『第210章 魔族の王』
執筆作業に注力するため、しばらく投稿をお休みします。
魔大陸のどこかに位置する城の跡地。
その地にタクマ達の襲撃から逃れた魔族の男が逃げ込んだ。
「お前、確か補給班の者じゃないか?」
見張りの魔族に声をかけられる。
「はぁ、はぁ、アイツは何処だ?半年前にやってきた人間のガキは?」
「奴ならついさっき戻ってきた所だ。今頃広間で飯を食ってるはずだ。」
見張りに言われ男は広間へやってくる。
そこでは大勢の男女の魔族たちがご馳走と酒を片手に宴会で騒いでいた。
男が広間に入った途端に静かになり、男は真っ直ぐとある人物の前に向かった。
「・・・この国にドラゴンを連れた人間がやってきた。お前と同じテイマーだ。」
その言葉に食の手が止まる人物。
「奴らはとんでもない程強かった。作戦の間お前に奴らの相手を任せたい。」
すると人物は最後の一つのロブスターを頬張り、酒を飲み干した。
「・・・詳しく聞かせろ。」
ひょんなことから知り合った現地の冒険者イビル。
タクマ達は彼女に案内されて翌日、魔大陸の首都ヴァンプローナへとやってきた。
「わお!デカい都市だな!」
遠くから見ても驚く面積であり首都に入ると大勢の魔族で賑わ・・・、てはいなかった。
「なんでしょうか?普通に生活はされてるようですが、何処か元気がないような?」
「俺も感じた。まるで街そのものが弱ってるように思える。」
タクマ達の言葉にイビルは、
「鋭いわね。その原因もすぐに分かるわ。でもその前に・・・。」
イビルはバハムートとウィンロス、ラルに眼を移す。
「大きい方は良いとして、その小さいドラゴンに従魔の証であるスカーフを付けた方がいいわ。なるべく急いで。」
「え?」
言われた通りラルが証のスカーフを巻いた直後、大勢の街の住民たちがタクマ達の周りへやってきたのだ。
「イビル様!お帰りなさい!今回はドラゴンの生け捕りですか!」
「「え?」」
タクマ達全員が目が点になった。
「いや、違・・・。」
魔族の子供たちもバハムートとウィンロスに群がる。
「わぁ~おっきい!今夜は沢山食べられそう!」
「えぇ~⁉俺等食われるん⁉」
「待て待て!これはどういう事だ⁉」
流石のバハムートも少々焦っている。
「皆落ち着いて!彼らは私のお客さん!ドラゴン達も彼らの従魔よ!角のスカーフを見て!」
従魔の証のスカーフを見た住民たちは急に静かになった。
「あ、すみません。お客人方・・・。」
「いえ・・・。」
「な~んだ。ご馳走じゃないのか・・・。」
子供たちもしょんぼりとする中、顔面蒼白で汗ダラダラのドラゴン達。(リヴを除いて)
「焦った~!俺等食い物に見られてたんか・・・!」
「流石の我でも肝を冷やしたぞ・・・。」
「怖かった・・・。」
ラルに至ってはリーシャの腕にガッシリしがみ付いて震えていた。
(人間の姿で良かった・・・!)
一人リヴは内心ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
「どういう事だイビル?」
「・・・詳しくは魔王に聞いて。ほら、着いたよ。」
タクマ達の目の前には高く立派にそびえ建つ黒く大きな城。
魔王城が構えていた。
「高いな・・・。」
「城への入口はこの階段を登った先。あとこれ。」
イビルは髑髏の装飾が成された鍵をタクマに渡した。
「それを見せればスムーズに魔王と会えると思う。それじゃ。」
そう言いさっさと立ち去ろうとするイビル。
「あ、待ってください!」
「・・・何?」
「えっと、案内してくれてありがとうございました!」
リーシャからの律義なお礼にイビルは手を上げそのまま去っていった。
「行っちゃった・・・。」
「まぁ冒険者ならすぐ会えるだろう。さて、俺達は早いとこホーエンさんのお使いを済ませようぜ。」
「そうですね。」
階段前の門番に事情と通行許可を貰ってる間、ウィンロスはずっとイビルの方を向いていた。
「・・・・・。」
「ウィンロス、何をぼおっとしておる。行くぞ。」
「あ、あぁ。今行くで。」
何故かイビルを気に掛けながらも先へ進むウィンロスだった。
地味に長い階段を登りきると目の前には黒く立派な巨城。
魔族の王が住まうだけあってその禍々しさは近くで見るとより強まる。
(如何にもゲームのラストって感じですね。)
リーシャがそんなことを想いつつも城の前の門番とアポを取るタクマ。
しかし、
「すまない。魔王様は今とてもお忙しい時なため面会は来週となる。」
「流石にそこまで待てんぞ。」
「ホーエンさんの手紙でも難しいとか、一体どれだけの激務なんだ?」
そんなことを話してると堀池向こうの城壁から何やら慌ただしい音がしていることに気付く。
「やけに城の中が騒がしいな?」
「あれは出撃準備だ。」
「出撃⁉どこか戦へ向かうんですか⁉」
「戦と言えばまぁそうなるのかな?ただお嬢さんが考えてる戦争ではないから安心してくれ。あれは魔獣を狩りに行く準備だ。」
「魔獣狩り?」
「あぁ。・・・今この国は極度の食料不足に見舞われてるんだ。君達もここへ来る途中、街の活気の無さに違和感を覚えただろ?」
確かに道中街の人々は皆元気が薄かった。
どうやら食糧不足で空腹状態となっていたのだろう。
「食料不足、それで我らを食材と思い込んだ訳か。」
「納得の理由やで。」
国の事情は分かったが当面の目的である魔王との面会の話はまだ解決していない。
大事な届け物なのでどうにか魔王と会えないか考えてると、ふとイビルを思い出す。
『それを見せればスムーズに魔王と会えると思う。』
「あの、これ。」
タクマはイビルから貰った髑髏の鍵を見せると門番は驚愕の表情をした。
「君!どこでそれを⁉」
「ここまで案内してくれた冒険者の少女から貰ったんだ。」
門番はしばらくして真剣な表情になり、門を開けた。
「あの方が君達を認めたのなら魔王様と会う権利は十分にある。すぐに面会が出来るよう言伝よう。」
「お、おう?」
よくわからないが魔王とすぐに会えるようになり、一同は城へ招かれたのだった。
交代した兵士に連れられ豪華な廊下を進み、玉座の間へと通された。
忙しい時期のためか他に人物は居らず、そして玉座にただ一人、黒いマントを纏った長髪の男性、頭にとても立派な角が生えており凄まじい圧を感じれる。
間違いない。
魔族の王、魔王だ。
案内した兵士が退室すると魔王は玉座を立ちタクマ達の元へ降りてきた。
「本日は突然の訪問を許してくださりありがとうございます。」
礼儀に乗っ取り膝をついて挨拶をする人間組。
「自然体で構わない。君達は教皇様からの手紙と種類を届けてくれたのだろう。こちらこそ感謝する。」
黒い眼球から優しい雰囲気が溢れる。
魔王と言えど彼もまた人であった。
「この場ではなんだ。私の応接間へ来てくれ。」
そのまま一同は応接間へ通された。
「わざわざこの地まで来てくれてすまないね。」
魔王自らお茶を入れ振舞う。
「いや、元々魔大陸へ行ってみたいと思ってた所だ。」
「しかし、竜王殿が人間の冒険者に仕えたという噂は本当だったか。」
「今はこのタクマと旅をしておる。少々厄介ごとも絶えぬがな。退屈はしておらんよ。」
魔王は向かいのソファに座り姿勢を正した。
「改めて、私の名は『ヴリトス』。この地ヴァンプローナを納める魔王だ。」
「俺はタクマ。旅人だ。以下仲間たち。」
「「「雑っ‼」」」
総ツッコみを食らった後、しばらくお茶を飲むとウィンロスが口を割った。
「・・・なぁ、何を言いたそうにしとる?魔王さんよ。」
「ウィンロス?」
ウィンロスの言葉に魔王は一瞬反応する。
「さっきからこっちの様子を伺いながらソワソワしとんねん。言いたいことがあるならハッキリ言えや。」
「ウィンロスさん!あの人は王様ですよ!もう少し態度を・・・!」
「いや、この場には私達だけだ。構わない。・・・君の察する通り、君達に聞きたいことがある。」
「何ですか?」
魔王はしばらく沈黙する。
「・・・タクマ君。君の持つその骸骨の鍵は何処で手に入れたんだ?」
真剣な顔で問う魔王。
何やらただ事ではなさそうだ。
「ここまで案内してくれた冒険者の少女から渡されたんだ。これがあればスムーズにアンタと会えるって言われて。」
「その冒険者の少女、特徴はどんな感じだった?」
「特徴・・・?ボロい黒フードを被ってたくらいしか・・・。」
「あ、フードに隠れてましたが金髪で眼が赤かったです!とても綺麗な深紅色で印象に残ってます!」
そこまで聞いた魔王は口元を手で押さえ考え込み始めた。
「・・・魔王様?」
「その冒険者はまだ城下街にいるか?」
「さっき別れたばかりだからまだいると思いますが?」
「そうか。・・・今丁度城の者は狩りに出向きいない。向かうなら今か。」
何やら独り言をブツブツ言っていると魔王はタクマに言い寄る。
「タクマ君。私と冒険者ギルドまで付き添ってくれないか?」
「魔王自ら出向くのか⁉」
「その冒険者の少女に、どうしても会わなきゃいけないんだ。」
彼の表情を見てやはりただ事ではなさそうと察するタクマ達は特に予定もないので一先ず魔王の欲求を飲むことにした。
タクマ達一同は魔王城を発ち、城下街の冒険者ギルドへやってきた。
首都のギルドなだけあってバハムート達が余裕で入れるデカさと広さだ。
そして利用する者達は全員が魔族。
しかしこの場の者達も食料不足の影響か元気がないように見えタクマ達は少し訝しんだ。
そのまま受付へ足を運ぶと魔族の男性職員が対応した。
「ギルドヴァンプローナ支部へようこそ。本日はどのようなご用件で?」
「用があるのは俺じゃなくてこの人・・・。」
タクマの後ろからフードを深く被った黒目の男性が前に出る。
周りに気付かれていないが魔王本人だった。
「イビルと言う冒険者を訪ねたい。良ければ部屋を一室借りたい所だが。」
「イビル様ですね。丁度ギルドに居られますよ。少々お待ちください。イビルさーん!貴女にお客様ですよー!」
男性職員に呼ばれ吹き抜けの二階からイビルが飛び降りてきた。
「あれ?貴方達さっきの?」
「よ。また会ったな。」
「お客ってこの人達?」
「正確にはこちらのフードの方です。僕は部屋を獲ってきますので少々お待ちください。」
男性職員が席を外しイビルは彼等に歩み寄るとフード男の顔を見た瞬間、驚いた表情で突然立ち止まった。
「え?お父さん?」
「・・・え?」




