前だ。これ以上は戦えん・・・!)
もうバハムート達は限界に達し身動きが取れなかった。
「・・・ねぇ。急に魔力供給が途絶えたんだけど?」
「あぁ。あの人間から送られる魔力量が急激に減った。」
実はラルとメルティナがオルトに飲ませたのは魔大陸に上陸した際に購入した『魔茶』というお茶だった。
魔茶には大気中のマナ吸収を抑える効果があり、オルトに飲ませたことで原初への供給が抑えられ動きに支障をきたしたのだ。
天龍王が辺りを見回すと低空飛行でタクマ達の所へ戻ろうとしているラルを発見した。
雷帝王と海龍王もラルに気付き、雷帝王が飛び出した。
「っ‼逃げて‼ラル‼」
リヴの声に気付くも遅く、雷帝王の雷速の蹴りをくらってしまう。
「うわぁ⁉」
「きゃぁ!」
乗っていたメルティナも振り落とされ、気付けば目の前に海龍王が迫っていた。
「メルティナさん!」
咄嗟に駆けつけたリーシャが炎魔法を放つも海龍王に避けられ尻尾によるカウンターで地面に叩き落とされてしまった。
「かはっ⁉」
更に追撃しようと海龍王が口部に冷気を溜め始める。
「うあぁぁぁ‼」
そこへ負傷しながらもラルが海龍王に噛みつくが振り落とされてしまう。
「ラル!」
「あの野郎共、子供に容赦無しかいな・・・!」
クリスタルの上で起き上がろうとするウィンロスだがダメージで動けなかった。
アルセラも動こうとしたが無防備のタクマとイビルを放っておけるはずもなく戸惑ってしまう。
「ゴホッ、ゴホッ・・・!」
咳き込むメルティナに天龍王が歩み寄り、その周りを囲むように雷帝王と海龍王も集まる。
天龍王は彼女の手に付いた匂いで確証する。
「なるほど。貴様の仕業という訳だ。無力故に気にも留めていなかったが完全に見落としていた。」
三体から放たれる殺気にメルティナは完全に怯え震えていた。
「こんな簡単に潰れちまいそうなガキに一本取られるたぁ、屈辱の極みだぜ。」
「弱者は弱者らしく、強者に触れ伏せていなさい。」
すると海龍王に炎魔法が当たる。
振り返ると杖を構えたリーシャが立っていた。
「メルティナさんは弱くない・・・!いつも私達のために自分の出来る最善の手で支えてきてくれた。彼女の優しさを、心の強さを侮辱しないで‼」
「黙れ。」
天龍王の仰ぎでリーシャは吹き飛ばされてしまう。
すると傷つく彼女を見たメルティナに強い心音が鼓動する。
「どのみちこの者を放置するつもりもなかった。こやつに宿る邪悪なる気配。放っておけば我らにとっての脅威になる。故に・・・。」
天龍王の爪が鋭く伸びる。
「今ここで始末する‼」
鋭い爪がメルティナに振り下ろされる。
「やめてぇぇぇぇ‼」
その時だった。
「・・・ガアァァァァァ!!!」
突如メルティナの眼が赤く発光しおぞましい表情と声を叫ぶ。
そして青黒い炎に包まれたのだ。
『ネガドライブ‼』
炎が爆散すると漆黒の翼に右袖に幾つもの長い帯を揺らめかせた左右非対称な黒い服装。
長く黒い長髪に左顔半分を禍々しい仮面で覆った少女が現れる。
『ヘルズ・ラルマ‼』
なんと、ラルを必要とせずメルティナがヘルズ・ラルマへと変貌したのだ。
「ヒャハハハ!私を始末するだって?テメェ等格下如きに私は倒せねぇよ。」
「ほざけ。神と言えど所詮生まれたばかりの雛鳥。完全受肉した我らの敵ではない。」
「私は強ぇぜ?アイツ等の力借りなくてもな。」
「なんだと?」
「この土地の魔力で強くなったのはお前等だけじゃない。私もさ!」
振り向かず左腕から青黒い炎を雷帝王に向けて放つ。
「っ!」
瞬時にかわす雷帝王だが気付けばヘルズ・ラルマが目の前に居り恐怖を感じさせる笑顔で手をかざしていた。
「ヘル・バルガ!」
衝撃波を放ち雷帝王を壁へ叩きつけた。
そしてまた気付けばヘルズ・ラルマが目の前に。
「テメェ何を・・・⁉」
「まずはお前からだ。」
次の瞬間、腕を雷帝王の胸元に突き刺した。
「ドレイン・ザ・ロスト!」
雷帝王から魔力を根こそぎ奪い取るヘルズ・ラルマ。
「コイツ!」
抵抗しようと角に雷を纏うがヘルズ・ラルマは腕を引き抜き光の玉を抜き取った。
「お前の魔核だろ?コイツが無いとお前は実態を保てない。」
魔核を抜き取られた雷帝王の肉体は塵となって消えたのだった。
「あんた、よくも‼」
海龍王がヘルズ・ラルマに襲い掛かるが正面から止められる。
だが至近距離から氷魔法を浴びせ凍り付かせる。
そして砕こうと尻尾を振るうがヘルズ・ラルマは凍結を払い除け海龍王の尻尾を掴む。
「っ!」
「へへっ!」
海龍王を振り回し地上へ勢いよく叩きつけた。
「デッドリーネビュラ!」
放たれる青黒い炎に海龍王は絶対零度のブレスで迎え撃つ。
だがブレスは炎に押し負け海龍王は青黒い炎に飲まれてしまう。
その瞬間に右袖の帯を伸ばし海龍王の胴体に突き刺す。
そして魔核を抜き取り海龍王の肉体は消滅したのだった。
ヘルズ・ラルマは奪った魔核を口に入れ飲み込む。
「貴様・・・!」
「残るはお前だけだ。」
「調子に乗るな。我はあやつらのようにはいかんぞ!」
互いに攻め掛かり力と力のぶつかり合いとなる。
(馬鹿な!我を相手に力のみで相殺するだと?こやつ、遊んでおる!)
狂気の笑顔で戦うヘルズ・ラルマは頭突きを皮切りに天龍王へ猛攻を仕掛ける。
体格差など微塵も感じさせない圧倒的な強さであの天龍王を追い詰める。
「遊びはここまでだ。」
天龍王は翼を広げると光りを蓄積させ口部に集まっていく。
「させるかよ!」
ヘルズ・ラルマも急降下し猛スピードで天龍王に向かって飛ぶ。
だがあと一歩の至近距離でチャージが溜まった。
「『真・炎王砲』‼」
放たれた熱線は大気を焼きいくつかのクリスタルを貫通破壊する。
爆風が吹き荒れ必死に耐えるアルセラやバハムート達。
爆発直後の静けさに包まれ佇む天龍王。
その時、何かが突き刺さる音がした。
「ぐふっ⁉」
下を向くと胸元に腕を突き刺すヘルズ・ラルマがいた。
「化け物め・・・!」
「お互い様だ。」
魔核を抜き取り、天龍王は力なく倒れその肉体は消滅したのだった。
その戦いをずっと見ていたリヴ達は言葉を失っていた。
「嘘でしょ・・・⁉私達が束で掛かっても倒せなかった原初をあんなあっさり・・・⁉」
「いよいよ手に負えなくなったか・・・!」
ヘルズ・ラルマは奪った魔核を喰らい飲み込む。
「あ~。やっとだ。やっと私は、自由になれる!」
魔力のオーラを纏いヘルズ・ラルマは紫の炎に包まれた。
『究極・天王開眼‼』
紫の炎が爆散すると禍々しいバトルドレスを身に纏い右翼に漆黒の大きな片翼。
左腕にはドラゴンの頭を模した盾に剣が備えられており、右腕が竜の首となっていた異形の姿。
そして仮面は完全にはずれ漆黒の眼球と金色の瞳が輝く破滅の黒少女が爆誕したのだった。
『ギ・ドラム‼』




