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『第208章 魔の不吉な予兆』

ここは魔大陸。

首都『ヴァンプローナ』の近くに位置する昼でも暗い夜の森林の中、一人の女性が大男に担がれ森の中を疾走していた。

その男には歪な形の角が生えている。

そして、女性の方にも。

しばらく森を走っていると男はふと立ち止まり振り返った。

「ん?・・・チッ!よりによって()に付けられたか!」

音もない暗闇の奥から突如魔力で編まれた鎖が男に襲い掛かる。

先端には同様に魔力で編まれた短剣も付いている。

「『深紅のヴァンパイア』!」

暗闇の奥から歩み出てきたのは黒いフードマントを被り金色の長髪をなびかせ、赤い眼光が睨む少女が現れた。

鎖は少女の身体から生えていた。

男は女性を抱えたまま森の中を走り出し、少女は樹の上を伝って追跡する。

頭上から無数の鎖を仕掛けるが攫われた女性がいるためか動きに迷いがある。

男はその隙に全速力で森を抜け、廃墟となった教会が中央に建つ墓地にたどり着く。

少女も樹の上から飛び男の前に降り立つ。

「その人を置いてってもらおうかしら?」

「そいつはできねぇ相談だ。俺達にはどうしても必要なんでね。」

「そう。なら・・・。」

姿勢を低くすると背中から数本の魔力鎖が現れる。

「力づくよ!」

「出来るのか?この数の前で!」

突如周りの墓石の下や樹の陰から大群のグールが現れ少女を取り囲んだ。

「やれ!」

男の合図でグールが一斉に飛び掛かる。

少女は魔鎖を巧みに操り次々とグールを返り討っていく。

すると少し違和感を覚えた。

(グールのくせに妙に統率が取れてる。()()()されてるのね。でもあんな男にこれほどの数を一気にテイムできる力量ではないはず。やっぱり最近の『過激派』は何かおかしい。)

「おらどうしたグール共!早くそのガキを始末しろ!」

だが少女の鋭い一撃がグールを一斉に串刺しにする。

「ただ命令してるだけのアンタに、私は倒せないわ。」

その鋭い赤い眼光が睨み男は一瞬硬直する。

その一瞬をつき少女の魔鎖が捕らわれた女性を救い出した。

「チッ!」

男は一目散に廃墟の教会に逃げ込む。

「待ちなさい!」

女性を鎖で抱えながらグールを一掃し後を追おうとした次の瞬間、強い衝撃が少女の足元に炸裂し動きを止める。

「っ⁉」

辺りを確認しても暗い夜の森では何も見えない。

一先ず逃げた男を追い廃墟に入るがそこに男の姿はなかった。

「き、消えた・・・?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()

その男は突如消えたのだ。

「まただ。過激派が現れては逃げられその痕跡すら残さず消える。『転移』の魔法やスキルを使った痕跡もなし。一体この国で何が起きてるの?」

そしてもう一つの気掛かり。

少女の足元に撃たれた攻撃だ。

「魔法じゃなかった。あれは、実弾・・・!」

暗闇の森、その樹の影で見たことない()()を持った黒いハットとロングコートを身に着けた人影が。

「・・・今宵は、深淵が木霊するな。」



 サンドリアスから旅立ち大きなガレオン船に乗って大海原を渡るタクマ達一同。

「タクマさん!見えてきました!魔大陸です!」

目の前にとても大きな大陸が見えタクマ達は未知の土地に心を躍らせる。

「む?ほほう、興味深い。」

「?」

何やらバハムートが何かを気づいたようだが一旦置いとき、船は港街に到着した。

下船するとその街の住人は他とは一味違った。

「頭の角、魔族か。」

人間に近い見た目をしてるが肌の色は個人差によって明度が異なり褐色肌や薄紫肌の人で溢れかえっていた。

「あ、よく見ると人間と変わらない肌色の人もいますね。」

「だが個々人から感じる魔力量はどれも多い。それにこの地、なかなかに面白い。」

「だから何がだよ?」

団らんとしながら首都のヴァンプローナを目指すため港町の正門にやってくると門番に止められた。

「ちょっと待って!君達別大陸の者かい?」

その門番の男も頭に角が生えた魔族だった。

「そうです。聖公国サンドリアスの教皇、ヴィル・ホーエン殿から魔王様への手紙と封を預かってる。これから首都のヴァンプローナまで向かうつもりです。」

タクマは手紙と封筒を見せる。

「確かにサンドリアスの蝋印だ。わかった。内陸への通行を許可しよう。少し待っててくれ。」

そう言い門番は室内へ入り、人数分の紙コップを持ってきた。

「内陸へ向かう前にこれを飲んでくれ。」

「これは?」

「魔茶と言うお茶だ。気付く者は気付いてると思うがこの大陸は大地の魔力、マナがとても豊富なんだ。しかもかなりの純度だからこの地に住み慣れてない者、つまり外から来た者が何も対策もなしに内陸へ進むとあまりのマナの濃さに体調を崩す恐れがあるんだ。」

「やはりそうか。この大陸から感じるマナが他の大陸よりずっと強く濃密だった。確かに耐性のない者が長くこの地にいれば魔力過多になり様々な悪影響を及ぼすだろう。」

「バハムート、お前気付いてたのか。どうりでさっきから変な事言ってると思った。」

「変とは何だ変とは。」

「とにかくそういう理由ですのでマナ吸収を抑えるこの魔茶を飲んでいただきたいのです。初めてこの地に訪れる者に無料で提供しています。」

「そう言う事ならありがたく。」

それぞれがお茶を受け取り飲み込む。

飲んだ時リーシャだけが何か覚えを感じた。

(この味、見た目は緑茶に似てたけど味は抹茶に似てる?あ、抹茶(まっちゃ)だから魔茶(まちゃ)、なんてね♪)

(っ⁉)

その時、ウィンロスのみ何故か寒気を感じたのだった。


 意外と味も良かったのでお土産に魔茶の茶葉を購入した後、いよいよ首都ヴァンプローナへ向かおうとしたその時、

「誰か助けてくれ!頼む!」

突如街の方で男性の声が響いたのだ。

「何だ?」

気になり向かってみると噴水広場に人だかりが出来ており、その中央に負傷した小太りの魔族男性が警備隊に応急処置をされていた。

よく見ると怪我の具合がとてもひどかった。

「すみません!通ります!」

リーシャが人混みをかき分け男性の下へ駆け寄る。

「君は?」

「旅の者です。おじさん、少しジッとしててください。」

リーシャが回復魔法をかけるが傷口に治りが妙に遅かった。

「魔法があまり効かない?どうして?」

「どいとき!」

すかさずウィンロスが隣に現れ高位の回復魔法を施し、男性の傷は完治したのだった。

「傷が・・・!」

「これでもう大丈夫や。」

「あ、ありがとうございます!」

「ご助力感謝します。後は我々が対応しますので。」

「そ、そうだ!誰か息子を助けてくれ!」

傷は癒えたがかなり気が動転してる様子の男性。

警備隊に掴みかかる勢いだ。

「落ち着いてください。息子さんがどうされたんですか?」

「攫われたんだ!過激派の連中に!」

その途端、周りの野次馬のみならず警備隊の者まで驚愕する。

「なんや?周りの空気が急に変わったで?」

タクマ達も駆けつけると警備隊が話始める。

「申し訳ありません・・・!我々では、過激派を相手には・・・!」

「そんな、息子の命が掛かってるんです!どうか助けてください!お願いします!」

必死に頼み込む男性だが警備隊の首は縦に振らなかった。

その過激派という存在に恐れを成してる感じだった。

すると、

「おっさん。詳しく聞かせてくれ。」

「き、君は?」

「旅の者で冒険者です。ここでは何ですし、一先ず正門の前まで来てください。」

タクマに言われ男性を連れて野次馬を解散させる。

正門前のベンチに座らせ一先ず落ち着かせた。

「先ほどは取り乱してしまってすみません。」

「いえ、それよりさっきの話詳しくお願いできますか。」

さっきの門番の男も同席し男性はゆっくり話し出した。

「私は大陸中を渡り歩く商人です。息子と二人でこの港町へ食材を届けに向かっていた途中、奴らが突然現れ息子を攫って行ってしまったんです。」

「それが過激派とかいう連中か?」

「はい。奴らは得たいがしれません。ひょっとしたら息子はもう・・・!」

男性は不安が募り再び情緒不安定になってしまった。

門番の男が少し不安げな声色で口を割る。

「旅の者には危険なためあまり関わってほしくないのが本音ですが・・・。」

「生憎俺達はそうも言ってられない性分なんでね。おっさん、襲われた場所を教えてくれ。俺達が必ず息子さんを助け出すから。」

「本当ですか⁉ありがとうございます!」

「やれやれ、とんだ寄り道となったな。」


 その頃、港町近くの森の中で黒いフードを被った赤い瞳の少女がとある廃墟を目指し歩いていったのだった。


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