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『第214章 吸血鬼の乙女心』

過激派の魔族による襲撃から翌日。

イビルとリーシャ、リヴ、タクマとウィンロスの五人はとある洞窟の入口にやってきていた。

「ここが例の魚が獲れるダンジョンの入口か?」

「えぇそうよ。Aランクに指定される高難易度ダンジョン『クリスタルドーム』。このダンジョンの奥に生息する魚、グランフィッシュが今回のターゲットよ。」

「グラン、地底の魚。地底湖に生息する魚か?」

「私も情報しか知らないし実物を見たわけじゃない。でも巷では今の時期、グランフィッシュがこの洞窟から獲れるって。今は過激派に警戒して獲りに行く人はいないけどね。」

「また奴らが来たら俺達が追い払ってやる。」

「頼もしいわ。でも気を付けて。このダンジョンはAランク。一度迷ったら簡単に出られると思わないで。」

「了解。」

いざ五人は壁や天井にクリスタルが生成されているダンジョンへ突入する。

しかし入った瞬間に違和感を感じた。

「魔力を感じない。ダンジョンなのにか?」

通常ダンジョンは魔力を帯びておりその影響で内部の構造が常に変わるため迷宮と呼ばれてる。

しかしこのダンジョンからは魔力を一切感じなかったのだ。

「ダンジョンと言ってもクリスタルドームはただの洞窟よ。でも魔獣はわんさか住み着いてるし落盤が頻繁に起きて通路が塞がる。運悪く落盤に巻き込まれればもう出てこられない。だから危険度Aランクに指定されてるのよ。」

「なるほど。かなり気を付けて進まなくちゃだな。」

しばらく進むと薄暗くなって視界が届きにくくなり、タクマが炎魔法で松明を作って先を進む。

すると二手に分かれた洞窟に出た。

「どっちだ?」

「落盤の心配もあるからなるべく最短ルートで進みたいところだが・・・。」

リヴが自慢の嗅覚を研ぎ澄ます。

「スンスン、どっちからも魔獣の臭いがするわ。でも死臭は右の方が薄い。おそらく個体ね。左は大群でいるわ。」

「相変わらずスゲェな、リヴの嗅覚。」

リヴの嗅覚を信じ右の通路を進む一同。

道中魔獣による襲撃もあったがそこまで脅威はないため危なげなく対処できた。

「大分進んだと思うがどうだ?」

「まだ全然よ。水の匂いが微塵も感じないし。」

「もうちょっと先を進んだ方が良さそうか。」

「ここからは足場が悪くなってるわ。私が魔鎖を使って先導するから皆はその後に・・・。」

「っ⁉イビル危ねぇ!」

突然ウィンロスが走り出しイビルを突き飛ばした。

その直後足元が割れウィンロスが落ちてしまう。

「ウィンロス!」

タクマが尻尾を掴むも彼の体重を何も強化していない人間が止められるわけもなく、二人は穴の底へ落ちてしまった。

「うわぁぁぁ⁉」

「タクマさん!ウィンロスさん!」

リーシャ達が駆け寄るも二人の姿はもう暗闇に消えていた。

更に悪いことは続き、足場が崩れた振動で落盤が起きてしまい二人の落ちた穴は完全に塞がってしまった。

「そ、そんな・・・。」

座り込んでしまうリーシャ。

リヴは落盤の山に登り向かい側のイビルを無事を確認する。

「イビルは無事みたい。でも・・・。」

「タクマさん達が・・・。」

「ごめんなさい・・・。私がもっと注意をしてれば・・・。」

しかしどんなに悔いても二人とはぐれてしまったのは事実だ。

「この洞窟ではぐれるのは危険すぎる。引き返してギルドに捜索届を・・・。」

「・・・いえ、このまま進みましょう。」

「っ⁉正気なの⁉私の話聞いてた⁉」

「聞いてましたよ。だから進むんです。」

「いや意味が分からない・・・。」

「主様たちなら大丈夫よ。正直私達より強いから自力でなんとかすると思うわ。従魔が主と仲間を信じないでどうするの。」

「・・・信頼してるんだな。」

「当然です。仲間ですから!」

そう笑いかけるリーシャとリヴにイビルはフゥッと息をついた。

「分かった。貴女達がそう言うなら何も言わない。」

「ありがとうございます。」

「じゃぁ私達は先を急ぎましょう。二人が無事だと信じて。」


 リーシャ達がクリスタルドームを攻略している同時刻。

デスクいっぱいの書類を書き込む魔王の下に来客が訪れる。

「昨日に続き何用かな?竜王殿。」

書類とにらめっこする魔王の前にバハムートが佇んでいたのだ。

「先日の過激派の襲撃についてお主に問いたいことがある。魔王ヴリトスよ、お主、夜襲の亡霊と何を企んでおる?」

バハムートの問いに筆が止まる。

「・・・そう言えば私がまだ幼かったころ、一度お会いしましたね。」

「うむ。あの男の事は我でも理解しておるつもりだ。故に解せんのだ。あ奴が敵対勢力に与している事が。」

バハムートの問いに黙認だった魔王は席を立ち口を開いた。

「貴方になら教えても良いかもしれませんね。出来ればこの事はお仲間にも、イビルにも他言無用でお願いしたい。」

「・・・良かろう。」

魔王ヴリトスは竜王に語った。

己の真の目的を。


 タクマ、ウィンロスとはぐれてしまったリーシャ達は彼等の無事を信じ先を進んでいた。

「ん?」

三人の前に三つの分かれ道が立ち塞がる。

「どの道も死臭が凄いわね。臭いが強くて正解のルートが分からなくなってるわ。」

「タクマの探索魔法が必要か。でも彼は今この場には・・・。」

「あ、でしたら私がやってみます。」

「え、リーシャ探索魔法使えたっけ?」

「ほとんどタクマさんの見様見真似ですけど私なりにアレンジしてみたんです。」

リーシャは前に立ち杖で地面を軽く叩く。

エコーロケーションのように音の反響で辺りを探知する。

「あの子も大分器用になってきたわね。元からだけど。」

集中モードのリーシャを邪魔しないよう少し離れて様子を伺う二人。

「・・・ウィンロス。」

ぼそりと呟くイビルにリヴが反応する。

「前から思ってたけどさ、アンタ、もしかしてあのウィンロスに()()()()()()()?」

「ふぎゅあっ⁉」

驚きのあまり言葉にならない声を上げるイビル。

「そそ、そんなことはない・・・と思うけど・・・?」

挙動からして明らかな反応にリヴは確信を得る。

(嘘でしょ、あのウィンロスが女の子に惚れられるなんて・・・。)

あまりの事実に口を手で覆う。

「まぁドラゴンとはいえアイツも男だし、異種族間の恋愛も今に始まったことじゃないしね。・・・あのウィンロスが。」

「わ、私は別に彼の事は・・・。でも、彼を思うと胸が苦しくなるわ。」

「それが恋する乙女の心よ。私も主様に惚れた時のドキドキは今でも覚えてるわ。」

「・・・恋愛なんて考えたこともなかった。冒険者をやっていてそういうのとは無縁だと思ってたけど、これが異性を意識する気持ちなんだな。」

イビルは自身の胸にそっと触れる。

「・・・ごめん待って。やっぱりあのウィンロスを好きになる理由がどうしても納得できない。」

彼の人柄、いや竜柄をよく知ってるリヴは頭を悩ませる。

「馬鹿でガサツでだらしないのよ?あのドラゴン。まぁたまに男らしくカッコよくなる時もあるけどさ。」

「そういえば先日ウィンロスの話をしてた時、貴女のために怒ってくれたって言ってたね。」

「えぇ、私を過去の呪縛から解き放ってくれたのもウィンロスだったわ。一応命の恩人だし、感謝もしてるわ。」

照れ臭くなったのか少し頬を赤くしてそっぽを向いた。

「もしかして、リヴも彼の事を?」

その瞬間、リヴは盛大にこけた。

「はぁっ⁉いくら同じドラゴンと言ってもアイツを好きになるなんてありえないわ!考えただけで寒気がする!私が好きなのは主様ただ一人よ!」

思わず大声で叫んでしまい、

「もう!お二人ともさっきからうるさいです!集中させて!」

リーシャに怒られたのだった。


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