『第220章 従神の思惑』
地底世界に迷い込んだタクマとウィンロスは過激派の魔族に与するオルトと七天神の一人、従神ジエトと遭遇したのだった。
「何故お前がここにいる?ジエト!」
「それはこっちのセリフだ。俺の管轄に入ってきたのはお前等だろうが。タクマ。」
ジエトはニーズヘッグの頭上から見下ろしてくる。
「おいおいジエトさん?何用で下界に降りてきたんすか?」
「覚えのある魔力反応を感知したからだ。予想通り、奴だったわけだが。」
「この騒動の裏にいたのはお前だったんだな。」
そう言い剣を構えるタクマ。
「俺の管轄で何をしようが勝手だ。それよりも・・・。」
ジエトは辺りをキョロキョロと見回す。
「例の仲間たちはいないようだな・・・。」
するとジエトはニヤリと笑みを浮かべた。
(アイツがいると何かと邪魔される。いい機会だ。)
「我が下部へ信託する!そこの人間とドラゴンは我らにとっての大きな障害となる!今ここで、奴らを討ち取るのだ!」
大声で叫ぶジエトに過激派の魔族は釘付けとなる。
「そして見事討ち取った者には、幹部と同じように古に滅んだお前たちの祖先、悪魔族の力を授けてやろう!」
その言葉に過激派の魔族たちは歓声の雄たけびを上げ大地が震えたのだった。
「チッ!」
一斉に襲い掛かる大群にタクマとウィンロスは次々と薙ぎ払っていくが依然数が多すぎて徐々に対処しきれなくなってきた。
「多勢に無勢や!どうするタクマ⁉」
「どうするもこうするも、逃げの一択だろ!飛べ!ウィンロス!」
タクマがウィンロスに飛び乗ろうとした時、
「させねぇよ。」
オルトが呟くとウィンロスの頭上から何かの影が迫り不協和音な超音波をタクマに浴びせた。
「~~~~~っ‼」
「ぐあっ⁉」
その超音波を受けたタクマは急に身体に力が入らなくなりウィンロスの背から力なく落下した。
「タクマ⁉何すんやコイツ!」
ウィンロスが降り払うも謎の影は浮遊するようにかわしオルトの背後に留まった。
「おいタクマ!大丈夫か⁉」
意識はあるようだがまるで神経が切れたように感覚が無くなり身動き一つ取れそうになかった。
「なんやねん、あれは・・・?」
オルトの背後につく謎の影は真っ白の肌に身長よりも遥かに長い黒髪がなびき、前髪で目元が隠れた女性のような生物。
「『死の呼び声』と呼ばれる魔獣、ヴァンシー。俺の新しい従魔さ。」
オルトの従魔ヴァンシーの不意打ちでタクマは戦える状態ではなくなってしまった。
ウィンロスは動けないタクマの前に立つ。
(くそっ!最悪の状況や・・・!この包囲、切り抜けたとしても肝心の地上へ戻る方法が分からへん。せやけど・・・!)
「ここで犬死するよりはマシや!」
ウィンロスは翼を広げ力強く仰ぎ三つの巨大な竜巻を起こす。
「ツイストディザスター‼」
過激派の魔族は巨大竜巻に巻き上げられ包囲が完全に崩れる。
だが、
「やれ。ニーズヘッグ。」
ジエトの指示でニーズヘッグが飛び出し竜巻の中にいたウィンロスの首根っこを一撃で掴み地面に叩きつけた。
「がはっ⁉」
「そのまま押さえてろよ。」
オルトが手をかざすと赤い魔法陣が展開される。
するとウィンロスが赤い光に包まれ何かが自身に纏わりついてくる感覚に見舞われる。
(な、なんやこの感じは・・・⁉意識が、乱され・・・!)
「ウィンロス・・・!」
タクマも従魔契約しているウィンロスとの感覚に異常を感じていた。
起き上がろうとするが身体に力が入らない。
「お前の全てを、奪ってやる!」
赤い魔法陣の光が強まりウィンロスの意識が途絶えそうになったその時、突如タクマの眼が赤くギラつき身体から黒い炎を吹き出した。
その爆風に当てられオルトの赤い魔法陣は決壊し、ウィンロスも赤い光から解放される。
「何だっ⁉」
「・・・やっぱり発現するか。」
動かないはずの身体がゆっくりと立ち上がり、そして、
「うあぁぁぁぁぁっ!!!」
咆哮と同時に闇の勢いは増し、黒炎の翼を生やした黒の竜化へと変貌してしまったのだ。
「何なんだ?タクマのあの姿は?」
黒の竜化を知らないオルトは未知の力に警戒していた。
次の瞬間、タクマがその場から消え一瞬の速度でニーズヘッグをぶっ飛ばしウィンロスを助けた。
「ゲホッ!タクマ、その姿は・・・!」
すると息が荒いタクマは剣を自身の腕に突き刺し痛みで自我を無理やり取り戻す。
「ウィンロス、悪いが、後は・・・頼む・・・。」
黒の竜化が解けタクマは倒れてしまった。
「まだあんな力を隠し持ってやがったのか。ヴァンシー!」
オルトがヴァンシーをけしかけると立ち上がったウィンロスに蹴り飛ばされた。
その弾みで角に巻いていたウィンロスのスカーフが解け落ちる。
「くっ!」
倒れるタクマを咥え飛ぼうとしたが先ほどの奇妙な魔法の影響か飛ぶことが出来ず、走ってその場から逃げ出した。
「逃がすな!追え!」
グリガロンの指示で過激派の魔族たちが彼らを追う。
「お前等も行け!」
ケルベロス、ヴァンシーも後に続いた。
「やれやれ、せっかくのチャンスを逃しちまったな。まあいい。こっちはこっちで例の準備を進めとくとするか。」
ジエトがその場を離れると残ったニーズヘッグは落ちてるウィンロスのスカーフを拾う。
「・・・・・。」
意識のないはずのニーズヘッグはしばしその場に佇んだのだった。
過激派の包囲を抜けたウィンロスはタクマを咥え地底の森を疾走する。
そして彼らを追う過激派の大群。
(くそっ!飛べさえすれば・・・!)
後方から木々の間をすり抜けるように追いかけてくるヴァンシー。
声による音波の波動を放ちウィンロスはそれを避ける。
連続して放たれる波動を避けながら走り、森を抜け高い丘の上へと出る。
しかし断崖絶壁が行く手を阻み過激派の大群とヴァンシーに追い詰められてしまった。
その後ろから大ジャンプでケルベロスも追いつく。
「へへへ!もう逃げられないぜ。」
じりじりと迫る過激派に後ずさるウィンロス。
(例え逃げれたとしても、出口が分からない以上状況は変わらへん。どうしたら・・・!)
その時だった。
「ぎゃおぉぉ‼」
巨大な怪鳥の群れががこちらに飛んでくるのが見えた。
それに気付いたウィンロスは咄嗟に閃く。
「行くっきゃねぇ!」
怪鳥が絶壁の前にやってきたのを見計らってウィンロスは崖から飛び降りた。
そして怪鳥の背を伝い崖を降りていったのだ。
「魔獣のくせに頭が回るな。だがチェイスは終わらねぇぜ。」
翼を持ち飛べる魔族、ヴァンシーが再び二人を追跡する。
(せめて出てきた遺跡に向かうしか・・・!)
その時、
「右方向に向かえ。」
突如金色の瞳となったタクマが女性の声で話し始めたのだ。
「おわっ⁉タクマ⁉なんか声おかしないか⁉」
「話は後だ。とにかく言う通りに動いてくれ。」
一先ずタクマの言う通りの方向へ突き進むと緑が生い茂る山岳地帯へ入る。
山の亀裂をひたすら登っていくと霧の海に浮かぶ遺跡のような場所へたどり着き、その中央には円形状の池が美しく光り輝き渦を巻いていた。
「あれは・・・!」
「おそらく地上へ続く道だろう。急いで飛び込め!奴らが追い付いてきた!」
後方から過激派の大群が押し寄せてくる。
「・・・あんさん、タクマじゃないやろ。誰なんや?」
「タクマに宿る不思議なお姉さん、と思っててくれ。後は君達に任せるよ。頑張りなさい若者よ。」
そう言い残しタクマは再び気を失った。
「なんやようわからへんけど、今はとにかく逃げるしかないで!バンジーィィィ!」
大きく跳躍しウィンロスは池の渦へ飛び込む。
そして過激派が追い付いた頃には光の渦は消えただの池に戻っていたのだった。
「くそ!逃げられたか!」
「偶然ゲートが開いていた時間帯だったようね。運のいい奴だわ。」
「おいどうする?逃げられた以上連中に俺達の根城がバレちまうぞ。」
「多分大丈夫でしょ。私達の計画はもう直に完了する。今更知られた所で手遅れよ。」
女がそう言いヴァンシーを見るのだった。
その頃、ジエトは光の玉を手元に暗い洞窟の中を歩んでいき、とある部屋へやってきた。
「魔力も十分集まった。後は目覚めを待つだけだ。今度こそしくじらねぇ。必ずコイツを我が物にしてやるぜ。」
ジエトの目線の先には幾つもの突起を有した背びれを持つ四足歩行型の巨龍が巨大な壁画に描かれていたのだった。




