『第211章 孤高の吸血鬼』
お待たせしました。投稿を再開します。
魔王と共に冒険者ギルドへ赴いたタクマ達。
そこで首都まで案内してくれた冒険者イビルと再会し、彼女と共にギルドの一室へ集まった。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
フードを羽織った魔王はソファに腰を降ろし、イビルはずっと窓の外を向いていた。
「・・・ねぇ。この重い空気、気まずいんだけど?」
リヴがタクマに耳打ちする。
「しょうがねーだろ。まさかイビルが魔王の娘だったなんて誰も思わねーよ・・・。」
しばらくの沈黙が続いた後、イビルが話を切り出した。
「・・・なんでわざわざギルドに来たの?私の事はほっといてって言ったよね?」
「お前を連れ戻すために決まってるだろう。何度も言うが、冒険者なぞやめて帰ってこい。」
「・・・帰らないって言ったでしょ?お父さんがやろうとしないから私がやるしかないのよ。」
「・・・まだ母親の事を諦めてないのか?」
「っ‼」
その瞬間、部屋の空気がピリつきタクマ達は気を張った。
「彼女は、もういない。そのことはお前にもしっかり伝えたはずだ。」
「・・・でない。」
「イビル?」
「お母さんは死んでない‼必ずどこかで生きてる!お父さんたちがいくら言おうとも、私がこの目で確かめるまで絶対に信じない!絶対に‼」
イビルの気迫に驚くタクマ達。
彼女は深呼吸して怒りを落ち着かせる。
「何度言おうが、私は戻らない。お母さんを見つけるまでは・・・!」
「イビル・・・。」
「話は終わりね。さっさと帰って!」
「イビル!待ちなさい!」
部屋を出ようとするイビルを掴み止めようとするもその手を弾く。
「貴方達にももう一度言う。これ以上私と関わらないで。用が済んだのなら早くこの国を出ることを進めるわ。」
そう言い残し、部屋を出ていくのだった。
残された魔王とタクマ達。
状況が状況なだけにタクマ達は終始だんまりだった。
「・・・すまない。見苦しい所を見せてしまったね。」
「いえ、その・・・、イビルさんのお母さんて・・・?」
「・・・・・。」
魔王は窓の前に立ち外を眺めながらゆっくり語り出した。
「イビルは生まれた時から病気を患い、医者に見せた結果、余命残りわずかと進言された。」
当時、幼いイビルは病弱でもしばらくは元気に過ごせていたがある日病状が突如悪化。
医者に余命宣告を言い渡された魔王と妃は絶望に飲まれる中、特にひどかったのは妃だった。
事実を受け入れられない妃はどうにかイビルを救えないかと数多くの文献を漁った。
その結果たどり着いたのは、『悪魔の等価交換』。
それ相応の対価を支払う事で己の求める物を得る禁術。
しかし、一つの命となるとその対価は当然・・・、
「何を考えてる⁉」
魔王は妃から禁術の本を取り上げる。
「これは古に滅んだ悪魔族の禁術だ!いくらイビルのためでもこればかりは・・・!」
それでも妃は力なき声で魔王に縋りつく。
「もう、あの子を救うには、これしかないの・・・。お願い・・・!」
「っ・・・!」
イビルを、我が子を助けたいのは魔王も同じだ。
だが悪魔族の力だけはどうしても黙認できない。
そしてその禁術を、妃は魔王に隠れて発動させてしまったのだ。
事態に気付いた魔王が駆けつけるも妃は禁術にその身と魂を捧げてしまい、イビルは深紅の瞳を持つヴァンパイアとして蘇ったのだった。
「・・・後にその事実を知ったイビルは母親の消息を探るため王女の地位を捨ててまで冒険者となった。」
「そんな事が・・・。」
「・・・・・。」
話を聞いたタクマ達は言葉が出なかった。
「・・・それで?あんさんは探したのか?」
珍しくだんまりだったウィンロスが突然口を割った。
「嫁さんを探したんか聞いとる。どうなんや?」
「探すも何も、妻は目の前で、私の前で消えたのだぞ。」
「せやけどあの嬢ちゃん、イビルはオカンを探しとるで?」
「あの子は現実を受け入れられてないだけだ。あの光景を見ていないからあのような無駄な事をしている。」
「無駄やと・・・?」
「ウィンロス?」
ウィンロスはヅカヅカと魔王の前に顔を寄せる。
「それ本気で思っとるんかいな?せやったら王様権限使って無理やり連れ戻すことも出来たはずや。何故やらんかった?」
「出来るわけがないだろう・・・!もうこれ以上あの子を苦しめたくないんだ!」
「だったら手伝えや‼」
突然の怒号に驚く女性陣。
「アイツを苦しめたくなかったらアイツが納得するまで手伝えや!誰かが手を貸さな真実を掴むまで時間が掛かる!その分アイツは苦しむんやぞ!ホンマにアイツの事を思っとるんやったら手を貸したれ!父親やったら尚更や!」
「っ!君に何が分かる!そもそもこれは私達家庭の事情だ!赤の他人が首を突っ込んでいい話じゃない!」
ウィンロスと魔王が口論になりリーシャが落ち着かせようと動くと、リヴに止められた。
「その他人に言わせてる原因がアンタにあるからやろが!それにアンタ言ってたな?嫁さんが目の前で消えたって。死んだとは言っとらん。」
「っ!」
「本当はアンタも信じたいんやないんか?嫁さんが生きてることに。」
「し、しかし・・・、妻は・・・!」
「イビルはそのワンチャンの可能性に人生かけとるんや!他でもない夫がその可能性を捨ててどうする!」
「・・・・・。」
魔王も心のどこかで妃が生きてることの可能性を信じたがっていた。
魔王という魔族を導く立場がその心を遮っていた。
だが娘のイビルはその枷をものともせず自分の持つ全てを捨ててまで母親を探している。
「私は、私は・・・。」
しびれを切らしたウィンロスは魔王の胸倉を掴んだ。
「ちったぁ父親らしいことしてみろや!馬鹿野郎が‼」
「っ!」
そのまま魔王を突き飛ばし、ウィンロスは部屋を出ていった。
「ウィンロスさん!」
「私が行くわ。こっちは任せて。」
「あぁ。行ってくれリヴ。」
リヴもウィンクで応えウィンロスの後を追っていった。
そしてタクマは腰を落とす魔王に手を差し伸べる。
「すみませんね。俺の従魔が。」
だがタクマの手を取る魔王は怒るどころかむしろ何かが吹っ切れた表情をしていた。
「いや、彼の言う通りだった。私は、恐れていたんだ。魔族からヴァンパイアとなった娘が他者から虐げられてしまうんじゃないかと不安だった。だから冒険者などやめて帰ってくるよう言い聞かせていた。だが、その考えは間違っていたな。」
魔王はソファに座り直し姿勢を正す。
「妻は禁術の影響で姿を消した。消えたんだ。誰も彼女の死を見ていない。だから、例えダメもとでも妻の行方を捜す。魔王としてではなく、一人の夫として!」
「そうですか。」
ウィンロスの魂の言葉に魔王の中に在った迷いは完全に拭われた。
(後で彼に礼をしなくてはな。だがそれよりも・・・。)
「妻の行方は私も探す。だがまずは我が国が抱えてる問題を解決しなくては捜索に支障をきたしてしまう。」
「食糧難ですね?」
「あぁ。」
現在首都ヴァンプローナのみならず、この一帯の国土では極度の食糧難を抱えている。
「幸い我々魔族はこの地に流れる龍脈、大地を流れるマナを吸収することで餓死することはない。しかし食事は生きとし生ける者にとっては幸福。例え死ななくとも食の楽しみは必須だ。」
「それもそうだ。誰だって美味い物は食いたい。今この国は食料の仕入れや栽培はしてないのか?」
タクマの言葉に魔王は言葉を詰まらす。
「したくても出来ないんだ・・・。奴等、過激派の魔族がそれを許さない。」
「過激派・・・。」
この魔大陸にやってきた直後対峙した魔族の連中だ。
「奴らはこの辺り一帯の食料を根こそぎ奪い絶やしていく。そのせいで私達はまともな食事が取れず今の有様だ。」
「何故過激派の魔族はそんな事を?」
再び言葉を詰まらせる魔王。
「・・・恐らく、私の王座失脚を目論む者が過激派にいる。」
「っ!」
「食料を奪い我々の指揮を下げさせ弱った所を一気に制圧する。奴らはそう企んでる可能性がある。幸い現状はまだ魔王軍は辺りの魔獣を狩りなんとかモチベーションを保っているが所詮時間稼ぎにしかならない。いずれ軍もまともに動けなくなり、私は討ち取られるだろう。」
「そうなったらこの国の人達は・・・⁉」
魔王は首を横に振る。
「私が妻の捜索に動かなかったのはそれも理由に入るんだ。」
「思った以上に深刻な問題だったな。」
「あぁ。流石にここまで聞いて手を貸さなかったら俺達の古堅にも関わるかもな。」
タクマも姿勢を正す。
「ヴリトスさん。依頼をしてください。食料集め、俺達も引き受けます。」
「そ、それはこちらとしてもありがたいが、いいのか?」
「乗りかかった船だ。まあ既に俺達以上にやる気のある奴もいますし。」
隣ではリーシャがやる気に満ち溢れていた。
「お料理なら任せてください!皆さんでこの国を助けましょう!」
バハムート達も頷き、魔王は歓喜の涙を流した。
「恩に着る・・・!」
こうして魔王はギルドに依頼を申請し、タクマ達が受理したのだった。
(さて、出来ればアイツの力も借りたい所だが、そっちは頼むぜ。ウィンロス。)




