『第216章 デビルカジノ』
高難易度ダンジョンから無事帰還できたリーシャとリヴ、イビルの三人。
ヴァンプローナのギルドにてバハムート達と合流する。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「何をやっているのだ。あ奴らは・・・。」
タクマ達の現状を聞き頭を悩ませるバハムートと言葉が出ないアルセラとメルティナ。
「まぁあの二人に限って大事に至らないとは思うが・・・。」
「ここは我らにとって未解の地。気を付ける事に越したことはない。のだが・・・。」
あの二人を思い出しまた頭を抱えるバハムートだった。
「ここであれこれ嘆いていても変わらん。あ奴等なら次期に戻るだろう。我らは事を進めるぞ。」
イビルが捕獲したグランフィッシュをギルドに納品し終えるとバハムート達の会話が聞こえてきた。
「カジノ?」
「うむ。ヴァンプローナから北西に位置する魔大陸屈指のカジノ都市『デビルカジノ』に用事が出来たのだ。」
「物騒な都市名だな・・・。」
「この後すぐに出立するつもりだ。」
すると受付から戻ったイビルが話に入ってきた。
「待って。私もカジノに行くわ。」
「イビルさん?」
「私もカジノに用があるの。それに何度か行ったことがあるから案内役として役に立てるわ。」
「・・・・・。」
しばらくバハムートはイビルを見つめ、小さなため息をついた。
「親子そろって・・・。」
「え、何?」
「何でもない。だが確かに案内役は必要だ。イビルよ。頼めるか?」
「勿論!任せて!」
するとリーシャとアルセラが小さく挙手した。
「あの~、私も同行していいですか?個人的にカジノにちょっと興味があります・・・。」
「私もリーシャと同感だ。少し興味がある。」
「なら私とメルティナはお留守番ね。流石にカジノっていう大人の場所にメルティナは連れていけないわ。」
キョトンと首を傾けるメルティナ。
「・・・そういえばずっと気になってたんだけどラルは?」
「ラルならずっと私の髪の中にいますけど?」
呼ばれてリーシャの髪からひょっこりとラルが顔を出した。
「全然気付かなかった!」
「ずっといたのに⁉」
ガビーンとショックを受けるラルであった。
日が沈みかける夕暮れ。
首都ヴァンプローナを出発したバハムート、リーシャ、イビル、アルセラの四人は首都の北西に位置するカジノ都市『デビルカジノ』へとやってきた。
街中が金色でギラギラに輝いており、中央には黄金の居城が佇んでいる。
まさにVIPの街と言った所だった。
「金だらけ、相変わらず悪趣味な街ね。」
「こんな所に用事って、一体何ですか?」
「行けば分かるだろう。」
街の入口までやってくると、
「お待ちしておりました。竜王様。」
ディーラーの男性が出迎えたのだ。
しかしそのディーラーは人間でも魔族でもなく、その身体は樹木で頭部に草木が生い茂り、顔面の隙間から光る眼がゆらゆらと溢れ出ていた。
「ふぁっ⁉あ、ごめんなさい!」
「いえいえ、私の種族を初めてお見えになりましたかな?驚かせてしまったようで申し訳ありません。」
礼儀正しく頭を下げる樹木のディーラー。
「お主が魔王の言っていたドライウッドか?」
「はい。樹木人のリベルと申します。魔王様から事の詳細はお聞きしております。本日は私が付き添いをいたしますのでよろしくお願いします。」
「うむ。頼むぞ。」
「バハムートのカジノでの用事って魔王が関わってたんだな。」
「同じ王として少し縁がな。」
するとイビルがリベルの前に出た。
「リベルさん。」
「おや?イビル様。ご無沙汰しております。」
「イビルさん、リベルさんとお知合いなんですか?」
「えぇ。カジノを利用する時いろいろ教えてくれたのよ。ここに来たときは毎回彼に案内役をしてもらったわ。」
「イビル様。今回もお越しいただいた理由はやはり?」
「えぇ。あくまで今回はこの人たちの付き添いだけど、後で伺わせてもらうわ。」
「かしこまりました。では後程。」
小さく頷きリーシャ達の下へ戻る。
「では皆様、僭越ながらこのリベルがデビルカジノをご案内させていただきます。」
黄金の巨城に入ると下へ続く薄暗く長い階段を降りていく。
「随分深く潜るんだな?」
「あの城はあくまで門、入口でございます。本当のデビルカジノは、地下でございます。」
リベルが大きなカーテンを開けると光りが広がり眩しがる一同。
ゆっくり眼を開けるとそこには・・・。
「な、何ですかこれぇ⁉」
目の前に映ったのは先が見えないほど広い地下空間にゴージャスなカジノスペースが敷き詰められており、魔族は勿論、様々な種族が集まっていた。
「どれだけ広いんですか⁉」
「おおよそですが大国一つ分の面積はあるかと。」
「いや広すぎだろ・・・。」
アルセラもあまりの広さに若干引いていた。
「目に見えてる範囲でもほんの一部よ。ここには様々なジャンルのゲームもあるから。」
「あの、イビルさん?どちらへ行こうと?」
「流石にこのままの服装じゃ場違いでしょ?ついてきて。」
イビルとリベルに連れられ、しばらくしてから一同はエントランスに集まった。
「皆さんとてもよくお似合いですよ。」
リーシャとアルセラは純白の美しいドレス、イビルは吸血鬼をコンセプトに設計された黒ベースの赤いドレス。
そしてバハムートは、蝶ネクタイのみ。
「あの、いいんでしょうか?こんな高級そうなドレスをお借りして。」
「正装を持っていない人のレンタル用だから気兼ねなくでいいのよ。」
「それにしても、イビルさん綺麗すぎです・・・。」
普段ボロいフードを被ってた姿しか見てなかったからかドレスに正装したイビルは気品に満ち溢れていた。
金色の長髪と深紅の眼がより美しさを際立たせている。
「私達引き立て役になってません?」
「言うな。私も自身無くす・・・。」
そういう二人も二人で十分美しいが。
「ではリベルよ。例の件、よろしく頼む。」
「あ、私の件もお願いね?」
「かしこまりました。準備が整い次第お呼びいたしますのでそれまでは是非我がカジノをお楽しみください。」
リベルは一時離脱し、四人はカジノで時間を潰す事となった。
「私カジノなんて初めてです。」
「前世の世界でもカジノは無かったのか?」
「あるにはありましたけど国が違いますし、何より生活が厳しかったので全く縁のない話でした・・・。」
前世のブラック労働を思い出したのかがっくりと肩を落とすリーシャだった。
「この先のために稼いどくのもありね。」
イビルは両替カウンターで所持金をカジノコインに替え、数枚入った袋をバハムートに投げ渡した。
「これから必要になるかもしれない。稼げるときに稼いどいて損はないわ。」
「分かった。では呼びが掛かるまで適当にカジノを楽しもうではないか。」
「はい!」
それから四人は手分けしてカジノを堪能し、あっという間に数時間が過ぎた。
そろそろ呼びが掛かるころ合いと踏み一同は中央の広場に集まった。
「随分稼いだなイビル。」
「こういうのにはコツがあってね。そういう二人も負けず劣らずじゃない。」
バハムートとアルセラも割とコインを稼いでいた。
「これでも結構負けた方だけどな?」
『そう言うがこやつ土壇場でもの凄い引きを見せて追ったぞ?』
「本番に強いタイプか。アルセラは。」
「・・・そういえばリーシャは?」
イビル、バハムート、アルセラは集まったがリーシャだけがまだ来ていなかった。
「まだ賭け事しているのか?」
「あやつは中身は大人だが見てくれは幼い少女だ。少々教育に悪いやもしれん。ちと迎えに行ってくる。」
「頼むバハムート。」
バハムートが一頭リーシャを探しカジノ内をうろつくと、景品の掲載された巨大パネルをジッと見上げるリーシャを見つけた。
「リーシャ、探したぞ。皆はもう集まってる。」
「あ、すみません・・・。」
「一体何を見ておった?」
リーシャが見ていた項目には『クーレスロッド』と書かれており、その番号の景品を見るとまるで夜を彷彿とさせる禍々しい杖が置かれていた。
「あの黒い杖が欲しいのか?」
「あ、いえ、え~と・・・。」
「欲しいで合ってると思うよ。あの杖を見つけてからずっと見てたから。」
髪の中からラルが顔を出す。
「実は、あの杖を見てると何かが引っかかるんです。何となく、あの杖が私を呼んでいるような?」
遠目から『鑑定』を使って見ると杖からはこれまでの武器とは少し違う魔力を放っている事に気付く。
(魔力の波長がリーシャと適合したのか?アルセラとカリドゥーンのように。)
バハムートは己の直感とリーシャを信じあの杖を手に入れることに決めた。
「あの杖を手に入れるぞ。」
「え⁉いや大丈夫です!ちょっと気になっただけですから!」
「その気に掛かりがお主にとっての運命かもしれぬぞ?しかし如何せん交換コインが多いな。」
クーレスロッドの交換枚数は三桁を裕に超える。
「今の手持ちでは全く足りん。新たに稼ぐしかないな。」
「ですがそろそろリベルさんから呼びが掛かる頃合いでは?」
「では手っ取り早く稼ぐほかあるまい。」
そう言い二人がやってきたのは大きなガラスドームの中に巨大なサイコロがあるスペースへやってきた。
「何ですか⁉この巨大なドームは⁉」
「百面ダイスと言うらしい。見ての通り百面のサイコロがドーム内で転がされ、出た数字が参加者が事前に選んだ数字とより近い者が勝者となるゲームだ。」
「完全に運任せなゲームじゃないですか・・・。しかも百の数字の中で一番近い数字を当てるなんて不可能ですよ。」
「あぁ、確かに不可能だ。だが心配はいらん。我がいるからな。」
何やら自信ありげのバハムート。
彼が指定した数字は十七。
そして百面の巨大ダイスが降られた。
激しく転がるサイコロに参加者は息を呑んで凝視する。
それはリーシャも同じくだ。
だがバハムートは冷静な表情でダイスを見守っていた。
そしてダイスが止まった瞬間の数字は、十七。
バハムートがジャストで当てて見せたのだ。
驚きのあまり開いた口が塞がらないリーシャ。
「バババ、バハムートさん!当たりました!ジャストピッタリです!」
まさかのジャストヒットに周りの参加者はイカサマだとかわめき始めたが辺りを監視していたディーラーが魔法の類も一切使用していないと証明し周りの客はぐうの音も出せなかった。
「小細工など不要だ。」
「でも本当にどうして当てることが出来たんですか?」
「簡単な話だ。ドーム内の空気圧、斜角、そして投げたディーラーの回す癖、ダイスの回転の空気の流れなどあらゆる視点で計算し、面が出る数字を言い当てただけよ。」
「ちっとも簡単な話じゃないです・・・。」
何はともあれ大量のコインを入手し、クーレスロッドと交換することが出来た。
手に持つと何だかしっくりくると感じるリーシャ。
「ふむ。鑑定してみたがその杖は闇の属性が付与されておるな。何故かは知らんがお主と相性が良い魔力なのだろう。」
「手に持ってみるとよりわかります。でも何だか少し怖いのでしばらくは異空庫に仕舞っておきます。」
「うむ。事が終わり次第ゆっくりなじませるとよい。では皆の下へ戻るぞ。」
「はい!」
イビル達の元へ戻る二人。
だがこの時、異空庫の中でリーシャの杖とクーレスロッドが妙な光を放っていたことに彼女は気付いていなかった。




