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『第213章 過激派の強襲』

日が沈み始めた夕方。

首都ヴァンプローナの街中を弱々しくも歩く魔族の兄弟が歩いていた。

「兄ちゃん、お腹空いたよ・・・。」

「頑張れ!もう少しすれば広場に着くから・・・!あっ⁉」

地面に躓き倒れそうになる二人。

だがその二人を受け止めたのは卵を背負ったイビルだった。

「おっと!大丈夫?」

「あ、ありがとうございます・・・。」

後ろから帰りの道中狩った魔獣の肉を抱えるウィンロスとリヴもやってくる。

「随分弱ってんな。魔族は大地からマナを吸収して飢えを凌げるんじゃなかったんか?」

「えっと、弟は魔力吸収が上手くできないんです・・・。」

「そうなの?」

「えぇ。魔族全員がマナを吸収できるわけじゃないのよ。この子みたいに上手く吸収できず餓えてしまう子も多いわ。」

弟を起こすイビルが説明をする。

「だったら尚更早よ帰ってリーシャに飯作ってもらわな!」

「そうね。イビル、食材預かるわ。少し駆け足で行きましょう。」

イビルの持っていた食材をリーシャの異空庫へ入れようとすると、

「ん?」

「どしたリヴ?」

「なんかリーシャの異空庫の中が妙に減ってる気がする?主に食料関係が・・・。」

するとウィンロスも何やらいい匂いを嗅ぎ取った。

「なんや旨そうな匂いがするで。向こうからや。」

「あの方角は、ヴァンプローナの中央広間よ。」

三人は兄弟を連れて先へ向かうと中央広場には大勢の魔族の住民達が集まっていたのだ。

「なんじゃこりゃ⁉」

「街中の人達が集まってるの?」

人混みをかき分けていくと、広場の真ん中でたくさんの食材を調理するリーシャ達がいた。

「あ、ウィンロスさん!リヴさんも!お帰りなさい!」

長い髪をポニーテールに結ったエプロン姿のリーシャが笑顔で出迎える。

「何しとんねん?タクマも旦那も。」

「見ての通り、炊き出しだ。」

タクマとリーシャの作られた料理をバハムートの魔法とアルセラ、メルティナの給仕で広場の人々に配り歩いていた。

「食材獲りに行くことも考えましたがこれが私に出来る最善だと思ったんです。だから、皆さんが獲ってきてくれた食材は私が調理します!」

「リーシャ・・・。」

「あ、卵!もしかして異空庫に沢山入れてくれたのもリヴさん達ですか?」

「え、えぇ。私は貴女の異空庫に繋げられるからね。」

「ありがとうございます!卵があればチャーハンやオムレツ、目玉焼きやゆで卵もイケそうです!早速準備しないと!」

ウキウキしながらリーシャは調理へ戻って行った。

「・・・なんか、めっちゃ生き生きしとらん?」

「うん。いつになくテンション高かったわね・・・。」

オロオロしていた兄弟にタクマがおにぎりを差し出す。

「魔王からお前等みたいにマナを吸収できない奴もいると聞いた。腹が減るってのは辛いよな。ほら。」

「あ、ありがとうございます・・・。でも俺達、お金も何も持ってなくて・・・。」

「金は要らねぇ。言ったろ?これは炊き出しだ。そんなもん気にせず食いたいだけ食わしてやる。遠慮せず食いな。」

タクマの優しい言葉と表情に兄弟はおにぎりを受け取り一口食べる。

一口、また一口と食べてる内に涙を流した。

「お、美味しい・・・!」

「僕、こんな美味しいご飯食べたの初めて・・・!」

「美味いだろ?俺の仲間の料理は自慢なんだ。」

二ッと笑うタクマは兄弟の頭を撫で、二人はとびっきりの笑顔を見せるのだった。

そして彼等と街の人たちの喜ぶ光景を見たイビルは、

「・・・こんなにも笑顔が溢れる所を見たのはいつぶりだろう。」

イビルも少なからず魔獣を狩り食料を提供してきたが一人では限度があった。

しかしここには同じ気持ちを抱き魔族という別種族にも関わらず幸せを分け与えてくれるタクマ達を見てイビルは静かに感謝した。

「さぁ皆さん!まだまだ沢山ありますのでどんどん食べて下さ・・・!」

「っ‼バハムート‼」

突如タクマが叫ぶと同時にバハムートが住民を囲うように魔法壁を展開。

すると魔法壁に無数の炎の玉がぶつかり爆発を起こした。

「きゃぁ⁉」

「何だ⁉」

住民たちもパニックだ。

すると大通りの方から武器を持った男女の魔族たちが現れた。

見た目からして温厚そうな連中ではなさそうだ。

「過激派の魔族!炊き出しの騒ぎを聞きつけてきたわね・・・!」

イビルの言葉にタクマ達が住民たちの頭上を飛び越え前に出る。

すると過激派連中の後ろから一際巨大な何かがやってくる。

逞しい腕と裏腹に腹が重いきり出たブタの顔の大男。

オークだった。

「何だぁ?首都が妙に活気が溢れてると思ったら、俺達に隠れて飯食ってやがったか。」

そのオークを見た住民の一人がわなわなと震えた。

「か、過激派の幹部グリガロンだ!」

住民たちが慌てて反対方向へ身を寄せていく。

「グリガロン・・・、過激派をまとめる三幹部の一人。極悪非道と呼び声が高く、私の初めて相対するわ。」

「幹部ねぇ。」

「ん?見慣れない連中もいるな?人間にドラゴン、こりゃまた珍しい組み合わせだ。前に来た()()()と似てるな。」

タクマはグリガロンの言う『アイツ』と言う単語に引っかかった。

「おいお前等!住民共から食料を奪ってこい!俺が見張ってるこの地域で生意気にも飯を食いやがる事がどういうことか再度教えてやれ!」

「了解しやした!」

グリガロンの合図で手下の過激派が住民たちに迫り彼らの持っていた食料を強引に奪っていく。

「おら寄こせ!」

戦う力のない住民たちを集中的に狙い次々と奪っていく過激派。

だがただ二人、例の兄弟二人だけは頑なに抵抗を示した。

「おいガキ!その飯寄こせ!」

「いやだ!これはお兄さんたちがくれた大事なご飯だ!絶対に渡さない!」

弟が掴まれるその腕を兄が引き剥がそうとする。

「そうやってお前等は俺達から大切なものを奪っていく。食料だけでなく命まで・・・!お前等のせいでお父さんとお母さんは死んだ!殺されたんだ!もうこれ以上、何も奪わせやしない!」

怖くて涙目になっても兄は弟を守ろうと過激派の腕にしがみ付く。

「生意気な!だったらお前等も両親のようにぶっ殺してやろうか⁉」

「やれるものならやってみろ!俺は逃げない!すぐ逃げるお前等とは違うんだ!」

「兄ちゃん!」

「っ!このクソガキがぁ‼」

しびれを切らした過激派が武器を兄に振り下ろす。

だが寸前でそれを止めたのは翡翠色の結晶で出来た刀身の剣だった。

「クソはテメェだ。過激派。」

スタイリッシュに受け止めていたのはタクマだった。

タクマは剣を捻り武器を弾き飛ばし、華麗に一回転の斬撃で過激派を吹っ飛ばした。

「お兄さん・・・。」

「いい覚悟だったぜ。その心意気、俺達にも一枚噛ませてくれ。」

住民たちに襲い掛かっていた過激派に次々と魔鎖が巻き付き一気に住民たちから引きはがされる。

「この鎖は『深紅のヴァンパイア』⁉」

ジャラジャラと身体から鎖を放出するイビル。

そして住民たちを避難させるリヴとメルティナ、バハムート。

残ったメンバーはグリガロン率いる過激派の前に立ち塞がった。

「この国の実態、何となく見えたぜ。人々が飢えに苦しむ理由、お前等が食料を根こそぎ奪ってたんだな。」

「しかも相手をぶっ殺してな。胸糞悪い連中や。」

「あぁ?テメェ等余所者だろう。そいつらを庇う理由なんてないはずだ。」

「余所者だろうと、俺達がそうしたいからそうする。理由なんてそれで十分だ。」

「そうか。んじゃぁ俺達の敵だな。」

その瞬間、背後から過激派が不意打ちを仕掛けてきた。

だがその攻撃はタクマは見ずに剣で受け止めた。

「っ⁉」

「バレバレなんだよ。」

振り返ると同時に斬り倒す。

タクマは奴等が現れた直後にスキル『エコーロケーション』を発動させていた。

そのおかげで辺りに隠れてる相手まで周知していたのだ。

故に彼等に不意打ちは効かない。

「ちったぁ骨のある奴らしいな。久々に暴れられそうだ。」

グリガロンは巨大な手斧を手に取ると、ふと過激派と戦うイビルに眼が移った。

(ほう。なかなか()()()()()()がいるじゃないか。)

不吉な笑みで舌なめずりをするグリガロンだった。


 襲い掛かる過激派の魔族たちを次々打倒していくタクマ達。

その時、吹き飛ばされた魔族を掴み取りこちらへ放り投げ返すグリガロン。

「っ⁉」

咄嗟に回避した直後、イビル目掛けて手斧を持ったグリガロンが動き出したのだ。

「イビル!」

振り下ろされる手斧をイビルは真剣白刃取りで受け止めた。

「いやそれで止めるんかい!」

ウィンロスのツッコみが炸裂する。

「お嬢さん、少し俺と遊ばないかい?」

「デートの誘いなら断らせてもらうわ。生憎私はそう言う事と無縁だから。」

「俺だったら積極的にリードしてやるぜ?」

「いらないお世話よ!」

受け止めた手斧を蹴り上げ魔鎖を腕に巻きつけでグリガロンの腹部に殴打する。

「っ!」

鋭い音と共にグリガロンは後方へ飛ばされるが強引に踏ん張り耐えきった。

(至近距離からの一撃を耐えきるのなんて・・・。なんて頑丈さ。)

グリガロンは殴られた腹を擦る。

「いい一撃だ。相当強いな。これは楽しみがいがあるぜ。」

「楽しみ?戦いの事かしら?」

「それもあるが、特に()()のわからせがいがありそうだぜ。」

グリガロンはニヤつきながら自身の下半身を指さす。

理由を悟ったイビルを含む女性陣は顔を真っ青にしてドン引いた。

「噂で聞いたことあるけど、グリガロンが村を襲っては女性や女子供を集中して攫って行ったって言う報告があるわ。まさかとは思ったけど貴方、ロリコンね?」

イビルの言葉にリーシャとメルティナがタクマの背後に隠れた。

「おいおい心外だな?俺は愛らしい子供を保護してるだけだぜ?まぁちょっとは楽しませてもらってるけどな。」

何も悪びれないそのあくどい笑い顔に吐き気を覚える。

「ゲスが・・・!」

血管が浮き出るほど怒るアルセラが攻撃を仕掛けようとするとそれよりも先に動いた者がいた。

イビルである。

「『邪突』‼」

闇を纏った鋭い突きが至近距離で放たれるが、

「ふん!」

突き出た腹を構え正面から受け止め弾いてしまった。

「俺の腹は飾りじゃないぜ?」

「ちっ!」

すぐさまイビルは体勢を捻り炎魔法を飛ばす。

グリガロンが手斧でガードしようとしたその時、飛ばされた炎の玉は直撃の寸前で狙撃され砕け散ったのだ。

「っ⁉何だ⁉」

「今の銃撃は・・・!」

イビルが上を見上げると屋根の上に黒いハットとロングコートを身に着け見慣れない拳銃を持つスケルトンの男が立っていた。

「『夜襲の亡霊』!」

「グリガロン。そろそろ戻れ。()が呼んでいる。」

「んだよ。これからだってのに。せめてあの吸血鬼を持ち帰りたいんだが?」

「急を要する。貴様とて奴の機嫌を損ねたら無事では済まん。」

「わーったよ!すぐ戻る。という訳だ深紅のヴァンパイア。いずれまた迎えに来るぜ。」

そう言い残し手斧を肩にグリガロンは手下と共に引き返していった。

「亡霊!」

イビルは亡霊を呼び止める。

すると亡霊はタクマをジッと見つめる。

「・・・奴が言っていたテイマーはお前か。一つ言っておく。生半可な覚悟では全てを失うぞ。」

「は?どういう意味・・・?」

言い終える間もなく亡霊はその場から去っていった。

(奴が言っていた?向こうの誰かは俺を知ってるのか?)

「あの、イビルさん。今のスケルトンの方とはお知合いなんですか?」

リーシャの問いにイビルはしばらく黙る。

「・・・ちょっとした昔馴染みなだけよ。」

一先ず過激派の襲撃はなんとか守り抜いた。

しかし少なからず食料は奪われてしまったのが現状だ。

「異空庫の在庫だけでは心もとないですね。なんとか現地調達しませんと。」

「なら我が魔王に相談してこよう。何かしらは得られるだろう。」

「分かった。頼むバハムート。」

バハムートが魔王城へ向かう傍ら、だんまりだったイビルが話を切り出す。

「くよくよしてても何も変わらないわね。私も手伝うわ。特に今狙い時な獲物がいるわ。」

「お、詳しく教えてくれ。」

タクマ達が相談する中、イビルはふと過激派が引き返した方を向いていた。

「迎えに来るですって?ふざけないで・・・!」

強く拳を握るイビルであった。


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