『第226章 原初復活』
すっかり日の暮れ星空が輝くヴァンプローナの夜空。
首都の住民たちはより内陸の方へ避難を終えておりとても静かだった。
そして魔王城には無数の兵士たちがそれぞれ戦準備を済ませている。
それを窓越しで見下ろす魔王ヴリトス。
「・・・静かだ。この国がここまで静かになったのは初めてだ。それほど事態が深刻となっている証拠か。」
ヴリトスは暫し街の方を見渡す。
「・・・イビル。すまなかった。私が奥手なばかりにお前に辛い思いをさせてしまった。許してくれとは言わない。ただこれだけは信じてほしい。私も妻を、お前の母親を諦めてはいない。必ず見つける。必ずだ。」
後ろに手を組むヴリトスはギュッと拳を握る。
そこへ兵士の一人が慌てた様子でやってきた。
「ご、ご報告いたします!首都近辺見回り隊から伝令!突如過激派の軍勢が出現!首都へ進行してきているとの事です!」
「何だと⁉タクマ達はどうした⁉無事なのか⁉」
「現状では不明です!」
タクマ達の安否も心配だが竜王がついている。
彼らは無事であると信じヴリトスは腹を括った。
「魔王軍に通達!奴らの狙いは恐らく私だ。だがそう易々とこの首をくれてやるつもりはない!今ここで迎え撃ち、過激派を殲滅する‼」
「了解!」
兵士は敬礼後即座に戻っていった。
「私とてこの国を支える王だ。全身全霊を持って、お前たちの野望を打ち砕く!」
その頃、地底世界では空と大地で疾走する者達がいた。
空ではバハムートとリヴがアルセラ達を乗せ、地上では雷の竜化となったタクマがリーシャをおぶって森の中を縦横無尽に疾走していた。
そして途中で両者は合流する。
タクマとバハムートが互いに眼を見て状況を共有し、一同は反り上がった大地に空いた結晶の大洞窟へ突入する。
行く手を阻むように生成された巨大なクリスタルの間を潜り抜けると前方に光りの大穴が渦巻いていた。
「まだ穴は開いたままだ。飛び込むぞ!」
渦へ飛び込もうとしたその時、彼等の背後から無数の火球がタクマ達に迫り咄嗟にバハムートが魔法壁で防いだ。
「なんだ⁉」
クリスタルの上に降り立つと後方にはぎこちなく浮遊する重傷を負ったオルトが手をかざしていた。
「オルト・・・!」
「まだ、俺は負けてねぇぞ・・・、タクマ!」
「しぶとい男だ。」
「彼がオルト・・・。」
「聞いてた通りクズそうな顔をしてるわね。」
タクマはリーシャを降ろし剣を取った。
「今度こそ終わらせてやるよ。オルト!」
「タクマぁ!」
互いに飛び出し二人がぶつかり合おうとしたその時、タクマの体内から強力な魔力波が発せられ、自身とオルト、バハムート達までもが吹っ飛ばされた。
「っ⁉今度は何だ⁉」
地上に落ちるオルトとクリスタルの上に落ちるタクマ。
「がはっ⁉」
タクマは胃液を吐き悶えるように苦しみだす。
「タクマさん⁉」
(何だ⁉心臓が、苦しい・・・!)
心音の鼓動が徐々に早くなりそして、
「ぐぅ、ぐあぁぁぁぁぁ!!!」
タクマの身体からオーラを纏う三色の光の玉が飛び出し、周囲の魔力を取り込み三つの玉は徐々に形作っていく。
そしてバハムート、ウィンロス、リヴの三頭に似た派手な龍が姿を現したのだ。
「オオォォォォ‼」
咆哮で一部のクリスタルが砕け落ち大洞窟内に轟かせる。
「な、なんだあのドラゴンは⁉バハムート達にそっくりだぞ⁉」
「主様から出てきたように見えたけど、何がどうなってるの⁉」
状況が理解できないアルセラ達。
「タクマさん!」
リーシャはクリスタルの上を伝いタクマの元へ向かう。
「タクマさん!大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。まさか奴らが外に出てくるとは・・・。」
「はは、はははは‼ようやく外へ出られた!これで我らは自由の身だ!」
「おい待て。ここ洞窟じゃねぇか。せっかく出られたと思ったらこんな辛気臭い場所とはな。」
「あそこを見なさい。」
海龍王が魔力の渦の方を指す。
「あれをくぐれば正真正銘、外に出られるはずよ。」
「待て!」
リーシャに肩を借りて立つタクマが三頭を呼び止める。
「何故出てきた?アイツはどうした!」
「奴なら力を使い果たし弱っている。そのおかげで我らはこうして貴様の中から出られたのだ。」
(っ!俺のせいか・・・!)
「ちょっと!そもそもアンタ達は誰なのよ⁉何で私達と見た目がそっくりなの!」
リヴが叫ぶと海龍王が答える。
「見た目がそっくりなのは血縁があるからよ。」
「け、血縁?」
「我らはこの世に最初に君臨した竜種、原初の龍。言うなれば貴様らの始まりの先祖である。」
「せ、先祖ですって⁉」
あり得ないことの連続で理解が追い付かないリヴ達。
ただ一頭を除いて。
しかしタクマは原初の龍たちを睨み上げる。
「何が目的だ?何が理由で俺から出てきた?」
「受肉した理由か?決まっておろう。支配だ。」
「・・・何?」
タクマは当然、バハムートも静かな反応を示す。
「かつての支配者が再び現世に蘇ったのだ。我らは相応しき座に立つべきである。」
「そのために今の均衡は邪魔だな。ぶっ壊すか?」
「それもそうね。現代はいろいろと緩すぎるわ。」
ずっと体内の中にいた彼らを知るタクマは確信していた。
彼らが世界を支配したら確実に世界が崩壊する。
「させるわけねぇだろ!もう一度俺の中に閉じ込めてやる!」
「出来るのか?その身体で?」
その直後、タクマの身体にとんでもない激痛が走り苦しみながら倒れてしまう。
「タクマさん⁉」
「あがが、あ・・・!」
まるで窒息しそうな表情で胸元を押さえるタクマ。
「これは、『魔力過剰反応』の症状⁉どうして⁉」
「当然だ。そやつの魔力が無かったのは我らが吸収していたからだ。」
タクマは生命力たる魔力が皆無に等しかった。
しかしその原因は原初の三体が体内から食らっていた事でタクマに魔力が無いと思っていたのだ。
その原初が解き放たれた今、魔力無しで十数年生きてきたタクマの身体は急激な魔力の負荷に耐えられず、とても危険な状態だ。
「その状態では戦えまい。我らが世界を支配する様を大人しく見ている事だな。」
その時、天龍王の目の前を熱戦が横切り天井のクリスタルに直撃し爆発した。
振り返ると口から煙を出すバハムートが。
「何だぁ?天龍王の子孫が偉大な先祖に歯向かう気か?」
「貴様は現在の竜王だったな。我にその座を譲る気はないか?」
「あるわけなかろう!原初だか祖先だが知らぬがタクマの言動から察するに、貴様らは野放しにはできぬ存在のようだ。」
敵意を示す眼で原初を睨むバハムート。
(子孫と言えど竜王。その力は決して侮れんな。)
すると地上で這いずるオルトが原初を初めて目視した。
「なんだあのドラゴンは?でも見るからにタクマの従魔よりは強そうだ。丁度いい。ケルベロスとヴァンシーもいない今、アイツ等をテイムすれば!」
そうすればタクマを倒せると踏んだオルトは赤い魔法陣を展開。
原初の三頭は赤い光に包まれる。
「あの男!まだ動けたの⁉」
「ははは!スゲェ!とんでもない力を感じるぜ!これならタクマを倒せ・・・!」
次の瞬間、オルトは自身の魔力がゴッソリ持ってかれ一切身動きが取れなくなった。
「予想通り、我らにリソースをくれたな。礼を言うぞ。愚かな人間よ。」
ニヤリと笑みを浮かべると天龍王の肉体に変化が生じる。
胴体を起こすと前足が腕へとなり、四足歩行型から二足歩行型のドラゴンへと姿を変えたのだ。
「骨格変化⁉そんなことある⁉」
「しかもオルトと言う男を介して魔力供給を得て更に強くなってる。勝てるわけない・・・。」
アルセラは既に戦意喪失気味だ。
しかしバハムートは怯まず前に出る。
「ここからは我らドラゴンの戦いだ。原初の龍だろうと今を生きているのは我らだ。故に、今一度眠ってもらうぞ。古の亡霊よ‼」
古と今、二つの時代が激突するのだった。




