『第215章 洞穴の珍魚』
落盤に巻き込まれリーシャ達とはぐれてしまったウィンロスは現在、犬神家状態で地中にめり込んでいた。
「・・・んが?」
気が付いたウィンロスはめり込んだ頭を引っこ抜く。
「あいたた。イビルの足元に亀裂が入ったから咄嗟に助けたけど、アイツ等無事なんか?」
すると起き上がった振動でか頭上からタクマの剣が落ちてきた。
「っ!タクマ!」
剣を咥え拾い辺りを見回すが一通路の洞窟内にタクマの姿はない。
「剣を落としてどこ行きよったアイツ?」
しばらく洞窟を歩むと奥の方から音が聞こえてきた。
「ん?」
それは洞窟いっぱいのデカさの巨大な巨石に追われてるタクマがこちらに走ってきたのだった。
「うおぉぉぉ‼」
「なぬ~⁉」
当然ウィンロスも巻き込まれる。
「何しとんねんタクマ⁉」
「おうウィンロス!無事だったか!」
「絶賛無事じゃなくなりそうやけどな⁉何やねんあの岩!」
「なんか罠みたいなスイッチ踏んじまって、そうしたらこの通り。」
「冷静に言っとんちゃうぞ!」
するとタクマはウィンロスの咥える剣に気付いた。
「っ!ウィンロス、剣拾ってくれてたのか!くれ!」
剣を受け取り居合の構えを取る。
「居合・波紋の太刀!」
水を纏った一閃がまるで波紋のように広がり迫る岩を斬り裂いた。
「ふう。剣を無くしたとき一時はどうなるかと思ったぜ。」
「俺自身もどうなるか思ったで・・・。」
何はともあれ無事合流できたタクマとウィンロス。
「んで?リーシャ達と合流できそうか?」
「エコーロケーションで探ってるけど範囲に当てはまらない。相当離れた場所まで落ちてしまったらしい。」
「マジか。イビルが言っとったけどこの洞窟迷ったらアカンとちゃうんけ?」
「アカンな。だがこういう時焦るのが一番危険だ。一先ず上を目指してみよう。」
「こんな所で犬死とか勘弁やで。」
二人はなるべく上るように目指し洞窟内を進む。
その時、ウィンロスが何かのスイッチを踏んでしまった。
「・・・・・。」
「・・・何踏んだ?」
「多分同じこと考えとる・・・。」
そして頭上から落盤が降り注ぐ。
「アカーン⁉」
「逃げろ~!」
先を進むにつれてトラップに引っかかりまくるタクマ達。
「ホンマどうなっとんねん⁉この洞窟!」
「トラップからして自然物じゃないのは確かだ。明らかに意図的に作られてる!」
「こんな穴の奥に誰かが入り込んだってことかいな?」
「それは分からないが、何かあるのは確かだな。」
妙な違和感を覚えつつも二人はトラップに見舞われながら洞窟の奥へと走るのだった。
「うわぁ!何ですかここ!」
リーシャとリヴ、イビルの三人は順調に洞窟を進み、ついに最深部の地底湖にたどり着いた。
その湖はターコイズブルーに発光する幾つものクリスタルが辺りに原生し、まさに自然の創り出した神秘と呼べる場所であった。
「クリスタルの発効が光源になって明るいわね。」
「とても落ち着く色です。」
「ここがクリスタルドームと呼ばれる場所。そしてあそこの湖にグランフィッシュが生息してるわ。」
イビルはマジックバッグから釣竿を人数分取り出し早速釣りを始める。
「・・・よし!」
早速ヒットし釣り上げた。
「あ、ハズレだ。」
「グランフィッシュ以外の魚もいるんですね。」
「グランフィッシュ自体捕獲はそれほど難しくないわ。主に苦戦するのがここにたどり着くまでの道のり。まぁ釣り自体もあまりヒットしないレアな魚なんだけどね。」
すると珍しく考え込んでいたリヴがある案を出した。
「素潜りはダメなの?見た所毒素は充満してないみたいだし、いけそうな気もするんだけど。」
「可能ではあるけどあまりお勧めはしないわ。湖の底に深い穴があってここの魚はそこからやって来るんじゃないかって言われてる。穴自体どこに繋がってるか分からないし、視界も良くないから。」
「なるほどね。それじゃちょっと行ってくるわ。」
「・・・え?」
そう言いリヴは服を脱ぎ捨て湖に飛び込んだ。
「ちょっと!私の話聞いてた⁉」
「大丈夫ですよイビルさん。リヴさんは海のドラゴンですから。」
脱ぎ捨てられた服を回収するリーシャが言うのだった。
リヴは深い湖を真っ直ぐ潜っていく。
水中にもクリスタルがあるため、ある程度の視界は確保できる。
(それほど魚の種類は多くないわね。でも深い。気を付けないと方向を見失いそう。)
すると泳ぐ魚の中に一際大きな存在感を放つ魚が眼に入った。
その魚は金色の鱗に身を包み、背びれと瞳がクリスタルに輝き胸ひれと尾ひれが羽衣のように揺らめく神秘的な魚。
(っ!直感で分かる。あれがグランフィッシュ!)
地底魚と言うより結晶魚と言えそうだが一旦置いとき捕獲に移った。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
今も尚湖に釣竿を垂らすリーシャとイビル。
「・・・彼女がドラゴンだって知った時は驚いたけど、流石に長すぎない?」
「そうですか?海竜ですから長時間潜ってても問題ないと思うのですが?」
「ドラゴンと言えど今は人間の姿でしょ?大丈夫かしら。」
だが噂をすればのタイミングでリヴが湖から顔を出した。
「リヴさん!」
「獲れたわよ!異空庫に放り込んどいたわ!」
「え?異空庫に?」
リーシャが異空庫を開くと三匹の大振りなグランフィッシュが。
「これがグランフィッシュ!」
「私も実物は初めて見たけど、本当に金色で身体に結晶が生えてるのね。」
「もう少し潜ればもっといい個体が獲れたと思うんだけど、底があまりにも深すぎて帰れなくなりそうだったから三匹までにして引き返したわ。」
服を着るリヴが言う。
「その判断は正しいと思う。無事で何よりだわ。」
何はともあれ目的のグランフィッシュは三匹も入手できた。
するとリーシャがふと思いつく。
「・・・一匹くらいここで捌いても良いですか?」
「リーシャ?」
「料理するにしても初めて見る魚ですし、捌き方を覚えるのも含めてここで調理してみたいんです。いいですかイビルさん?」
「まぁ三匹とも大振りだし、一匹くらいならいいわ。」
「ありがとうございます!」
リーシャは異空庫からテーブルと調理器具を取り出し、髪をポニテに結いエプロンを着る。
「では、始めさせていただきます。」
イビルとリヴが見守る中、気合を入れグランフィッシュに包丁を入れる。
結晶の部位がある頭と背びれを切り落とし鱗を削ごうとする。
しかし鱗は純金と同じような硬さで削げなかったのだ。
「固い・・・!」
力尽くで削ごうとすると身まで傷つけてしまい苦戦するリーシャ。
「この角度から入れてみたら?一枚一枚剥がしていくの。」
「はい。やってみます!」
イビルの助言を元に包丁を入れていく。
(魚を捌いてると言うより石を研いでるみたい・・・。これが異世界の、魔大陸の魚・・・。)
大量の汗を流しながらも純金の鱗を一枚ずつ剥がしていく。
かなり神経を使う作業だ。
捌き始めてからしばらく時間が経った頃。
ようやく鱗を全て削ぎ終えたのだった。
「はぁ~!やっと削げた!」
「お疲れ様・・・。」
ずっと付き添ってくれたイビルも緊張がほぐれたのかリーシャと共に一息つく。
「ねぇ~?捌けた?」
遠くで釣りをしているリヴがダル絡みしてきた。
「何呑気に釣りしてるんですか⁉こっちは神経すり減る思いでやってるのに⁉」
「案外気が短いのね。ほっときましょ。」
作業を再開し身を切り分け皿に盛りつけていく。
「・・・よし!出来ました!」
一時間半かけてようやく調理が完了したのだった。
途端にリヴも合流する。
「これ、調理できたの?生のままだけど?」
「これはお刺身という料理です。タクマさんに教えてもらった鑑定魔法で見た所生でも大丈夫でしたので。」
しかしイビルの反応が若干微妙だ。
「リーシャ、多分魔族は魚を生で食べる習慣がないんだと思うわ。首都に並んでた飲食店のメニューでも魚料理は全部火を通した料理ばかりだったから。」
「なるほど、些か抵抗があるんですね。では私達が先に食べて大丈夫だってことを教えてあげましょう。」
三人はシートの上に座り手を合わせた。
「いただきます。」
先にリーシャが捌いた刺身を一口食べてみる。
その時、深海のように深い旨味が口いっぱいに広がり驚いた。
(な、何ですかこの美味しさ⁉今まで食べたお魚より弾力のある身で何も付けなくても味が深い!純金の固い鱗に包まれた中にこれほど濃厚な旨味が凝縮されてたなんて!)
グランフィッシュの珍味にリーシャはここが異世界なんだと改めて実感する。
リヴも刺身を食べた瞬間あまりの美味に顔がとろけ、リーシャにペシンと正気に戻された。
「イビルさんも食べてみてください!とっても美味しいですよ!」
二人が刺身をとても美味しそうに食べるため、イビルも少し警戒が解け恐る恐るだが刺身を一切れ口にする。
「っ⁉美味しい⁉焼かれた魚よりもしっとりとした風味が後味となって食感もいい!生の魚ってこんなに美味しかったのね・・・。」
「でも中には微生物が付着しているモノもありますからしっかり知識がないと危ないですけどね。」
「でもこれは新たな食文化になるわ・・・!」
「和国ではお刺身は普通に食べられてたけどね。もし余裕が出来たら和国観光おススメするわ。」
「そう・・・。是非そうしてみるわ。」
(そのためにも、国の人達の食糧難を解決して、お母さんを見つけないと・・・!)
グランフィッシュを堪能し終え、後片付けに入ろうとしたその時、湖の底から何かが上がってきた。
「「「っ!」」」
三人が振り返ると、湖から上がってきたのは鋼でできた身体にティラノサウルスの姿をした機械だったのだ。
(え?ティラノサウルス?何でこの異世界に?)
その大きな口には網いっぱいに捕獲したグランフィッシュを吊る下げている。
その生物がこちらに向いた瞬間、
「「「っ!!?」」」
三人はこれまで感じたことない程のプレッシャーに包まれた。
「リーシャ!イビル!下がって!」
すぐさまリヴは海竜の姿へ戻り、リーシャも杖を構えイビルも魔鎖を突起させ全員は臨戦態勢に入った。
ティラノサウルスはしばらく彼女たちを見つめた後、再び歩み始める。
その後一瞬こちらを見た後、機械のティラノサウルスは洞窟の暗闇へと消えていった。
ガシャンガシャンと足音が聞こえなくなった頃、三人は一気に脱力したのだった。
「・・・っはぁ~!何だったの?あの生物?」
再び人間の姿になり座り込むリヴ。
リーシャも杖に寄り掛かる。
「生物、というより、機械でしたね・・・。まるでロキさんみたいな。」
「まさか、魔械竜?でも魔械竜はロキ以外絶滅したって・・・。」
そのはずだがあれは紛れもない機械の竜種だった。
(しかもティラノサウルス。この世界にはいないはずの生物を模った存在。・・・そもそも魔械竜とはどういう存在なんでしょうか?あれは生物のように自然に発生するのか、それとも、誰かの手で作り出されたのか?)
ティラノサウルスや魔械竜に対しての謎が残るが、今は魔族の抱える問題をどうにかしなくてはならない。
「ふう・・・。少し休んだら戻りましょう。タクマさん達の事も心配ですけど、あの人たちを信じて私達はできることをしましょう。」
「えぇ。そうね。」
「勿論、イビルさんのお母さんも絶対に見つけます!」
「っ!ありがとう・・・!」
湖から現れた機械のティラノサウルスは洞窟の中をずっしりと突き進む。
するとふととある女性の言葉を思い出す。
『いつかきっと、お前にとって大切な存在が見つかるはずだ。なんたってこの世界は広いからな。』
「・・・・・。」
機械のティラノサウルスは捕獲したグランフィッシュを体内に収納し暗闇の中を歩んでいくのだった。




